この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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少し短めです。


…あれ、絶対バニルだよね…?

キールのダンジョンの攻略と初心者殺しとの戦闘から数日、ルミは最近習慣のようになってきたウィズとの世間話に花を咲かせていた。

 

「…ってことがあってねー。あの時はアッシュが来てくれなかったら危なかったよ。」

「初心者殺しですか…私も冒険者をしていた頃に何度か戦ったことがありますよ。」

「そうなの?ウィズはその時大丈夫だった?」

「その時には、もう初心者ではなかったので大丈夫でしたよ。確かに素早い敵ですけど、上位のアンデッドのように厄介な状態異常も持っていませんし。」

「そういえばウィズってリッチーだったっけ。たくさんスキルあったよね。…初心者殺しを倒せるようになるって、名前を考えるとある意味初心者卒業の壁みたいな感じなのかもね。」

「あ、確かに言えてるかもしれないですね!」

「私も武器と左腕があったらいい勝負できるかもしれないんだけどなぁ。アクアがなんとなく回復魔法が効き始めてるからもしかしたらそろそろ戻せるかもって言ってたけど。」

「くっつけるならまだしも、そこまで完全に無くなってしまったたものを再生できるのは凄いですよね。アクア様は最上位のアークプリーストにしか使えないリザレクションも使えますし。」

「まあ、みんなは信じないけど女神だしね。酔ったカズマが死んだ時に会ったエリス様の方が女神だったって涙ながらに言ってたけど…」

「そ、そうですか…」

「…あ、アクアは今のとこウィズと仲良くなってるけど、もしエリス様が降りてきたら最初の時のアクアみたいにすぐに浄化してくるかもしれないから気をつけてね?」

「まさか!アクア様だけならまだしもエリス様まで来ることなんて無いですよー。」

「あはは!それもそうだよねー。」

「残念店主よ!赤字はどれほどになった?」

 

ルミとウィズで談笑をしていると、バタンと扉が勢いよく開いた。そこには怪しい感じの仮面をした人物(?)が立っていた。

 

「あ、バニルだ!久しぶりだね!」

「フム、我輩からの届け物はちゃんと手元に行っていたようであるな。その様子では、かなり無茶をしたようだが。」

「バ、バニルさん!残念店主はやめてくださいよ!」

「でも、ある程度はバニルなら分かってたんじゃない?見通す悪魔って言ってたし。」

「その通り、と言いたいところであるが、魔王城の方にいる間はルミと接点を持つような者がほぼ皆無なのでな。人伝に見るのも一苦労なのだ。」

「あ、あの、バニルさん、お願いですから…!」

「そうなんだ。あ、バニルはこれからこの街にいるの?」

「我輩としてはこのポンコツ店主が心配なのでそうしたいのは山々だが、一応は魔王からの依頼で来ているのでな。この近くの良さげなダンジョンに居座っている状態だ。今回もまた顔を出しに来ただけということになるな。」

「ポ、ポンコツ…」

「まあ、何故かはわからぬが残機が減って魔王との契約が切れてこの街に居座ることになると、この辺りの住人の未来を少し覗いてわかっている。そうなればこの店の立て直しもなんとかなろう。」

「残機?」

「あ、バニルさんのような悪魔の方は死んだとしても、違うところに本体があるので復活できるんです。しかも、その数は上位の悪魔ほど多いらしいのでバニルさんならたくさん復活できると思いますよ。」

「そうなんだ。まだまだ知らないこともたくさんあるなぁ。」

「なに、人生なぞそんなものだ。人の短い寿命では全てを知ることなど不可能である故に気にすることでもないだろう。」

「それに、ルミさんはまだ小さいんですから、これからですよ。」

「んー、そんなものなのかなぁ。」

 

……………

 

久しぶりにバニルと会ったので、いつもより会話が弾んで既に昼前ぐらいの時間になっていた。

 

「それでね?カズマが、安酒つめとけばアクアは気づかないだろうからって、その高いらしいシュワシュワ飲んじゃったんだ。」

「ほう…」

「その時にちょうどアクアがお風呂から出てきて、風呂上りの一杯って言いながらそれ飲んで、やっぱり高級なのは違うわね〜って。」

「…これはいい話を聞いた。ルミよ、そのアクアとやらにその真実を教えてやりたいのだが…」

「し、知らぬが仏って言うしこのままにしといてあげて?」

「そ、そうですよ!アクア様がさすがに不憫です…」

「なかなかの悪感情を出してくれそうなのだがな。…まあ、仕方あるまい。さて、我輩はそろそろ行くとしよう。まだダンジョンの掃除が終わってないのでな。」

「んー、じゃあ私も帰ろうかな。少し長話しちゃったしね。」

「あ、そうですか?」

「うん。多分ダクネスも帰ってきてないからまた家でゴロゴロしてるんだろうけどね。」

「ではな。ルミ、赤字店主。」

「バ、バニルさん!」

「ウィズ、バニル、またね!」

 

 

「ただまー!」

 

そうして屋敷に帰ってきたルミだが、調度品が何もなく寒々としている屋敷はとても静かで誰もいないようだ。

 

「…あれ?」

『おかりー。』

「あ、アンナ。みんなはどうしたの?」

『さあ?最近イタズラの道具もなくて暇だからさっきまで屋根裏部屋の探検しててあまり知らないわ。何人かでドタバタ出て行ったみたいだけど…』

「んー、そっかー…置き手紙とかないかな…?」

『私は疲れたから寝るわねー。』

「あ、うん。…幽霊でも眠くなるのかな?」

 

置き手紙を探してルミは居間と自分の部屋を覗いてみた。すると、居間には何もなかったが、自分の部屋の寝具代わりの藁の上に手紙が置いていた。

 

「あ、あった。えっと…」

 

その手紙を開いて読むと、何やらダクネスの実家にみんなで向かったらしい。めぐみんはクエストに行ったらしいが。

 

「ダクネス帰ってきてたんだ。お見合い…っていうのはよくわかんないけど。めぐみんは…セナさんに言われてクエストか〜…どうしよ…私やることないや…万全な状態なら一人でもなんとかクエスト行けるんだけど…めぐみん手伝いに行くにしてもどこに行ったかもわかんないし…お薬作るのも片腕じゃ加減が変わっちゃうしなー…」

 

アクアならまだしも、ルミの性格上家でゴロゴロするという選択肢はない。寝ようとしたところで三分ほどで暇だと飛び起きるだろう。

 

「……ちょっと危ないかもだけどまあいっか。」

 

と、やりたいことを思いついたルミは少しのお金を持って、まず武器屋に出かけた。

 

 

武器屋で売っていた下から数えた方が早いくらいの安物の剣を片手にルミは街の門を出て行った。目的地までの道筋は先日行ったばかりなので覚えている。

 

「確かアクセルの街から一番近いダンジョンってここだよね。」

 

そうしてやってきたのはキールのダンジョンだ。朝に話をした限りではアクセルの街の近くのこのダンジョンにバニルがいる可能性が高いとルミは考え、危険かもしれないがいくつかスキルを組み合わせればなんとかなるだろうとやってきたのだった。

 

「明かりは…シュマリ、お願い。」

 

ルミが足元に手をかざすとその地面に幾何学模様が出てきてそこからシュマリが現れた。

 

「よし、じゃあ行こうかな。慎重…に?」

 

準備が整ったので突入しようかというところで入り口から小さな影が出てきた。

 

「………?」

 

それは小さな人形のようなもので、二頭身の何処かで見たことがあるような格好をしていた。

 

「……バニル?」

 

しばらく唖然といったかんじでそれを見つめていると、シュマリにそれが抱きついた。

 

「…?」

「キュー?」

 

少しすると、その人形が突然爆発した。

 

「うわぁっ⁉︎」

「キュー…!」

「あ、だ、大丈夫?シュマリ!」

 

シュマリは完全に動けなくなると煙のように消える、妖精のような存在だ。消えてないところを見ると、そこまで威力が高いわけではないようだが、かなり痛そうにしている。

 

「…あれ、絶対バニルだよね…?………なんでこんなことしてるのかわからないけど、会えばわかるかな…シュマリ、おいで。…ごめんね。無理させちゃうけど、明かりがないと入れないんだ…」

「キュー…」

 

ルミはシュマリを丁寧に抱えてダンジョンに踏み込んだ。

 

……………

 

「…一応警戒してたんだけど、あのバニルみたいな人形以外敵は出てこないね…」

 

アクアが泣いて帰ってきていたので楽ではないのだろうかと思っていたのだが、バニルの人形がその辺りを徘徊しているだけだった。バニル人形は触れてしまえば爆発はするものの、走ったりせずに何故か走ったりせずに歩くだけなので、避けて通るのはそこまで難しくはなかった。

 

「む?明かり?」

「あ、この声、バニルだ!」

 

ルミが歩いていると曲がり角からあの声が聞こえてきた。

 

「何故ルミがこんなところにいるのだ?」

「バニルが街の近くのダンジョンにいるって言ってたから会いにきたんだ。カズマたちがダクネス…あ、パーティーのメンバーなんだけど、その人の実家に行ったみたいで家に誰もいなかったんだよ。」

「ふむ、そうであったか。…しかし、一人でダンジョンに行こうとするのはあまり感心はせんな。何が起こった時にフォローが効かん。」

「隠れながら進んでたら大丈夫かと思って。この子の光量はある程度変えられるからね。…あ、そういえばあの人形なんなの?」

「この人形のことか?これは我輩がこのダンジョンの掃除のために土から作り出した爆弾である。加工するにしても、モンスターを追い出さぬことには始まらぬのでな。」

「そうなんだ…でも、それ何体か外でてたよ?シュマリも外で爆発に巻き込まれちゃったし…」

「む?ふむ…ダンジョン内の掃除は終わっていたか?ならばこれは崩してしまうとしよう。」

 

バニルがそう言うと、さっきまでバニルと同じ動きをしていた人形が土に戻って崩れ落ちた。

 

「まあ、まだ何もないところではあるが、茶ぐらいは出すとしよう。我がダンジョンの一番目の客であるからな。」

「ここってキールさんって人のダンジョンだったと思うけどいいのかなぁ…」

「ああ、それならば向こうの部屋にそれらしい跡があった。悪魔の我輩では近づけぬほどの忌々しい神聖な魔法陣が残っていたがな。…ルミは消すことはできぬか?」

 

うんざりといった様子でバニルは奥の方の部屋を指した。

 

「うーん…近づけはするだろうけど、魔法陣を消すのは無理かな…私そういうことあんまり知らないし、道具もないからね…」

「まあ、そうであろうな…」




新出のうたわれるもの用語はないと思われ。

バニルさんの表現、結構難しいかもしれない…

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