「爆裂魔法は最強魔法。…その分、準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします。」
ジャイアントトードへのリベンジのために三人にめぐみんを加えた四人で草原に来ていた。ルミはカズマの横で大きな鉈を構えている。
「遠い方のカエルを標的にしてくれ。近い方は…よし、アクア。今度こそリベンジだ。元なんとかなんだろ?あのカエルに実力を見せてこいよ。」
「元って何!アークプリーストは仮の姿よ!私は女神なの!」
「アクアはどうしたのですか?女神がどうとか言ってますが。」
「ああ、気にしないでくれ。たまにこういうことを口走っちゃう系女子だから。」
「…そうですか…その、元気、出してください。」
「うわぁぁぁぁん!もういいわよ!実力で証明してやるわよおぉぉぉぉ!!」
「………よし、囮はこれでいいな。じゃあルミ。今日は任せても大丈夫なんだな?」
「うん!ついさっき気づいたんだけど工事のお仕事しててレベルが上がってたからね。初めてのスキルをとったんだよ!」
「お、じゃあその力見せてくれよな。」
「まあ、攻撃技じゃないんだけどね。」
「その大きな鉈は扱えるのですか?」
「大丈夫、これでも力はあるからね!じゃあ、アクアを助けてくるよ!『我は
その時、ルミの体に電気が流れたように見えた。カズマは少し驚いて数回瞬きをすると、その場からルミの姿はなくなっていた。
「やああぁぁぁ!!!」
声が聞こえた方を見ると、数十メートル先のアクアが飲み込まれつつあるカエルに鉈を振るうルミがいた。昨日の弓と違い、攻撃力は足りているようで程なくしてカエルは倒れた。
「すげー移動スピード…転生特典のスキルとかってこんな感じなのか。」
「カズマー!こっちは大丈夫だよー!」
「グスッ…グスッ…」
カズマは少し選んだ特典に後悔しつつ、アクアが助け出されて無事に泣いているのを見てからめぐみんの方を見た。そちらではただならぬ雰囲気をしためぐみんが詠唱を終わらせて爆裂魔法を放とうとしているところだった。
「刮目せよ!これが、これこそが人類が行える中で最も威力のある究極の攻撃魔法!エクスプロージョン!」
「うわっ⁉︎」
「きゃああぁぁ⁉︎なんなのよぉぉ!!」
その瞬間、まばゆい光がめぐみんの杖から放たれた。幾重もの魔法陣を描き、遠くにいた方のカエルがいた場所が爆発し、巨大なクレーターが出来上がった。
「す、すげえ…これが魔法か…ルミ!アクア!無事かー?」
「う、うん、大丈夫ー!とりあえずここまで届いたのは風だけだったから!今アクアを連れてそっちに行くよ!」
「よし…ってやばいな…さっきの音と振動でカエルたちが地面から出て来てるぞ…めぐみん、一旦下がって…え?」
「お待たせカズマ…ってめぐみん倒れてるけどどうしたの?早く逃げないと…」
「フッ…我が奥義である爆裂魔法はその絶大な威力故、消費魔力もまた絶大………要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。」
「えぇ〜…」
「近くからカエルが出てくるとか予想外です…やばいです…食われますぅ…すいません、ちょっと助けてくックパ」
「ちょっ⁉︎おまっ、く、食われてんじゃねええぇぇぇ!!」
「カズマ!向こうからカエルが2匹も!」
「今度こそ…今度こそ私のゴッドレクイエムを…食らわせてやるわよおおぉぉぉ!」
「あっ、アクア⁉︎そっちはダメだよ⁉︎ダメだってばー!!!」
「何やってんだあいつ⁉︎ルミ!めぐみんを助けたらすぐ向かうから先にアクアをなんとかしてやってくれ!あのままだとあいつまた食われるぞ!うおおおおぉぉぉぉ!!!」
「う、うん!」
○
陽も傾いてきた時間に街までなんとかたどり着いたカズマたちはとぼとぼとギルドに向かっていた。めぐみんはまだ立てないようでカズマにおんぶされている。
「うぐっ…う…3回も…3回も食べられ…ひぐっ……生臭いよぉ…」
「カエルの中って…臭いけどいい感じに温いんですね…知りたくもない知識が増えました…」
「めぐみんめぐみん、本当に歩けそうにない感じなの?」
「はい、おそらく今降ろされたら生まれたての子鹿のような状態になります…」
「そんなになるなら、今後は緊急の時以外爆裂魔法は禁止な。他の魔法で頑張ってくれ。」
「使えません…」
「は?」
「私は爆裂魔法しか使えないんです。他には一切、魔法は使えません。」
「…マジか…」
「…マジです…」
「どうして爆裂魔法しか覚えれてないの?それが覚えられるぐらいスキルポイントがあるなら他の魔法も習得できるでしょう?ん?なによカズマ。説明がいる?」
「あ、アクアが復活した!」
「そういえばルミがスキルをとったって言ってたな…そういうのを覚えるためのポイントみたいなものか?」
「あ、うん、そうだよ。受付のお姉さんが教えてくれたんだ。レベルが上がってポイントが貯まったからスキルが取れるみたいよって。」
「私なんかは超優秀で、初期のスキルポイントが多かったから、まず宴会芸スキルを全部習得して、アークプリーストの全魔法を習得したわ。」
「私がいうのもなんですけど、習得の仕方がどこかおかしくないですか?」
「アクア、えんかいげいスキルってなーに?」
「ちなみにスキルは人によって習得に必要なポイントが変わるわ。得意な属性だったら少なくて済んだり、苦手なら多くなったり、最悪習得できなかったりね。それで、ここからが本題なんだけど、爆裂魔法とかの爆発系の魔法は火と風の複合属性だから、その最上位の爆裂魔法を持ってるなら火と風の魔法の知識も深いはずなのよ。」
「カズマカズマ。どういうことなの?あ、それとアクア、えんかいげいスキルって…」
「ん?まあ、要するに、難しい魔法ができるならその系統の簡単な魔法もできるんじゃないかって話かな。んで、なんで使えないんだ?」
「…私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード…爆発系の魔法が好きなのではありません。爆裂魔法だけが好きなのです!
「使えないんじゃなくて使いたくないってことか…他の魔法を取ってくれよ…楽になるし。」
「その気はありませんよ。確かにカズマの言う通り、初級魔法はともかくとして数ステップ前の中級、上級魔法を習得しておけば冒険も楽になるでしょう。今、この瞬間に取ろうと思えば習得できる程度のポイントだってあります。…でも、ダメなのです!なんと言われても、爆裂魔法以外の魔法を取る気はありません!私は、爆裂魔法を極めるためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!!!」
「おお、なんかカッコいい!」
「…素晴らしいわ!私は、あなたのその一つのことを極めんとする心意気に感動したわ!」
「…なぁ、ルミ…ルミはめぐみん、役立つと思うか?」
「え?なんで?めぐみん、強いよ?」
「いや、だけどな…一発撃ったらそれで役立たずだぞ?今日日一発屋芸人でももう少し手があるぞ?」
「…聴こえてますよ…一発屋芸人というのが何かは知りませんがそれとなく意味はわかります。確かに私は一発撃てばそれで終わりです。しかしですね、私は爆裂魔法を打てれば何も文句はないのです。報酬は最悪なくても構いません。今ならこのアークウィザードが食費と雑費だけであなたのパーティーに加入するのですよ?これはもう入れない手は無いのではないだろうか?」
「いやいやいや一発で何もできなくなるのはないわー…!待遇云々の前の話だからー…!だから離れてくれないか…!」
「お願いです捨てないでください!もう誰もパーティーに入れてくれないのですー!」
「やっぱり捨てられてきた口かよ!こっちは問題児がすでにいるから面倒見切れないんだよ!」
「ちょっと、ルミのことをそんな風にいうのは…」
「お前のことだよぉぉぉ!!!」
「ちょっとどういうことよ⁉︎」
「ルミはちゃんと俺の指示にも従ってくれるし戦力としても申し分ない!だがお前はどうだ⁉︎カエルに突っ込んで食われて助けられるのを待ってただけだろうがこの役立たずが!!!」
「……ぅ〜……うわああぁぁぁぁぁぁぁ!そんなこと言わなくてもいいじゃない!私だって!私だってねぇ!!」
「ア、アクア、落ち着いて…」
「ちょっと見てあの男、ぬるぬるの女の子を背負ってる上に違う女の子を泣かせてるわ!よく見たらあの子もぬるぬるよ!」
場が混沌としてきたが、聞こえてきた声に四人は固まった。
「一体どんなプレイをしたらああなるのかしら?怖いわね…」
「ち、違っ…ハッ…」
カズマに背負われているめぐみんが悪い顔でニヤリと笑う。カズマにはそれが悪魔にすら見えた。
「どんなプレイでも大丈夫ですからー!今みたいに立てなくなるくらいのカエルを使ったぬるぬるプレ」
「わー!わー!!お、俺が悪かっためぐみんこれからよろしくな!!!」
「ねえアクア、なんで私の耳を塞いでるの?」
「…ルミは聞かなくてもいいことだからよ。」
「?」
「ところで、けっこうもふもふしてて気持ちいいわね。しばらくこうしててもいいかしら?」
「えー、こしょばいからちょっと…あとやっぱり生臭い…」
「うっ…」
○
「ジャイアントトードを3日以内に5体討伐完了の報酬と4匹回収で12万エリスですね。」
「あー、はい、ありがとうございます。」
アクアとめぐみんを風呂に向かわせた後、受付でカズマがとりあえず代表として報酬を受け取った。
「…ってことで、一人3万な。…命がけにしては割に合わねーな…」
「一応工事のお仕事でも1日1万エリスだったっけ…1日で完了できたからあれだけど、3日かかってたら完全に工事のお給料と同じだもんね…」
「勢いでなんとかなった感じはあったけどアクアとめぐみんはあれで普通に死にかけてるからな…だが高い報酬のクエストはバカみたいに高難易度だ。訳もわからんうちに死ぬ未来が見える…はぁ…」
「お、落ち込まないでカズマ!私、もっと頑張るから…」
「…ルミはあんまり無理すんな。十分頑張ってるんだから…」
「すまない、ちょっといいだろうか…?」
「うん?なんでしょう…か…」
「おお、騎士みたいな人だ。」
「いや、騎士そのものなのだが…」
そこにはとても美人で鎧を着た、少し背の高い女の人がいた。凛々しい顔でカズマを見ている。
「あー…えっと、なんでしょうか…」
「カズマ、なんか声変だよ?」
「し、仕方ないだろ…」
「うむ…。この募集はあなたのパーティーの募集だろう?もう人の募集はしてないのだろうか?」
「パーティーに入ってくれるの⁉︎」
「あー…まだ募集はしてますけど…その…あまりオススメはしないですよ…俺は最弱職ですし…」
「いや、あなたのパーティーがいいのだ!ぜひ!ぜひこの私をパーティーに!」
「い、いやいや…ちょ、待って待って色々問題があるパーティーなんですよ。ここにいるルミを除いて二人はポンコツだし、さっき言った通り俺は最弱職だし…さっきだって二人が粘液まみれ…っ!」
「だからこそだ!」
「何言ってんだあんた⁉︎」
「ハッ⁉︎ち、違う!そうではない!あんな年端もいかない二人の少女があのような目にあうなど騎士として見過ごせない!それに私は上級職のクルセイダーだ。募集条件には当てはまるはずだ。」
「カズマ、別にいいんじゃないの?」
「いやいや、ルミがいいって言っても他の二人がいいって言うかもわからないし、うちのポンコツパーティーじゃ釣り合わないから…」
「なら尚更都合がいい!私は力と耐久には絶対の自信があるが不器用でな…まともに攻撃が当たった試しがないのだ…だから、私のことは盾代わりでもいい。遠慮せず使って欲しい!」
「いやいや、女性を盾になんてできませんって!最悪、それこそモンスターに袋叩きにされるかもしれないんですよ⁉︎」
「望む所だ。」
「いやいやいや、今日みたいにカエルに捕食されかけて粘液まみれになるのが毎日続くかもしれないんで」
「むしろ望む所だ!!」
「しまった逆効果だったー⁉︎」
「ねーねー、守ってくれるって言ってるだけじゃないの?断らなくてもいいと思うけど…」
女性の性質をここにきて察したカズマは選択肢を間違えたことを後悔した。カズマにできたことはこの場をうやむやにし、問題を後回しにすることだけだった。
うたわれるもの用語
我は鳴神也…偽りの仮面、二人の白皇よりミカヅチさんのセリフ。この小説でも技名(スキル名)は雷駆。移動スピードが2倍になる。