この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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ちょっとオリジナル寄りのストーリーになるとオリキャラってやっぱり出しやすいんですよね。まあ、ちょっとネタバレですがアルカンレティア行きの時は留守番組なので出番がほとんど無くなりますけど。


それでここに行くの?キールのダンジョン?

人には意識的なものかもしれないし、無意識的なものかもしれないが、それぞれ日課というものがある。それはどこの世界でも同じことだ。ある時間に一定のルートを散歩する人もいるだろうし、昼頃に毎日釣りをする人もいたり様々だ。もちろんルミにも、特に異常がなかったとしても毎朝薬を作るための草花を見て世話をするという日課はあるのだが、最近はそれにもう一つあることが加わっている。

 

「エクスプロージョンッ!!」

 

まだ冬で朝は寒いが、めぐみんのそんな声とともに打ち出された爆裂魔法により、強い熱風が吹き荒れた。

 

「はふぁっ…雪の日の一発もやはりいいものですね…」

「おおー、いつ見てもすごいなぁ。これ、また威力上がってる?」

「当然ですよ。私の爆裂魔法は!日々進化しているので す か ら!」

「力説してるけど、うつぶせに倒れてて色々カッコ悪いからな?ほら、また背負うぞー。」

 

気が済んで倒れためぐみんをカズマが背負い、その横をルミがついていく。かつてはデュラハンを怒らせてしまったこの日課だが、街の住民たちから苦情を受けつつもいまだに続いていた。屋敷に引っ越してきてからルミは毎朝草花の世話をしつつカズマとめぐみんが出かけていくのを見送っていたのだが、デストロイヤーの件のあとぐらいから好奇心でついていくようになっていた。

 

「そういや、前にゆんゆんとアッシュの二人と話してたことなんだけど、めぐみんが爆裂魔法撃った後も少し動けてたことに驚いてたぞ?」

「ああ、爆裂魔法撃った後でも動けるようになろうかと最近思いまして。あわよくば二発撃てるようになってもいいかと考えてます。」

「それはやめろ。ただでさえ苦情来てるのに二倍になってたまるか。」

「戦ったり冒険する上ではいいんだけどね…」

「そうですよ。あのデュラハンが来た時の雑魚だって私が二発撃ててれば全滅もできたんです。ルミが怪我することもなかったんですよ?」

「…仮に二発撃てるようになろうとしてできるようになるのは一体いつなんだ?」

「スキルポイントを低燃費にする方に分配しても多分数年はかかるかと。まあ誘惑に負けて威力上昇にも注ぎ込むと思いますけど。」

「そんなことだと思ったよ…」

「そのころにはカズマが爆裂魔法を覚えれるぐらいスキルポイント貯まってるんじゃない?」

「確かにそうですね!カズマ、爆裂魔法を覚えるという選択肢をもう一度考えてみてはどうですか?」

「覚えても撃てないだろ俺の魔力じゃ…」

「その辺りはアイテムでなんとかしてくださいよ。」

「そこまでして使いたいとは思えないぞ…」

 

 

そんな日が数日続き、今現在のパーティーメンバー四人でギルドのテーブルに座っていた。テーブルの真ん中にはカエルの唐揚げが入っていた皿が一つだけ置いている。周りが騒がしい中、沈痛な雰囲気を出しつつカズマが口を開いた。

 

「………明日はダンジョンに行きます。」

「……嫌です……」

「…行きます。「…嫌です」行きます!「嫌です!」行きます!!」

「嫌です!ダンジョンなんて爆裂魔法撃てないじゃないですか!そんな所、私もう本当にただの一般人…」

「お前仲間になるときに荷物持ちでも何でもするって言ったよな。だから今回は爆裂魔法禁止で荷物持ちだ!」

「ねぇ、なんでダンジョンに行かなきゃいけないの?バイトの給料も上げてもらったのにそれでもダメなの?」

「そんな金じゃ足りないんだよ!今や俺たちの借金は国家予算並みだ!少しのクエスト報酬じゃ天引きされて行って間に合わないんだよ!」

「それでここに行くの?キールのダンジョン?」

「キールの…そこって、もう探索され尽くしてたんじゃないですか?」

「最近新しい道が見つかったらしくてな。ルナさんが金に困ってるだろうからって俺に先に教えてくれたんだ。他の冒険者は前のデストロイヤーの報酬で潤ってるらしいしな…」

「まあ、そう言うことなら。ただし、荷物持ちはしますけど、あまり期待はしないでくださいよ。アークウィザードは身体能力的には一般人と変わりませんからね。」

「まあ、その辺りはわかってるよ。」

 

 

そうして次の日、パーティーの全員でキールのダンジョンの前までやって来た。

 

「空は快晴!絶好の爆裂魔法日和ですね!カズマ!試しに一発…」

「め、めぐみんストップ…」

「やめろよ?」

「うっ………」

「…やめろよ?とりあえずルミ、荷物ありがとな。ほとんど任せちまった。」

「ああ、このぐらいなら大丈夫だよ。ちょっとしたアイテムと食べ物だけだしね。」

「じゃあ、ダンジョン攻略だが、まずは俺一人で行ってくる。」

「…あんた何言ってんの?最弱の冒険者のくせにあんた何言ってんの!プークスクスー!」

「まあ聞け。ダンジョンの中は真っ暗だから普通は松明だとかを持つもんだ。だが、俺には千里眼スキルがある。これを使えば真っ暗なダンジョンの中でも昼と同じように見えるってわけだ。光源を持たなければモンスターにも気づかれにくいし、気づかれたとしても潜伏スキルで隠れればいい。この二つのスキルを組み合わせれば暗いダンジョンのなかをモンスターとエンカウントせずに探索できるってわけだ。」

「カズマさんってば、アンデッドに潜伏スキルが効かないってこと知らないの?」

「うっ…そうなのか?」

「しょーがないわねぇー!私が付いてってあげるわよ!」

「アクア、暗い所行くのに見えるの?」

「ふふん、女神としての能力はほとんどなくなってるけど暗闇ぐらいならなんてことないわよ。」

「…まあ、嘘か本当かはわからんがアンデッド対策が必要なのは事実だしな…じゃあ、俺とアクアで行ってくるよ。ルミとめぐみんはこの辺りで待っててくれ。…めぐみん、俺の言わんとしてることはわかるな?」

「う…わかりましたよ…地下が崩壊なんてしたら大変ですから爆裂魔法は我慢します…」

「じゃあカズマ、アクア、行ってらっしゃい!」

 

そうして、カズマとアクアはダンジョンの中に入って行った。

 

……………

 

「暇だね、めぐみん…」

「まあ、やることないですからね…爆裂魔法のポーズとかの練習でもしましょうかね。ちょむすけー、リアクションをお願いします。」

「ナー。」

「あ、そういえば私この子のこと知らなかったや。ちょむすけって言うの?」

「はい、そうですよ。」

 

ルミはちょむすけのことをまじまじと見つめると、普通の猫には生えていないはずの羽を見つけた。

 

「羽とか生えてて可愛いね!」

「ですよね!私としては、この何を考えているかよくわからない感じの目もいいと思うんですけど。」

「あー、確かに。」

 

この場にツッコミ役はいなかった。

 

「よろしくね、ちょむすけ。私はルミって言うんだ。」

「にゃー。」

「あ、頭に登って来た。」

 

ちょむすけはルミの頭によじ登ってテシテシと頭を叩き始めた。

 

「気に入られたみたいですね。」

「あはは…ちょっと重いかも…」

「ああ、それもそうですよね。降りてあげてください、ちょむすけ。」

 

少し名残惜しそうにしていたが、そこまで拒否することもなく降りてきた。

 

「ではやりますよちょむすけ。リアクションお願いしますね。」

「ポーズの練習ってどういうものなの?」

「そうですね…例えばこんなポーズ…キャベツを吹き飛ばした時のものですけど、どう思います?」

「かっこいいと思うよ。」

「そうでしょうそうでしょう。では、直立不動、杖だけ向けてエクスプロージョン…どう思います?」

「…なんかめぐみんらしくない気がする。」

「そう!それです!私が求めていた答えそのものですよ!爆裂魔法は最強魔法、ならばそれに対して使い手である私も応えなければなりません!もし直立不動でエクスプロージョンを扱うなんてことになればエクスプロージョンに対して凄い失礼にあたりますし、何より私が許せません!エクスプロージョンを扱う者ならば、ポーズまで完璧にする必要があるのです!そう!このポーズは威力を高める効果はなかろうが私のアイデンティティとすら言えるものなのです!」

「おお〜!」

 

途中からめぐみんが何を言ってるのかわからなくなってきたが、めぐみんの目がキラキラしていたので何かすごいことを言っているんだな、とルミは判断した。

 

「さて、ここでルミにもう一つ問題です。エクスプロージョンには必要なものが…まあいくつもあるんですが、特に重要なものがあります。なんだと思いますか?」

「うーん…やっぱり魔法なんだし詠唱とか欲しいかな?」

「その通りです!その通りですよ!やはりルミは話がわかりますね!そう、スタイリッシュなポーズが決まれば次はそれに相応しいクールな詠唱が必要なのです!もちろん、クールであったとしてもそれがポーズに必ずしもあうとは限りません。しかし!それでもマッチした時の相乗効果は言葉にできないほどに素晴らしいものになるはずなのです!」

「ハーモニーってやつだね?」

「ハーモニーってやつです!」

 

それからしばらく二人の会話は謎の盛り上がりを見せた。

 

……………

 

「穿て!エクスプロージョン!」

「…ニャァァァァ!」

「今のいい感じだったね!」

「はい!我ながらいい詠唱が出来たと思います!すぐにでもぶっ放したいですね!」

「わわ、それはストップ!ここで撃ったら地下が崩れちゃうよ!」

「冗談ですよ。」

 

数時間ほど経過したが、カズマとアクアはまだ帰ってきていない。ここに残ったのは一応は荷物の警戒という面もあるのだが、そんなことは完全に抜け落ちているようにしか見えない。

 

「それにしても、二人は大丈夫でしょうか?私たちはこうして暇を持て余しているわけですけど…」

「うーん、どうなんだろ?まあ、アクアもついてるんだしなんとかはなるとは思うけど…」

「それもそうですね。アクアの回復魔法はすごいですから…そういえば、いきなりですけどルミって今どうやって戦闘するんですか?素手で戦うわけでもないでしょう?」

「私?んー、片手で武器を使うのも考えたんだけど、武器も持っていかれちゃったし無いはずの左腕を使う動きしちゃいそうだから遠距離から攻撃することにして呪術を使うことにしたんだ。」

「呪術…魔法みたいなものって言ってましたね。ルミは魔力はほとんどないって言ってましたけど大丈夫なんですか?」

「ああ、そこは大丈夫。あくまで魔法みたいなものだから魔力は使わないんだ。なんていうんだろ…魔力とは違う精神力みたいなの?で使う感じかな。」

「アバウトですね…」

「まあ私自身よくわかってないからね。そういうのが使えるから使ってるってかんじだし…ん?」

 

少し大きめの声で話していたからか、持ってきていた荷物の食料に釣られたのか、ルミは何者かの気配を感じた。

 

「…めぐみん、何か近づいてきてる…」

「…モンスターですか?」

「わからない…数は多分一体だと思うけど…」

「地下にカズマとアクアがいるので爆裂魔法は撃てません…どうしましょう…」

 

二人が警戒していると、こちらに脅威をあまり感じなかったためか、真正面から黒い影が現れた。それは二人に見覚えがあるものだった。

 

「しょ、初心者殺し…!」

「ルミ、これはまずいです…!爆裂魔法であれば一発でしょうが、当たってくれるほど遅くない上に、カズマたちが危険になります…」

「…今の私たちじゃ近づかれたらダメだ。とりあえず足止めしないと!…烈火双覇斬!」

 

一瞬だけ出来うる限り極限まで集中してルミ的には精神力のようなものを手に集めて横薙ぎに振るうと、炎が壁状に吹き上がった。

 

「…はぁっ…!はぁっ…!めぐみん、今のうちに距離を取ろう!」

「わ、わかりました!荷物は…私の杖以外はそんなこと言ってる場合じゃないですね…!」

 

……………

 

キールのダンジョン付近から逃げ出した二人はダンジョンまでの整備された道から少し離れて木々の間で隠れていた。

 

「はぁ…ふぅ…」

「ルミ、大丈夫ですか?あの呪術というものを一度使っただけでこんなに…」

「あれね…ホントは準備に少し時間がいるんだ…無理やり使ったから消耗が激しくって…」

「…それにしても…」

 

めぐみんは帽子を一度外してわずかに木から顔をのぞかせると黒い影が見えた。初心者殺しはまだ自分たちを探しているようだ。

 

「ルミの火のおかげで嗅覚はダメになってるみたいですけど、見つかるのは時間の問題かもしれないですね…」

「見つけたっす…誰かの狼煙のおかげで意外とすんなり見つけられたっすね…」

「「「…ん?」」」

 

めぐみんとルミは唐突に声がしてきた方をみると、そこには知り合いがいた。

 

「アシュリーじゃないですか?」

「あれ?姉さんなんだってこんなとこに?」

「それは私のセリフですよ…」

「…ってルミ⁉︎どうしたんっすか⁉︎」

「逃げるために特技使ったんだけど無理しちゃって…」

 

アッシュは小声で叫ぶという器用なことをしつつルミとめぐみんの状況確認をした。

 

「なるほど、待機してるところに初心者殺しが…まぁ、ちょうどいいっす。僕、今日は初心者殺しを倒しにきたっすからね。」

「初心者殺しを倒すクエストが出てたの?」

「ルナさんに直接教えてもらったっす。いやー、今月厳しくて…っと、そろそろ話は終わりっすね…気付かれたみたいっす。」

 

初心者殺しはこちらに目を向けていた。すでに臨戦態勢のようだ。

 

「…アッシュに警戒してるみたい…」

「アシュリー、なんとかなりそうですか?」

「わかんないっすよ…まあ、姉さんと別々の旅路になってから僕だって頑張って強くなったっす。なんとかしてみせるっすよ。」

 

いつの間にやら手に持っていた槍を構えて、アッシュは一歩前に出た。

 

「…まあ、真正面からはやらないっすけどね。」

 

槍の柄を地面に当てると魔法陣が展開され、少し遅れてアッシュの視線の先にある初心者殺しの足元にも同じような魔法陣が描かれた。初心者殺しは驚いたのか、動きを止めている。

 

「警戒するのも仕方ないっすけど、 それが命取りっすね。」

 

槍を数回くるくると回し、次は刃の部分を地面に向けて突き立てた。

 

「突き上げろっす!大槍原!」

 

すると、初心者殺しの下に浮かんだ魔法陣からいくつもの半透明の槍が突き出てきた。だが、野生の勘が働いたのか初心者殺しは身をよじってなんとか避けているようだ。

 

「うわっ⁉︎槍が生えた⁉︎」

「い、いいですよアシュリー!その調子です!」

「…あー、これ多分僕の攻撃じゃ倒しきれないっすね…今当てれそうな攻撃でこれ以上強力なのないっす…」

「マジですか⁉︎」

「出落ちもいいとこっすけどマジっす!いつもなら僕が足止めでゆんゆんさんにトドメって感じだったんで威力高い攻撃はあんまり無いんすよ!姉さん今爆裂魔法撃てないっすか?」

「地下にカズマたちがいるから無理だよ!ど、どうしよ⁉︎」

「え、でもダンジョンの入り口からはもう結構離れてるっすよ?ダメっすか?」

「…あ。」

「あ…いいですかアシュリー!絶対に倒さないでくださいよ!私の爆裂魔法で倒しますから!」

「それなら足止めは任せるっす!」

「私も手伝うよ!」

「じゃあ行くっす!まずは足止めのための足止めっす!大槍原!」

「次に風!」

 

めぐみんが詠唱を始める。再びアッシュが槍を生やして足を止め、その間にルミがその周囲に風を起こした。それに向かってアッシュは走り、槍で地面を削りながら初心者殺しを一周した。その間にルミはさらに詠唱を続ける。

 

「火槍壁!」

「烈火双覇斬!」

 

アッシュが削った所とさらにその周囲に、二重の炎の壁がはられた。初心者殺しは槍が突き出てくる場所から逃げようにも風でさらに強まっている炎の壁に阻まれ出ることはできない。

 

「姉さん!」

「めぐみん!」

「真打登場…これが、私たちの絆が織りなす最強の連携!エクスプロージョン!」

 

いつもより気分が乗ったのか、いつにも増してとてつもない爆発が初心者殺しを飲み込んだ。

 

……………

 

「「何があったのか聞いてもいいか(ですか)?」」

 

カズマとめぐみんは声を合わせて互いに尋ねた。カズマとアクアのペアはアクアが号泣しており、めぐみんとルミのペアの方ではめぐみんが真横に寝転びながらカズマの方を見ており、ルミも肩で息をしている。

 

「なんでここにアッシュがいるんだ?後、なんでめぐみんは倒れててルミまで疲れてるんだ?」

「えっと…前にパーティーを交換した時に追い払った初心者殺しがいたでしょ?それがこの辺りにいたらしくて、私とめぐみんに襲いかかってきたんだ。」

「爆裂魔法を撃つことも考えたんですが、ルミが近距離で戦えませんから撹乱もできませんし、私が爆裂魔法を使ったところでおそらくは避けられる上に地下にカズマたちもいたのでどうしようもなくて…少し離れたところに逃げたんです。」

「そこで、初心者殺し討伐のクエストを受けてた僕が偶然合流して、なんとか三人で連携して初心者殺しを爆裂魔法で倒したっす…想定外に初心者殺しに気づかれちゃって苦戦しちゃったっす。」

「それについてはごめんね…不意打ち狙ってたんだろうけど、私たちのせいで初心者殺しも警戒してたみたいだから…」

「ルミと姉さんのせいじゃないっすよ。」

「そっちも…ってか、そっちの方が色々大変だったんだな…」

「あ、それで、なんでアクアは泣いてるの?」

「アクアがアンデッドを呼び寄せてるらしいから置いてけぼりにした。」

「あー…」

「それ、アクアさんがアークプリーストってこと考えても酷くないっすか?」

「いや、仕方ないだろ…潜伏使ったってアンデッドには気づかれるからアクアを囮にするしか俺は助からなかったんだ。アクアなら自衛できるけど俺は特攻スキルもなければそんな強くないからな…」

「うーん…それは仕方ないんすかね…?」

「まあ、みんな無事ならいいとは思うけど…」

「アクアが泣くのもいつものことですからね。」

「ええ…ホントにいいんすかこれ…?」

 

日が暮れてきたダンジョンの前でアクアの泣く声が響き渡っていた。

 

 

ダンジョン探索で大量の収入が入ってギルドでカズマたちが騒いでいる。だが、ルミはそれに入らずにギルドの屋根の上にいた。

 

「ふー。たまには静かに過ごすのも悪くないよね…」

 

騒がしいのも嫌いではないが、この日はなんとなく静かに飲みたい気分だった。

 

「いつもはダクネスとかに止められてるけど…まあ、自分で作ってたやつだし、たまにはいいよね。悪酔いしないぐらいにはしとこ。」

 

先日、久々に友達のギギリたちと会いに帰った時に、もてなす機会もあるかもしれないと何故か知識があったために作っていた酒を持って帰ってきていた。

 

「飲みやすいシュワシュワだね、これ。」

「…あれ?誰?」

「私はクリス。盗賊だよ。」

「あー、潜伏スキルかぁ。カズマも使ってるな。」

「やっぱりカズマのとこのパーティーの子だよね?」

「知ってるの?」

「カズマに盗賊スキルを教えたのは私だからね。ダクネスをカズマに紹介したんだけど、多分その時はルミちゃんとは入れ違いになってたんだと思うよ。」

「そうだったんだ。あ、このお酒持って帰る?」

「いいの?高そうなシュワシュワだけど。」

「いいよ。私が作ったやつだからね。材料が生えてて、私の家まで来た人にもてなそうと思ってたやつだから原価はタダだしお金を取る気もないよ。」

「へー、それはすごいね。でも貰うのは遠慮しようかな。」

「そう?」

「貰うんじゃなくて盗賊らしく頂いていくよ。欲しくなったらね。あ、そうだ。」

「ん?どうしたの?」

「これ、君のでしょ?」

 

そう言われ、クリスの手元を見るとそこにはルミが知っているものがあった。

 

「こ、これ仮面!どこにあったの⁉︎」

「町の外に落ちてたんだ。多分誰にも回収されなかったんだと思うよ。」

「そうだったのかな…あれ?なんでこれ私のだってわかったの?」

「え?…それは…その仮面が教えてくれたんだよ。持ち主のところに帰りたいって。…ほら、盗賊だからそういうアイテムの鑑定みたいなのもできるんだよ!」

「なるほど。…でも、それって盗賊っていうよりは商人のスキルのような…」

「私はもういくね!カズマの探索成功のお祝いにも行きたいから!あ、このシュワシュワの瓶は頂いていくよ!あんまり仮面は使い過ぎないようにね!」

「あ!ありがとね!クリス!」

 

最後の方は早口でできるだけ早く去ろうとしていたようだが、ルミは特にそれを怪しがることもなく、月見を再開した。その時、下が少し騒がしくなって来て、ついさっき別れたはずのクリスの声が聞こえて来た。

 

(パンツ返してぇ!)

「…うん、カズマがいるしこれもいつも通りだね。」

 

時々こうして騒がしくなるのもこの街の風物詩だよねー、と思いながらその声を肴にしてコップに入っていた酒を飲んだ。




ちょむすけはちゃんと身を隠してました。

お酒は二十歳になってから、飲んでも飲まれるな、です。

うたわれるもの用語
烈火双覇斬…ウルゥル・サラァナの技。本来は一発目に呪い付与の攻撃が入りますが今回はカット。元々は二人で風と火を同時に起こすものなので、一人の上に片腕のルミでは片方ずつでしか使えないことにしました。

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