この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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ウィズと友達ならこの人とも早めに会いますよねー。


少し怒られちゃった…

「いやー、この前は本当にごめんね?」

「いえ、私はいいのですが、アクアさんは大丈夫ですか?かなりショックを受けていたと思うのですけど…」

 

ウィズとのゴタゴタから数日後、ルミは一人でウィズの店に遊びに来ていた。

 

「大丈夫、カズマがある程度うまくまとめてくれてたから。多分次に会った時にはすぐ攻撃したりはしないと思う…うん、多分としか言いようがないけど…」

「それならいいですけど…あ、そういえばですね。」

「ん?」

「魔王軍の幹部の人が最近街の外れにある廃城に来たらしくて。そこまで好戦的な人ではないのですけど、それでも危険なので近寄らない方がいいと思いますよ。」

「そうなんだー。…あれ?それってクエストにも影響出ない?極端に強い生き物がやって来たら、そこにいる野生の動物たちって逃げ出しちゃったりすると思うんだけど…」

「確かにそうかもしれませんね…」

「うーん、アクアがお金ないって言ってたからな…どうしたらいいんだろ。そうだ、私が作った道具、ここで売ってくれたりしない?」

「道具ですか?」

「うん。傷薬とか作れるスキル取ったんだよ。」

「傷薬ですか…そういえば、ルミさんは何の職業なのですか?」

「新しいやつなんだって。私もどこからどこまでできるのかはあんまりわかってないけど。」

「あ、最近話題になっていた新職業というのはルミさんのことだったんですね。」

「話題とかなってたんだ?」

「はい、特にギルドの方々がすごく可愛いだとか天使のようだと…」

「ちょっと待って?私そんなふうに思われてたの?」

「ルミさんは一挙一動が可愛いですから。」

「ウィズまでー…うーん、なんだか複雑かも…」

「大人になったら可愛いなんて言われなくなりますから、言われているうちは素直に嬉しがってもいいと思いますよ?」

「うーん、そういうものなのかな…でも、確かにウィズぐらいだと、かわいいって言うよりは綺麗って感じだもんね。」

「そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど…」

「あ、ごめんごめん。話が変なとこに行っちゃったね。えっと、私のお薬についてなんだけどダメかな?スペース使わせてもらうぶん、売値のいくらかはウィズに受け取ってもらう感じで。」

「置くのは大丈夫ですよ。少しレイアウトを変えればスペースは空きますから。ただ、そもそもこの店に足を運んでくれる人がどれほどいるか…」

「じゃあ、宣伝をギルドの掲示板に貼っとくのはどうかな?自由に貼ったりしていいところもあったはずだし。」

「…確かに効果はあるかもしれませんね…今までやったことはなかったですし。」

「じゃあ宣伝しとくよ。あ、お金ってどれぐらいにしたらいいんだろ?置いてもらうからには分けないといけないし。」

「うーん、私もわからないですね…今までそのようなことをしたことはなかったので…」

「その質問には我輩が答えよう!」

「うわっ⁉︎」

「あ、あれ?バニルさん⁉︎」

 

そこには紳士のような出で立ちをした仮面の男が立っていた。

 

「フハハハハ!少し見ない間に面白そうな話をしているではないか!」

「お兄さんはだれ?ウィズの友達?」

「フム、自己紹介がまだであったな。我輩は地獄の公爵バニルである!魔王より強いかもしれないバニルさんとは私のことだ。」

「私はルミだよ。なんだかすごい人なんだね。」

「バニルさんどうしたんですか?どうしてここに?」

「何、ただの暇つぶしである。城の住人をおちょくるのも少し飽きたのでな。」

「城って?お金持ちの人?」

「立場的にはそこのポンコツ店主と変わらん。」

「ウィズ?」

「む?なんだまだ教えていなかったのか。」

「話す機会があまりなくて…」

「お店の店主ってだけじゃないの?」

「我輩とウィズはこれでも魔王軍幹部なのだ。卑小な人間よひれ伏すがいい!フハハハハ!」

「わぁ、なんかかっこいい!」

「…その反応は紅魔族を思い出してむず痒くなるのだが…まあ、結界の維持を頼まれているただお飾りの幹部だからどうでも良いことか…それにしても汝は紅魔族ではない。むしろ、種族として人でもないように見えるな。」

「ああ、なんか知らないけどちょっと耳とか違うから獣人みたいなんじゃないかって仲間が言ってたかも。」

「ほう、それは珍しい。………」

「?」

「バニルさん、いきなり人の未来を見たりするのはやめたほうが………」

「…なんと!これは面白い!未来が不確定すぎてなにも見えぬではないか!このようなことは我輩、生まれて初めてかもしれんな。」

「未来が見えたりするの?」

「我輩は見通す悪魔。思考や行動から始まり過去や未来まで見通すことができるのだ。汝の場合は未来を見ることができぬようだがな。」

「すごい悪魔さんなんだね。あ、じゃあウィズを見てあげてよ!どうやったらこのお店が良くなるかとか!」

「できるなら既に試しているのだがな…このポンコツ店主の実力は我輩と拮抗しており、そういう相手の未来や思考を読むことはできぬのだ。忌々しいことにそのおかげで我輩の夢に一歩たりとも近づかん。」

「お金が欲しいの?」

「まあ、つまるところそういうことであるな。何事にも準備には金がかかるものだ。」

「未来が見えるんだったら占い屋とか開いたらいいのに。」

「この能力で金儲けはできぬようでな。これを使って手に入れた金は無為に無くなるか手痛い目にあうかなのだ。」

「悪魔もいろいろ大変なんだね。」

「まあ、生きているぶんにはなにも必要ではないのだがな。我ら悪魔は人の悪感情を糧とする。逆に言えばそれが生きる意味と同価値である。悪魔ごとに好みが違うがな。」

「バニルは?」

「人をからかい、騙した時の怒りや羞恥であるな。つまりはちょっとした挑発にムキになるような人物が我輩の好みである。」

「…うわぁ…」

「どうしたのですか?ルミさん。」

「いや、なんていうかアクアがまるっきりそれな気が…」

「アクア…ふむ、アクアであるか…大変魅力的な性格なようだが手を出すのはやめておくことにしよう。」

「どうしたの?」

「なに、子供が知らなくても良いことだ。悪魔の我輩からしても、人間の中で厄介な存在がいるということだ。いや、むしろ神か…」

「ふーん。…あ、そういえば私とウィズのお金の話の相談してくれるの?」

「ああ、話が弾んで少しばかり失念していた。どの程度金銭を分けるかで話していたな。労力的には材料費は半々として利益を8対2と言ったところか。こちら側はスペースを貸すだけであるからな。」

「そうですね、私もそれで…」

「えー、なんか不平等じゃない?半分でいいよ?ほら、労力って言っても草を摘んできて簡単な調合するだけだから。」

「ええ⁉︎で、でも本当にバニルさんのいう通りですし、そんなに…」

「フハハ!良いではないか!そうでもしなければ今月の赤字すら無くなるまい!商人というものは欲望にある程度忠実でなければならぬものだ。そういう意味でも店主には向いてないのかもしれんな!」

「バ、バニルさん〜…」

「そういえば、バニルはどうして相談とか乗ってくれたの?人間って悪魔にとって敵とかじゃないの?」

「確かに人間は我々悪魔を敵とみなしていることが多いが、こちらからすればむしろ、守るべき対象とでもいうべきか…悪感情を出す存在がおらぬことには生きていけぬのでな。」

「なるほどー。人間で言ったら牛みたいな感じかな。…あ、そう言えばそろそろキャベツ狩りの報酬渡しはじめる時間だったかも。」

「そう言えば今日でしたね。」

「じゃあ傷薬とか作れたらまた来るね!バニルもまた今度ね!」

「ふむ、また会える時を楽しみにしておくとしよう。」

「また来てくださいねー。」

 

そうして、ルミはウィズの店から出て行った。

 

「まさか我輩がおらぬ間に友人ができていたとはな。珍しいではないか?」

「確かに、そうかもしれませんね…ルミさんはいい子ですから。」

「悪魔の我輩としては悪感情を発生させにくい子供を相手にするのは少々苦手ではあるのだがな。」

「でも、バニルさんは子供達に人気じゃないですか。」

「未来への投資というやつである。他人を信じやすく真面目な善人に育つ方が我輩の好む悪感情が手に入りやすい。友人の中には好む者もいるが、濃すぎる悪感情は我輩好みではないのでな。我輩の夢にもうってつけというわけだ。」

「あ、あまりひどいことはしないで下さいね?」

「何、とって食うわけではない。少しばかり騙すだけである。フハハハハ!」

 

 

「ルミさんの報酬はこれだけになります。…次回の収穫の時は気をつけるようにしてね?お姉さんとの約束よ?」

「…気をつけまーす…」

 

ウィズの店から帰って来た時にはすでに報酬の手渡しは始まっていた。ルミも、少し怒られながらそれを受け取っている。

 

「あはは…少し怒られちゃった…」

「何をしたのだ?」

「いや、その…」

「なあルミ、あれなんとかできないのか?めぐみんが変態になってるんだが…」

「ああ…マナタイト製の杖のこの色艶…はぁ…はぁ…」

「ま、まあずっと欲しかったみたいだし、きっと少ししたら落ち着くんじゃないかな?…たぶん。」

「おかしいわおかしいわよ!どおしてあれだけ捕まえたのにたったの5万エリスなのよぉ!!」

「で、ですから、アクアさんの捕まえたキャベツはほとんどレタスでして…」

「今のはアクアの声だったな。」

「………よっぽど運が悪かったんだね………」

「…チラッ…」

「ん?」

 

アクアがみんながいる方に目を向け、カズマを見つめながら微笑んだ。

 

「うふっ。」

「…あ〜、こっち来た…嫌だなー…集られそうだなー…」

「カーズーマーさんっ!報酬はおいくら万円?」

「………百万ちょい。」

「「「ひゃくっ⁉︎」」」

「わぁ、カズマすごいね…」

「カズマさんって………えっと………そ、そこはかとなくいい感じよね?」

「褒めるところが思いつかないなら無理すんな。言っとくがこれは貸さんぞ。」

「お願いカズマさん!お金を貸してください!私、今回の報酬が相当な額になると思って十万ぐらいのツケ作っちゃったんですけど!五万じゃ足りないんですけど!」

「ツケ作る方が悪いだろ!貸さないからな!」

「ア、アクア、お金貸そうか?」

「えっ?」

「ほら、ちょうど10万エリスあるから…」

「あ、ありが」

「ちょっと待ってください。その袋は先ほどルミが受け取った報酬全額ではないのですか?」

「え?」

「そだよ?」

「え?え?」

「つまり、それはほぼ全財産ということか?」

「あー、あとだいたい1万5千エリスぐらいかな。」

「…アクア、俺が貸してやるよ…なんていうか、さすがに子供に金を出させるような甲斐性なしにはなりたくない…」

「………ごめんなさい、ごめんなさいカズマさん………」

 

さすがにこたえたのか、アクアにしては珍しく落ち込みながらお金を受け取ってツケを返しに行った。

 

「どうしたのです?数は獲れたと言っていたと思いますけど。」

「アクアと同じようにレタスが混ざってしまったのか?」

「いやー、それが…捕まえはしたんだけどあんまりにも美味しかったからさ…ほとんどのキャベツをかじっちゃったりしたんだよ…さすがにかじり跡があるのはあまり売れないって言われちゃって…」

「ルミって、そんなに食い意地張ってましたっけ?」

「食べれる時に食べないといつ食べれるかわからないからね。………うん。」

「いや、普段はそんなことないじゃないか…キャベツがそんなに気に入ったのか?」

「新鮮なキャベツって美味しいんだね!」

「気に入ったんですね…」

「あ、そう言えばさ、なんでかは知らないんだけど街の外れにある廃城に魔王軍の幹部が来てるんだって。もしかしたら簡単なクエスト少なくなるかもしれないよ。」

「あれ?ルミも知ってたのか?」

「カズマも?私は友達から聞いて来たんだけど。」

「俺は少し前に冒険者仲間からだな。王国から腕利きの冒険者や騎士が来るまではクエストに影響が出るらしいぞ。」

 

そこまで言ったところでカズマはルミに耳打ちした。

 

(…ってか、友達ってまた会いに行ってたのか?俺がみんなにこの話してた時もルミいなかったよな?)

(あー、まあちょくちょく遊びに行ってるから。ウィズが言ってたんだけど、そこまで好戦的な人じゃないけど危険だって。)

(なんでウィズはそんなこと知ってるんだ?)

(ウィズも魔王軍の幹部なんだって。結界の維持をしてるだけのお飾りだって言ってたけど。)

(…マジか…今心の底から戦闘にならなくてよかったって思った…)

「何をこそこそしてるんです?」

「いやー、その、ルミにちょっと詳細をな?」

「…ああ、そういうことですか。今ならアクアは向こうでお金を返してるところなので気にする必要はなかったと思いますよ。」

「ちょっとそういうわけにもいかない話が出てたからちょうどよかったかもしれないでござる…」

「カズマらしくない口調になっているぞ。それほど動揺するような話が出たということか?」

「…落ち着いたら今度話す…」

「カズマ!お金になるクエストに行くわよ!ツケを払ったからご飯代も残ってないの!」

「あー、アクア、それなんだけどね?多分だけどクエストは私たちにクリアできないようなのばっかりになってると思うよ?」

「えっ?」

「カズマから聞いてない?魔王軍の幹部の人が近くに来てるって。」

「そ、それがどうしてそうなるの?」

「野生の動物ってね?近くに自分よりすごく強い生き物がいると本能的に逃げちゃうんだ。魔王軍の幹部なんてすっごく強い人だろうから、私たちにも倒せるモンスターは残ってないんじゃないかな。」

「なん…ですって……?…そ、そんなの冗談よね?う、嘘だって言ってよ!ルーミー!」

「そ、そんなの私に言われてもー!」




ゆんゆんではないです。

うたわれるもの用語
傷薬…そこまで効果がキツくないやつ。クオンの薬師としてのスキルで作れる。効果がキツいやつにはけっこうな副作用があったりする。

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