ゴーストストラトス   作:のんびり日和

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9話

アリーナの天井から突然の攻撃に観戦席にいた生徒たちはパニックとなり、出入り口へと押し掛けるが隔壁で閉じられており出入り口は生徒で溢れかえっていた。

その様子は管制室でも確認でき、警備主任を任されている千冬は急いで隔壁を開けるように3年の技術生達に頼む。

 

「全く一体どこの連中だ」

 

千冬がイラついた状態で声を出すと管制室に設置されているスピーカーから放送が流れた。

 

『我々は《ヴァルキュリーガーディアンエンジェル(ヴァルキュリーの守護天使)》。我々は神聖なるISを汚す男達を排除しにきた。大人しく引き渡せば危害は加えん』

 

その放送を聞いた千冬は血がにじみ出るくらいの強さで拳を握りしめる。

 

「ふざけた真似を!」

 

声を荒々しく上げていると管制室に無線が入り、真耶が出るとその通信はアキトからだった。

 

『真耶先生、状況は?』

 

「かなり危険な状況です。アリーナのコントロールは敵のハッキングで奪われていて観戦席の隔壁が開けられない状況なんです。今3年生の技術生達がコントロールを奪い返そうとしているところです。それと鈴さんは織斑君に危害が及ばないように前に出ているようです」

 

真耶の報告にアキトは一つの案を出す。

 

『では急いで鈴の援護に行きたいので隔壁を開けるため、手段を選ばなくてもいいですか?』

 

アキトの問いに真耶は火力を集中して開けると思い、どうすべきか迷ったが生徒たちの命には代えられないと考え、許可を出そうとするが

 

「……本来であれば駄目ですが許可「ダメだ」織斑先生!」

 

アキトの提案に真耶は状況的に判断し、許可しようとしたが横から千冬がそれを認めなかった。

 

「今、技術生達が必死にやっているんだ。それに観戦席はシールドで守られている。もう少し待てば取り返せるはずだ」

 

千冬の根拠のない説明にコントロールを取り戻そうと必死になっている生徒たちは自分たちが遅れれば生徒たちの命が危ないと言うプレッシャーが重くのしかかり、作業が遅くなり始める。真耶は千冬の説明に真っ向から反対の意思を示す。

 

「それでは間に合いません! テロリストたちの武装は天井に張っていたシールドを突き破ったのですよ。それだったら観戦席にいる生徒たちも危険です!」

 

真耶の説明を受け千冬は睨む。

 

「警備主任は私だ。だから私の指示には「その指示には従わなくていいですよ、山田先生」が、学園長?」

 

管制室の後ろに備えられている緊急の手動ドアから入ってきたのは学園長の轡木だった。

 

「織斑先生、現時刻を持って貴女の警備主任の任を解き、その任を山田先生、貴女に任せます」

 

学園長からの突然の解任に千冬は異議を唱えようとしたが轡木からの鋭い眼光に睨まれ、大人しく従った。

 

「アキト君、どんな手を使っても構いません。生徒たちを無事に脱出させてください」

 

真耶からの通信にアキトは了承の言葉を言って通信は切られた。真耶は管制室から自分が出来る精一杯のことをしようと思い、技術生達と共にコントロール奪還に加わった。

 

真耶から扉を強制的に開ける許可をもらったアキトは米軍が兵士たちに配布しているデバイスを取り出し、ある所に電話をした。

 

『もすもすひねもす~。要件は大体は分かるよ~』

 

電話を掛けた先はアメリカにいる束である。

 

「ではやって貰ってもいいですか?」

 

『オッケ~、ちょちょいと終わらせて、どこからハッキングをやってるか調べておくね~。それじゃあバイビ~』

 

そう言って束は電話を切った。アキトは最初自分の武器で破壊しようと考えていたのだがISに装備されている武器では火力不足で無理だし、更に隔壁を破壊できる携帯武器もない為、外部にいる束に協力を仰ぐため手段を選ばずに開けてもいいかと真耶に聞いたのだ。

そして暫くして隔壁が開き、生徒たちは我先に逃げようとしていた為、アキトは生徒たちに落ち着いて行動するように促す。

 

「全員、落ち着け! 慌てず避難するんだ!」

 

アキトの大声が聞こえたのか生徒の多くが冷静さを取り戻し、慌てず避難していく。だがそれでもパニック状態に陥っている生徒がちらほらといて危険だった。アキトはパニック状態の生徒を落ち着かせようとしたが生徒たちの波に阻まれ、上手く近付くことが出来ずにいるとパニックに陥っていた生徒の肩を掴み落ち着かせる女生徒がいた。

 

「落ち着きなさい! 貴女がパニックになっていると他の生徒たちもパニックになるのよ!」

 

そう怒鳴られパニックになっていた生徒は落ち着き、他の生徒たちと共に避難していく。

 

「助かりました」

 

「いえ、誰かがああでもしないと大変危険でしたからね」

 

そう言って女生徒は眼鏡を指であげ、息を吐く。

 

「お兄ちゃん、南側の生徒たち全員避難させたよ」

 

そう言いながらマドカはアキトに近付く。そしてアキトとマドカ、そして先ほどの眼鏡の女性と一緒にピットへと向かっていくと

 

「あ、3人とも大丈夫?」

 

楯無は3人に怪我が無いか聞く。

 

「いえ、俺達は大丈夫です。避難した生徒たちは?」

 

「全員無事よ。虚ちゃん、そっちの方は大丈夫だった?」

 

虚と呼ばれた眼鏡の女性は大丈夫と答え、現状の報告をした。

 

「そう、なら急いでアリーナに向かいましょう。その鈴ちゃんって言う子が心配だわ。それと虚ちゃんは管制室に行って、山田先生達のお手伝いをしてきて」

 

そう言って楯無はアキト達を連れピットへと連れて行く。途中でセシリアと合流し、ピットへと入ったアキト達専用機持ちはアリーナへと飛び出す。

最初に飛び出したアキトが鈴のいる方向を見ると、機体はボロボロになりかけているがそれでも対処している鈴の姿が確認でき、直ぐにアサルトライフルを展開し、テロリストに攻撃を開始した。テロリストたちが身に纏っていたのは第二世代型のラファールが多く、一機だけ色と武装が違うラファールがおり、アキトはアイツがリーダーかと見据える。

 

「あらあら、もう一人の男ものこのこと出てきてくれるとは本当にありがたいわ」

 

そう言って攻撃を開始してくるが、アキトはその攻撃を難なく躱しつつ反撃をしていく。敵がアキトに釘付けにされている内にマドカは鈴達に近付き保護した。

 

「大丈夫、鈴ちゃん?」

 

「えぇ、何とかね。私とこいつはピットへ避難するから援護してもらってもいい?」

 

「分かった。セシリア、あいつ等が鈴ちゃん達に近付かせないように援護射撃をやって」

 

『分かりましたわ』

 

アリーナの上空に移動していたセシリアはテロリストたちを確実に狙撃し、各個撃破していく。テロリストたちがアキトとセシリアに釘付けになり、楯無が警護しつつその間にマドカは鈴と一夏をピットへ連れて行こうとする。

 

「ま、待ってくれあいつ等だけじゃ危険だ」

 

そう言って一夏はISを展開しようとするが鈴が怒鳴る。

 

「バカなこと言ってんじゃないわよ! あんたのISはもうエネルギー切れで動くわけないでしょ。それとあんたが此処に居ても邪魔にしかならないのよ」

 

そう言って鈴は一夏を無理矢理引っ張ってピットへと撤退していく。鈴達がピットへと撤退していく頃にはテロリストの数も激減しておりリーダー格の女が狼狽えていた。

 

「そ、そんな馬鹿な? どうして男の癖に私たちよりISの操縦がうまいのよ!」

 

女が狼狽えている隙にアキトは背後に回り最後のリーダー格を叩き潰す。

 

「タンゴダウン」

 

『今のが最後ですわ、アキトさん』

 

セシリアの報告を聞きアキトは地面へと降り立つ。ISを解除するとその傍にISを解除した楯無とマドカがやってくる。

 

「お疲れ様、アキト君」

 

「お兄ちゃん、お疲れ」

 

「あぁ。ところで鈴は大丈夫だったか?」

 

「うん。機体のダメージがBクラスだから技師を一応呼んで診てもらうって言ってたよ」

 

アキトはそうかと言い、周りを見渡す。周りにはSEが尽き、ISの操縦者を保護するための機能によって昏睡状態にされたテロリストたちが転がっていた。

 

「それにしてもこれだけのISを何処から用意したんだ?」

 

「さぁ? まぁその辺は教師たちが調べるから気にしなくてもいいと思うよ」

 

マドカの推論にアキトもそう結論付け、ピットへと戻ろうとすると上空から降りてくる途中のセシリアから無線が入る。

 

「アキトさん、後ろ!」

 

セシリアの大声に驚き、アキト達は後ろを振り向くとリーダー格の女が拳銃を自分たちに向けていることに気付く。そしてその銃口は楯無に向けられていた。

 

「し、死になさい、裏切り者!」

 

そう叫び銃を撃とうとした瞬間、アキトは楯無を押し退け、M9A1を取り出し銃口を女へ向けたと同時に両者は銃の引き金を引く。

女が放った弾丸はアキトの頬を掠めアリーナの壁に着弾し、アキトが放った弾丸は女の左目に命中し、そのまま後ろに倒れ込む。

アキトは銃口を倒れた女に向けながらゆっくりと近付き持っていた銃を遠くへ蹴り飛ばした後、足で女の腹を軽く蹴り、まだ動くかどうか確認する。動く気配がないと感じ取ったアキトは更にゆっくりと近付き女の首筋に指を添え脈を確認する。

 

「脈無し」

 

そう言って立ち上がる。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

マドカが心配そうに近付き、頬の傷を見る。

 

「大丈夫だ、ただのかすり傷だ」

 

そう言って押し退けた楯無に手を差し出す。

 

「すいません、楯無さん。あぁでもしなかったら貴女が撃たれていたかもしれなかったので」

 

差し出された手をしっかりと握り起き上がる楯無は首を横に振り笑顔を向けた。

 

「うんん。貴方が咄嗟にあぁしてくれたおかげで死ななかったから別にいいわよ」

 

そう言って笑顔を向けられアキトは安堵した表情を見せる。

 

「それは良かったです。それよりリーダー格の女を殺してしまってすいません」

 

アキトは申し訳なさそうな顔を楯無に向けた後、リーダー格の女の遺体の方に目線を向ける。

 

「仕方ないわ。他の昏睡しているテロリストたちから情報が入手できるか先生たちに頼んでみましょ」

 

そう言って楯無はピットへと戻ろとアキト達に言い、アキト達はアリーナから出て行く。ピットに行くと鈴と虚が4人の帰りを待っていた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「もぉ虚ちゃん、お嬢様はやめてっていつも言ってるでしょ」

 

楯無がそう抗議すると虚は笑顔で申し訳ありませんと言うと今度は真剣な表情に変わる。

 

「実は先ほど学園長から学園長室に来るようにと言伝を預かっていたので、皆さん付いて来てもらっても宜しいでしょうか」

 

虚からそう伝えられ全員首を縦に振り、虚は全員を連れ学園長室へと案内する為歩み出す。




次回予告
テロリストを掃討したアキト達は学園長室に呼ばれ今回の件を報告させられる。報告が終わりアキト達が出て行こうとすると、一夏がいきなりアキトに殴り掛かる。それにマドカがキレた。
次回軍人の仕事~俺たちは一般人の代わりに暴力を買って出ているんだ~

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