街に戻って来た後、口を滑らせたカズマがめぐみんに抱きつかれてヌルヌルになり、それを止めようとしてルミまでヌルヌルになってしまった。
「…カエル臭い…!こんなに嬉しくない抱擁は初めてだ…」
「とりあえずお風呂入らないと…」
「じゃあ俺、先に入るから」
家に帰って来てカズマがそう言って歩き出したところをめぐみんが服を掴んで止めた。
「なんだよめぐみん。」
「…レディーファーストって言葉…知ってますか?」
「俺は真の男女平等を願うもの。都合のいい時だけ女の権利を主張し、都合の悪い時は男のくせにとか言っちゃう輩は許さない人間だ。」
「「………」」
「…?」
めぐみんとカズマがそうして無言になり、状況があまりわかってないルミは疑問符を浮かべている。そして、少しの間をおいてカズマとめぐみんが全速力で風呂場に走り出した。ルミはその後ろをついていった。
「お前追いかけてくんなよ!そもそもレディーファーストとか言うんならせめて一端のレディーになってからにしたまえ!」
「今私を子供扱いしましたね⁉︎一応言っときますが三つしか歳が違わないのですよ⁉︎」
カズマとめぐみんはそうして棚なども持って行かれた脱衣所で言い争う。ルミはその後ろでぱっぱと服を脱いで風呂場に入った。
「俺の目には今のお前はただの子供にしか映らないから無駄なことだ!俺が一番風呂だ!」
「こ、この男本当に脱ぎ出しましたよ⁉︎」
「俺は絶対に譲らない!そう、絶対にだ!」
「い、いいでしょう…カズマが私のことを女としてみていな…あれ?」
「ん?どうしためぐみん。」
「…もうルミが入ってますよ。…言い争ってるのがバカバカしくなってきたんですが…」
「…あー…そうだな。…もうこの際一緒に入るか?めぐみんも粘液まみれは嫌だろ。」
「…まあバスタオルすれば問題ないですかね。」
……………
「「「はふぅ〜………」」」
なんか色々とふっきれた感じのカズマとめぐみんも合わせた三人で湯船に浸かる。
「…なあめぐみん。」
「はい?」
「ゆんゆんって子、あのままにしててよかったのか?」
「アシュリーが来てましたし多分大丈夫ですよ。」
「そういえば、ゆんゆんとアッシュってどういう関係なのー?」
「そうですねー…アシュリーはゆんゆんの数少ない友人ですかね。アシュリーにとっても話が合う友人って感じだと思いますよ。ゆんゆんはなぜか名乗りたがらない変わり者ですけど、アシュリーはその辺りあまり気にしませんから。」
「…あれ?めぐみんの故郷ってそういうの気にするの〜?」
「気にするっていうか、不可解です。なぜ名乗るタイミングがあるのに名乗らないのか理解できません。」
「でも、めぐみんは結構仲良さげだったよな?」
「まあ、多少は影響ありますけど、仲の良さは別問題ですよ。そんなこと言ったら、私だって我が爆裂道を理解できない人たちと友人になれないじゃないですか。」
「おかしいって自覚はあんのかよ…」
「そりゃ、私が爆裂道を極めんとしたきっかけが特異なことだってぐらい分かります。あれはそう…」
「…話が長くそうだから別にいいよ…そういやアッシュがめぐみんのこと姉さんって呼んでたけどあれはなんでだ?ゆんゆんって子より慕ってた感じしたけど。」
「ああ…まあ、そうですね…ちょっとした協力関係にあったんですよ。うん。」
「なんか歯切れ悪い〜?」
「ル、ルミは何を言っているのですか⁉︎そそそ、そんなわけないじゃないですかぁ!」
「?…そっかー。じゃあ気のせいかー。」
「…………」
カズマは真顔でめぐみんの方を見つめる。
「そ、そんなに見ないでくださいよ…なんですか。」
「……ルミはともかく、なんでめぐみんと俺一緒に風呂入ってんの?」
「い、今更ですか⁉︎どうして急に冷静になるんですか⁉︎」
「いや…だって…」
「…?」
相変わらずハテナマークが頭に浮かぶルミだが、その耳に何か音が聞こえた気がした。
「…あれ?誰かが屋敷に入って来た?」
「え、ちょ」
『ただまー』
「「⁉︎」」
「あれ?どしたのー、二人とも。」
聞こえて来たのはアクアの声だった。
「さ、さすがに俺とめぐみんが一緒にいるとこを見られるのはまずいぞ…!」
「そ、それはそうですけど……ど、どうしましょう⁉︎」
『誰もいないのー?ただまー。おかえりを言って欲しいんですけどー。』
「アクアおか…」
「ちょ、待ってくれルミ…!」
「ど、どうするんですか…!」
「こ、ここにアクアを入らせるわけにはいかない!フリーズ!」
「鍵締めればいいんじゃないかな…あれ?付いてなかったっけ?」
「鍵、今修理中なんですよ。」
「バレるわけにはいかない…!持ってくれ、俺の魔力!」
「うわぁ。」
「………」
カズマがドアを氷漬けにしていくが、少しずつ、手から放出される冷気が収まっていく。
「もう立つ力も残ってねぇ…」
そうしてカズマは奇声っぽい声とともに床に倒れこんだ。
『お風呂場ー?早く出てよね〜。私もヌルヌルなんですけど〜。』
「危なかったですね。あのままでは危うく」
「危うく俺がロリコン認定されるところだった…」
「?…ねーねー、めぐみんー、ろりこんってなーにー?」
「………」
めぐみんは答えない。
「カズマー。」
「なぁ、めぐみんでもルミでもどっちでもいいんだけど、体拭いてくれないか?」
「むー…無視しないでよ〜………まあいいや〜…」
「…おい…私とお風呂に入ったらロリコン認定される件…その辺のことについてちゃんと話そうじゃないか…」
「ちょ、ちょ待…ル、ルミ、助け」
「はふぅ〜…」
「ア、アクアー!アクアー!ロリっ娘にイタズラされる〜!!!」
ルミは二人に聞いたのに答えてくれなかったのでお風呂を楽しむことにして表情をほにゃりとさせており、カズマの言葉に反応がなさそうだったのでアクアを呼び出した。
「なによー、私に混浴したいとか言う願望なんてないんだけ…ど……」
「アクア!助けてくれ!」
裸のカズマの背中にバスタオル一枚のめぐみんが馬乗りになって拳を鳴らしており、開け放たれた風呂場ではルミが気持ちよさそうに目を細めて湯に浸かっている。その光景を見てアクアの目が冷ややかなものになっていった。
この日、カズマの悪評の中に『ロリニート』が追加された。
○
ダクネスが未だ帰って来ず、次の日は各々自由行動ということになっていた…
「…んだが、めぐみんとアクアはもう出ていったのか?」
「みたいだよ。あ、カズマー、私の部屋からケープ持って来てくれない?ちょっとだけ寒いや。」
「…薄めの長袖一枚じゃそりゃ寒いだろ…ああ、わかった。」
庭で花に少し積もっていた雪を落としながら、窓から顔をのぞかせたカズマにちょっとした頼みごとをする。
「んー…ほっといたほうがいいかもしれないけど、できるだけ質はよくしたいしなぁ…」
「ほら、これでいいか?」
「あ、ありがとカズマ。」
「ルミは今日なんか予定あるのか?」
「んー…ウィズには昨日会いにいったし特に用事もないかなぁ。…うん、暇だと思うよ。」
「なら、少し街を見ないか?家にこもってるのも退屈だし、朝食作るのも面倒だからな。適当に店でなんか買って食べよう。」
「ん、わかった!あ、お金大丈夫?」
「昨日のカエルの報酬があるから大丈夫だ。まあ行こうぜ。」
……………
そうしてルミとカズマの二人で街にくりだした。
「ルミはなんか食べたいのとかあるか?」
「んー、特に決めてはなかったかな〜…あ、あれなんて美味しそうじゃない?」
「お、串焼きか。確かにうまそうだ。」
カズマは串焼きの露店に近づいていって、ルミの文と合わせて4本買おうとした。
「「すいません、串焼き4本…あれ?」」
神がかり的な同タイミングで声をハモらせた二人は顔を見合わせた。
「あれ?確かゆんゆんって…」
「そう言うあなたはめぐみんのパーティーの…?」
「…あ、とりあえず先に買ってもいいぞ。」
「い、いやいや、そちらこそどうぞ!」
「いやいや…」
「「カズマ(ゆんゆんさん)、何かあった(っすか)?……ん?」」
譲り合いをしていた二人に、これまた二人が声をハモらせて尋ねた。
「あ、アッシュだ!」
「ルミじゃないっすか!奇遇っすね!って、カズマさんも!」
「アシュリーちゃん、知り合い?」
「ほら、少し前に話した牢屋の中であった友達っすよ。それと、そのパーティーの人っす。ほら、めぐみんの姉さんもいるとこっすよ。」
「そうなの?えっと…初めまして……その、ゆんゆんって言います…」
ゆんゆんは少し顔を赤くしながらカズマとルミに自己紹介した。
「ああ、よろしくな、ゆんゆん。俺はカズマ。んで、こっちがルミだ。」
「よろしくね!ゆんゆん!」
「…私の名前を聞いても笑わないんですか?」
「いや、変わった名前してて頭のおかしい子もいるってのに、逆にまともな自己紹介で感動しつつも困惑してるぐらいなんだが…ゆんゆんって紅魔族だよな?」
「そうですけど…」
「ああ、ゆんゆんさんは名乗るのが苦手なんすよ。昨日言った通りっす。」
「ああ、そういえば…」
「どうしてゆんゆんとアッシュが一緒にいるの?」
「私たちパーティーを組んだんです。前衛と後衛でバランスもいいので。」
「前衛後衛?昨日の見てると二人とも魔法使い系だと思ったんだが…」
「僕が前衛っすよ。職業は冒険者っすから魔法も使えるっすよ。」
「アッシュも冒険者だったのか?」
「そうっす。あ、カズマさんもっすか?」
「ああ。…そういえば自分以外の冒険者って初めて見るな…アッシュはどんなスキル取ってるんだ?」
「いくつかの魔法と、それ以外は槍っすね。まあ、魔法の方も槍っぽいのばっかっすから、ほとんど槍使いみたいなものっす。」
「へぇ、そうなのか。紅魔族のハーフって言ってたし、魔法のほうが得意そうなもんだと思ってたけど。」
「まあ、普通の人よりはって程度っすよ。ゆんゆんさんやめぐみんの姉さんには敵わないっす。」
「ん?めぐみんにも?」
「あれ?聞いてないっすか?僕は行ってないっすけど、紅魔族が通う学校で成績一位だったっていうの。めぐみんの姉さんなら名乗る時に紅魔族随一の〜、とか言いそうなもんっすけど。」
「あれって本当のことだったのか…」
「でも、めぐみんは爆裂魔法しか使えないよ。」
「めぐみん、まだ爆裂魔法だけしか取ってないのね…でも、少し動けるようになってたからスキルの割り振りとか変えたのかしら…」
「めぐみんの姉さんが爆裂魔法を撃った後に動けてたんっすか?何か悪いものでも食べたんっすかね?」
「確かにな…めぐみんならそんな余剰な体力が残るような撃ち方なんてするわけ無いんだが…」
「「「うーん…?」」」
「…あ、とりあえず串焼き買おうよ?私お腹すいてきちゃったんだけど…」
……………
それぞれのベアで4本ずつ串焼きを買って、食べながら道を歩いていく。一人2本のつもりで買ったが、ルミは片手でしか持てないのでカズマに1本は預かってもらっている。
「そういえばめぐみんはどうしたんですか?」
「ん?俺が起きてきた時には靴もなかったから朝早く出たんじゃないか?ルミは知ってるか?」
「ううん、知らないよ。」
「そうですか…」
「どうしたのゆんゆん?」
「ゆんゆんさんは寂しいんっすよ。なんてったって、僕を除けばめぐみんの姉さんが里の中で唯一まともな…」
「わー!わー!言わないでアシュリーちゃん!私にもふにふらさんとかどどんこさんとか友達はいるから!めぐみんとアシュリーちゃんだけがまともな友達ってわけじゃないから!」
「全部言っちゃってますけど…」
「「………」」
頼んでもいないのにそんな告白をしたゆんゆんに、カズマとルミはなんともいえない優しい目をむけるしかなかった。
「あ、ああ、あの、あそこの射的やりませんか!」
今までのことを無かったことにすることを選んだらしいゆんゆんは、半ば強引に射的の屋台までカズマを連れて行った。
「射的か?お、こっちの世界だと弓矢でやるんだな。ふふん、任せろ。これでも俺はソゲキッスキルを持って…」
「おいおい兄ちゃん。射的じゃスキルの使用は禁止だぜ?ちゃんと自力でやってもらわねぇと。」
「ですよねぇー。んー、ゆんゆんかアッシュは得意だったりするか?」
「いや、私はあんまり…」
「僕は槍専門っす。弓なんて生まれてこのかた持ったこともないっすよ。」
「あ、私がやろうか?」
「いや、いくらルミでも片手じゃ無理だろ?」
「台に座って、矢を噛んでもいいなら足を使えば大丈夫だと思うよ。」
「…ほう、面白いこと言うじゃねぇか。いいぜ、台に乗ってやってみな。」
「いいんですか?」
「ああ、俺自身娯楽でこの射的の屋台やってんだ。別にすっぽ抜けて屋台が壊れてもかまわねぇし、そんなことよりこの嬢ちゃんの腕が楽しみになった。」
屋台の親父がカズマにそう言ってる間にルミは台に座り、バランスをとりながら両足で弓の
2点を支えて中央付近を右手で持った。そして、矢を口でくわえて弓に当てて、腕がまっすぐになる程度まで足を伸ばして弓を引いた。
「これ、糸とか矢の羽噛んでないっすか?」
「ううん、木の部分しか噛んでないみたいよ。」
ルミは集中して、的を狙おうとした。…が、少しずつ元の体勢に戻って行った
「…ねーねー、どれに当てればいいの?」
「ああ、そっか、射的だもんな。…アッシュかゆんゆんは何か欲しいのとかあるか?」
「んー、あのクマのぬいぐるみとか、ゆんゆんさん好きなんじゃないっすか?」
「えっ、そんなことは…ないこともないけど…」
「じゃあ、あのぬいぐるみだね。」
改めておかしな構え方で弓を構えて弓を引き絞った。バランスをとりながらある程度まで引っ張って狙いを絞って矢を射ると、クマのぬいぐるみの目と目の間に先が丸くなっている矢が命中した。
「「「おおー!」」」
「ほぉ、すげえな嬢ちゃん!ほら、ぬいぐるみだ。持って行きな。」
「ありがと!」
そうしてルミはぬいぐるみを抱えながら三人のところに行った。
「はい、ゆんゆん!」
「えっと、その…」
「素直にもらったらいいじゃないっすか。もらわないのも失礼になる時だってあるっすよ。」
「そ、そうかしら?じゃ、じゃあ…ありがとう…」
「うん!」
「それにしてもあんな構え方でよく当たるな…」
「まあ、森の中で狩りしてたら体勢を選べない時もあるからね。両手があれば、寝そべってても当てられるよ?」
「狩りってどういうことっすか?僕聞いた覚えないっすよ。」
「うん、私も気になるわ!」
「あ、そういえば言ってなかったっけ。もうすぐこの街に来て1年ぐらいになるんだけど、その前は3年ぐらい、あっちの方向にある森で過ごしてたんだよ。」
「3年ぐらいって…カズマさんと会ったのはこの街に来る直前なら、その3年間は一人だったってことっすか⁉︎」
「友達はいたけど、人間のって意味なら私だけだったよ。」
「この辺りって、確かに強い魔物はいないけどそれでもイノシシとかはいるわよね?大丈夫だったの⁉︎」
「なんて言えばいいのかな?最初に気がついたときは森の中にいたんだけど、周りに武器がたくさん落ちてたんだ。手に持ったら、どうやったら使えるようになるのか、とかがわかったんだ。まあ、初めはあんまり使いこなせてなかったけど。」
「どっかで聞いたことあるような…まあ、いいっす。それはなんというか、運が良かった感じっすね。」
「そうよね。私だと、まだその歳だと魔法を使えてないからどうしようもなかったと思うわ。」
「でも、それなら確かにあの弓矢の腕…足?まあ上手さは納得できるっすね。」
「ルミにはいつも助けられてるよ…まともな奴なんてうちのパーティーには数えられるほどしかいないからな…まあ、今はこんな話をしても仕方ない。重要なことじゃないな。露店巡りに戻るか。お、あそこにあるやつなんて珍しいんじゃないか?」
「飴細工?確かに見ないっすね…」
「わぁ、綺麗だなぁ…あ、これキャベツかな?」
「ほぉ、可愛い子らが来たものじゃな。おっと、そんな顔をしないでおくれ。ワシ、そんなに怪しいかの?」
「い、いえ、そういうわけじゃないですけど…」
「む?お主、クマのぬいぐるみが好きなのかの?なら、このクマさんの飴をやろう。分けて食べるといいぞ。なに、お試しみたいなもんじゃ。金はとらんよ?」
「わ、あ、ありがとうございます?」
「その飴って爺さんが?」
「無駄に手先だけ器用だからの。まあ老害の戯れみたいなもんじゃ…ほれ、お前さんにはこれをやろう。」
「………なんだこれ。」
「ジャイアントトードじゃが?」
「いや、それはわかるけど…」
「ゆんゆん、それ美味しい?」
「…うん!甘くて美味しいわ!」
「ゆんゆんさん、僕にも分けて欲しいっすよ!」
横で飴に盛り上がっている女子三人を見て、カズマももらった飴を舐めてみると…
「………カエル臭い!」
「そりゃあジャイアントトードじゃからな。その辺りも再現しておるよ?」
「いや、普通再現するならカエル臭いところじゃなくて唐揚げとかにすべきじゃ…それにあのデフォルメされたクマの飴は甘いって…」
「乙女の夢みたいなもんじゃからな。現実は知らんが、夢ならば甘くて損は無かろう?」
「アンタ年甲斐もなく何言ってんだ…ってか、なんで俺だけこんなんなんだよ…」
「ふんっ、お主がハーレムみたいで羨ましかっただけじゃ!爆発しろ!バーカバーカ!」
「アンタマジで年甲斐もなく何言ってんだ⁉︎」
誰かに渡すわけにも捨てるわけにもいかず、カズマは気合でジャイアントトード型の飴を食べた。
知ってる人にはわかるネタ。それっぽくなくてもいいと思った。反省はしていない。