虚に案内されアキト達は学園長室前へと到着し、先頭にいた虚は扉をノックする。
「布仏虚です。ファイルス君達をお連れ致しました」
『どうぞ、お入りください』
部屋の中から入室許可の返答があり、虚達は学園長室へと入室した。部屋には既に一夏と千冬、それと真耶が部屋の隅に立っており、部屋の奥の席には轡木が席に着いて待っていた。
「ファイルス君以外は初めましてですね。当学園の学園長をしております、轡木と言います」
「え? 確か学園長って女性の方じゃ?」
鈴は学園のパンフレットに載っていた人物と違うことに疑問に思い、そのことを口にすると、轡木は笑顔で訳を話した。
「学園のパンフレットに載っていた女性は私の妻なんです。このご時世、男性が学園長をしているとなかなかこちらの要請をまともに取り合って貰えないことがあるのでね。だから普段は彼女に学園長を頼み、有事の際は私が対処しているのです」
学園長の説明に鈴とセシリアは納得した表情で頷くと、轡木は先程の笑顔から、真剣な表情へと変える。
「では皆さん、今回の事件についての報告をお願いします」
そう言われ最初に管制室にいた真耶が報告をし始めた。
「それでは、最初に私から報告致します。私と織斑先生は管制室でアリーナの監視をしていました。そして、織斑君と鳳さんの試合が終わったとほぼ同時に天井に張られたシールドが破壊され数名のテロリストがそこからアリーナ内部に侵入。並びに、管制室のコントロールが奪われ、織斑先生が三年の技術生達にコントロールの奪還を依頼。技術生達に依頼後すぐに通信にて、アキト君から扉を強制的に開ける許可を求められ私は許可しようとしましたが……」
真耶は一度言葉を区切り、チラッと千冬を見た後、報告を続けた。
「織斑先生がそれを認めませんでした。その後のことは学園長もおられましたので報告は省かせて頂きます」
真耶の報告を聞き、アキト達はまたこいつか。とジト目で千冬にこっそりと目線を向けていた。
「そうですか。それからアキト君に許可を与えてから数分で管制室のコントロールを取り戻せたそうですが、それは事実ですか?」
「はい。ですが学園にハッキングしてきた組織とは別の組織だと思われます。理由は、学園にハッキングしてきた組織からコントロールを奪い取りこちらに譲渡してきたからです」
「なるほど、どこの組織からだとかは分からないのですか?」
轡木驚きつつも何処の組織か聞くが真耶は首を横に振る。
「それが何処の組織がやったのか突き止めようとしたのですがその前に逃げられてしまい、どこの組織なのか手掛かりすら分からなかったのです」
真耶は逃げられたことに申し訳なさそうにしていると、アキトが手を挙げ学園長に告げる。
「学園長、その別組織なんですが、その組織は俺が頼んでコントロールを取り返して欲しいと頼んだんです」
アキトの言葉に学園長室にいたマドカ以外は驚き、学園長がその組織について聞く。
「その組織はアメリカ政府に所属しているのですか?」
「一応、政府に所属はしているとは思いますよ。普段は別の仕事をしてますが」(組織と言うより一人の天災だけど……)
アキトは束のことを隠すため組織と伝えると、学園長は政府の傘下にある組織だと知れば深くは聞かず、そのまま真耶以外の者達からも報告を続けさせた。
「―――と言う訳で、私は更識先輩とマドカに警護して貰いつつ、そこにいる織斑一夏を安全なピットへと一緒に退避しました」
それから鈴の報告が終わり残りはアキトの報告だけとなった。
「分かりました、鳳さん、ありがとうございます。ではファイルス君、報告をお願いします」
「分かりました。殆ど鳳上級曹長の報告と重なっているので、彼女が織斑一夏と共にピットへと退避した後のことを報告させて頂きます。二人が無事退避後、自分とセシリアはアリーナに残ったテロリストを排除しておりました。そして最後に残ったリーダー格のテロリストも排除し終わり、自分は地面に降りISを解除しました。その後、更識先輩とマドカがISを解除した状態で自分の元へ様子を見に来ました。二人と合流後、共にピットへと戻ろうとした時、降下中のセシリアから警告が飛んできたので後ろを振り向くとリーダー格のテロリストが既に更識先輩に銃を構え狙っていた為、咄嗟の判断でリーダー格のテロリストを射殺しました」
リーダー格のテロリストを射殺したと報告すると一夏と千冬は信じられないと言わんばかりの顔でアキトに顔を向ける。
「そうですか。リーダー格を射殺してしまったのは痛いですが、更識さんに銃口が向けられていたというのなら仕方がありません」
「本当に申し訳ありません」
アキトは学園長の寛大さに感謝しつつ、謝罪をする。
「ファイルス君も報告ありがとうございました。では以上で皆さんからの報告は終わりですね。では皆さん退出して貰っても結構ですよ。お疲れ様でした」
そう言われ全員学園長室から退出しようとしたが、千冬が進言がありますと轡木に言う。
「学園長、ファイルス達のISは提出されたデータと違い威力等が高すぎます。再度検査をするために取り上げるべきです!」
千冬は学園長に詰めいるように進言するが轡木は首を横に振り拒否した。
「彼らは軍に所属しているのです。彼らの専用機は軍用のISに枷を付けることにより競技用にしているんですよ。その枷を外せば軍用としての本来の能力を発揮することができるのですから提出されたデータと違うのは当たり前です」
そう言われ千冬は悔しそうな顔になり、それでもと食い食い下がろうとしたが、轡木はそれを許さなかった。
「それに貴女は既に警備主任としての任を解かれ、ただの教員になっています。ただの教員となれば生徒からISを取り上げる権利がなく、許可も降ろされないことは知っているはずです」
そう言われ千冬は悔しさ一杯の顔で部屋から出て行き乱暴に扉を閉めて行き、その後にアキト達も部屋から出て行った。
部屋から出たアキト達はとりあえずご飯を食べに行くかと食堂に向かおうとしたが、突然一夏がアキトに殴りかかった。一夏の拳はアキトの頬を打つ。
「お兄ちゃん!?」
「アキト!」
「アキトさん!」
「「アキト君!」」
突然殴られたアキトにマドカ達は驚く。そして一夏が叫ぶ。
「なんで殺す必要があったんだよ! あれくらい銃だけ狙うとか「お前ぇ!」ぐぅっ!?」
罵声を続けようとした一夏を、マドカは一夏の首に腕で押し付け、そのまま体ごと壁に押し付ける。
「お兄ちゃんに手出しする奴は殺す!」
そう叫びマドカは拡張領域からアキトから貰ったコンバットナイフを取り出し、一夏の顔めがけて振り下ろそうとするが、その腕をアキトが掴み止める。
「!? なんで止めるの、お兄ちゃん! こいつはお兄ちゃんを「こんな奴殺したところで何の意味もないだろ」け、けど!」
「放っておけ。こいつは何の理由もなく殴ったんだ、懲罰房行きは確定だ。それにこんな奴の為にお前の手を汚してほしくない」
「……わかった。」
そう言い、マドカは一夏の首から腕を放し一夏を解放し、ナイフを拡張領域へと仕舞った。一夏はマドカの殺気に当てられ足が無意識に震えていることに気付き必死に止めようとしている。
「織斑、一つだけ言っておく」
アキトにそう言われ一夏は顔を上げると冷酷な顔で一夏を見下しているアキトが映った。
「俺たち軍人はお前みたいにのうのうと生きている奴らの代わりに暴力を買って出て国を守っているんだ。だから仲間は家族みたいに大切にしている。だからもし、お前が俺の仲間を傷つけるようなことがあれば、今度は殺すからな」
そう言うとアキト達は一夏を放置してその場から去って行った。その後、一夏には理不尽な暴力を振るったということでGW中は懲罰房へと入れられ学園から出ることを禁止された。
次回予告
マドカから貰った手紙を頼りに楯無はレゾナンス前にいると一台の車が停まり、乗るように言われる。そして楯無が連れてこられた場所はアメリカ大使館だった。そしてそこにいた人物に6年前の真実を知らされる。
次回 真実~貴女の親友は生きているわよ。~