「あの臭いさえ気にしなければ美味いんだよ…臭いさえなければ…あの爺さんいい性格してるよ…」
「た、確かに少し離れててもちょっと変な臭いしたかも…」
「お、おい、それじゃなんか俺が臭かったみたいじゃないか…」
「まあまあ、過ぎたことっすよ…あ、でもクマの形のやつはホントに甘くて美味しかったっす。」
そんな談笑をしているうちに、露店の数が少なくなってきた。
「そろそろ露店が並んでるところが終わりますけど、どこか行くところとかあるっすかー?カズマさんは。」
「んー…そういえば、昨日めぐみんにゆんゆんからの戦利品だってこれもらったんだけど…」
「あ、マナタイトっすね。」
「やっぱりめぐみんは使う気ないのね…確かにめぐみんの魔力だと全回復できないけど…」
「ゆんゆん、これってどういうものなんだ?めぐみんが借金返済の足しにしてくれって言ってきたんだが…」
「魔力回復のためのアイテムです。高純度のやつなら確かにすごく高いんですけど、昨日めぐみんに渡したそのマナタイトはそこまで品質よくないんです。」
「それでも数万はするっすけどね。」
「これ一つでか…」
「ホントにすごいマナタイトだったらどれぐらいするの?」
「そりゃとんでもないっすよ。確か数千万だかの値がついたのもあったはずっす。まあ、そんなのだいたい貴族とか王族の人たちが買って保管したりするんでしょうけど。」
「まあ、数千万とか冒険者には買えないよな。」
「しかも、そんな値がつくぐらいのマナタイトなんて使いにくいっすよ。今カズマさんが持ってるそれぐらいのが使い捨てにするなら使いやすいっす。」
「そうなのか?」
「数千万どころか百万程度のやつでも使い捨てにするつもりで使ったら、魔力が入ってき過ぎてボンッて破裂するっすよ。…物理的に。」
「…やっぱり魔力って入れ過ぎたら破裂するもんなのか…?」
「そういえば前にめぐみんがマナタイト製の杖買ってたよね。持っていかれちゃったけど…」
「装備に使うのはだいたい数十万レベルのマナタイトっすね。そのあたりの値段のやつぐらいから魔力増幅の効果も大きくなるっすし、すぐ壊れることもないっす。」
「なんかアイテム一つでも奥が深いんだな…まあ、パーティーに使うのが誰もいないなら売っていいか。」
「マナタイトを売るなら、やっぱり魔道具のお店がいいですよ。」
「それもそうだな。」
「あ、じゃあウィズのとこでいいんじゃないかな?魔道具店だし。」
「あれ?あそこってお薬屋さんじゃなかった?」
「いや、あそこはウィズ魔道具店っすよゆんゆんさん。最近はいい感じの薬が売られててメインのはずの魔道具の影が霞んできてるらしいっすけど…」
「ルミのやつだな…」
「ああ、そういえばルミが友達のところで、作った薬を売ってもらってるって言ってたっすね。」
「そ、そうなのね…なんだかルミちゃんとかアシュリーちゃんを見てると人と話すのが苦手なのが少し恥ずかしいわ…」
「まあ、子供はそういうのは得意だからな。人の得意不得意もそれぞれ違うんだし、そこまで気にしなくてもいいんじゃないか?」
「そ、そうですよね!」
○
「あれ?ルミにカズマに…アシュリーとゆんゆん?珍しい組み合わせですね。」
四人がウィズの店に入ると、ウィズと一緒にお茶をしているめぐみんがいた。
「め、めぐみん⁉︎」
「あ、ホントだ。今日はウィズのお店に用事があったの?」
「いえ、そう言うわけでもないですよ。適当に歩いててこの店の前を通ったので、爆裂魔法のなんたるかをウィズと話していたんです。どういう思いでぶっ放せばより強力になるのかと…」
「思いって…爆裂魔法にあれだけこだわってるのはお前ぐらいだろ…ウィズが爆裂魔法をとってるのだって、好きで取ってるわけじゃなくてリッチーだからスキルポイント余ってるからなんだろうし…」
「へー、ウィズさんってリッチーだったんすね。すごい実力だって噂も納得っす。」
「あ。」
「ウィ、ウィズは悪いリッチーじゃないよ!」
ルミがウィズの前に立ってかばう。後ろではウィズが少し涙目になりながらコクコクと頷いている。
「あ、いやそんな怖がらなくっても…問答無用で倒すなんてしないっすし、そもそもリッチーに勝てる自信もないっす。」
「よ、よかったです…」
「あ、でもリッチーって割にはリッチなわけじゃないんすね。」
「「………」」
「…お、おう。」
「…ちょっと場を和ませようとテキトーなこと言っただけっすよ。そんな白けなくてもいいじゃないっすか。」
「確かにウィズは貧乏だけど…」
「いや、ルミ、反応するとこはそこじゃない。」
「ここで会ったが百年目!めぐみん、勝負よ!今日こそ私が勝つんだから!」
「嫌ですよ。」
「ええっ⁉︎」
「昨日も言ったじゃないですか。私は爆裂魔法しか使えないから魔法勝負はできないし、体術勝負は昨日しました。何で勝負するんですか?」
「そ、それは…えっと…あ、魔力を使うようなアイテムとかでどれぐらい効果が出るかを競うとか…」
「そんな都合のいいものあります?そもそもここにあるアイテムはウィズの売り物ですから消耗品は言うに及ばず、お試しで使っていいってやつぐらいしか使えないですよ?」
それもそうねと難しい顔でゆんゆんは改めて考える。せっかくめぐみんがいるのだから勝手も負けてもいいから何か勝負をしたいと思っていると、ルミがウィズに話しかけた。
「んー…ねぇウィズ、魔力で映像が出てくる水晶ってあったけど、あれって魔力の量で出てくる数が増えるんだよね?」
「ああ、そうですね。使ってみますか?」
「そんなのがあるんですか?」
「これです。一応友達を作る水晶ということで売り出して…」
「是非使わせてください!」
ゆんゆんはウィズにつかみかかる勢いで迫った。
「どしたのゆんゆん?」
「あー…まあ、気にしないでいいっすよ。少ししたら治るっすから…」
「で、では、とりあえずここに水晶を置きますので、二人一緒に魔力を注いでください。魔力が足りていれば映像が出てきます。」
「行くわよめぐみん!絶対に負けないわ!そしてあわよくばもっと仲良く…えへへ…」
「?…最後の方はよく聞こえませんでしたが、まあいいです、その勝負受けて立ちましょう!今日も負かせてやりますよ!」
めぐみんとゆんゆんは二人で盛り上がっている。とりあえずなんとなく間には入りづらい空気なので、他の四人は横に寄った。
「なあ、ルミがウィズにあの水晶のこと言ったけど、知ってたのか?」
「うん。最初にお店に来た時に、ウィズと一緒に使ったんだ。まあ、私はあんまり魔力はないからウィズがほとんどやってくれたんだけど。」
「ルミとウィズさんは品物を売ってくれるぐらい仲が良いみたいっすし、効果はあるってことなんすかね?」
「あー………それはどうだろ…」
「さあ行くわよめぐみん!今の私は負ける気がしないわ!」
「寝言は寝てから言ってください!」
「「はぁーー!」」
二人で魔力を水晶に込めていくと、周囲に大量の映像が浮かび上がって来た。
「わぁ、すごい量だ!」
「ええ、私もここまでは見たことありません。」
「さすが紅魔族ってとこだな。」
「まあ、あの二人の魔力量はぶっ飛んでるっすからね〜。」
そんなわけで浮かび上がった映像をそれぞれがなんとなく見てみると………
ーーーーー
めぐみんが捨てられる予定のパンの耳をくわえつつ袋に入れている。その後ろではアシュリーが人が来ないか見張っているようだ。
『おめでとう〜。』
『おめでとーっす!』
ゆんゆんが大きなテーブルの上座に座り、アシュリーが下座の方で座っている。二人でゆんゆんの誕生日を祝っているようだ。だが、五つほど、空席がある。
『こらー!』
………
『姉ちゃんとアシュリーすっごーい!』
『ふっ!』
『こんなもんっすよ!』
めぐみんとアシュリーが畑から野菜を強奪して来たようだ。隣では小さな女の子がはしゃいでいる。
ゆんゆんが犬においでと手を差し伸べている。犬はとてつもないスピードで逃げ出した。少し落ち込みかけるが、近くに花を見つけた。少しその匂いをかごうとしたが、突然花に足が生えて逃げ出していった。落ち込みつつ、気配を感じて後ろを振り返ると、アシュリーが可哀想な目でゆんゆんを見ていて、気まずそうに話しかけてきた。
ーーーーー
他にも様々な映像があった。
「「「アーーーーー!」」」
それらによってめぐみんとゆんゆん、そして勝負に関係のないはずのアシュリーまで精神にダメージを負っていた。
「て、店主さん!この水晶で仲が良くなるんじゃないんですか⁉︎」
「っていうかなんで僕まで映像に映ってるんすか⁉︎」
「こ、これはお互いの恥ずかしい過去を晒してもっと親密になろうという…そういう…もの、なん…です…」
「め、めぐみん!これ、ホントに私たち仲良くなれたの⁉︎ねえめぐみん!」
「こんなのただの黒歴史じゃないっすか!いやゆんゆんさんとめぐみんの姉さんと過ごす映像なのは別にいいっすけど映像の選択に悪意を感じるっすよ!」
「……どりゃぁぁぁ!」
「「「「「あーーー⁉︎」」」」」
色々耐えられなくなっためぐみんは水晶を持ち上げて地面に叩きつけた。水晶はしめやかに爆発四散!サヨナラ!
言い回しに突っ込んではいけない。いいね?
……………
「水晶のお代はカズマさんにつけておきますね。」
「なんで俺が…」
「勝負が…せっかくの勝負が…」
「いつまでそうしているのですか…もう子供じゃないんですからそのぐらいで落ち込まなくていいでしょう。」
「だって!めぐみんはいいの⁉︎」
「私はもう大人ですからね。そんなことで動じたりしませんよ。」
「あ、そういえばだいぶ前にどっちが大人か勝負したことあったわね!比べてみる?」
「そういう意味での大人じゃありませんよ。私はもう…このカズマと一緒にお風呂に入った関係ですから。」
「なっ、お前何言ってんだ⁉︎」
「………ええーーーーー⁉︎」
その言葉であれこれ想像したゆんゆんは顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
「きょっ、今日のところは私の負けにしておいてあげるわ!うわぁぁぁん!」
「またどうぞー。」
そしてそのまま走って逃げていった。
「…今日も勝ちっ!」
「うーん…ゆんゆんどうしたんだろ…?」
「あー…まあ、うん、ルミは気にしないでいいんじゃないっすかね?ゆんゆんさんは色々と勘違いしたんすよ。多分。…あ、僕はゆんゆん追いかけるっすから、また今度っす。ウィズさん、お邪魔したっすよー。」
「あ、はーい。」
そうしてウィズの店の中には割と普段から入り浸っている人物が残った。
「ゆんゆんはああいうところは相変わらずよくわからないですね…」
「いや、お前な…」
「私たちどうする?特にやることもなくなっちゃったし、何か晩ご飯の買ってから帰る?」
「あー…まあ、そうだな。」
「あ、そういえばダクネスはまだ帰ってこないのかな?」
「確かに遅い気はしますけど、まだ用事が終わってないのでしょう。私たちにできることもないですし、気長に待つしかないですね。まあ、ダクネスは必ず帰ってきますよ。」
「それもそだね。じゃあウィズ、私たちも行くよ。また今度ね!」
「はい!また来てくださいねー。」
やったねゆんゆん友達増えるよ!