この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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サブタイトルは基本的に主人公のルミの会話から


ひきにーと?

三人が夕食を食べ終えてルミが二人に話しかけた。

 

「そろそろお風呂入ろっか。」

「ああ、そういえばせっかくあっためてくれてるんだからそれもいいな。まさか異世界で湯船に浸かれるとは思ってなかったし。」

「うん、じゃあ行こっか!」

「はっ?」

 

ルミはそんな宣言とともにおもむろに、そして堂々と服を脱ぎだした。

 

「ちょ、ちょと待てえぇぇぇい⁉︎」

「カズマ?なんでそっち見てるの?」

「ル、ルミ!ダメよ!男の前で裸になるなんて!特にこの男の前でなんて!」

「お、俺にロリっ子を愛でる趣味はないぞ!誤解を招く言い方はやめてくれ!」

「ハッ!あんた、まさか目当ては私⁉︎」

「それはない。」

「何よそれ!」

「ん?」

「とにかく、ルミはタオルで隠すだけ隠しときなさい!」

「…んー?」

 

そう言って、アクアは風呂場への扉の横に置いているタオルでルミの身体を隠す。

 

「ねー、アクアなーんでー?お風呂って一緒に入るものでしょー?」

「それは色々間違って、るわ…よ?」

 

そこで、ルミの後ろ姿を見たアクアは少し固まった。

 

「…?アクア、どしたの?」

「な、なんだ?急に静かになって…?そ、そっち向いていいのか?」

「え?あー…ルミ、タオルはどかしちゃダメよ!ほら、カズマ。こっち見てもいいわ。」

「?」

「じゃあ向くぞ?それで、何がどうし…」

 

カズマもまた、ルミを見て固まった。ルミの身体の後ろからはゆらゆらと、何かが揺れ動いている。

 

「え、それ、尻尾か⁉︎な、なあアクア。そっちからなら付け根見えるよな?それ、本物なのか?」

「ええ、偽物には、見えないわね…」

「あれ?二人には尻尾ついてなひゃうっ⁉︎」

 

アクアが尻尾を触ると、ルミは身体を震わせて、頬を赤くしてアクアの方を睨んでいる。

 

「ううぅ…触らないでよ…」

「…これは偽物じゃないな。」

「うーん…エルフとかならまだしも、この世界に獣人みたいな種族はいなかった…あー、どうだったかしら…まあ、いたにしろ、いなかったにしろ、転生特典に引っ張られた線があると思うわ。」

「…そうかもな。…って、今は髪をまとめてるからわかるけど、耳も違ってるんだな。俗にいうケモミミってやつか?」

「ケモミミ?」

「ああ、犬とか猫の耳みたいなやつのことな。」

「ケモミミって言葉、なんか可愛いね!」

「うっわ…なに子供にそんなこと教えてんの…引くわー…」

「ち、違う!そういうつもりで言ったんじゃないからな!とりあえずアクア!ルミが一緒に入るって言ってるから先に二人で入ってきてくれ!俺は待ってるから!だからそんな目で見るな!」

「覗かないでよ?」

「お、俺をなんだと思ってんだ!ロリコンじゃねぇから!いいから早く行ってきてくれ!」

 

 

「机を外に出して三人分の布団並べるのギリギリだったね。」

「まあ、さすがにな。…それにしても、風呂の件ではひどい目にあった…男の前で服を脱ぐのはもうやめろよ?」

「うん、よくわからないけどわかったよ。」

「……よくわかってほしかったな、カズマさんは………そういえば、今までここで人に会ったことはなかったって言ってたけど何で椅子とか布団が人数分あるんだ?」

「人を呼んでお泊まり会してみたかったからね。いつ誰が来てもいいように準備はしてたんだ。楽しみだったんだよ?」

「三年間ここにいたんだっけ?そりゃ人恋しくなるよな。っていうか、ルミは何歳なんだ?」

「今で多分10歳ぐらい。元々の歳は覚えてたけど、誕生日は覚えてなかったんだ。」

「ってなると、享年7歳…俺の半分もないのか…何で死んだのかは覚えてないんだよな。」

「そうだね。名前と、私が転生者だってことぐらいしか。」

「アクアは知ってるかもしれないが…」

 

二人がそちらを見ると大きないびきをかいてよだれを垂らして気持ち良さそうに寝ている。

 

「爆睡ってやつだね。」

「布団入って数秒って、のび○くんじゃあるまいし…」

「あ、ところでカズマはどうして死んじゃったの?私も話せるだけ話したんだし、そっちも教えてよ。」

「え?あー…その…とてつもなく恥ずかしい話なんだが…えっと…女の人を庇ってトラックに轢かれて死んだんだ。」

「どこも恥ずかしくないと思うけど…何かオチがあるの?」

「…トラックだと思ってたのはトラクターで轢かれたと思っていただけだったらしい…しかもそれだけでショック死したって…」

「あっ………元気出してよカズマ!きっとこの世界でならいいことあるよ!」

「…ありがとな…なんか、そう言ってくれるだけで癒されるよ…アクアのやつはからかってきたからな…」

「それで、明日から二人はどうするの?ここにいるわけじゃないでしょ?」

「ああ、せっかく異世界に来たんだ。冒険者になって魔王を倒すのを目標にしようと思ってる。」

「おお!なんかすごい!カッコいい!」

「そうか?」

「うん!勇者みたい!」

「ゆ、勇者か…悪い気はしないな。」

「…私も、ついていこうかな…」

「急にどうしたんだ?ルミにはここがあるだろ?」

「私ね、三年間ずっとここにいたのは理由があるんだ。」

「理由?」

「自分のことを思い出せないかなって。そう思ってたんだ。気がついたらこの森にいたから、何かヒントがあるかもって思ってたんだよね。あ、ギギリのみんなともここであったんだよ。」

「…実際に記憶喪失になったこともないし、俺にはどんなふうに思うのかはあんまりわからないけど、自分のことがわからないのはいい気分はしないよな…思い出したいって思うものか。」

「それに、お父さんとか、お母さんとか…私を大切に思ってくれてたかもしれない人たちがいたら、私だけ忘れてるって悲しいなって思ったんだ。」

「…すごいな、ルミは…俺はそんなこと、思ったことなかったな…言われなきゃ、ずっと思わなかったかもしれないな…でも、なんで俺たちについて来るって結論になるんだ?」

「アクアが私を送ったみたいだから、何かきっかけがあれば思い出すかもしれないでしょ?それに、ここにずっといてもなにも思い出さなかったからね。旅に出たら、思い出すかもしれないって思ったんだ。」

「…そっか。なんていうか、ルミはポジティブだな。」

「それが、今の私だからね!」

「はは、そういうことなら歓迎するよ。よろしく、ルミ。…あー…ところで、嬉しいのはわかるんだがそろそろ寝かせてくれないか?その、結構もう遅い時間だし…」

「えー、まだお話ししようよー。」

 

 

「みんな、集まったね?」

 

翌朝、ルミの前には10匹ほどのギギリに、木の高さほどはあろうかという1匹の大きな青いギギリ、ボロギギリがいる。カズマとアクアは少し顔を青くしている。ちなみに、カズマはそれに加えて目の下には若干クマができていた。

 

「ぎぎぼうから伝わってると思うけど、改めて言うね。たまに帰って来るつもりだけど、私はこれから旅に出るよ。その間、私に代わってこの森の平和を守ってね。」

 

その宣言に、惜しむように頭を下げるもの、任せておけとばかりに鳴き声をあげるもの、様々な反応を返す。そんな反応をみてルミも泣き出してしまう。

 

「うっ…グスッ…もし、迷ってこごにいる人には、案内してあげて…ヒッグ…やめてよ、そんな反応されだら、私も…!私も、わだじも寂しいけど!でも、私だちは、いつまでも、友達だから…!ぼろみあ、みんなのお世話をしてあげてね…!ぎぎりん、イタズラはほどほどにね…」

 

泣きながらもルミはギギリたち全員に声をかけていく。

 

「ねえ、カズマ。」

「…ん?なんだ?感動のシーンだぞ?」

「私にはモンスターに襲われて怖くなって泣いちゃった子供にしか見えないんだけど。」

「お前空気読めよな…」

 

 

「ルミ、大丈夫なのか?」

「うん!いつまでも泣くなって、ぼろみあに言われちゃったしね。」

「言葉わかるのか…まぁ、それはいいとしてその量の荷物は重くないか?」

「そこまで動くわけでもないから大丈夫。弓とかは木製だから、かさばるだけだし。」

「いや、でもでかい刀…鉈?みたいなのもあるし…なんかナル○でこんな武器あったような気がするな…」

「じゃあ、弓はとりあえず持っててくれる?やっぱりこれだけ持ってると邪魔だからね。両手塞がっちゃうし。いいかな?」

「ああ、それぐらいなら任せとけ。」

「ところでルミ、アクセルの町がどっちなのかわかる?」

「え?うん、割ともうすぐだけど…アクアはわからないの?」

「あてにならないぞ。現在地も方向も全然わからなくて昨日は遭難したからな。」

「この世界に来た時初めから森の中だったんだもん。そんなの、女神でもどうしようもないんですけどー。え?やだー、そんなこともわからないほど馬鹿なのー?プークスクスー。」

「コイツ…!」

「あ、そろそろ森を抜けるよ!ほら、原っぱが見えて来た!」

 

そうして三人は森を抜けた。空は広け、太陽が輝いていた。

 

「おー、すごい広大な草原だな!俺、こんなの見たの初めてだ!」

「私も草原まで出て来たのは初めてかも!眺めるだけだったし!ねーねー、カズマ!あそこの丘の上まで競争しない?」

「ああ、いいぞヨーイドン!」

「あ!カズマずるい!」

「世の中、準備が完全にできてから事が起きるなんて都合良くできてないからなー!」

「待てー!」

「フッ…先に走り出した俺に追いつけると思って…や、ちょまっ、早くね⁉︎」

 

不意打ち気味に走り出したカズマを全力で追いかけたルミは、少しも経たないうちにカズマを抜かし、ゴールにたどり着いた。

 

「やったぁ!私の勝ちー!」

「な、なんてこった…俺の足はここまで動かなくなってたっていうのか…⁉︎ルミが異常に早く感じたぞ…」

「プークスクス!ヒキニートのあんたが森で生活してたルミに勝てるわけないでしょ。」

「くっ…こいつに言われるのだけは釈然としない…!」

「ひきにーと?」

「ん?ヒキニートっていうのはね…」

「ヤ、ヤメロー!俺の心の傷を抉るなぁ!お、お前それでも女神かよ!そ、それに高校生だったしニートじゃないから!出かけてて死んだわけだし?ひ、引きこもりでもねーから!」

「にーと?ひきこもり?」

「き、ききき、気にするなー?いいかールミ。その言葉は忘れるんだぞー?」

「?…うん、わかった。」

「ふう………ん?なあ、アクア。あの壁ってもしかして?」

「なになに?ああ、あれがアクセルの街。冒険者になりたい駆け出しの人たちが集まる街よ。カズマが私のことに懐疑的だし、ルミはよく覚えてないみたいだからいちおう改めて女神らしいことでも言っておこうかしら。ようこそ、この素晴らしい世界に!」

「おお、アクアそこはかとなく女神っぽい!」

「ふふん、当然よ。女神だもの!」

「…この世界って、もう転生したくない人だらけで少なくなってた世界なんじゃ…そんなことを考えるのは野暮なのか…?」




うたわれるもの用語
耳と尻尾…この作品に出てくる登場人物たちには基本的にふさふさの耳と尻尾がついている。女の人が可愛いのはもちろん意外と男の人にも似合っている。
でかい刀…鉈?…変わった形をしている鉈。凹みの位置とか色々違うが刃の大きさはナル○の首斬り包丁と同じぐらい。モデルは偽りの仮面、二人の白皇の登場人物、ミカヅチの武器。

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