この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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まあ、不定期だから多少はね?(遅くなってすみません。)


あのお札を何とかすれば良いんでしょ?

『さあ、第二ラウンドと…』

「カ、カズマ、ルミ!私の体が、乗っ取られてしまった!これから私は一体どんな目に…」

『ええい、黙っていろ!』

 

バニルがダクネスの体を乗っ取ったようだが、たまにダクネス本人の言葉が混ざっている。

 

「…カズマ、これどういうことなの?一瞬ダクネスが何か言った気がしたけど…」

「…わからん…なんにしても倒せてなかったってことかよ…!」

『フハハハハ!あの程度で倒したと思ったのか!仮面こそが我が本体!体の方が崩れようが何も影響はない!ちなみに、我が体が崩れた後の土は豊富な魔力を含んでいるので花が咲き蝶が舞うぞ。汝の悪感情、そして、我輩が乗っ取らせてもらった体の主であるこの娘が我輩を倒せていなかったことに落ち込んだ悪感情、大変美味で…』

「あ、その土欲しい!って乗っ取った⁉︎バニルってそんなのできるの⁉︎」

「なんだって⁉︎ダクネスは無事なのか…?」

『フハハ!無事なものか!今こうしているうちにもこの娘にはとてつもない苦痛が』

「わ、私は大丈夫だぁ!カズマ!ルミ!し、しかし…フヒッ…これは癖に」

『やかましいわ!なんなんだお前は⁉︎い、今こうしている間にもこの娘の』

「こ、これはいいぞ…いい…!私は、し、しばらくこのままでも…」

『やかましいぃ!!はぁ…はぁ…なぜだ…?確かに悪感情が出ていたというのになぜ今はすでに我輩としてはあまりよろしくない喜びの感情に…?』

「………なんかほっといていいんじゃないかとか思ってきたな…」

『…しかし、この娘に意識があろうとなかろうと仲間に向かって攻撃することなど汝らにはできま』

「むしろ好都合だ…!カズマ、ルミ!遠慮なく私に攻撃を」

『…ええい、なんだというのだ…⁉︎』

「え、ええ…?カズマ、これどうすればいいの?」

『くっ…なんなのだこの「麗しい」娘は…余計な口を挟んで遊ぶな!一体どれほどの頑強な精神を持っているのだ…「まるでクルセイダーの鑑の様な奴だな!」ええい、やかましいわぁぁぁ!』

「やかましいのはお前らだよ!喋るならどっちか一人にしろ!」

「…バニルはどうしたの?ダクネスとお話ししたいの?」

『誰がこんな変人と話がしたいと思うか!』

「な、なんだと貴様!」

『やかましいと言っておるのだ!少しは静かに』

「私にも文句を言う権利ぐらいは」

『意識があるのは賞賛するが少しは自重しろと言っているのだ!』

「賞賛してくれるのか!」

『だぁぁぁぁぁぁ!』

「な、なんだかよくわからないけどバニルが大変なことになってるよカズマ!叫ぶバニルなんて見たことない!」

「…そりゃ疲れるよな…」

 

カズマは若干の哀れみの視線でバニルを見ていた。横にいるルミは相変わらずダクネスの性癖についてはよくわかっていないのでカズマがなぜバニルにそんな目を向けているのかわかっていない。

 

『くっ…この体は失敗だった…!』

「な、私をハズレ扱いとは酷」

『やかましいと言っている!我輩はもう出て行くから貴様は喋るな!』

「まずい、よくわからないがせっかく有利な状態なのにこいつをダクネスから抜け出させるわけには…」

 

何かを思いついたカズマはおもむろにバニルの仮面に紙を貼り付けた。

 

「カズマ、その紙って何?」

『なんだこの紙は…む?触れぬ?手が弾かれてしまう…?』

「カズマ、前が見えにくくて少し邪魔なのだが…まさかこれは…!」

「…その紙は神聖な力がこもった札だ。どうやらバニルとダクネスにはどうにもできないらしいからそのまま地上に連れて行ってアクアに浄化してもらう!」

 

……………

 

カズマとルミはダンジョンの出口に向かって走っていた。

 

「ルミ、ダクネスは持ってるか!」

「うん、ちゃんと抱えてるよ!」

 

そしてバニルの仮面付きのダクネスはルミが持っていたロープで一旦ぐるぐるに簀巻きにされて抱えられていた。

 

『この娘の足が引きずられているが汝らはそれでいいのか?』

「気にするな…私にとっては好都合だ。」

『…都合も何もないと思うが…』

「あ、ごめんダクネス、もうちょっと上にして持つから…」

「いや、このままで構わない。」

「え?でも…」

「ルミも大変だろう。遠慮するな。な?」

「え…あ、うん!」

『なぜそのような有無も言わさぬ剣幕で言っておるのだ?そしてなぜ簀巻きにされてから喜びの感情が大きくなっているのだ?』

「ルミ、頑張ってくれ!ダクネスもすぐに助けてやるからな!」

「お構いなく。」

「『なんだって?」』

「お構いなく。」

「……………」

「カズマ、ぼーっとしてる場合じゃないよ!バニルがダクネスを完全に乗っ取ったらロープなんかじゃ捕まえとけないってカズマが言ったんだから急がないと!」

「あ、ああそうだな!ダクネス、じっとしてろよ!…ん?ダクネス?」

 

いつの間にかぐったりしていたダクネスはゆっくりと顔を上げた。

 

『フフフ…フハハハハハハハハ!支配完了!…なぜこの娘は力が強いのにロープを解かなかったのだ…?』

「うわわっ!」

『汝らはそこでアークプリーストが仕置きされるのを眺めているがいい!さぁ待っていろ!仲間が乗っ取られたことに対する反応、とくと』

「セイクリッド・エクソシズム!」

 

ルミから脱出してカズマとルミを置いて先にダンジョンから出たバニル、ダクネスは眩しい光に包まれた。

 

「お、おいアクアいきなり何やってんだ!それダクネスだぞ!」

「あらカズマ。なんか悪魔臭かったから…ってルミもいるじゃない!どうしてここにいるの?」

「どうしてって言われても友達に会いに来たとしか…」

「友達?もしかしてダクネスに取り憑いてるあれのこと?…ウィズといいあれといい、友達は選んだ方がいいと思うわよ?」

「ウィズは悪くなかったし、バニルも多分だけど悪い人じゃないよ!」

『はぁ…はぁ…わ、我が名は魔王軍幹部バニル…出会い頭に退魔魔法を使うとは…これだから、悪名高きアクシズ教徒は忌み嫌われるのだ…礼儀というものを知らんのか。』

「悪魔が礼儀を語るの?人間の感情がなければ存在できない寄生虫じゃない!やだ何それ受けるんですけど!」

 

アクア本人は別に煽ろうとしたわけではなく思ったことそのままを言っただけだが、当然バニルは不機嫌そうに唸る。そして、バニルが魔王軍の幹部である名乗りをしたことで、バニル人形の元凶をカズマたちに探させるために着いてきていた監察官のセナがカズマに倒すか捕まえるように言った。

 

「あ、ルミ!これはどうなってるんですか?ダクネスに悪魔が取り付いているんですか?」

「あ、めぐみん。少しややこしいんだけど私の友達のバニルっていう悪魔がね?」

「ウィズといい、あの人…?といい、ルミの交友関係は人間じゃないのが多くないですか?」

「そうかなぁ?アッシュとかもいるし、ギルドのルナさんとかも仲良いよ?よくお菓子くれるし…」

「そ、そうですか…」(それって餌付きされてるんじゃ…)

「え?なんか言った?」

「いえ…」

 

ほとんど声は出してないんですけどね…と言いながらめぐみんはカズマ、アクアとバニルの争いを見ている。ルミは呼び止められたので加勢するタイミングを若干逃してしまったので、めぐみんと一緒に見ている。

 

「くそっ!ダクネスをこのままにしとくわけには…うわぁっ⁉︎」

『フハハ!どうした安定を望んでいた男よその程度か!』

「くっ、カズマすまない!」

「ね、ねぇカズマさん!どうしよう!私の魔法あたってるはずなのに全然効かないんですけど!」

『この体は能力値も高い上に我輩の弱点もカバーしている…なかなかいいものだ。』

 

戦いはほとんど一方的なもので、カズマがバニルに斬りかかっても軽くいなされてしまう。アクアも隙をついて退魔魔法を当てるのだが特に効果は見られない。

 

「…あれ?アクアの魔法バニルに効かないの?」

「悪魔なら、魔王軍の幹部のデュラハンさえ浄化したアクアの魔法に平気なはずは…もしかして乗っ取られたダクネスの耐性が邪魔をしているのでは?」

「クルセイダーだからってこと?」

「はい、クルセイダーはその防御力もさることながら聖なる力への耐性も強いんです!」

「だって!カズマ!なんとかできない⁉︎」

「そ、そんなこと言われても…!」

「カズマ、アクア、すまない…!私が乗っ取られてしまったばかりに…!」

「乗っ取られて…?そうか!バニルをダクネスから引き離せば!ダクネス!これからバニルの封印を解く!気合いで仮面を剥がして放りなげろ!」

『貴様に今の我輩に近づけると思っているのか!』

「ふっ、こっちにはちゃんと秘策が…」

「そうか!スティールだな!スティールでこの仮面に貼ってある札を取るのだろう!」

「お前なんでバラすんだよ!」

『スティールは相手とのレベル差によって成功率が異なる。この我輩にスティールが効くとでも?』

「くっ…!それでもやってやる!」

 

カズマには落ち着いて考える時間もなかったので打開策が浮かんでいない。ダメ元でもスティールをバニルに向かって行おうとしたところで、少し離れていたルミが動いた。

 

「え、ちょ、ルミ?何する気ですか⁉︎それ…」

「あのお札を何とかすれば良いんでしょ?夕星!」

「『ぐあああぁぁぁぁ!』」

「ああっ!ダクネスが火だるまに⁉︎」

「あっ、しまった!やりすぎちゃった⁉︎」

「ちょ、ルミ、おまっ…!」

「は、はは…良いぞルミ、その調子だ…!」

「ダ、ダクネス大丈夫⁉︎」

「ああ、だ、大丈夫だ!さあ、(私を)このまま燃やすがいい!」

「ダクネスお前何言って…!」

「わかった!(お札が)燃えるまで頑張るよ!」

 

成り立っているようで成り立っていない会話をする二人をめぐみんが止める。

 

「ル、ルミ!ストップです!もう札は燃えてますよ!ダクネス!仮面を剥がしてください!もう封印はされてませんよ!」

「くっ…ぐぅぅ…!だ、ダメだ、剥がれない!」

「そんな…!」

「カズマさん、もう撃っちゃっていいの⁉︎」

「いや、まだだ!今のままじゃ効かない!くっ、ダクネス、今外してや…」

 

カズマが近寄ろうとしたところでダクネスが手を突き出した。

 

「…いや、カズマ、危険だからこちらに近寄るな。…めぐみん、私もろとも、バニルを爆裂魔法で吹き飛ばせ。」

「む、無茶です!かつての私の爆裂魔法ならともかく、さらなる高みへと至りつつある今の爆裂魔法では、いくらダクネスでも…!」

「構わん…アクアの退魔魔法が効かないのならばこれしか可能性はない。」

『よし、早まるな。少し話をするべきではないか?』

 

あからさまにバニルは焦り始めた。

 

「え、でもバニルって…」

 

ルミがなんとなくウィズから聞いていたような気がする、とあることをバニルに聞こうとするが、それよりも大きな声のダクネスの宣言にかき消された。

 

「アクア!これから仮面が離れたのならばそれに向かって退魔魔法をかけてくれ!」

『よし、今日のところは引き分けにするのはどうか?』

「そして離れないと言うのならば爆裂魔法を…!」

『この魔王軍幹部で地獄の公爵の我輩と引き分けである。きっと周りに自慢できるぞ!』

「わかったわダクネス!それが離れたらやっちゃっていいのね!」

「カズマ…いいんですか…?」

「そ、そんなことをしたらダスティネス家のご令嬢が…!」

 

いくら冒険者とはいえ、貴族という身分のダクネスの言葉にセナは顔を青くする。

 

「バニル…わずかなひと時ではあったが共にいた時間は悪くなかった…だからせめて…選べ。私から離れて浄化されるか、共に爆裂魔法を食らうかを…」

『…我輩の破滅願望がこのような形で叶うとはな。…汝への憑依はなかなか楽しかったぞ。…我輩は神の敵対者である悪魔である!浄化されるなど、真っ平だ!』

「さぁ!めぐみん!」

 

めぐみんはそう言われても、とダクネスとカズマを交互に見る。セナもカズマの方を見る。

 

「…もし万一のことがあったなら俺が指示したってことで、あんたが証人になってくれ。今回も、全責任は俺が取る!」

「わかりました…手加減なんかできませんから耐えてください、ダクネス。」

 

カズマの言葉にめぐみんは詠唱を始め、セナは顔を青くしながら首を縦に振る。

 

「ダクネス…」

「ルミ、心配するな。私は死なないさ。」

「ダクネスを信用してやれよ、ルミ。俺たちの自慢のクルセイダーは世界の何よりも硬いんだからな。めぐみん、気がすむまで詠唱はできたな!やってくれ!」

「はい…!穿て!エクスプロージョン!」

 

めぐみんは爆裂魔法をダクネスに放つと巨大な爆発が起こり、大量の土砂が舞った。少しずつ煙が晴れていくとそこにはクレーターが出来上がっていた。

 

「カズマ、行こう!」

「ああ!」

 

二人でクレーターを滑り降り、その中心点で倒れているダクネスに近づく。その横には真っ二つに割れているバニルの仮面も転がっていた。

 

「ダクネス!」

「ルミ、どうだ?」

「…息は…ある!助かるよ!…あ、バニルの仮面が…」

「…今はとりあえずアクアのところにダクネスを連れて行こう。」

「…うん。」

 

ルミはダクネスを持ち上げ、クレーターの上で待っているアクアのところに連れて行った。

 

「アクア!ダクネスをヒールで治してあげて!」

「無事だったのね!」

「ああ、さすがはダクネスってとこだな。頼むぞアクア。」

「回復なら、私にどんと任せればいいと思うの!ヒール!」

 

こうして魔王軍幹部のバニルは倒れ、ダクネスも爆裂魔法を受けながらもなんとか生き残った。




ルミが早めにバニル人形を止めたことでカズマパーティー以外の冒険者は不参加、カズマが初めから直接戦うことに。

小説、アニメのどちらと比べてもかなり少なめになってますが流れ全てを書くとかなりの文字数となるため大幅にカット。

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