『外物語』   作:零崎記識

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筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。




009

017

 

忍野忍

 

キスショットと鏡に映ったように瓜二つの容姿。

 

キスショットの『心臓』を核に

 

とある神社の『御神体』を骨子に

 

『吹き溜まり』の『よくないもの』を肉に

 

『専門家』忍野メメによって作られた――

 

人造の――『神』

 

全力のキスショットと同等の力に加え、『神通力』をも有する。

 

『最後』にして『最強』にして『最大』の敵。

 

『吸血鬼』『ハーフ』『人間』と戦ってきて――最後は『神』か。

 

まるでオールスターだ。

 

 

「―――来たか、我が仇よ」

 

「来たぞ、忍野忍」

 

四月七日 夜

 

直江津高校のグラウンド

 

俺は、忍野忍と相対する。

 

「――一つ、聞いていいか?」

 

「何じゃ?」

 

「お前は――一体何のために俺と戦う?」

 

「無粋なことを聞くでないわ、そんなことはうぬならばとうに理解していることじゃろうに」

 

「お前の口から聞きたいんだよ。忍野忍としての、お前の答えがな」

 

「ふん、『忍野忍』か……」

 

彼女は忌々しげに言った。

 

「忌々しい名じゃ…この名前のせいで、儂はあの小僧に縛られておる」

 

「名前には力がある――か」

 

「儂はな、我が仇よ、神は神でも『式神』じゃ。あの小僧によって、うぬを倒すことだけを目的に作られた存在なのじゃ。確かに、多少の自由はある。じゃが、儂は根本的にあの小僧の言いなりじゃ。自由が利くとは言ってもそれはあの小僧の命令に反しない限りにおいての話じゃ。あの小僧の命令に逆らうような行動は絶対に取れない」

 

「つまり―――好きで俺と戦うわけでは無いと?」

 

「いや、そうは言っておらん。うぬとの戦いは、儂にとっても楽しみで仕方がないことじゃ……ただ、今の状況は儂が『戦う』というより『戦わされている』ような気がしてのう、心から自由にうぬと戦えないことが……どうにも惜しく思えてのう」

 

「お前は―神なんだろう?だったら、人間の束縛など、容易く抜け出せるんじゃないか?」

 

「神とて人の創作物よ、怪異と何も変わらん。その存在意義に背けば、儂らは即刻『世界』から排除される。人が儂にかくあれと命じ続ける限り、儂はそれに逆らえんし、人が儂に命じ続けぬ限り、儂は存在できん。所詮は怪異も神も、人間の奴隷よ」

 

「怪異も神も――同じ……」

 

「そう――故に儂は、儂の意思など何も関係なくうぬと戦う。そうあれと作られたために…そうせよと命じられた為にな。それが儂の『存在意義(レゾンデートル)』じゃ――そしてうぬの問いに、儂はこう答えるであろう。儂がうぬと戦うのは、『()()()()()()()()()()()()()()()』じゃ」

 

「そうか…」

 

「儂は…うぬが羨ましいわい……何物にも縛られず、自由にいられるうぬが…『例外』が、とても羨ましい」

 

「そんなに良いものでもないさ、何物にも縛られない、いや――何物でも縛れないって言うのは…つまり、()()()()()()()()であることと同義だからな…異端者は排除されるのが、この世の常だ」

 

「かかっ…所詮、『隣の芝は青い』……ということかのう」

 

「違いない」

 

「さて、お喋りはこのくらいでよいじゃろう。そろそろ始めようではないか」

 

「同感だな」

 

さぁ――

 

最後の戦いを――

 

――始めよう

 

「死ぬがよい我が仇!」

 

「死んでもらうぞ俺の敵!」

 

そして衝突。

 

俺は自分の力をあらんかぎり生かし、最速の拳を叩き込んだ。

 

しかし――

 

「ぐっ――!」

 

「無駄じゃ!」

 

だがそれは昨日の焼き直しのように、俺の拳は忍に届くことは無かった。

 

やはり力押しではダメかッ……!

 

「今度はこちらの番じゃ!」

 

そう言うや否や、忍は手刀で俺の顔面目掛けて横薙ぎにする。

 

俺は後ろに反り返って手刀を躱し、バク転の要領でそのまま忍を蹴り上げる。

 

「無駄じゃと言っておろうが!」

 

が、防がれる。

 

脚でもダメか……。

 

だが、そんなことは想定済み。

 

俺は忍の障壁を足場に、そのまま背後に跳ぶ。

 

「これでも食らえ!」

 

キッ!

 

と、俺が忍を睨みつけると、その周囲の地面が地雷のように爆発する。

 

最大出力の破壊の眼力だ。

 

それでも忍は依然として無傷。

 

「いい眼力じゃが…それも無駄じゃ」

 

吸血鬼のスキルでもダメか…。

 

「だったらこうだ!」

 

俺の影から伸びる無数の黒い刃が忍を切り刻まんと迫る。

 

「当たっても問題ないが…偶には迎撃せんと芸が無いのう」

 

今度は忍が眼力を放つ。

 

一瞬にして影の刃は吹き飛ばされ、俺の方まで衝撃波が押し寄せる。

 

「クソッ!」

 

すぐさま能力で壁を創造し、防御。

 

だったら…!

 

俺は全力のキックで壁を蹴り飛ばす。

 

瓦礫となって吹き飛んだ壁は、忍に散弾銃のように炸裂する。

 

それでも――無傷。

 

「単調な攻撃ばかりじゃのう、うぬ、本当にやる気あるのかの?」

 

「言ってろ」

 

今のは只の目くらまし。

 

本命は――

 

撃て(ファイア)ッ!」

 

忍の背後に創造した、億を超える戦車の大砲だ。

 

砲身だけを虚空から出現させた戦車が、一斉に火を噴く。

 

凄まじい爆音と破壊が齎され、土煙が立ち込める。

 

「かかっ!今のは少しびっくりしたぞ。が、無意味じゃ」

 

背後からの不意うちでも効果なし…。

 

「どうした?手品は終わりか?」

 

「はっ!まだ終わらせねぇよ!」

 

ダンッ!

 

と、俺が地団駄を踏むと同時に、忍の足元の地面が突起となって襲い掛かる。

 

「儂の護りに隙はない。どこから攻撃しようと無意味じゃ」

 

下からの攻撃も失敗か。

 

だが、それも想定内。

 

「なら反応できないような攻撃をするだけさ!」

 

次の瞬間、忍の足元の土がセメントのように溶け、その足首を取り込んで固まる。

 

「これでどうだ!」

 

俺が空に作り出した雷雲が光り、忍目掛けて雷撃が落ちる。

 

閃光、轟音。そして衝撃。

 

「何でもやるのう…面白い手品じゃ。じゃが、それで儂を傷つけることはできんよ」

 

「反応できない速度でもダメか……」

 

どうやら忍の神通力は常に彼女の周囲を囲っているようだ。

 

それなら押しつぶす!

 

俺は忍の頭上に巨大な鉄の重りを創造し、忍目掛けて落とす。

 

「大盛りサービスだ!」

 

更に十を超える同じ重りをその上に落とし、最後には忍の周囲の地面を操り、サンドイッチのように挟み込む。

 

「発想は評価するが……儂の障壁はそんなに甘くはない」

 

次の瞬間、忍を挟み込んでいた地面がバラバラに切り刻まれ、中から手刀を構えた忍野忍が出現する。

 

「圧力もダメ…全く頑丈なことだ」

 

本当に隙が無い。

 

厄介な……。

 

「ふむ……攻撃を受け続けるのにも飽きたわい、では、今度はこちらから攻めるとするかの」

 

その瞬間、忍の姿が掻き消え、刹那にして俺の眼前に現れる。

 

彼女が選んだのは――貫手。

 

最速の攻撃手段だ。

 

しかし、彼女の手刀は俺の身体をすり抜けた。

 

その間に俺はバックステップし、間合いをとる。

 

「……霧化か」

 

「あまりナメてもらっても困るな」

 

「ナメておるつもりはないわい、さぁ、もっともっと戦おうではないか!もっともっと儂に生きる実感をくれ!」

 

「戦闘狂が!」

 

忍は刀を創造し、俺は銃剣を右手にに一本、左手にに三本創造し、鉤爪のように指に挟む。

 

再びの衝突。

 

忍による左下からの切り上げを左手の銃剣で逸らし、即座に右の銃剣で斬りつける。

 

バキィィン!

 

という音を立てて右の銃剣が折れる。

 

間髪入れずに彼女は俺の頭上から一直線に刀を一閃。

 

新たに創造した右の三本と、左の三本の銃剣を交差し、刀を受け止める。

 

「ははは楽しいのう!決められた戦いとはいえ!命じられた戦いとはいえ!こうして誰かと本気で戦うことはこんなにも心が躍る!なぁ!我が仇よ!」

 

「俺は全然踊らねえよ!」

 

そう言うや否や、俺は破壊の眼力で忍の足元を吹き飛ばす。

 

「おっと!やるではないか!」

 

バランスを崩した忍は背中から翼を生やし、空へと飛び立つ。

 

俺もすぐさま翼を生やし、彼女を追った。

 

忍はぐんぐんと高度を上げていき、やがて雲の層を突き破って月の光が照らす空へと飛び出る。

 

グラウンドの上空。地上から約20㎞の地点で俺たちは睨みあう。

 

「さぁ空中戦の開幕じゃ!」

 

その瞬間、忍の背後から無数の槍が顔をのぞかせる。

 

同時に俺も虚空に無数の剣を創造し、次の瞬間、両者の創造した無数の武器が一斉に射出される。

 

無数の武器が飛び交う中、俺達は三度衝突する。

 

互いが互いを貫かんと射出する武器を掴み取り、ぶつかり合って火花を散らす。

 

一合、二合、三合と、ぶつかり合うたびに俺たちは加速する。

 

衝突しては離れ、また再び衝突する。

 

打ち合わせるたびに武器は折れ、その度に俺たちは武器を変えて打ち合い続ける。

 

その速度は、最早音速を超えていた。

 

月明りが照らす夜空に、金属音が響き渡り、所々で火花が散る。

 

「どうしたどうした!その程度か我が仇よ!既に万を超えて打ち合っておるが、儂には未だに傷一つ負ってはおらぬぞ!」

 

「はっ!そう言うセリフはお前が俺に一つでも傷を負わせてから言いやがれってんだ!」

 

しかし、忍の言う事も又事実。

 

武器の扱いは俺の方が若干上のようだが、俺は何度となく忍に攻撃を仕掛けたというのに、忍の障壁を破ることが未だにできていない。

 

高速の連続攻撃もダメか……。

 

体力の方は問題ないが、しかし俺にはタイムリミットがある……グズグズ戦ってもいられないな……。

 

となると……やはり『アレ』しかない。

 

「食らえ!」

 

俺は手に持ったものを忍に投げつけた。

 

「小賢しいわ!」

 

俺が投げつけたものを忍が剣で両断する。

 

その瞬間、忍の目の前で突然光が弾けた。

 

「目くらましとは!姑息な真似を!」

 

しかし、スタングレネードも所詮は人間の武器。神である忍に対しては一瞬目をくらませる効果しか期待できない。

 

だが、一瞬もあれば十分だ。

 

「何処じゃ!」

 

忍はあたりを見回す。

 

だが、どこを探しても俺の姿を見つけることはできなかった。

 

「ということは恐らく…上じゃ!」

 

忍が上を見上げると、空から人影が真っ直ぐに自分に向かって落ちてくるのが見えた。

 

「やはりそこじゃったか!」

 

その瞬間忍は無数の剣を落下してくる俺に向かって一斉射出する。

 

俺は、見る見るうちに蜂の巣になり、忍に向けて落下する。

 

「これで終いじゃ」

 

そして、俺は忍が突き出した剣に頭から貫かれた。

 

しかし――

 

「妙じゃな……手応えがない…?」

 

ピッ……ピッ…

 

「まさかッ!?」

 

忍の耳が電子音を聞き取ったその瞬間、忍が貫いた俺だと思われていた人型の物体は、盛大に血液をまき散らして爆発した。

 

「―――落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

次の瞬間、爆発に紛れて現れた俺は忍の無防備になった腹に音速を超えたドロップキックを叩き込む。

 

「無駄な足掻きをッ!」

 

当然俺のキックは忍の障壁に阻まれるが、そんなことは関係ない。

 

俺はそのまま忍もろともグラウンドへと墜落する。

 

衝撃波と爆発音。

 

俺は立ち込める土煙の中から抜け出し、忍を墜落させた場所から距離をとる。

 

土煙が徐々に晴れ、俺たちが落ちた落下地点が露わになる。

 

そこは、今までになく巨大なクレーターとなっており、その中心に、忍は横たわっていた。

 

地上20㎞上空から、弾丸と同じ速さで隕石のようにグラウンドに叩きつけられて――

 

「かかっ!まんまとやられたわい、まさか囮なんぞに引っかかってしまうとはのう、いやはや油断はしているつもりはなかったんじゃが……儂も焼きが回ったかのう!」

 

それでも尚、彼女は傷一つ負ってなかった。

 

「今のは儂も流石にヒヤッとしたわい、儂のこの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がなければどうなっていたことやら…」

 

そう言って、彼女はむくりと起き上がった。

 

衝撃で中身にダメージを与える作戦も……失敗か。

 

一切のダメージを遮断する障壁か……。

 

成程、道理で何をしても無傷なわけだ。

 

「それで、今のがうぬの最大の策とみるが、うぬに打つ手は残っておるのか?」

 

「正直、もう殆ど残ってねえよ、しかしなんだソレ、反則じゃねえのか?」

 

「『反則』とは異なことを言う、うぬは鳥に空を飛ぶことが卑怯だと申すのか?神が神の力を使って何がおかしい?全ては使えぬうぬが悪いのじゃ」

 

「ははっ!確かにな!」

 

「時に提案なのじゃが我が仇よ」

 

「提案だと?聞くだけ聞こう」

 

「どうじゃ、ここらで決着をつけようではないか」

 

「何?」

 

「じゃから、前座のじゃれ合いはこれまでにしてここらで互いに本気を出そうではないかと言っとるのじゃ。うぬも短期決戦は望むところじゃろう?」

 

そりゃ確かに俺にとっちゃ都合が良いが……。

 

「分からねぇな、何故お前から短期決戦を提案した?お前にとってはむしろ戦いが長引いた方が都合がいいだろうに」

 

長く戦えば戦うほど、こいつはキスショットと同化し力を取り戻していく。

 

制限時間が無い分、時間に関してはこいつにはかなりのアドバンテージがあるのだ。

 

それを態々放棄してまで短期決戦にする理由が俺には見当たらない。

 

「野暮なことを言うな我が仇よ、儂が時間切れでうぬに勝ったとして、それで満足できるわけないじゃろう。本気のうぬを真っ向から打ち破ってこそ、真の勝利と言えよう」

 

「まるで今まで俺が本気じゃなかったような言い草だな」

 

「隠すこともなかろう、あるんじゃろう?『本命の策』が」

 

「何を根拠に」

 

「うぬはさっき『策は殆ど残っていない』と言った。そう()()と…ということは、うぬが今まで隠していた策があると言うことじゃろう?」

 

「ハッ!バレちまったなら仕方ねぇ、正直、もう少し温存して起きなかったんだがな」

 

「随分と自信があるようじゃな」

 

「あぁ、とっておき中のとっておきの、切り札の中の切り札だ、多分、これが成功すればお前を確実に殺せる」

 

「ほう、それはまた随分と大きく出たものじゃ、ならば、ここまで健闘したうぬに敬意を表し、儂も真っ向から相手になってやる。うぬの『本命』を、儂の全力を持って正面から打ち破ってくれようぞ!さぁ決着をつけようぞ我が仇よ!」

 

「後悔するなよ!」

 

「来い!我が仇ぃ!」

 

「行くぞ!忍野忍ぅ!」

 

そう叫ぶと俺は、一直線に忍に駆け出した。

 

もう、この作戦に掛けるしかない。

 

「何が来るかと思えば、玉砕覚悟の特攻か!よかろう!ならば華々しく、儂に散らされるがよい!」

 

「嗚呼ァァァァァァァァァァァ!」

 

俺は絶叫しながら忍に向かって突き進む。

 

「死ぬがよい!我が仇ぃ!」

 

振りかぶられた忍の拳が、俺に向かって突き出される。

 

全力のキスショットと同じ力を持つ存在の全力の拳が、俺を仕留めるべく襲い掛かる。

 

ガキィン!

 

「な―――何ィッ!?」

 

忍の拳は、俺にヒットする前に()()()()()()によって阻まれる。

 

「何故うぬがッ!それを――――『神の力』を使えるッ!?」

 

驚愕する忍。

 

当然俺がそんな大きな隙を逃すわけがなく、すかさず俺は手を合わせ、手の平から大太刀を出現させ、そのまま忍の振りかぶられた片腕目掛けて一閃する。

 

大太刀の刃は、難攻不落だった忍の障壁を切り裂き、片腕を切断する。

 

返す刀でもう片方の腕を切断。

 

「ぐ――うぅッ!!」

 

「ハァァァァァァァ!」

 

咄嗟に後ろへ跳ぼうとする忍、だが俺の刀はそれよりも速く彼女の両足をまとめて切断する。

 

「くぉッ――!」

 

「これで――終わりだアァァァ!」

 

四肢を失い、体制を崩して仰向けに倒れこむ忍の喉に、俺は大太刀を――妖刀『心渡』を突き刺し、そのまま地面に縫い付ける。

 

ヒューヒュー、と、忍の息が漏れる音が静寂が訪れたグラウンドに響く。

 

俺はゆっくりと忍の喉から『心渡』を引き抜く。

 

「か――かかっ……まさか…うぬが『怪異殺し』を持っている…………とはな…予想外……じゃったわい」

 

「昨日、じっくり見させてもらったからな」

 

物質創造能力は物質として存在していればなんでも作り出せる。

 

たとえそれが、この世に一本しかない妖刀であったとしても、それが存在していれば創造できる。

 

「『怪異殺し』……この世に非ざるものを葬る妖刀か…確かにそんなものを持ち出されれば……儂の『神の力』とて切り裂ける…か……かかっ、その可能性は失念していたわい」

 

「これは俺にとっても最終兵器だった。確かにこれならお前の障壁を切り裂けるが、最初に出してしまえば警戒されて長期戦は避けられなかっただろう。だから…ここぞという時まで取っておいた」

 

「なるほどのう……うぬがあの手この手で儂の障壁を破ろうと試みておったのは…全て…儂の神通力の性質を調べ…本命の策を成功させるための…布石……じゃったのじゃな」

 

「まぁな、ついでに言うとあえて色々やってお前が俺にはどうやっても障壁を破る手段がないことを思い込ませる狙いがあった」

 

「かかっ……まんまと騙されたわい…儂は…うぬの目論見通りに……『心渡』の存在を失念させられていた……わけじゃな」

 

「目には目を、歯には歯を、反則(チート)には反則(チート)を、お前の障壁を破るには、正直この手しかないって思ってたぜ」

 

勿論どの作戦も忍を仕留めるつもりでやってはいたが、しかし成功すれば御の字という考えがあったのも事実。

 

「儂の……完敗じゃ…なぁ……我が仇よ…一つ聞かせてくれんかの…」

 

「何だ」

 

「うぬが最後に……儂の『神通力』を真似したのは…一体……どういうトリックじゃ?」

 

「あれは…俺の『例外性』の一つだよ」

 

『最適最高化』と並ぶ、零崎無闇の持つもう一つの例外性――

 

―――『完全模倣能力』―――

 

彼が世界から拒絶された、もう半分の理由を占める例外性である。

 

「その効果は、字の如くだ。ありとあらゆるスキルを模倣する能力――それが『完全模倣能力』だ」

 

どんな技能も、一度見れば、一度感じてしまえば模倣できる力。

 

どんな能力も、一度習得さえすれば、最速最短で極められる力。

 

この二つの能力によって、俺は万能であり、常に最強でいられた。

 

この二つの能力のせいで、俺は人から疎まれ、世界に拒絶された。

 

「例えそれが神の力でも…俺は人という、吸血鬼という枠組みから『外れて』習得できる。故に俺は俺自身をこう呼ぶ――『例外』――とな」

 

「そういう…こと…じゃったのか……うぬのような存在がこの世界にいるとは…世界は広いのう」

 

「そろそろ……終わりにするぞ」

 

「よかろう…とどめを……刺せ…儂の首を落とし、中にあるものを抜き取るがよかろう」

 

「言い残すことはあるか?」

 

「無い、早うやれ」

 

「…承知した」

 

俺は、『心渡』を振り上げると、忍の首目掛けて一閃する。

 

ゴトリ…。

 

と、忍の首は地面に落ち、ついさっき首が乗っていた彼女の胴体から、何やらお札のようなものが顔を覗かせていた。

 

俺は躊躇なくそれを抜き取る。

 

恐らく、これが『忍野忍』の神としての本体だ。

 

そして俺はそのまま胴体に手を突っ込み、力強く脈打つ心臓を抜き取る。

 

その瞬間、忍野忍の身体が『よくないもの』となってあたりに散らばった。

 

そして、あたりに散らばった『よくないもの』はある一点へと収束していく。

 

「迎えに来たぜ、相棒」

 

「全く…もう少し早く迎えに来ぬか、お前様よ」

 

日が昇り始め、朝の光が照らすグラウンドで、『例外の人間』と『怪異の王』が二人、笑っていた。

 

018

 

後日談

 

というか、これからの話。

 

流石に連日に及ぶ異能バトルの疲れが出たのか、俺はその夜、自宅へと久しぶりに帰り、何も食べず、風呂にも入らずベッドで寝た。

 

そして俺は、泥のように―いや、『死んだように』眠った。

 

肉体的な疲れというよりも寧ろ、精神的な疲れが溜まっていたようで、俺は気絶するように眠った。

 

そのせいか、俺は翌日、珍しく寝坊した。

 

この一年、俺は妹たちに起こされるよりも早く起きてきたので、久しく起こされることは無かった訳が、今回は妹たちの方が先に起きた。

 

この一年俺を起こせなかったことでフラストレーションでも溜まっていたのか、今まで起こしてこれなかった分、彼女たちはパワフルだった。

 

パワフルすぎて、寝込みを襲撃されたのかと思ったくらいだ。

 

そんなひと悶着があった後、俺は学校へと向かった。

 

走って向かった。

 

吸血鬼パワーをもってすれば、自転車を漕ぐよりも走ったほうが速いのだ。

 

何故か途中で人間のはずなのに尋常じゃないスピードでダッシュしてる女子高生を見かけた。

 

同じ学校の、多分下級生。

 

そんな彼女をぶっちぎってやってきたのは直江津高校。

 

今俺がいるのは体育館の中。

 

三年生のクラス分けが掲示されていた。

 

人が混みあってよく見えなかったので、姿を消して飛んで上から近付いた。

 

「おぉ……羽川と同じクラスだ」

 

初日からテンション上がるぜ。

 

これからは毎日学校に行こう。

 

と、俺は心の中で固く誓った。

 

そうして一人、体育館の隅でガッツポーズをしていると…。

 

「やっほー、阿良々木君」

 

「おう、羽川じゃねぇか」

 

「同じクラスだねー」

 

「だなぁー」

 

「なんだかうれしそうだね、阿良々木君」

 

「ん?そうか…?」

 

「顔に出てるよ」

 

「まぁうれしくなるのも無理ないさ、何せ友達と一緒のクラスになれたんだからよ」

 

「私も嬉しいよ」

 

「この幸せが…いつまでも続けばいいのに…」

 

「この後不吉なことが起きるみたいな伏線張らないで!?」

 

「そう……あの時は思っていたんだ」

 

「勝手に回想シーンに入らないで!」

 

「そして冒頭に戻ると…」

 

「作品のジャンルを捏造しないで!?ループ物じゃないから!巻き戻らないから!」

 

「クッ……未来は変えられないのか!」

 

「既にループしてるようなフリしないで!?」

 

「やはりアトラクタフィールドの収束には逆らえないのかっ……!」

 

「何言ってるの!?」

 

「いや…絶対に辿り着いて見せる!この俺、マッドサイエンティストの鳳凰院狂真の名にかけて……!必ず!運命石の扉(シュタインズ・ゲート)へと辿り着いて見せるっ!必ず!行って見せるっ!!世界変動率(ダイバージェンス)1%のその先へ!」

 

「だから何言ってるの!?」

 

「待っててくれ、羽川…必ずお前を救って見せる!」

 

「私何があったの!?やめて急に優しい眼で私を見ないで!阿良々木君の中では私どういうことになってるの!?」

 

「エル・プサイ・コングルゥ」

 

「わけがわからないよっ!」

 

そうやって俺は楽しく羽川とおしゃべりしている時だった。

 

「―――ほぅ、儂を放っておいて随分と楽しそうじゃな」

 

「げっ……キスショット」

 

俺が後ろを振り向くと、そこにはいい笑顔で俺の肩を掴んでいるキスショットがいた。

 

「ま、待てキスショット、別にお前のことを忘れていたわけじゃないんだ!ただ友達と一緒に話していたら楽しくてつい…な」

 

「ほーう、つまりお前様は、儂というパートナーを放っておいて、まず先にそこの小娘の方を優先した……という事じゃな」

 

「落ちつくんだキスショット!話せばわかる!」

 

「よかろう、今日の夜、たっぷりと儂と語り合おうではないか」

 

「それだけは勘弁してくれ!お前と『アレ』やるのはマジで疲れるんだって!」

 

「なぁーに疲れたら儂が癒してやるわい、さぁ行くぞお前様よ!」

 

「HEEEEYYYYあァァァんまりだァァアァ!」

 

そう言って俺はズルズルとキスショットに教室へと引きずられていくのであった。

 

そして放課後。

 

クラス担任との顔合わせやら自己紹介やら、そんな新学期に行うあれこれの後、俺は家路についていた。

 

「――でもまぁ、まさかあの後、キスショットが俺の家に『ホームステイ』として仲間入りして、尚且つ『留学生』として直江津高校に入学してくるとはなぁ」

 

「なんじゃ、不満か?」

 

「別にそうじゃないけれどさ、お前が人間に交じって生活するとは、ちょっと意外でな」

 

「まぁ、大抵の人間には興味ないわい」

 

「知ってる」

 

何せリアルで「ただの人間には興味ありません」を言ったやつだからな。

 

――留学生のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ

 

――儂の名を呼ぶときは『ハートアンダーブレード』と呼ぶように。

 

――言っておくが儂はただの人間には興味が無い

 

――気安く話しかければうぬら全員食らうのでそのつもりで

 

なんて自己紹介ならぬ事故紹介をぶちかましてくれやがった訳だ。

 

しかし意外にも評判はよく、キスショットの芸術品以上の美貌と高慢な喋り方が相まってどこかの国のお姫様という根も葉もないうわさが学校中に広まった。

 

そのおかげでキスショットは神聖にして不可侵の存在として認識され、男子も女子も、彼女に羨望の眼を向けている。

 

「ったくお前があんなこと言うから俺まで目立っちまったじゃねえか」

 

あの事故紹介によってキスショットは一躍直江津高校一の有名人になったが、それと同時に俺の知名度も跳ね上がった。

 

当然だろう、あんな事故紹介があった後に俺にだけは普通に話しかけてくるのだから。

 

それゆえに俺とキスショットの関係をあれこれと噂しあった後、最終的に俺達にはアンタッチャブルでいることが暗黙の了解となってしまった。

 

「かかっ、まぁ良いではないか、うぬとて儂とは違う意味で大抵の人間には興味がないはずじゃ、徒に話しかけられるよりも、放っておかれたほうがありがたかろう、寧ろうぬは、儂に感謝するべきではないかの」

 

「……いやその理屈はおかしい」

 

例えそうだとしても、キスショットは別に俺を慮ってやったわけでは無いのだから、少なくとも俺が彼女に感謝する筋合いはない。

 

「なぁ、お前様よ」

 

「どうしたキスショット?」

 

「あの学び舎、本当にただの学び舎かのう?」

 

「あぁ……やっぱり気づくか」

 

「儂は別にあの小僧ように『専門家』という訳ではないが……それでも怪異があれほどまでに一点に集中しておることが異常であることくらいは分かるぞ」

 

「まぁ…あの密集具合は俺も正直驚いたけれどさ」

 

吸血鬼を取り込んだことによって怪異に敏感になった俺は、新学期になって内心で驚愕したものだ。

 

何せ俺の学校の生徒にはかなりの確率で怪異とかかわっている人間が紛れ込んでいるのだから。

 

「『蟹』に『猿』に『人魚』に『人狼』に『土人形』――体育館だけでもこれだけの怪異の気配がしておったわい――それに、怪異の気配は学び舎だけではない……()()()()()が、怪異の気配に満ち溢れておる」

 

「だから…忍野はここに残ったのかもな」

 

「ふん……あの小僧か、アフターケアなんぞ見え見えの方便を使いおってからに」

 

あの決戦の後、全ての仕事を終えた忍野はまたぞろ何処かへと旅立つかと思われていたが、どういう訳からしくもなくあの風来坊は未だにあの学習塾跡を塒にこの街に留まっている。

 

彼曰く俺たちのアフターケアだそうだ。

 

見え透いた方便であることは明白である。

 

彼は『専門家』としてこの街に異常なほどに怪異が集まっていることに当然気付いており、恐らくはその理由を調査するために留まっているのだろうと思われる。

 

「気を付けたほうがいいかもな…忍野曰く『怪異を知れば怪異に惹かれる』――だったか?俺もお前も、怪異ではないとはいえ、しかし怪異を()()()()()()()ことに変わりはないしな」

 

「儂の経験上、怪異は大きな力をもつ存在に惹かれるのじゃ、故に儂は、これまで決して一か所に長く留まるということをしてこなかった。そうでなくとも大きな力を持つ者というのは、得てして無用なトラブルを引き寄せやすいものじゃ」

 

「確かにな……だがま、この先どんなトラブルが降りかかろうと、お前と一緒ならきっとどんなことがあろうと大丈夫さ、だろ?相棒」

 

「かかっ!当然じゃ、儂とうぬがそろって、できないことなど一つもないわい、どーんと構えておればいいのじゃどーんと」

 

「全く相変わらずだなお前は……だが、お前の言う通りだ」

 

「この先にどんな『世界』が、どんな『物語』が待ち構えておろうと、儂はうぬについていくだけじゃ、我がパートナーよ」

 

「おう、頼りにしてるぜ、相棒」

 

「こちらの台詞じゃ」

 

この春、俺達は様々なモノを傷つけ、様々なモノに傷つけられてきた。

 

そして俺達は傷を負い、血を流す。

 

しかし、傷は……いずれ癒える。

 

そして俺たちは立ち上がり、また前に進んでいくのだ。

 

そしてまた傷を負う。

 

傷だらけになりながらも、俺達は進んでいく。

 

地に流れた血は、やがて赤い道となって、俺達の軌跡を示すだろう。

 

そして気が付くのだ。

 

自分の背後に作られた赤い道は、自分が確かにこの世界にいたことを示す、確かな証明で、この世界に俺達が刻み込んだ『傷跡』であると。

 

傷は…いずれ癒える。

 

だが傷は……傷跡となって残る。

 

傷は消えても…傷跡は消えない。

 

俺達は……世界を巡り歩く旅人だ。

 

これから先、きっと俺達は、幾多の世界に傷跡を残すのだろう。

 

俺達は…確かにここにいたと主張するがごとく、傷跡を…『物語』を刻み続ける。

 

これから始まるのは、誰もが傷つけ傷つけられる傷だらけの『傷物語』

 

物語は――()()無くては始まらない。

 

 

『外物語』《傷物語編》―――『完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……。

返事がない、只の屍のようだ。

どうも、ただのしかばね系作者の零崎記識です。

傷物語を早く完結させたくて連日執筆していたら遂に力尽きました。

では今日の叫び

我 が 生  涯 に 一  片 の 悔 い な し !(ガクッ

ヤムチャしやがって……。

という訳で遂に『傷物語』完結しましたね。

こんなに早く完結できたのも皆様の応援がモチベーションとなっていたからです。

本当にありがとうございました。

それでは今回の話について

キスショットと無闇君の『アレ』については皆様のご想像にお任せします。

え、ただの運動じゃないんですか?(すっとぼけ)

まさかキスショットが人間社会入りするとは…。

書いていませんでしたがあの時のキスショットの容姿は高校生相当の容姿です。

映画の傷物語でエピソード戦が終わった後の姿ですね。

え?どうやってキスショットが直江津に入学したのかだって?

君のような勘のいい(ry

そこはあれです、吸血鬼パワーでどうにかしていると思っておいてください。

ここからは補足

『完全模倣能力』について

遂に無闇君のもう片方の例外性が開示されましたね。

皆さん覚えていたかな……。

いやー本当は『パーフェクト・トレース』とかにしようかと思ったのですが片方だけ英語だったりルビ振っていたりしたらなんかダサい気がしてあえて漢字オンリーです。

『最適最高化』のルビ…筆者では思いつかなかったのでもしよろしければ皆さんで考えてくださったものを感想欄に書き込んでいただければ採用するかもです。

『完全模倣能力』はあれです、西尾維新ファンの方なら分かると思いますが『刀語』の登場キャラ、作中最強の実力をもつ主人公の姉、鑢七実の『見稽古』の上位互換です。

一度見るだけで完全に習得は可能ですし、目で見なくとも習得することはできます。

実は『最適最高化』で説明した一つの事柄を極めるまでにかかる時間が1時間ちょいって言うのはあくまでも『最適最高化』単体で使った場合においてです。

実を言うと『完全模倣能力』は技能のみを模倣するのではなく、習熟度そのもの、相手の『強さ』そのものを習得できます。

つまり『完全模倣能力』で習得した技能に対する相手の習熟度の分だけ、その時間は短縮されます。

即ち、写し取った相手が強ければ強いほど時間は短縮されます。

例えばスポーツ

よくオリンピックとか世界〇〇とかテレビでよく中継されていますよね

無闇君はそれを見るだけで、そこで活躍しているトップクラスの人間と同じ技量を持つことになります。

それと『完全模倣能力』と『最適最高化』はあまり分けて使われません。

ソレ二つで一つの能力って言っても過言ではないくらいです。

つまり『完全模倣能力』で習得した能力を

『最適最高化』で高めて完全に自分のモノ、自分の強さとして昇華すると

ということは理論上、無闇君に負けはありません。

だって相手の強さをそのまま写し取ってしまえるんですもの。

どうやったって引き分けにしか持ち込めません。

そしてさらに強くなっていくので無闇君の方が大抵の場合は勝ちます。

ハイ、チートですね。

ガチートなんてもんじゃないですね。

仕方無いじゃないか!最近羽川さんのせいでキャラ崩壊してたけれど本来彼はそういうキャラなんだもの!

まぁまとめると、ありていに言ってしまえば零崎無闇というキャラはこの世に存在する才能全てを持ったすさまじいまでの才能の塊です。

天才を超えたチート

チートを超えたバグ

バグを超えた例外です。

まあここまで言ってしまえば無闇君が前の世界でどんな目に遭ったのか予想はつくと思います。

何気にヒントらしきものも散りばめていますし。

では次回の話

『猫物語』突入キターーーーーー!

みんなブラックコーヒーは持ったな‼

最早メインヒロインといっても過言ではない我らが羽川さんの話だぞ!

うん…筆者の中の悪ノリの悪魔が囁きまくる章になりそうだ。

シリアス?知らんな。

一寸先は闇!

どうなるのかは筆者自身にも分からない!

という訳で『外物語』《黒猫編》『つばさファミリー』でお会いしましょう!

感想をくださったアリア@@さん、赤薔薇さん、夕凪さん

そしてお気に入り登録してくださった読者の皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ

ではまた次回






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