ゴーストストラトス   作:のんびり日和

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3話

アキトとマドカは部屋に侵入していた人物に一瞬呆けてしまったが2人はすぐに軍人の気持ちに切り替え、アキトは懐からベレッタM9A1を取り出し侵入者に向け動きを封じる。

 

「動くな!」

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

侵入者は急に銃を取り出され自分に向けられたことに驚き、降ろしてもらおうと声を掛けようとしたがマドカがISの拡張領域からナイフを取り出し侵入者の懐に飛び込み体勢を崩す。

 

「ちょっ! ぐぴゅ!?」

 

体勢を崩された侵入者は顔から床に崩され、マドカはすぐさま侵入者の両腕を背中に回し、両手首を結束バンドで拘束して喉元にナイフを向ける。

 

「おかしな真似したら殺すから」

 

そう言われた侵入者は恐怖から声をあげられずにただジッとする。アキトは警戒しながら他に部屋に侵入している奴がいないか各部屋を入念に調べ、誰もいないことを確認し侵入者を床に正座で座らせて尋問を始める。

 

「さて、何処から入ってきたんだこの痴女野郎?」

 

「ち、痴女ちゃうわ!」

 

アキトに痴女と呼ばれたのが嫌だったのか侵入者は痴女ということを即座に否定するが、恰好が恰好だけに全く否定できる恰好ではない。

 

「まぁそんな事は置いといて「置いておかないでよ!」……お前は此処の生徒か? 誰の差し金だ?」

 

楯無の叫びを無視してアキトがそう質問すると侵入者は簡単に口を割った。

 

「わ、私は此処の生徒会長の更識楯無よ。日本政府から貴方ともう一人の護衛を任されたの。……もう一人の方はやりたくないけどね」

 

一瞬暗い表情を見せた楯無にアキトは気付くが深くは聞かなかった。それよりも気になったのが彼女の名前の方だった。アキトがまだ“織斑秋斗”だった頃に一緒に公園で遊んでいた姉妹が更識と言う苗字だったことを思い出し、そしてアキトとその姉妹の姉とこんなことも話していた。

 

~回想~

 

秋斗と姉妹たちがよく一緒に遊んでいる公園にあるベンチで2人の子供が座って談笑していた。

 

【実はね、私のお家で一番偉い人になるとね凄い名前が貰えるんだよ】

 

【へぇ~、どんな名前なの?】

 

【“楯無”って言う名前なんだ。私はいつかこの名前を貰って簪ちゃん達を守るのが目標なんだ~】

 

【へぇ~、立派な目標だね】

 

秋斗は女の子の話に共感し、素直に褒めると女の子は喜ぶ。

 

【そうでしょ! もちろん秋斗君も私が守るからね】

 

【僕、守ってもらうより守る方が好きだな。だって大切なお友達が傷つくのは見たくないもん】

 

女の子は秋斗の言葉を聞いて自分の方が年上なのに今目の前にいる子は将来私を守ってくれる人になるんじゃないのかと考え頬を赤く染める。

 

【そ、そう? だ、だったら大きくなったら私を守ってくれる?】

 

【うん! 刀奈ちゃんや簪ちゃん、虚お姉ちゃんとのほほんちゃんは僕が守る!】

 

【そ、そう。じゃあ約束ね?】

 

そう言って頬を赤く染めている彼女と指切りげんまんをして誓いを立てていたことを思い出したのだ。

 アキトは自分は織斑秋斗だと言いたかったが彼女は日本政府お抱えの暗部組織、更識家の当主の為自分の正体を明かすことが出来なかった。

 

「それで、そんなこの格好をしてお兄ちゃんと私の部屋に入っていた理由は?」

 

マドカに睨まれながらも楯無は訳を話す。

 

「そ、そのアキトっていう名前にね、ちょっとした思い出があるの。それでつい悪戯を思いついてやっちゃったの。ごめんなさい」

 

訳を話した後シュンと暗くなる楯無に、マドカは呆れるように諭す。

 

「どんな思い出があるかは知りませんが、あまりそういったことをお兄ちゃんの前でしないでください」

 

マドカはナイフで楯無の両腕を縛っている結束バンドを切り、楯無を自由にする。

 

「ごめんなさいね。着替えたら出て行くから」

 

そう言って楯無は落ち込みながらも洗面所へと入って行き暫くして服を着替え終え、部屋から出て行く。マドカはまだ呆れているのか、大きく息を吐く。

 

「まったく、ハニトラをしてきた奴かと思ったらただの冗談好きの生徒会長って、この学園ってやっぱりおかしな奴しか集まらないのかな、ねぇお兄ちゃん? ……お兄ちゃん?」

 

マドカは返事を返してこないアキトを心配し、顔を覗き込む。アキトの顔は神妙な面持ちでいたがマドカが顔を覗き込んできたことに気付き、笑顔を向ける。

 

「ど、どうしたマドカ? 何か言ったか?」

 

「う、うんん。何でもないよ」

 

マドカは兄の様子がおかしいことはすぐに分かった。さっきの楯無と言う生徒会長に会ってからだとはすぐに考えが辿り着く。

 

「もしかして、さっきの楯無って言う人とお兄ちゃんは知り合いなの?」

 

アキトはその言葉に驚くが隠す必要もないと考え自分の過去を語りだす。

 

「あぁ。あの人とは俺がまだ”織斑秋斗”だった頃の知り合いだ。知り合いというより友達だな」

 

姉妹ゲンカを仲裁したこと、仲良くお菓子を交換したりして食べたこと、楯無の妹が転んでケガをしたのを背中に背負って家まで運んだことなど。アキトは懐かしむように話す。マドカはそれを聞いて本当に大切な友達なんだと実感した。

 

「これが俺が彼女とその姉妹たちのお話だ」

 

「本当に大切な友達だったんだね。けどどうしてさっき自分が織斑秋斗だって言わなかったの? 言えばまた鈴ちゃんと同じように友達としてやっていけるのに?」

 

マドカの質問にアキトは苦笑いでそれは無理だと言わんばかりに首を横に振る。

 

「鈴の場合は絶対に喋らないってアメリカ政府と契約を交わしているからいいんだ。だが彼女は日本政府お抱えの暗部組織の長だ。後は言わなくても分かるだろ」

 

マドカはその後のことはすぐに分かった。アキトが彼女たちに自分の正体を明かせば喜ぶかもしれない。だが政府お抱えの暗部の為、政府の要請があればアキトの正体を報告しなければならない。もし拒否すれば自分の家族がバラバラにされるかもしれないからだ。だからこそ、アキトは自分の正体を明かすことはしなかったのだ。

 

「けど、それで本当に良かったの?」

 

「分からん。だがこれでよかったのかもしれない」

 

そう言ってアキトは椅子に座り沈んでいく太陽を窓越しで眺め始める。マドカはそんなアキトの後姿がなんだか泣いているように見えた。

 

 

部屋から出て行った楯無は暫く廊下を歩いていると前の方から歩いてくる人物に気付く。

 

「あら虚ちゃん、どうしたの?」

 

虚ちゃんと呼ばれた女性は栗色の髪の毛で長い髪をポニーテールにしてまとめている。楯無の従者でもあり、生徒会書記なのだ。

 

「どうしたかじゃありませんよ。書類を全部片付けた後に急に姿を消してあちこち探してたんですよ」

 

「そうだったの、ごめんなさいね」

 

そう言って虚と共に生徒会室に戻ろうとしたところ

 

「更識、ちょっと待て」

 

楯無と虚は声がした方を向くとそこには千冬がいた。楯無は無意識に千冬から見えないほうの手を力強く握りしめる。

 

「……何か用ですか織斑先生」

 

千冬は楯無の態度の変化を気にせず、ある頼みをお願いする。

 

「実は1週間後、1組のクラス代表決定戦を行う為お前に織斑の訓練教官を頼みたいんだ」

 

「お断りします」

 

千冬の頼みを即断る楯無。その顔は千冬に対して何か恨んでいると言った顔だった。それは楯無の隣にいる虚も同様だった。

 

「私はロシアの国家代表でありますし、IS学園の生徒会長でもあります。その為いろいろ忙しいため他の方に頼んでください。それかご自身でやられてはどうですか? ()()()()()()可愛い弟さんなんですから」

 

楯無は「たった一人」と言うところを若干強調しながら言い、虚と共にその場から去って行く。千冬はしばらくその場に佇んでいたが急に舌打ちをしてその場から去って行く。虚と共に生徒会室に戻った楯無は生徒会長の机に備えられている席に着き息を吐く。

 

「お嬢様、あまり挑発するような発言は控えてください」

 

虚にそう咎められるもその顔は攻めているという顔ではなく、同情しているような顔だった。

 

「ごめんなさい。けどね、あの女と一緒にいると秋斗君のことを思い出されるのよ。そうなったら無意識にああなっちゃうのよ」

 

そう言って机の上に置かれている写真立てを見る。そこには4人の女の子が一人の男の子と一緒に撮られている物だった。

 

「……もう一度会いたいよ、秋斗君」

 

悲しそうにそう呟く楯無。今日会ったアキト・ファイルスがもう一度会いたいと願っている織斑秋斗だとは気付かずに。

 

 

用語

ベレッタM9A1

イタリアにあるベレッタ社が開発した銃。ベレッタM92FSと言う銃のフレームの下面にレールを取り付けられたものでここにウェポンライトやレーザーポインタを取り付けられる。アメリカ軍や各国法執行機関、軍隊に広く広まっている。

弾種 9×19㎜パラベラム弾

装弾数15+1

 

【挿絵表示】

 




次回予告
次の日の昼休み、一夏に専用機が渡されると千冬が伝えると一夏はアキトにも渡されるのか聞くと渡されると聞く。だがアキトはもう専用機は持っていると伝え受け取りを拒否する。そして放課後、真耶のお願いしていたアリーナの端を借りに行き、マドカと共に訓練をする。
次回訓練開始!~さぁて久しぶりの戦闘訓練だ!~

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