アリーナから戻ってきたアキトをマドカは笑顔で出迎えた。
「やったね、お兄ちゃん。まさかフレシキブルを習得したセシリアに勝っちゃうなんて」
「まぁギリギリだったけどな」
そう言いながらアキトはISを解除し、SEの回復と弾の補給を開始する。するとマドカが次の試合のことでアキトに質問を投げる。
「次の試合はどうするの?」
「うん? めんどくさいから棄権しようかなって思ってる」
アキトは心底めんどくさいと言った顔でそう告げるとマドカが、それならと言ってアキトの耳元で何かを呟く。
「…………。ニヤッ」
マドカが耳元で囁いた言葉にアキトは口元をニヤッと上げる。
「どうお兄ちゃん?」
「流石俺の妹だ。その案で行こう」
そう言ってマドカの頭を優しく撫でるアキト。マドカはアキトに褒められた事に喜び、もっと撫でてという感じで頭を差し出す。そして試合開始のアナウンスが入りアキトはアリーナへと再び出る。アキトがアリーナに出ると同時に一夏もアリーナへと出てきた。だがまともにISに乗る練習をしていない人がピットから飛び出してきた場合うまく着地など
「ぐへっ!?」
出来るはずもなくそのまま地面に転げ落ちた。アキトはその光景を見て必死に笑うのを我慢した。
「……大丈夫かよ。ププ」
こけた一夏はすぐに立ち上がりアリーナ中央へと向かう。一夏の機体は白を基本としたISで手にはブレードを一本持っていた。
『それではこれより2回戦目を行います。カウント3...』
カウントダウンが開始されアキトは黙って開始の合図を待っていようとしたら一夏がいきなり話しかけてきた。
「秋斗、この試合に勝って絶対にお前を正気に戻すからな!」
いきなりの宣言にアキトは、はぁ? と思わず声が出る。
「正気ってなんだよ? お前、遂に頭のネジが全部抜け落ちたのか?」
「抜けてねぇよ!」
『1...試合開始!』
「うぉぉーーーー!」
開始の合図と同時に一夏は一気に接近戦へと持ち込んでくるが、アキトはそれを難なく躱し、背中にグレネード弾を容赦なくぶち込む。背中からグレネード弾を喰らった一夏はそのまま前のめりに倒される。
「いっつぅ~。てめぇ、飛び道具なんて卑怯だろ!」
「はぁ? お前やっぱり頭のネジ抜けてるわ」
呆れ顔になりつつアキトは、グレネード弾を再度一夏に向け放つ。一夏は素早くその場から避けようとするが、思うようにISが動かずグレネード弾を顔面にもろに喰らう。
「うわぁ~、1週間程猶予があれば、まともな動きくらいはマスターしてると思ったが全然できてないじゃん。カッコワル」
その後もアキトは、一夏の神風特攻紛いの攻撃を難なく避けて攻撃を加えるを繰り返した。そして最後のグレネード弾を一夏に向け発射し様子を見始めた。立ち篭る煙を見ていると、ボロボロになった装甲になりつつも必死に立ち上がろうとしている一夏が見て取れた。
「ま、……まだだ。まだやれる」
「ふむ、そろそろいいかな。てか飽きたしもういいか」
アキトの発言に一夏は疑問に思い理由を尋ねようとしたがその前にアキトが動いた。
「俺、ここで棄権しま~す」
「「「…………」」」
アキトのいきなりの棄権発言にアリーナ内は一瞬で静寂となり、全員唖然となる。そして
「「「「えぇ~~~~!?」」」」
生徒達は大声で絶叫をあげた。
管制室ではアキトの突然の棄権に千冬は戸惑っていたが、真耶はアキトの意図を読み取りアナウンスをする。
『アキト・ファイルス君が棄権宣言した為、勝者、織斑一夏』
そうアナウンスされ、アキトは終わった終わったと呟くと
「ふざけるな!!」
アキトの背後でそう叫ぶ一夏。アキトはそのまま振り向きもせずに無視してピットへと戻ろうとすると、一夏はブレードの柄を力強く握りしめアキトに背後から襲い掛かる。
『織斑君、試合はもう終わってます!』
真耶がそう叫んで止めようとするが、一夏は止まることなくブレードが振り下ろされたがそこには誰もいなかった。
「!? どこに……ぐわっ!?」
一夏の背後を突然衝撃が走り、残りのSEをすべて削り取られ、ISを強制解除され一夏は体を地面へと叩きつけられた。
「もう試合は終わっているって言うのに何攻撃してるんだよ」
見下すようにそう呟いたのはアキトだった。アキトは背後から攻撃が来るのは見えていた為ブースターでその場から退避し、一夏の背後へと回り込んでいたのだ。
「あんな試合無効だ!」
一夏がそう叫ぶがアキトは呆れ顔でため息を吐く。
「お前が叫ぼうがもうアナウンスされたんだから無駄なんだよ。まぁ恨むんだったらまともにISの練習をしなかったお前自身を恨むんだな」
そう言ってアキトはピットへと戻ろうとするが言い忘れていた事を思い出し、体をもう一度一夏へと向ける。
「それと、金輪際俺に話しかけんなよ」
そう言ってアキトはピットへと戻っていった。残された一夏は悔しさで体中がいっぱいになり地面を力強く殴りつけた。
ピットへと戻るとマドカが笑顔で待っていた。
「上手くいったねお兄ちゃん」
「全くだ。マドカのアドバイス通りうまくいったぜ」
試合開始前にマドカがアキトの耳元で囁いた作戦がうまくいき、アキトはISを解除しマドカの頭を撫でた。マドカがアキトの耳元で囁いた作戦とは一夏にアキトとの力の差というものを味合わせ、二度と関わって来させないようにするという作戦なのだ。
アキトがマドカの頭を撫でているとピットに真耶が入ってきた。
「アキト君、お疲れ様です。怪我とかされていませんか?」
「えぇ、大丈夫です」
そうですか。と真耶は呟き先ほどの棄権について話し始めた。
「さっきの試合、あれは織斑君に自分との力の差を思い知らせてSEがいいくらいに減ったから棄権したんですか?」
「流石真耶先生、よく分かりましたね」
アキトがそう褒めると、真耶は頬を赤く染め、手を胸の辺りで握りしめる。
「そ、そりゃアキト君の事はナタルの次位に分かりますから」
「そ、そうですか」
アキトはそんな真耶の発言にちょっと照れ、明後日の方を向いているとピットの出入り口の扉が開いた。入ってきたのは千冬だった。
「……エネルギー等を補給してもう一度織斑と戦え」
千冬のいきなりの命令にアキト達はこいつ何言ってんだ。と言う表情になり訳を聞く。
「アイツとの試合ならさっき俺の棄権で片がついたじゃないですか」
「あんなインチキな試合は無効だ。だからもう一度戦え」
「はぁ? インチキ? オイオイこいつ何言ってんだ?」
アキトとマドカが呆れ顔でいると真耶が真剣な表所で反論する。
「織斑先生、あれのどこがインチキだと言うのですか?」
いつもの雰囲気とは違う事を千冬は感じ取るが、生意気な奴だと睨む。
「全部だ。そもそもなんだあれは、飛び道具ばかり使うとは。私の弟なら剣一本で行けるはずだろうが!」
千冬がアキトに自分の弟と言いアキトはため息を吐く。
「またか。お前の弟の織斑秋斗は6年前のドイツで死んだだろうが。何度も言わせんなよ」
そう言ってアキトはマドカを連れてピットを出て行こうとする。
「待て! どこに「待つのは貴女ですよ、織斑先生!」…………が、学園長」
アキトが出て行こうとピットの扉を開けてすぐにいたのは、IS学園理事長の轡木十蔵だった。轡木は目を細め、鋭い眼光を千冬へと向けていた。
「貴女がインチキがあったと仰るから行かせてみれば、ただ死んだ弟さんに似ているからという理由で剣一本で戦わせようとするとは、どういう事ですか!」
「で、ですがこいつは私の「貴女の弟さんはドイツで亡くなっているでしょうが! 一体いつまで引っ張るつもりですか! 亡くされた悲しみは分かります。ですがそれを無関係なファイルス君に向けるんじゃありません!」…………」
何かを言おうとすればすぐに学園長からの反撃に会い、千冬はついに黙り込んでしまう。
「兎に角織斑先生、即刻このピットから出て行きなさい。追って罰則を言い渡しますので覚悟するように」
そう言われ千冬は嫌々ながらピットから出て行った。
「まったく、彼女は一体何を考えているのやら分かったもんじゃありませんね」
そう呆れた表情を浮かべながら轡木は息を吐く。
「申し訳ありません、学園長。何もお手伝いできず」
真耶は申し訳なさそうに言うが轡木は朗らかな笑みを浮かべ手を横に振る。
「いえいえ、山田先生は一生懸命管制室で仕事して貰っているので大丈夫ですよ。それと、ファイルス君達はもう寮へと戻っていただいてもいいですよ。後は私たちが片付けておくだけですからね」
そう言われアキトとマドカはお言葉に甘え、寮へと戻っていった。
因みにその後行われるはずだった一夏対セシリア戦はセシリアが棄権した為、一夏の勝ちとなり、成績の結果一夏がクラス代表になる事が決まった。それと試合が終了したにも関わらずアキトに攻撃したということで一夏は1週間反省房へと放り込まれ、千冬には1ヵ月の減俸が言い渡された。
用語
グレネード弾
グレネードランチャー用の弾丸で十種類程ある。今回使用されたグレネード弾は
一夏の専用機
名前:白神
武装
ブレード1本
小太刀1本
千冬が倉持技研に依頼(脅迫)して作らせた機体。ほぼ近接しか対応できない。まさに欠陥機である。単一機能は原作とは違い、一時的にSEの消費なくブーストが持続出来る様になる。(ただし、攻撃を受けるとSEは消費する。)
次回予告
クラス代表が一夏に決まったと発表されるがクラスはあまり歓迎的な雰囲気ではなかった。そんなある日、2組に中国の代表候補生がやって来た。
次回戦友到来~あたしがあんたの幼馴染? ふざけんじゃないわよ!~