ぼっちと魔術師   作:SPZS

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投稿が遅くなって申し訳ありません。
受験期間に書くのは間違っているのだろうか


いやない!!!!


8話 バスターコール

暗い空を塗りつぶす黒い影達…それらは雲の様に里全体を覆っていく…

 

「ヤッベェ!!!!封印解けちゃったよ!」

 

「糞!なんでこんな早く解けるんだよ!ちくしょう!」

 

ガヤガヤと突然の事態に困惑し慌てふためく大人たち。

 

「おちつけぇ!とりあえずお前!今から警鐘鳴らして来い!……残りのみんなは作戦Bで行くぞ!」

 

族長さんが慌てるみんなを宥め、指示を出す。封印に失敗した時用の、作戦Bに移行するらしい。

あーあ。それじゃあまた卒倒してしまうなぁ…ま、(俺が)死なない様に手加減してやるか。

 

「それじゃあ各自里の周りから里の真ん中に追い込む様に包囲しろ!邪神の下僕が出現し終わったらどんどん包囲網を縮めて殲滅する!」

 

「…そうだな!慌ててる場合じゃねぇ!」

 

「クズ共がぁ…血祭りにあげてやる!」

 

「まだ慌てるような時間じゃないぜ」

 

「いいからハンティングだ!」

 

…ちょくちょくこの里で聞くどっかで聞いた事あるセリフはなんなんだ?ここはニコニコ動画なんですか?

と、この里の何かに呆れていると

 

「マホロア君!君は空が飛べるんだろう?じゃあ君は包囲網じゃなくてアレの迎撃、それか各部隊の援護に混ざってくれ!」

 

いつにも増して切羽詰まった顔をする族長さんにそう言われた。

 

「わかったヨォ!マァ、倒れナイように頑張るヨォ」

 

「あぁ、無理はするなよ?じゃあ私は里の入り口の部隊にいる。何か困った事が起こったら私の所に来てくれ!『テレポート』!」

 

そう言って族長さんはテレポートで消える。多分里の入り口にでもテレポート先を登録してたんだろう。…さて、俺も行きますか…そういえば、めぐみんやゆんゆんは無事だろうか。例の件

で外とかに出ていなければいいのだが…。まぁ、あいつら頭がいいし大丈夫だろう………たぶん。

 

不安を残しつつ俺は里全体を覆う黒い雲に突っ込む。

 

 

*****************

 

 

一方その頃 里の外れの家の前にて

 

「あわ、あわわわわわわわわ……こ、こめっこがっ!こめっこがぁ!」

 

「め、めぐみん!めぐみん!ちょっと!しっかりして!」

 

ボロボロに荒らされた家の扉を見て慌てふためくめぐみんをゆんゆんが揺さぶっていた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ゆんゆんゆんゆんゆゆゆ!こめっこが!ゆんゆん!こめっこが!」

 

「わかった!わかったから!落ち着いてめぐみん!……めぐみんって意外に逆境に弱いのね…」

 

普段の冷静さをかなぐり捨てトチ狂う友達兼ライバルに軽く引くゆんゆん

 

「と、とりあえず中に入ろう?もしかしたらこめっこちゃんが隠れてるかもしれないし。ね?」

 

「そそ、そうですね!わ、我が妹がそう簡単にやられてるはずがあ、ありません。……こめっこー!返事をしてく…………」

 

少し落ち着きを取り戻し、家の扉を開ける2人、すると

 

「?」

 

「「」」

 

黄色い目をした何時ぞやのモンスターが2人の目の前にいた。

 

「………ぁぁぁぁぁああああああ!!!!ゆんゆんゆんゆんゆん!」

 

「ちょ!ちょっと押さないでってば!」

 

「ゆ、ゆんゆんは短剣を持ってるでしょう!?ほら!友達を助ける為にサクッとやってください!さぁ!」

 

「シャアアアァァァァァァ!!!」

 

「わぁぁぁぁぁ!!」

 

短剣を構えて中腰の姿勢でモンスターに構えるゆんゆん。しかし、ビビりまくってるのか今にも泣き出しそうな顔で小さく震えていた。そして、モンスターは2人を容易い相手と見て取ったのか、腕を広げて捕まえようとにじり寄り…

 

「今です!」

 

ドンッとゆんゆんの背中を押すめぐみん。すると…

 

「ヒギャアアアアア!」

 

「きゃあああああ!」

 

お腹を刺されたモンスターと刺したゆんゆんが何故か悲鳴をあげる。

そして、腹を刺されて玄関を転がり回るモンスターにめぐみんはゆんゆんから短剣をひったくり、相手の喉元に突き立てトドメを刺した。

 

「わ、わぁぁぁぁぁ!!!めぐみんが!め、めぐみんがあああ!」

 

「う、うるさいですよゆんゆん!魔王も怯む紅魔族とあろうものが、こんな事でいちいち騒いで……いて……は?」

 

めぐみんに刺されたモンスターがしばらく苦しそうにもがいた後に黒い煙となって消えた。

 

「き、消えた?」

 

「ど、どうして?」

 

「ま、まぁいいです!ともかくこめっこです!様子からして家に入っていたのはこの1体だけのようですしこめっこを探しますよ!」

 

「そ、そうね!こめっこちゃん?こめっこちゃーん!」

 

二人が呼びかけるが家の中は静かなまま…まさかと思い探索したが血痕らしきものも見つからず、最悪の結果は避けられた事に二人はひとまず安堵する。

 

「……外です!家の中にいた痕跡がないという事は外にいるのでしょう!きっと逃げたに違いありません……」

 

攫われたという可能性がちらついて言葉が窄むめぐみん。

 

「そ、そうね!きっとそうよ!一緒に外を探しに行こう?」

 

励ますように呼びかけ、外に出るように促すゆんゆん。

 

「……そうですね!とりあえずあの子が逃げそうな……….場所……に…」

 

外に出ると先程慌ててためぐみんがほっぽり投げたかばんをモンスターが引き裂いていた…

 

「クロちゃんがっ!あのカバンの中には、確かクロちゃんを入れてたでしょ!?」

 

ゆんゆんの悲鳴にモンスターが二人に気づいた。

 

「も、もうあの子はダメです、諦めましょう!私達の尊い犠牲になったということで、ちゃんとお墓も作ってあげますから!大丈夫、あの子はこれからも私達の中で永遠に生き続けるのです!」

 

「死んでないよ!まだ生きてるよ!だから見捨てようとしないでぇ!」

 

ドライなことを言い出し、逃げ出そうとするめぐみんの首の後ろをガッと摑み、鞄を指差すゆんゆん。そこには鞄から這い出そうとする黒猫とそれを何をするでもなくモンスターは見守っていた。

 

「なんだかわかりませんがチャンスです!あの毛玉に母性本能でも刺激されているのかもしれません、今の内にここを離脱して妹を……!」

 

「待って!お願いだからクロちゃんも助けてあげて!こめっこちゃんが気になるのはわかるけども!」

 

「何言ってるんですか、あれだけ執着しているクロをあいつから奪えば、きっと私達を追いかけてきますよ!なんだかそんな気がします!」

 

めぐみんの言葉にゆんゆんが捨てられた子犬を拾って来た子供のような目でめぐみんを見る。

 

「逃げる用意をしといてください!妹が大事に育てているあの毛玉を取り返してきますから!」

 

折れためぐみんにゆんゆんがパァと顔を輝かせた。すると不意にめぐみんはゆんゆんから短剣をひったくり

 

「その子を持って行かれると、成長を心待ちにしている我が妹に恨ませそうなのです!我が投擲術を見るがいい!」

 

「ああーっ!」

 

めぐみんが投げた短剣がモンスターに直撃………するわけなく、明後日の方向に飛んでいった。

 

「まさか風邪の結界を身に纏ってるなんて………!」

 

「纏ってないよ!どう見てもノーコンのあんたが変な所に投げただけよ!」

 

「そんな小さな事で言い争ってる場合ではありませんよ!クロが……!」

 

「そうなんだけど!めぐみんの言ってる事は正しいんだけど、私さっきから、すごく釈然としないんだけど!」

 

そう言い争ってるうちにクロを抱き抱えたモンスターは空高く舞い上がっていく。

 

攫われたクロを二人が見送ってめぐみんが妙に落ち着き払った声で言った。

 

「きっとあの子は、天の御使だったのですよ。帰るべき所に帰っていっただけです。なので泣いてはいけません、温かく見守ってあげましょう……」

 

「バカなこと言わないで!クロちゃんをあきらめないでよ!どうしよう、攫われちゃった!きっと巣に持ち帰って食べる気なんだわ!どうしようどうしよう!」

 

投げられた短剣を回収して、半泣きで言ってくるゆんゆん。

 

「まあ落ち着いてください。抱き抱えられたクロが暴れなかったところを見るに、あまり危険はないものと思われます。あの毛玉は我が家での教育の結界、身の危険を敏感に察知する様になったのです」

 

「ねえ!家でどんな飼い方をしてるの!?虐待とかしてないでしょうね!?」

 

「ペットを飼うとわかりますよ。甘やかし過ぎるとニートの様にダメになるかもしれませんしね。…あの卵が孵っても可愛いからと言ってなんでも与えてばかりではいけませんよ」

 

めぐみんの肩を揺さぶるゆんゆんにめぐみんが言った。

 

「そんな事よりこめっこです!うちの妹もアレでなかなか根性が据わり、世渡り上手なところがあります。訳も分からず泣き喚いて、無残に殺される様な甘っちょろい子には育てていません。きっとどこかにいるはず……」

 

「そ、そうだった!ねえめぐみん、こめっこちゃんが行きそうな所に心当たりはない!?」

 

そう言われめぐみんは考え込む

 

「心当たりはありませんが、どうにも引っ掛かるのです。私も幼い頃、こめっこと同じ様に………………あっ」

 

「……?どうしたのめぐみん?」

 

突如何かに気づいたのか素っ頓狂な声をあげてソワソワしだすめぐみん。

 

「あぁ……、ああああああ……!ももも、もしかして………!」

 

「何!?な、何なのめぐみん、急にソワソワしだして…………って待って!ちょっと!どこ行くの!?」

 

冷や汗を流しながらめぐみんはどこかに駆けて行き、その後をゆんゆんが追っていった。

 

 

*****************

 

 

里 上空

 

「エェイ!多い多い!一体ドンダケ墓の中に入ってたんだヨォ!」

 

≪拡散魔力球≫

 

「「「「ギィアァアアア!!」」」」

 

わんさかわんさか湧いてくるモンスター共に魔力消費が少なくした小さめの魔力球を投げまくっていた。しかしどれだけ撃ち落としていっても全く数が減ってない様に見えるモンスター共にだんだん腹が立ってきていた。

もういい!少しくらいぶっ倒れても死ななければ問題ない!一掃する!

魔方陣を自分の前に展開し、魔力を込める

 

「キエロォ!!」

 

≪マホロア砲≫

 

白い光線がモンスターの群れの真ん中に綺麗な穴を開ける。

 

「マダマダァ!」

 

しかしそれだけでは終わらず、そのまま光線を横に薙ぎ払う。

 

「ウォォォォォォォアァァァァァァ!」

 

60°ほど薙ぎはらった所でマホロア砲を消す。これ以上この技を出すと今後の戦闘が出来なくなると思うからだ。まだ限界点がわからないが以前の様に7、8発も調子に乗ってマホロア砲をぶっ放すと倒れる。つまり、5、6発ならギリ大丈夫なのではないかと思うのだ。……疲れを感じない分自分の中での調節がとても難しくなるなぁ…もっとこいつの事を研究しなければ…

 

戦意がなくなり、逃げていくモンスタの群れを見ながら、今後の課題を見つけたりしていると、ふと魔物たちの動きが止まった。そして、ある一点を見てみんな固まっている。

 

「?」

 

視線の先に目を向けると……

めぐみんの使い魔兼半身を抱き抱えたモンスターがお墓の方向へ向かっていくのが見えた。

もしかしてあいつら襲われたのか?

そしてめぐみんがあの黒猫を囮に逃げ出した…といったところかな?

全くひどい事をするものだ。あの黒猫には一応魔力?というかネコスタンプを押してくれた恩もあるし……しょうがねぇなぁ!

 

「それを返して貰おうカナァ!」

 

ワープを繰り返して敵陣を突っ切り、そのモンスターに向かう。

 

 

「!?ウォ!コイツら!どけヨォ!」

 

それまでただバラバラに攻撃してくるモンスター達がいきなり妙な統率力を発揮し、俺に襲いかかってきた。

 

「グウッ!?」

 

そして、周囲を囲まれた俺は背中から1発もらってしまう。初めての痛みに軽く怯んでしまった。そして、その隙を逃すまいとモンスター達が掴みかかってくる。

 

「…………調子にのるなヨォ!!」

 

紅魔族の様に眼を赤くさせた俺は魔力消費やクロなど知った事かとばかりに掴みかかられながら強引に魔力を練り上げ…

 

「消しとびナァ!!」

 

≪マホロア砲≫

 

再度マホロア砲をぶっ放す。そして今度は60°では終わらず

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

360°グルッと回転してやった。

すると、自分の上や下を旋回している連中以外は跡形もなく消し飛んだ。

相変わらず疲れは微塵も感じないが、おそらく今クラウンを外すと意識が飛ぶだろう。もうこれ以上は魔法はあまり使えないな。それにクロを抱き抱えたモンスターも見失ったし……消し飛ばしてないよね?大丈夫だよね?怒りに任せてやっちゃったけど大丈夫だよね………ともかく他の人一旦合流しよう…

 

軽く冷や汗を流しながら前線から外れて里の外側に向かう。

 

 

しばらく飛んでいると

 

 

「きゃあああああああ!!!」

 

目の前に巨大な竜巻が現れたと思ったら、何時ぞやの占い師…そけっと?が空に舞い上がっていくのが見えた。

ほうほう…黒か……

 

「オオオ!?」

 

とりあえず空中でキャッチする。

 

「わぷっ!……あ、ありがとうマホロア君。助かったわ…」

 

「ウン。無事ならイイんだケド…ドウしたノ?」

 

「……それはあの駄目に「おーい!そけっとー!無事かー!?」……あいつに吹き飛ばされたのよ…」

 

「……ソレは気の毒に……」

 

とりあえずそけっとを抱えて地上に降りる。すると前に魔力を絞ったニート…ぶっころりーだっけ?が心配そうに駆け寄ってきた。

 

「よかった!無事だったみたいだね!マホロア君ありがとう!」

 

「あ、アァ……ウン。ソウダネ」

 

「……ねぇあなた…。やっぱり本当は私の事が嫌いなのね?また前みたいにトルネードで吹き飛ばしてくれて…今ここで決着をつけましょうか!」

 

眼を紅く光らせて木刀を構え、ぶっころりーににじり寄るそけっと。

 

「ち、違っ!誤解なんだそけっと!聞いてくれ!ただちょっとかっこつけたかっただけなんだ!……だからその木刀を下ろしてくれ!頼むって!」

 

「…………やましい気持ちがあったわけじゃないのね?」

 

「……………」

 

おし黙るぶっころりーにそけっとが襲いかかっていった。

すげえな紅魔族って、女子のスカート捲るために上級魔法で女の子ごと吹っ飛ばすのか……エロい悪戯に全力で挑む俺でもそこまではしなかったぞ……

 

しばらくたち、変態ニートをしばき終えたそけっとがこちらに向かってきた。

 

「そういえばあなたはどうしたの?空でかっこいいレーザーをぶっ放していたのはあなたでしょう?もっと続けないの?」

 

「あ、アァ…….魔力が尽きたトイウカ、コレ以上やると死んじゃうトイウカ…ホントはモット戦いたいんだけどネェ…」

 

背に腹は代えられんしな。

 

「そう……じゃあこれをあげるわ」

 

そう言ってそけっとは懐から球状の何かを取り出す。

 

「コレは………マナタイトじゃなイカ!しかもナカナカ高品質なモノを…コンナもの貰っていいのカイ?」

 

「えぇ、以前あなたを占えなかったお詫びとして受け取って。……それにしてもなんで見えなかったのかしら…しかも映らないのならまだわかるのだけれど、あなたのは強い光で眩しくて見えなかったのよ。あんなの初めてだったわ…」

 

あの時のお詫びは卵に魔力を注いでもらう事で完結したと思ったんだが…何かと義理堅い人だなぁ…

 

「アリガトウ!コレは有難く受け取っておくヨォ!」

 

そう言って俺はマナタイトを受け取り、また前線に戻ろうとした時…

 

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォン!

 

 

 

凄まじい爆発音と閃光が紅魔の里に轟いた。

 

 

*****************

 

 

私は、所々に点在する灯りを頼りに、こめっこの手を引きながら走っていた。

 

「姉ちゃん、ゆんゆん凄かったね!雷が、ドーンって!」

 

「そうですね、凄かったですね。というか、この私がゆんゆんに先を越されてしまいました!いつもおどおどしているだけの子かと思っていたのに!」

 

こめっこへ悔しげに返事をしながら里の大人を探して駆ける。

 

ーー今から数十分前

 

こめっこの居場所に確信を持った私は邪神の墓に向かった。するとそこには予想どうりこめっこがいた。クロを抱えたモンスターと対峙しているこめっこが。こめっこはモンスターに威嚇して押してはいたが、いざ襲われるとたまったものではないだろう。

……私はそこで上級魔法を覚えて、こめっこを助けようとした。爆裂魔法よりもこめっこのほうが大事に決まっている。しかし、中々踏ん張りがつかなかった。上級魔法を覚えてしまえば、爆裂魔法を覚えるのは数十年後になる。子供の頃からの夢が目前まで迫ったのにそれを捨てなければいけない。そう簡単に割り切れるようなものではないのだ。でも他に妹を助ける方法などない……こんな時にマホロアがいれば……この間のように助けてはくれないだろうか……と、無意識にヤツに助けを求めるとは私も甘っちょろくなったものだ…以前の私なら一人でなんとかしようと思っていただろう…しかし、ないものをねだっても仕方がない。覚悟を決めて冒険者カードを操作しようとしたところで

 

 

「声も体も震えてるわよ。踏ん張りがつかないんでしょ?」

 

ゆんゆんが、冒険者カードを握り言ってきた。

 

「一体何を」

 

するつもりなのかーー

そう尋ねようとした私の言葉は……、

 

「≪ライトニング≫ーーーッ!!」

 

ゆんゆんの唱えた魔法の声に遮られた。

 

ーーーゆんゆんが中級魔法を覚えた。

魔法を覚えてしまった以上卒業する事になる。そうなればスキルアップポーションは貰えない……しかもアークウィザードなので、レベルも上がりにくい。ゆんゆんが上級魔法を覚えるのは1年くらいかかるだろう。そして同時に未熟者扱いされる……しかもマホロアと旅に出る為に、最近はより一層頑張ってきたのにそれが水の泡となってしまったのだ。私達を守る為に…

 

「姉ちゃん、泣いてる?」

 

「泣いてませんよ!悔しさの余り、目から魔力が漏れ出しているだけです!」

 

ゆんゆんはクロを抱えたモンスターの頭を電撃魔法で消しとばしながら、ゆんゆんは言った。

 

ーークロは私が回収するから、めぐみんは里の大人のところに行けーーと。

私が魔法を覚えるのに躊躇ったために、ゆんゆんは魔法使い見習いではなくなってしまった。

そして、生き物を殺す事にあれだけ抵抗があったあの子は、あっさり魔法を撃った。

普段はヘタレていたクセに、誰かを守る場面では腹をくくれるゆんゆん、マホロアのように最初から力があるわけでもないのに、その力を惜しむことなく他人に使うことができるゆんゆん。

 

そんな、ライバルの姿が眩しくてーー

 

「……?姉ちゃん、どうした?走るのつかれた?」

 

足を止めた私を、こめっこが不思議そうに見上げてきた。

今頃は、一人でモンスターを相手取って戦っているだろう自称ライバル。

私にまともに勝ったこともなかった自称ライバル。

変わり者で常に私に絡んできた、マホロアが現れるまで友達もできなかったろう自称ライバル。

ーーここで自分の夢のために逃げたなら。今後、私のライバルを自称してきたあの子と、堂々と競い合う資格はなくなる。

 

そう覚悟して、自分の冒険者カードを取り出し、固まり思わず笑いだしてしまった。

 

「姉ちゃんがこわれた!」

 

「ふふふ!ははははは!違いますよこめっこ!嬉しさを抑え切らないだけです!」

 

そういいながら私はカードの項目にあるソレをーーーー

 

森の中。少女は一人、黒猫を傍にどんどん湧き続けるモンスターと戦っていた。

 

「≪ブレード・オブ・ウィンド≫!」

 

ゆんゆんが叫ぶと同時、シュッと振った手刀が鎌鼬となり、空中にいたモンスターを切り裂いた。

普通はこの程度の魔法ではここまで致命的な威力が出ないのだが、流石は族長の娘、学校で成績2番を収めていたからこそできる芸当だ。

そんな事も束の間、モンスターの数が減ると同時に空から援軍のようにモンスターが舞い降りてくる。

いくら魔力が高く、モンスターを倒せる実力があれど魔法を使うのが初めて、しかも初めての戦闘だ。いくら秀才でも限度がある。その証拠に、ゆんゆんの魔力はもう尽きかけていた。

自らの夢を捨て、自分達を助ける為に魔法を覚えようとしたライバル。

自分とは違い、自ら夢を持ちその為にひたむきに走るライバルが自分の為にその夢を捨て去るのは我慢ができなかった。族長の娘として、成績で1番を収めることしか眼中になかった自分と比べ、急にライバルが遠く見えたゆんゆんは恩人に「未熟者」と見捨てられてもいいという覚悟も決め、ライバルの夢を捨てるのをやめさせた。

 

「≪ファイアーボール≫!!」

ーーー残りの魔力を振り絞り全力で放った火球魔法は、降りてきたモンスターの群れを一掃した。しかし、同時に魔力が尽きたゆんゆんはくたっと地面に足をつく。

 

しかし、まだ空を埋め尽くさんとモンスターが集まってくる。

もうダメかと観念し、クロを抱き抱えるーー

 

「我が名は「我が名はこめっこ!家の留守を預かるものにして紅魔族随一の魔性の妹!」…こめっこ!あな……、あなたという子は、姉の最大の見せ場をかっさらってどうするのですか!」

 

「あやまらない!」

 

「こ、こめっこ!」

 

突然出現したライバルとその妹に目を白黒させるゆんゆん。

 

「ちょっと!二人共、なんでこんな所にいるのよ!?逃げたんじゃなかったの!?」

 

「この私がライバルに借りを作ったままで逃げられる訳がないじゃないですか………それにもう魔力が残ってないのでしょう?後は私に任せてください」

 

そういいめぐみんは空で滑空し続け、たった一つのキッカケがあれば襲ってきそうな気配を放つモンスターの群れを睨む。そして魔法の詠唱をーー

 

「!?めぐみん!?……あんた魔法を覚えたの!?これじゃあ私が中級魔法を覚えた意味がないじゃない!!バカ!」

 

涙目になりながら、ライバルに文句を言うゆんゆん。

 

しかし

 

「姉ちゃんが、ピリピリしてる!パリパリいってる!」

 

「めめめ、めぐみん!?何これ、何なの!?一体どんな上級魔法を使うつもり!?ていうか、里の人達やマホロアが使う時でも、こんな事にはならなかったんだけど!ねえ、これ何の魔法なの!?」

 

今からめぐみんが使うのは最上級にして最高難易度の魔法、しかも魔法を使うのも初めてなので、うまく魔力を制御できず、パチパチと魔力が漏れ出しているのだ。

その異様な雰囲気にモンスター達がギャーギャー騒ぎ出す。

 

……そして詠唱も終わり、めぐみんの手には小さな光が輝いていた。

 

「ゆんゆん。こめっこ、頭を低くして伏せていなさい」

 

興奮で目を輝かせながらゆんゆんとこめっこを制す。

ゆんゆんはめぐみんの意図を察して、力の入らない体を引きずりながらもこめっこのそばに近づくと、抱きしめ、地面に伏せる。そして

 

「我が名はめぐみん!紅魔族一の天才にして、爆裂魔法を操りし者!ひたすらに!ただひたすらに追い求め続け、やっと手にしたこのまほう!私は、今日という日を忘れません!………食らうがいいっ!!」

 

カッと目を見開き、手の中の光をモンスター共に突き出し唱えた。

 

「≪エクスプロージョン≫ーーーー!!!!!!」

 

てから放たれた閃光が、モンスターの群れの真ん中に突き刺さる。そして、

輝ける光と共に、夜空に大輪の華を咲かせたーー!

 

 

*****************

 

 

「ああああああああ!きゃあああああああーっ!!」

 

「ーーッッ!!」

 

「わははははは!これです、これが見たかったのです!何という爆裂!何という破壊力!何と心地よい爽快感!」

 

ゆんゆんが悲鳴を上げながらこめっこを抱きしめる中、吹き荒れる爆風と轟音も気にせずに、私は最高の気分で笑い声をあげていた。

それも束の間、爆裂魔法の衝撃で私も吹き飛ばされ地面を転がされる。

ーーそのまま仰向けになり、あれだけいたモンスター達が跡形もなく消え失せた空を見上げた。

 

「………ななな、何これ……これが爆裂魔法……?凄いとか、強いとか、そんな言葉は全て通り越しちゃってるわね……魔力を制御し、威力を増幅させる杖もなしでこの威力だとか。最強魔法って呼ばれるわけね。……ちょっとだけ。ちょっとだけ、めぐみんが爆裂魔法に取り憑かれた気持ちがわかったかも」

 

ゆんゆんが、爆裂魔法のあまりの破壊力に、呆れた様な声を上げる中。

私は返事をする気にもなれず、寝転がっていた。

たった1発の魔法なのに私の全魔力では足りなかったらしく、体力もとい生命力までごっそり持ってかれもう動けない。

 

この魔法を、使った後は無防備になる。

それはつまり、今後冒険者としてやっていくつもりなら、魔力と体力を使い果たした自分を守ってくれる仲間が必要だという事。

天才と持て囃された私は、ずっと一人でやっていけると思っていたが、ゆんゆんに助けられた事といい、マホロアにも指摘された事といい、私にはどうも仲間が必要らしい。

ずっと一人でも大丈夫だと思っていた。

でも、一人では出来ないこともあるとマホロアに言われ、その時は大して受け止めなかったが、今はそれが大事だと痛感した。

今日あったことを忘れずに。私は、絶対に仲間を大事にしよう。

そう思い目を閉じようとした時に

 

「あ!姉ちゃんがとりにく全部消しとばしたと思ったら、まだ残ってた!わーい!」

 

………え?

 

急いで目を開け、顔を横に倒すと。

 

「……シャアァァァァァァ……」

 

モンスター達が私達を囲っていた。

恐らく、空ではなく地上で隠れていたのだろう……て!呑気に考察している場合ではない!

 

「ゆんゆん!大変です!このままじゃ殺されてしまいま……す……」

 

顔だけゆんゆんに向けると、ゆんゆんは眠っていた…

 

「こんな時に!何眠ってるんですか!ゆんゆん!……あぁ、こめっこ!早くゆんゆんを起こしてください!」

 

「わかったー!」

 

こめっこがゆんゆんを揺さぶりに行ったが、その間にもモンスター達はじりじりと近づいてくる。

 

「あ、ああぁ……嫌です!こんな所で死にたくありません!お願いです!誰か助けてくださいっ!」

 

仲間を大事にするって決心したばかりなのに、この仕打ちはあんまりだ。過酷な現実に目を閉じる。すると

 

「ギィヤァァァァァァァァ!!!!」

 

モンスター達の断末魔が鳴り響く。何事かと目を開けると、見た事ある針がモンスターたちを串刺しにしていた。

そして、

 

「ブラボー、ブラボー。さすがは紅魔族一の天才。よくあの数のモンスターを消しとばしたネェ」

 

拍手をしながら降りてくる第2形態マホロア。

 

「オヤオヤ、なぁ〜んてカオしてるんダイ?ソレにさっきの爆発…….アレが爆裂魔法カ……大した威力ジャナイカ」

 

手を動かす事も出来ないので私は今涙顔のままだ。そんな顔を見られて恥ずかしみを覚える。

 

「えぇ、そうですよ…あれが人類最大の攻撃魔法!究極の暴力!全てを蹂躙する魔法!爆裂魔法です!」

 

「フム……確かに今のボクじゃあアンナ威力の魔法は撃てないネェ」

 

「そうでしょう、そうでしょう!しかし、後はこの通り指一本動かせないので後は頼みます」

 

そう言い残し、意識が闇に沈んでく。

 

「ン、了解。後は任せてネ!」

 

「あぁぁぁぁぁ!せっかくのとりにくがさんかくに消し飛ばされた!!こうなったらおまえを食ってやる!」

 

「ちょっ!?やめっ……」

 

 

*****************

 

 

あれから俺は3人と一匹をそれぞれ家に帰し(帰る時にこめっこにかじられながら説得した)俺は家に帰るとクラウンを外し、予想通りぶっ倒れた。

俺がぶっ倒れてる間に、ゆんゆん達は事情聴取などを受けて、担任にこってりしぼられたらしい。そして、魔法を習得した彼女らは卒業するのだが、

 

現在俺の部屋 夜

 

ーー俺はベッドに横たわりながら隣で正座しているゆんゆんに顔を向ける。

 

「ごめんなさい!」

 

突然の謝罪に困惑し、どう返答しようか迷っていると

 

「私!マホロアと旅に出るって約束してたのに、中級魔法を覚えたの……」

 

あぁ…その事ね。俺は俯いて震えるゆんゆんに優しく、

 

「だからドウしたノ?」

 

「え?」

 

予想外の答えが返ってきたのか顔を上げ、赤く潤んだ目をこちらに向けるゆんゆん。

 

「え、えっと…だから……その、み、未熟者になってしまった私をお、置いていっても………」

 

そこまで言って黙りこくるゆんゆん。

しかしそんなこと関係ない

 

「……アノネ……ゆんゆん。ボクはキミと旅に出たいンダ」

 

「……え?」

 

「上級魔法とか中級魔法とかじゃナクテ、キミと旅がしタイ。ココ最近キミと一緒に居て、トテモ楽しかッタ。友達を作る為に躍起になるキミのサポートもしタイ。ダカラ、ゆんゆんが何を覚えてようとボクには関係ないんダヨォ」

 

どうやら俺は、知らぬ間にゆんゆんの事が好きになってしまったようだ。

……つーかこれ告白じゃね?自分で言っといて小っ恥ずかしいことこの上ないんだが!

 

「え…あ……うぇっ……グスッ…」

 

泣き始めるゆんゆん。

オイオイオイちょっと待てぇ!

 

「ナ、なぜ泣くノ!?ボク酷いこと言っテタ!?モシそう言ったナラ謝ま「ううん」……エ?」

 

俺の言葉を遮り、

 

「ううん…違うの。こんなに嬉しいこと言われたのが…初めてで…」

 

そういい涙を拭くゆんゆん。

 

「ナ、ナラよかった………。

ソウダ!コレからの旅の目的に、魔王を倒すトイウ目的とゆんゆんの友達作り、ソレにプラスして、上級魔法の習得も目的に加えヨウ!ネ?」

 

「うん!うん!ありがとう!マホロア!」

 

そう言って抱きついてくるゆんゆん。あぁ…女の子って何時でもいい香りがする……。

 

ゆんゆんが離れて、落ち着くのをしばらく待った。

 

「……ありがとうマホロア。不束者ものですが、よろしくお願いします」

 

言葉の使い道が違うという事は伏せておこう。

 

…さて、本題だ

 

部屋を出て行こうとするに

 

「オットォ、マダ話は終わってないヨォ。チョットおいで?」

 

「?なぁに?」

 

疑問符を浮かべた顔で、またさっきの位置で正座するゆんゆん。

 

「サテ、さっそく本題に入るネ。

ーーゆんゆん、キミがふにふらとどどんことの間であったコトを話して貰おうカナァ?」

 

ギクッと固まるゆんゆん。

 

「ちなみに、めぐみんカラある程度の話は聞いてるカラ、惚けても無駄ダヨォ」

 

「!………わかりました…話します」

 

観念して吐くゆんゆん。

 

ふにふらの弟が病弱なので、薬を買うお金をカンパした事。

「友達だよね」というフレーズに惑わされ、ついついなんでも言うことを聞いてしまったとのことだった。

 

「………ハァ……ゆんゆん」

 

「………ハイ…」

 

「『友達だから』っていうフレーズで騙そうとスルのは、ボクは友達じゃないと思うナァ…」

 

「……はい……」

 

「ボクはネ?友達っていうノハ、平等なモノだと思うンダ。一方的なモノじゃなクテサ。……ゆんゆん、キミも疑わなかったワケじゃないんダロォ?ナンデ断らなかったのカナァ?」

 

「うっ……えっと…断ったら友達をやめさせられるような気がして……せっかくマホロアが作ってくれたから、失いたくなくて……つい……」

 

やっぱりぼっち気質の子は軽く依存癖があるなぁ…これは治せるなら治しておきたいなぁ…

 

「……友達ならソノ程度断っても友達解消とかにはならないヨォ…ともかく、今後はこんな騙される事がないヨウに!外に出たらこの里のヒト達とは違って、ゆんゆんを騙そうとするヤカラが沢山いるカモしれないからネ」

 

「はい……以後反省します」

 

「ウム!なら行ってヨシ!」

 

そう言ってしょんぼりと出て行くゆんゆん。

好きだからこそ厳しくする……あれ?これって恋心じゃなくて、親心……いや、考えるのは止そう。これはこの恋だ!そうに違いない!

そう言い聞かせ俺は睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで爆㷔1巻の内容が終わりました。
まだまだ続きます。打ち切りません。

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