この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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ちょっとした日常回みたいな感じで。


私はできることをやってるだけだよ。

マッチポンプのような形で依頼をこなしたことで屋敷住まいも夢になるかと思ったが、依頼人の男は寛容で、いくつかの条件付きで五人は屋敷に住んでいいことになった。

 

「…よっと。ふぅ、今日はここまでにしよう。」

 

ルミは自分の部屋の端に置いている机で薬草をすりつぶしたり、調合したりしていた。かなりの量だったので、朝からこの作業を続けていたが、すでに昼は過ぎてかなり時間が経っていた。

 

『ルミが集中してると私は暇ねー。』

「あ、アンナいたの?」

『いたの、っていうかずっとこの部屋を漂ってたわよ。結局ルミ以外の人には見えもしないし声も聞こえてなかったのよね。ちょっとした腹いせにイタズラしたけど。』

「や、やめてあげてよ…あ、庭に薬草植えとかないと!」

『大変そうねぇ…』

「じゃ、アンナ、また後でね!」

『はいはい。この屋敷の今の持ち主の人が言ってた条件なんだし、帰って来たらまた冒険の話聞かせなさいよねー!』

 

……………

 

ルミが玄関を出ると、庭のスペースで剣の素振りをしているダクネスがいる。音が聞こえたようで、こちらを向いた。

 

「ん?ルミか?」

「あ、ダクネス?何か運動してたの?」

「ああ、クルセイダーたるもの、いつでも動けるように鍛えないといけないからな。」

「攻撃を当てる練習はしないんだね…」

「………それは二の次だ。そ、それで一体どうしたのだ?朝から姿を見なかったから出かけているのかと思っていたが。」

「部屋にいたんだ。ちょっとやりたいことがあって。それで今は、私のお薬作りのための薬草を植えようと思ってね。育てるのにあんまり世話しなくてもいい草なんだけど、今までは植えるところがなくて探しに行かないといけなかったんだ。安定して取れなくって少し困ってたんだよ。」

「そんなに育てやすいのか?」

「よっぽどなことがない限りはほっといても大丈夫なぐらいはね。それに、育つスピードも早くてだいたい一月半ぐらいに一度は収穫できるかな。乾燥にもある程度耐えれるし、一年中ちゃんと育ってくれるんだ。」

「そんな植物なら、いくらでも生えてそうだが…」

「一つの花で二つか三つぐらいしか種ができないから、なかなか自然の中じゃ増えないみたいなんだよね。まあ、その分生命力が強いんだろうけど。それに、見た目も花が咲くまでは他の雑草とあんまり変わらないから草抜きとかで一緒に抜かれたりするんだ。」

「なるほど、抜かれては育つものも育たないな。だが、それだけ丈夫なら特に私たちが世話をする必要もないのか?」

「そうだね。まあ、ないとは思うけど二、三週間雨が降らなかった時に水をあげればいいくらいかな。あ、あとそのまま食べたりしないでね?弱いけど毒があるからお腹壊すよ。」

「ああ、わかった。」

 

……………

 

「おや、ダクネスにルミじゃないですか。どうしたんですー?」

 

一時間と少しほどそうしているとめぐみんが帰ってきて二人に声をかけた。

 

「あ、めぐみん。私がお薬を作る時の薬草を植えてたんだよ。めぐみんはどうしたの?」

「散歩です。やることもないですからね。」

「まあ、冬の間はクエストには行かないってカズマ言ってたしね。冬将軍にやられちゃったってのもあるんだろうけど。」

「あれは驚きましたよ。アクアがカズマを蘇生してなかったら、今頃このパーティーは解散してたでしょうね…」

「あいつは私たちに文句を言いながらも、なんだかんだでまとめてくれているからな。」

「確かにそうだね。それぞれが尖りすぎてるからうまくバランスが取れないとどうしようもないし。」

「そういう面ではルミにも感謝ですけどね。」

「職業がそういうものなのか、ルミは割となんでもこなせるからな。私たちの足りないところをカズマとルミが補ってくれている感じがする。」

「私はできることをやってるだけだよ。できないことはできないしそれだけでも全力でってね。…よし、植えるのはこんな感じでいいかな。疲れたしお風呂入ろっと。」

「あ、私も行きますよ。ダクネスはどうします?」

「私も入るかな。そろそろ日も暮れて来る頃だし。」

「じゃあ行こっか!」

 

 

体を流して、三人揃って湯船に浸かる。

 

「「「はふーーー…」」」

「順番とか、気にしないでゆっくり浸かれるって幸せだねー…」

「ですねー…私の実家にはこんな大きなお風呂なんてなかったですし、大衆浴場だと他の人もいたりで遠慮しちゃいますからね。ここまでゆっくりできるのは初めてかもしれません。ダクネスはどうです?」

「一応このような風呂に入ったことはあるが、こうして心を許せる仲間と入るのは初めてだ。…うん、いいものだな。」

「そういえばアクアとカズマは?」

「アクアはずっと、居間の暖炉の前のソファにいたぞ。」

「カズマは私が屋敷を出るより前に散歩に行きましたよ。まあ、夕食までには帰ってくるでしょう。…それにしてもいまだにその尻尾には慣れませんね。見た時にあれ?ってなります。」

「全然いないもんね。尻尾ついてる人って。」

「ルミの生まれがわかれば理由もわかるかもしれないが記憶もないらしいしな。」

「覚えてる分を辿るだけでも、私たちには何かわかるかもしれませんよ?せっかくですし、少し話してみてはどうです?私も聞いてみたいですし。」

「うーん、そうは言ってもなぁ…ダクネスは前に一緒に行ったけど、あの森で三年間暮らしてただけだよ。ギギリたちに助けられながら。」

「あの黄色い生き物のことだな。」

「そういえばデュラハンとの戦いの後、あれに運ばれてましたっけ。」

「そうそう。まあ、大きい子もいるんだけどね。三か四メートルぐらいの大きさの。」

「武器とか道具は?」

「すぐ近くに落ちてたの。まあ、まとまってじゃなくてそこに一つ、少し離れたところに一つ、みたいな感じだったんだけど。」

「普通はそんなふうに落ちてるものじゃないですよね。」

「そういえばカズマから聞いたことがあるが、ルミの武器は使おうとすると力が抜けたらしいな。ルミだけにしか使えない理由でもだろうか?」

「あー…それは…どうなんだろうね?」

 

一応転生特典だということはわかっているが、二人には説明しにくいので黙っておくことにした。

 

「そういえば、記憶がないと言っても名前とか、ある程度の常識みたいなのは知っていたらしいですね。カズマはルミが風呂に入る時にいきなり服を脱ぎ出して焦ったって言ってましたけど、七歳とかなら親と一緒にお風呂に入るのはまだそこまでおかしいことでもないですし…」

 

……………

 

「…一応聞いてみたがあまりわからなかったな。」

「ですねー…そろそろ出ますか。結構長い時間話してましたからそろそろのぼせちゃいますよ。」

「あ、そうする?じゃあ上がろっか。」

 

三人は風呂から上がって脱衣所で服を着て今の方に向かった。居間ではカズマが暖炉に火をつけて、その前のソファに寝転んでいる。

 

「あ、カズマ帰ってたんだ。何かあった?」

「おー、ただいま。特に興味があるのはなかったなぁ。一応クエストも見に行ってはみたが相変わらずキツイのしかなかったし。」

 

カズマはぼーっと暖炉の火を見ながらそう答えた。

 

「ダクネス、私の部屋にチェス盤が置いてあったのですがやりませんか?」

「ああ、いいぞ。せっかくだしこっちの部屋に持ってこよう。じゃあ行こうか。」

「…ねえねえカズマ、チェスって何?」

「ん?ルミは知らないか?いくつかのコマを互いに動かしていって相手の王様を取った方が勝ちってゲームだ。…が、俺はこの世界のチェスをチェスとは認めない。肝心のキングに盤外に行かれたらどうやって取ればいいんだよ…」

「そ、そう…ん?そういえばアクアは?」

「俺は知らないぞ。さっき帰ってきたばっかだしな。」

「お風呂入れ違いになっちゃったりしたかな?」

「あー、そんなかんじだろうな。この屋敷結構広いし。ルミは今日何してたんだ?」

「お薬作ったり薬草を庭に植えたりしてたの。あ、アクアにあんまり水はいらない植物だから水をそんなにやらないように言っとかないと。」

「ああ、根腐れとかするぐらいやりかねないな…俺からも言っとくよ。」

 

 

「やりますねダクネス…ならば私はテレポートを発動!キングに一気に迫りますよ!」

「やはりめぐみんはテレポートの使い方が上手い…そういえばだが、こんなルールを知っているか?」

「キャスリングですか?まさかダクネスが知っているとは思いませんでしたよ。ルールが改変されるたびにどんどん影が薄くなっていってだいたいの人が忘れてますからね、それ。…なんにしても少し離れられましたか…」

「………」

 

なんとなくめぐみんとダクネスがチェスをしているのを見ていたが、ルールがよくわからないなと思って暖炉の方に歩いていった。

 

「「カズマ。…ん?」」

「あ、アクア。」

「ルミじゃない。」

「んー?なんだお前ら。どうした?」

「私は暇だから寝る前に少しカズマと話をしようと思っただけだよ。めぐみんとダクネスはチェスに熱くなってるし。」

「私は寒いのが嫌だからそこのソファを譲ってもらおうと思ったの。ほら、そこどきなさいよ。」

「なんで俺がどかなきゃなんないんだよ。」

「ふふん、これを見なさいな冒険者カードのレベルを!今の私はこの五人の中で一番高レベルなのよ?ほら、わかったら格上の私にその暖炉を譲りなさい!」

「なんかすごくレベル高いね。私はまだ15だよ?」

「当然ね。デュラハンを配下もまとめて浄化したのは私だし、最近だとだいたい毎日墓場の魂を成仏させるついでにアンデッドを狩ったりしてたもの。」

「ふーん…あれ?なあアクア、レベル以外のステータスが一切伸びてないように見えるんだが?」

「馬鹿ねーカズマ。私は女神なのよ?ステータスなんてカンストしてるに決まってるじゃない!」

「ふーん………あ。」

 

その時、カズマは何かに気がつきソファから腰を上げ、アクアの肩に手をポンと置いた。

 

「な、何よ…」

 

カズマは哀れみの涙を浮かべながらそのまま部屋から出ていった。

 

「…なんでカズマさんはあんな反応だったの?」

「うーん…わかんない。…あ、私ももう寝るね?おやすみー。」

「ああ、うん、おやすみ。」

 

ルミが部屋から出ると、すぐそこにアンナがいた。

 

『さっき男の…カズマだったかしら?かわいそうな子を見た後みたいな顔で通っていったけどどうしたの?』

「いや、私にもさっぱり。アクアのステータスが伸びないっていうのを聞いてああなったんだけど…」

『あらあら…話を聞いてるとアクアっていう人は考えなしに行動する感じの人に聞こえてたのだけど、ステータスが伸びないってことはそれが改善できないということになるんじゃないの?』

「え?なんで?」

『賢さも伸びないってことでしょ?』

「…あ。……そういうことかー…カズマ、大変そうだなぁ…」

 

カズマの気苦労を案じつつ、ルミは部屋に戻っていった。

 

「…あれ?アンナ何持ってるの?」

『チェスのクイーンよ?割とこのデザイン好きなのよねー。』

「言ってくれれば私が持ってくのに…アンナが持っていったら物が消えたって少し騒ぎになるんだからね?」

 

……………

 

「…あれ?ダクネス、黒のクイーン知りませんか?」

「ん?さっきそっちが取っただろう?」

「見当たらないのですよね。」

「最近小物がなくなることが多い気がするが…もしかしたらまだ幽霊がいるのかもしれないな。」

「え、縁起でもないこと言わないでくださいよ…」




自分でキャラ設定しといてアンナさんのキャラがわからなくなってたり…

うたわれるもの用語はないと思われ。

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