ぼっちと魔術師   作:SPZS

10 / 11
これは2巻入るの少し前の話かな〜

12話から2巻の内容に入っていきますのであしからず。


10話 らいふわーく

添い寝事件から1ヶ月の時が過ぎた。

一体あれはなんだったのだろう?1日であのおかしな症状はすべて消え失せた。ちなみにゆんゆんは、次の日の朝ようやく冷静になり、1週間おれと目を合わせられなくなった。ていうか目を合わせてくれなかった。とっても寂しかったです。

そして、現在俺の家の庭には戦国武将顔負けレベルの立派なお墓が鎮座してる。どうやら俺が寝てる間に、あの岩を≪ライト・オブ・セイバー≫で削り、≪ブレード・オブ・ウィンド≫でヤスリがけのような事をし、≪クリエイト・ウォーター≫と、≪ブレード・オブ・ウィンド≫の合わせ技でウォーターカッターのようなものを作り出し中央に『サボ』と彫った、立派な墓を作ったらしい。この魔法の無駄遣い所が実に紅魔族らしいね。ちなみにこのお墓、他所で作ろうと思うと数千万エリス相当の値がつくらしい。紅魔族って凄いね。

 

ところで今日はゆんゆんは森へ討伐に、俺は川へバナナ釣りに行く予定だ。

 

…そう。バナナである。

この世界のバナナ…だけではないのだが、野菜や魚のあるべき場所が逆転しているのだ。例えば、バナナは川で泳ぎ、サンマは畑に生えていたりする。最初は驚いて軽く引いたりもしたが、1週間も見続ければ流石になれた。

 

「行ってくるヨォ!」

 

そんなこんなで俺は渓流に出発する。

 

 

*****************

 

 

渓流に着くと、俺は釣竿(自作)を用意し構え、先っぽの針の部分に『ジャイアントミジンコ』という手で掴めるくらい肥大化したミジンコの餌をつけ、川に垂らす。後は生きのいいバナナが食いつくのを待つだけなのだが……

 

〜30分後

 

「釣れないナァ…」

 

ピクリとも動かない釣竿を前に、軽く諦めかけてきた。

おかしいな?確か本にはバナナ釣りには『ジャイアントミジンコ』を使うとよく釣れると書いてあったのだが……

まぁ釣りは待つものだというし、気長に待ってみようか…………

暇だし今後の方針でも考えて待つとしよう。

 

まず、いつ出発するかなのだが……ゆんゆんが上級魔法を覚えたら出ると言っていたが、旅にはもちろん金がいる。今ちょうどめぐみんが旅費を稼ぐために四苦八苦していると聞いて、いくらかかるか聞いてみると、テレポート代だけでもなんと30万もかかるそうだ。タクシーもびっくりの衝撃価格である。流石に賞金を稼ぎ続けると言っても、これはないだろう。おそらく馬車代もこれよりかはマシだろうが、きっととんでも価格に違いない。

…だから俺はあるスキルを覚える事にした。

 

≪ローア召喚≫である。

 

そう。ローア。みんなおなじみ空飛ぶ船ローア。

アレが欲しい。習得ポイントが40と凶悪だが、なんと俺の職業『魔術師』は最弱職と呼ばれる冒険者に負けず劣らずくらいの勢いでレベルが上がる。つまり、スキルポイントが貯まりやすいのだ。ちなみにスキルアップポーションの効果もでかい。1本で2〜3くらい増える。俺が早く卒業できたのもこの特性のおかげだ。バグってもチートという事だろう。だから、ゆんゆんと同時に俺も暫くしたら修行しようと思う。

ちなみに旅の目的は

俺からは

・元の姿(人間)に戻るため

・ゆんゆんに友達の作り方を伝授する事

 

ゆんゆんからは

・俺への恩返し?

 

の筈だ。ま、長い旅になりそうだし気長に旅しよう。

 

それともう一つ、これは俺の内面事情なのだが……これは、……ほら…アレだ。ゆんゆんの事だ。

この俺の内面は絶対にゆんゆんには知られないようにする事にした。

ヘタレと思う人がいるかもしれない。けどお前ちょっと想像してみろよ…

ドラ○エのスライムがいきなり、

「ぷるぷる。ぼくわるいスライムじゃないよ。ずっと君が好きだったんだ。つきあって」

て言ってきてお前了承するか?

…しねぇだろ?例えがアレだが恐らくゆんゆんから見たらこのまんまじゃないかと思うんだよね。だから、人間に戻ってから言おうと思う。

それまでは嫌われないように今のこの友達という関係を保ち続けようと思う。これはこれで心地いいしな…

 

そんな感じで外面的にも内面的にも予定を立てていると…

 

「オ?」

 

ついに竿に感触があった。

コツン…コツン…と探るように餌を突くバナナ。そして暫く様子をみると…

 

クンッ

 

「!」

 

ようやく食いつき、暴れるバナナ。

中々の引きである。前世の岩魚の3倍くらいの力で竿を引いてくるバナナ。

この世界のフルーツといい野菜といい生きが良すぎて怖いね!噂ではキャベツは空を飛び、鉄球のごとく突撃してくるのだとか…季節によっては野菜による死亡案件が何件か起こってるらしい。

 

俺は竿を強く握りしめ、バナナが疲れるのを待った。

そして一瞬動かなくなったところを狙い、

 

「ソォイ!!」

 

掛け声とともに思いっきり竿を上げると、

 

ビチビチビチビチ!!!

 

長さ18cm、太さ7cmくらいの超大物が釣れた。そいつは空中に弧を描くと小石の上を激しく跳ねる。

 

「エェイ!動かないでクレヨォ!」

 

俺はバナナを押さえつけながら、ヘタに刺さった針を外す。

…こいつどうやって食ったんだ?そして餌のミジンコはどこへ消えたし…

 

ともかく俺は刺さった針を外すと、バナナを左手で固定し、

 

「フン!」

 

右手でヘタのちょい下部分をぶん殴った。

するとバナナは殴った部分が黒くなり、おとなしくなった。

 

これが一通りのバナナの締め方である。前世視点でみると、川で冷やしたバナナを釣竿で釣り上げ、地面に押さえつけ、思いっきりぶん殴っているというとても正気とは思えない行動に見えるのであろうか…致し方ない。あっちはあっち。こっちはこっちなのだ。

 

俺はバナナと釣竿をワープホールに突っ込むと、釣り場を変えるために川の上流の方へ向かった。

 

 

*****************

 

 

上流へ向かう途中。俺は野生(天然)のサンマの群れが地面からチンアナゴのように陳列しているのを見かた。すぐさま収穫しに飛びかかったのだが、流石は天然物。畑に生えてる養殖物とは違い、とっても早かった。残り数センチで収穫できそうな所で、素早く地面に潜りモグラのように地面を泳いで行った。なので、たくさんいたのに3匹しか捕まえられなかった。まぁ思わぬ収穫が少なからずできて満足である。

しかし、一応族長にも報告しておこう。野生のサンマは切れ味が高く危ないからね…やばい奴だと木とか両断する。おぉ…こわいこわい。

 

そんな感じで気分良く上流に向かってると開けた河原に出た。そこには見覚えのある人影が二つ…

 

「……いいですかこめっこ。奴らは大きめの岩の隙間や平たい石の下にいます。めくり上げて捕縛するのです!」

 

「わかった!」

 

おぉ…この間念願の爆裂魔法を覚え、俺と同じでやる事がなくニートしてるめぐみんと、俺を物理的な意味で食べようとしてる、めぐみんの妹のこめっこがいた。

そして、河原方にはなんか火をかけた大きめの鍋が用意してあった。

 

「ヤァめぐみん!こめっこ!二人でナニしてるノ?」

 

夢中で何かを捕らえようとしてる二人に声をかけると

 

「ひゃあ!?ま、マホロア!?なぜこんなところにいるのです!?」

 

小さな悲鳴を上げ、勢い良くこちらを振り返るめぐみん。

 

「?ナゼって…釣りダケド?」

 

「そ、そうなのですか……わ、私達はこの辺に……その…わ、我が爆裂魔法にもっと磨きをかけるために!魔法威力向上の効果を持つ魔法石を探しているのです!」

 

そう言い放つめぐみん。ほぉ…こいつもいろいろと頑張っているんだな。

と感心していると

 

「姉ちゃん!やった!ごはん捕まえた!……あ、マホロア!呪いは解けた!?」

 

といいザリガニをこちらに見せてくるこめっこ。

 

「………」

 

「……ネェめぐみん。こっち向きなヨォ…ナンデウソをついたのカナァ?」

 

俺から目をそらし、明後日の方向を向くめぐみん。

 

「……ハァ、別に見栄を張らなくたってもいいじゃなイカ…キミの家の事情はもう知ってるからネェ…」

 

そう呆れる俺に

 

「え、ええそうですよ!こっちはあなた達とは違って1日1日生きるのに必死なのです!わかったなら何か奢ってくださいお願いします!」

 

開き直って飯を要求してきた。

 

「わ、わかったヨォ…さっきそこで天然のサンマが取れたカラやるヨォ」

 

そう言ってワープホール(クーラーボックス)を展開しようとすると…

 

ガブッ!

 

「イ"!?」

 

右耳?に激痛が走る。しかもこの痛み覚えがあるぞ…

 

「ギャアアァァ!!こ、こめっこ!ま、マダ呪いは解けてないカラ!解けてないカラ!食べないデェ!」

 

「フゥゥゥ!!!!」

 

また嚙りつかれる。そして、必死の説得もむなしくこめっこは俺をまだ齧り続ける。

 

「チョ!?イタイ!ヤメテ!やめてチョウダイ!!め、めぐみん!タスケテ!!」

 

「え、えぇ…わ、わかりました……………コラ!こめっこ!マホロアなんて食べたらお腹壊しますよ!」

 

めぐみんも若干引きながらこめっこを説得し、ひきはがす。

 

「じゃあ煮れば食べれる!?」

 

そう言ってグツグツ煮立った鍋を指差す。

 

ま、まずい…このままでは幼い少女に食べられる……この手はあまり使いたくなかったが…

 

「こ、こめっこ?ホラ!さっき獲れたバナナをあげるカラ…今日はカンベンしてチョウダイ?」

 

そう言い俺はさっき獲ったバナナをワープホールから取り出す。

 

「しょうがねぇなぁ!」

 

そうホーストの真似をして俺からバナナをひったくり、モグモグ食べて大人しくなった。

 

「ハァ…ヤレヤレ。酷い目にあったヨォ………ネェめぐみん。なんでコノ子はいつにも増して飢えてるノ?トウトウ生活費までオヤジさんが使ってしまったトカ?」

 

何時ぞやの俺の話を無視して喰らい付いてきたこめっこを見るに、相当飢えてたに違いない。一体どうしたんだろう?

 

「……そ、それはですね…ほら、学校にいる間私の栄養源はゆんゆんから巻き上げた弁当とマホロアの賄いくらいだったと言ったじゃないですか……それが消えた今、私達はお昼に食べる物がないのです……だからこうしてザリガニを獲ったり畑から盗んだり、む、虫を食べたりしてたのですが……限界だったようですね」

 

……なんか後半よく聞こえなかったが、なんとも気の毒な話だ…なんかこっちまでウルッときてしまいそうだよ…

 

「そ、そうなンダ……良かったら明日からお昼ぐらいなら奢ってあげるヨォ?」

 

俺に出来るくらいの事はしてあげたいよね

 

「い、いいんですか!?」

 

信じられないと言う顔付きで俺に向き直るめぐみん。

 

「やったねニート姉ちゃん!姉ちゃんも魔性の姉って名乗っていいよ!」

 

「え、えぇ…そうですね…考えておきます。ところでマホロア、貴方お金はあるのですか?私達二人分の食事となると結構な量になりますよ?」

 

大丈夫だ、問題ない

 

「いいヨォ…お金はたくさんあるしネェ…クックク」

 

そう。俺は今ちょっとした小金持ちなのだ。ナゼかと言うと…ほら、以前俺はこの世界でUNOを完成させて、族長さんに頼んで里の外にも公開してもらっただろ?それがねぇ…王都で大ブームを引き起こして爆発的に各国に広まってった。なんと一部ではカジノにも取り入れられてるらしい。

……カジノにUNOって(笑)

ともかく、世界中で売れたという事はUNOの特許を持つ俺の所に金が流れてくるワケで…まぁ後は御察しの通りさ。

 

「そんなにお金があるなら私の旅費も賄ってくださいよ」

 

と頼んでくるめぐみん。

…それはぁ…いかんなぁ…

 

「ダメダヨォめぐみん。ソノお金はめぐみん自身の旅だからネェ…自分の力でなんとかしてチョウダイ」

 

人は甘やかすとロクなコトにならないからね。

 

「むぅ……ケチですね」

 

そう言うなよ…めぐみんの為を思って言ってるんだからさ。

 

「ダメなモノはダメダヨォ。ジャ、はいさっき獲れたサンマダヨォ。味わって食べてネェ。ボクはもう少し上のホウで釣りを再開するヨォ」

 

サンマをワープホール(クーラーボックス)から出して渡し、さらに上流の方へ飛んでいくと

 

「ありがとうございます!あ、後マホロア!この事は他の人には内緒ですよ!紅魔族随一の天才の肩書きに泥が塗られてしまいますので!」

 

「ハイハイわかったヨォ」

 

後でゆんゆんに事細かく話してあげよっと♪

 

 

*****************

 

 

暫く歩くと、川の上流…と言うか渓流についた。水がキレイで、そこらかしこで黄色い影が見える。

絶好の穴場だ。俺は近くにあった苔だらけの岩の表面を魔力球の衝撃波で削っていい感じにしてから腰掛け、釣りを再開した。

 

 

ー数時間後ー

 

 

「オォ!大量♪大量♪」

 

ワープホール(クーラーボックス)の中を覗き込み、バナナの数を数えながら俺は充分な釣果に満足していた。

 

「…ソロソロ暗くなってきたナァ…かーえろット」

 

そう呟いて釣り道具をワープホールの中に突っ込んでいく。

だいぶ俺も紅魔族の様に魔法を無駄遣いできる様になってきた。悪い兆候なのだが、便利なので仕方がない。人間いつだって楽な方に流されるもんさ…

 

全部しまい終え、川を下ろうとすると…

 

 

「「きゃああぁぁぁぁ!!!」」

 

「ン?ナンダ?」

 

なーんかどっかで聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえた。

ともかく、森の中でクマさんに襲われてるのかもしれないし、声のした方向へ出来るだけ早く飛んで行った。

 

 

ーーー鬱蒼と生い茂る森の中。ここいらの土は多くの自然的な魔力が宿っており、そこで育つ木は土からたくさんの魔力を吸いその身に宿している。つまり、杖とかにするには高品質という事だ。しかしながら、この木達はモンスターにとっても、魅力的なものでありここいらに縄張りを張っているモンスターは決まって中ボスクラスなのだ。

ーーーそう、今目の前にいるこの大きな黒いクマの様に…

 

「グオオオォォォォォォ!!!!」

 

「「きゃああぁぁぁぁ!!!」」

 

ーーブラックファング。

一撃グマよりも大きく、その黒い巨体は突進するだけでダンプカーとか跳ね飛ばせそうなくらい強靭、そして太い腕の先にある鋭利な爪は鉄程度なら紙のように引き裂く事が出来るくらい凶悪で、中級冒険者くらいなら3秒でソーセージにされてしまうだろう。

…そんな中ボスクラスのモンスターと対峙するのは3人の紅魔族の少女達だった。

 

「ああああるえぇ!こ、ここっこれなんとかなるんでしょうね!?ていうかお願い!なんとかしてぇ!!」

 

「あ、あぁ…私、まだやりたい事いっぱいあったのに……さらば我が人生…そしてダンジョンの奥で私を待つ運命の人よ……先に旅立つ事をお許しください…」

 

まだ学校に通い、魔法を覚えてない2人の少女達は半ばこの状況に諦めて絶望しかけていた。

だが、

 

「フッ…まぁ落ち着くのだ我が同志達よ…私がこんな事態を予測していなかったと思っているのかい?」

 

眼帯をつけたこの少女。こっちは既に上級魔法を覚え、学校を卒業している。その為か他の2人より余裕があるのか紅魔族特有のかっこいい(中二的な)ポーズを決めている。

 

「さ、さっすがあるえ!伊達に成績が良かったわけじゃないわね!」

 

「え?わ、私まだ死なないの?生きてていいの?やったぁ!」

 

…普段地味な方がなんかトリップしているが、希望が見えて落ち着きをとり戻しつつあった。

 

「ま、まぁいいや…喰らえ!人類の英知によって生み出されし、汝を葬らんとする轟音の珠ァ!!」

 

そう言って少女は、懐から出したソフトボールくらいの珠をクマの頭部に向かって投げつける。

すると珠は弾け…

 

ギイ"イ"イ"ィィィィィィィンンンン

 

という鈍くてとても大きな音が辺りに炸裂する。

 

「グオオオアアアァァァ…………」

 

と吠え、耳を押さえてクマはその場にうずくまった。そしてその隙に…

 

「我が手に宿りし黒雷よ……醜き魔獣を貫き屠れ!≪カースド・ライトニング≫!!」

 

とかっこいいセリフ(中二)を詠唱に混ぜながら雷の上級魔法をクマに撃ちこんだ。

そしてその黒雷はうずくまるクマの頭部を貫通し、クマはビクンッと痙攣すると動かなくなった。

 

「はぁ……今回ばかりはダメかと思ったぁ…」

 

「うん…やっぱり私達も勉強頑張って早く魔法を覚えるべきかもね…」

 

そう言ってへなへなと後ろの木にもたれかかる2人に

 

「予め、この辺りの森にブラックファングが出るって聞いていたからね、もしもの時の為に買っておいたのだけど…まさか使う事になるなんて思わなかったね」

 

そう言って2人に手を差し出し、起こそうとすると…

 

ガサ…

 

不意に後ろの方で草がこすれる音がした。

 

3人がその方向を見ると

 

「グルルルルルルゥ…」

 

さっきよりも小型だが、そこにはブラックファングがいた。

 

3体も

 

「あ、あるえ!早く音爆弾を!」

 

「そ、そうよ!早くしなさいよ!じゃないとまた食べられちゃうじゃない!」

 

最初にクマとミーティングした時よりか随分と落ち着いた対応だが、3体も黒い○ーさんが並んでいるところを見るとやはり焦るものだ。しかし、今先程これらよりもデカイ個体を倒した本人が自分の前にいる。なのでその安心感もあったのだろう余裕そうだ。

 

しかし、その安心感は次の言葉でかき消される。

 

「………ごめん…1個しか買ってないんだ……後、魔法なんだけど…打てて後1回か2回が限界……」

 

「「ふぇ?」」

 

予想外の言葉に頭の理解が追いつかず、素っ頓狂な声を上げる二人。そして、2人の安心感…もとい希望が一気に絶望に変わり、泣き出しそうになる

 

「「「グルァァァァァァ!!!」」」

 

「「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」」

 

3体のクマがこちらに向かってきた恐怖に叫び、目を瞑る2人。

眼帯の少女は運命を受け入れたのか、同じく目を瞑った。

ーーそして

 

 

「≪キルニードル・フォレスト≫!」

 

そう聞こえた瞬間、クマの近くに生えていた木々から出た、たくさんの枝の様な針が3体を滅多刺しにした。

 

 

*****************

 

 

現在夕方。空が赤く染まり出して若干肌寒いような夕方。ーー俺は森の奥地にて2人の少女に抱きつかれ、顔から出た色んな液体で数少ない自分の服を汚されていた。

 

「ゔっゔあ"ぁぁぁぁ!!あり"がどう!あり"がどうマホロアぁ!!」

 

「ウゥッうえっ…ごわがっだよぉ…あ"あ"あ"ぁん!!」

 

「お、オォ…ヨシヨシ…もう怖くないヨォ…大丈夫ダヨォ…」

 

そういいながら2人の頭を撫でていた。

……なんか最近女の子のガチ泣きばかり見てる気がする…なんだろうこの数奇な運命。

 

「マホロア、ありがとう。さっきは流石にダメかと思ったよ。マホロアがいなければ私の小説家人生は終わっていたね…」

 

そういいお礼を言ってくるあるえ

 

「デモ、ソノ割には落ち着いているネェ」

 

こっちの二人とはえらい差である。

 

「まぁね。ああいう場面では決まって誰かが助けに来るってわかっていたからかな?」

 

こいつ命の瀬戸際まで紅魔の流儀に従ってやがる。こっちの2人は捨てたというのに…こいつめぐみんやこめっことは違った大物感があるなぁ…

 

「それに、マホロアの新しい技も見れたしね。あれはなんだったんだい?」

 

「ン?アァ…あれはネェ、≪キルニードル≫って技があったダロォ?アレはどうやら地面じゃなくても地面と繋がってるモノからデモ生やす事がデキルってわかったンダ!卒業しても、研究は怠っていないンダヨォ」

 

まぁ…暇だし色んな事を試せるからね。今ある応用的な技のほとんどは遊んでたら偶然できた感じなんだよねぇ…

まぁそれはいいとして

 

「ところで、キミ達はドウシテこんな森の中にいるんダイ?」

 

と聞くと、撫でられていたどどんこが

 

「えっとね……グスッ…ふにふらの弟の病気が……うえっ…めぐみんのポーションで治ったからッ……借りを返したいって……ふにふらが…」

 

「エ!?アノ話本当だったノ!?」

 

てっきりゆんゆんからお金を搾り取る口実かと思ってた。

するとふにふらが

 

「さ、流石に…私もそこまで鬼じゃないわよ!」

 

と訂正してきた。

 

「アー…なんか疑ってゴメンネェ……で、ナンデ森に?」

 

「2人はめぐみんが旅に出る前に杖を渡そうと思ってるらしいよ。ふにふらのお父さんが杖職人でね、その材料を取りに来たってわけさ」

 

なぜかドヤ顔をするあるえ。

手作りで渡すとは…ふにふらとどどんこも俺の中では印象があまり良くなかったが、何も完全なドライという訳ではないようだ。きっちり借りを返すというところを見る限り、あつい一面もあるんだなぁ…

 

「ソウなんだ……マァ頑張ってチョウダイ。デモ、今日みたいなコトにならないヨウに、気をつけるんダヨォ?」

 

「「「はい……」」」

 

返事を貰うと俺は懐からクラウンを取り出し、第2形態になり

 

「ヨシ!ジャア里まで送るヨォ!ミンナボクに捕まって!」

 

里までワープしながら飛んで行った。

 

 

*****************

 

 

「タダイマ!!」

 

テンション高く玄関の戸を開ける。

すると

 

「あ!マホロア君遅いぞ!みんなマホロア君が帰ってくるのを待ってたんだからね!私なんてもう腹が何回鳴った事か…」

 

「クックク…ゴメンゴメン。バナナ釣りをしてタラ時間を忘れちゃってネェ」

 

あぁ…イレギュラーな日もいいけど、こうした何気ない日常ってのもいいものだなぁ。

 

「ハイ!今日獲れたバナナダヨォ。デザートにみんなで食べヨウ!」

 

そう言ってバナナを奥さんに渡し席に着く。

 

「あ!マホロア遅かったね…何かあったんじゃないかって心配したんだから」

 

「ゴメンゴメン。後で面白い話してあげるカラ許してヨォ」

 

どうやらゆんゆんも俺の事を心配してくれていたようだ。

 

「じゃあみんな揃った事だし、食べようか!」

 

こんな日常も

 

「「「「いただきます」」」」

 

いいものだなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーワープホールにて

 

 

どくん……………

 

……………どくん………

 

どくん…………………

 

 




キルニードル・フォレスト

木の枝のように少しサイズが小さめのキルニードルをたくさん木に展開して滅多刺しにする。
キルニードル・ワープよりも消費魔力が少ない。
だが、木があるとこでしか使えない。それに、対象が木から離れすぎてると当たらないため、森専用の技。
ちなみに岩石だと≪キルニードル・ロック≫と、技名が変化するが基本的な性能は同じ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。