カズマたちはウィズの店を訪ねてきた男からの依頼で、大きな屋敷の前に集まっていた。めぐみんとダクネスも合流している。
「これが依頼された屋敷?」
「かなりの大きさですけど…本当にここにすんでいいんですかね?」
「幽霊退治の依頼さえこなせればだけどな。まあ、幽霊退治ならアクアがいるし大丈夫だろ。ってか、こんな時ぐらいは役に立ってくれよな。」
「ええ、アンデッド相手なら、私にどんと任せればいいと思うの!それにしてもいいところね!私が住むにふさわしい屋敷だわ!」
「しかし、今は何故かこの街では祓っても祓ってもすぐに他の霊が来るという現象が起きているらしいが大丈夫なのか?」
「…それにしてはこの屋敷は古めかしいというか…もしかして今流行ってる悪霊騒動の前から何かしらの訳あり物件だったのでしょうか…」
「アクアならなんとかできるんじゃないかな?アンデッド相手なら、魔王軍の幹部の人にも通じたんでしょ?」
「ええ、任せなさいな!…ほうほう、見えるわよ…私の霊視によると、この屋敷には貴族が遊び半分で………………」
目をつぶって手を屋敷の方に突き出してアクアは何か言いだした。
「アクアどうしたのかな?」
「…なんだこのインチキ臭い話は…アクアに悪霊退治してもらうことにすごい不安が出てきたんだが…安請け合いだったかこれ…?」
「「………」」
「なあめぐみんにダクネスもそう思うか?答えてくれよ。なあ、目を合わせてくれよ。」
「と、とりあえず中見てみようよ。アクア?」
「でも安心して、この子は………」
「もう放っていくぞ。」
……………
一時間ほど屋敷の中を歩き回った後、最後に一階のある扉を開いた。
「…で、ここが風呂か。」
「わぁ…すっごくゆったりできそうなお風呂だなぁ、広々してるし…あ、そうだ、せっかく家のお風呂なんだからいい匂いの草とか花とか集めてきて入浴剤作ってみよう。」
「相変わらずルミは風呂が好きだな。」
「…ん、後は玄関だな。とりあえず入り口までの部屋も見てたはずだし、これで中は一通り見れたか?」
「そうですね。まあ、そろそろ日も沈んでますから屋敷の中を見るのはこの辺りにしましょう。」
「そうだな。」
「部屋割りはどうするのだ?」
「こんだけ広くて部屋も多いんだし、それぞれ好きなところを選んでいいと思うぞ。もうこの屋敷は俺たちの家みたいなものだからな。あ、俺は二階の広かった部屋な。」
「はーい…ってあれ?そういえばアクアは?私さっきからずっと見てないけど…」
「あー…あいつはまだ門の前でなんか言ってるぞ。気が済んだら入ってくるだろ。まあそういうことだから一回解散ってことで。」
○
部屋割りも決まり夜半過ぎ、各々、部屋で装備を外してくつろいでいた。ルミは、ベッドの上で正座しながら少し考え事をしていた。
「うーん、私の部屋かぁ…正直一人で使うには広すぎるよねこれ…森の私の家より大きいし…」
ルミは荷物を運び込んだ部屋を見ながら呟いた。
「いっそのことギギッシュとか呼んでこようかな…あー、でもそれならみんな呼びたいしなぁ…」
知らない人が屋敷に入ってみたらモンスターハウスだったのかと混乱するかもしれなくなるようなことをなんとなく思い浮かべたが、十匹プラス大きい一匹が部屋に入りきるはずもないのでその案は無しになった。
「………まあどうするかは今度でいっか。なんでかわかんないけどなんか疲れちゃったし、もう寝ちゃおうかな……夜も遅いし……ふぁぁ…………」
○
「…あれ?ここは?」
「えーっと………」
目が覚めたルミは何故か自分の周り数メートル以外真っ暗で椅子が二つある空間に座っていた。自分が座る椅子の正面には、長い白髪の少女が困った表情で座っている。
「ルミさん…ですよね?」
「え?あ、はい…会ったことあったっけ…?」
「あ、いえ、ないですけどカズマさんから…そうですね、とりあえず自己紹介を…私は女神エリスです。その、アクア先輩がお世話になってます…」
「カズマが会ったことがあるの?」
「はい、カズマさんが冬将軍に殺されてしまった時に…」
「殺されてしまった時って…じゃあここは天国みたいなところなの?」
「その…確かにここは死んでしまった人が来るはずのところなのですが、ルミさんはまだ死んでいません。屋敷の悪霊たちに生気を吸い取られてしまったからなのか、幽体離脱のような形でここに来てしまったようです。」
「そ、それって私戻れるの?」
「かなりイレギュラーな事態ですが、少し待っていただければ戻すことはできますので安心してください。天界規定に記されていない事態ですので確認を取っているんです。前例が無いわけでもないので、すぐに許可が出て門が開くはずです。」
「よかったぁ…じゃあちょっと待たせてもらうよ。いいよね?」
「ええ、大丈夫です。」
そこで会話が途切れ、しばらく沈黙が続いた。
「…あの、エリス様。」
「なんですか?」
「神様、なんだよね?だったら、私の昔の記憶とか、見ることってできませんか?」
「…結論から言うとできません…ある人にそう聞かれたとしても言わないでくれ、と言われてまして…」
「女神様に私のことをお願いした人がいたの?」
「はい、その人の、最期の願いでした…」
「もしかして、私の家族、とかだったり?」
「……いえ、近いですけど違います。それを願ったのは…」
その時、何もない空間にヒビが入って魔法陣のようなものが浮かんだ。
「これって?」
「現世への門ですね。これを通れば元の体に帰れますよ。…その、どうしますか?話の続きは…」
「ううん、いいや。あんまり長い時間ここにいたらもしかしたらみんな心配するかもしれないし、とりあえずすぐじゃなくってもいいかなって最近思ってるからね。みんなと過ごすのも楽しいし。」
「そうですか…わかりました。では、ルミさん、頑張ってください。しばらくここに来ないことを願っていますね。行ってらっしゃい。」
「ん?ああ、そっか。ここって死んだ後に来るとこだもんね。うん、しばらくここには来ないようにするよ。じゃあ、行って来ます!」
そうしてルミは門に吸い込まれていった。
○
「…っは!え、えっと…ベッドの上、だよね…?」
気がついたルミは飛び起きて自分の状態を確認した。特に寝る前と変わりはなく、外もまだ夜中で、少しうたた寝したぐらいしか時間も経っていないようだ。
「…うーん、なんだかだるさが抜けてるけど、エリス様が何かしてくれたのかな?」
『うふふ、次のターゲット発見…』
「ん?」
ルミが声のした方を見たが、何もいない。
「あれ?気のせいかな…」
『馬鹿ねー、こっちよ!』
「ふにゃぁぁっ!」
背中に何か冷たいものを入れられてルミは軽く悲鳴をあげた。振り返ると、そこには普通の服と比べると少し豪華な服を着た金髪の少女が浮かんでいた。
『まあ見えてないし当たり前よねー。違う方を見るのも。それにしてもこの子いいリアクションを…』
「あ、あの…だ、誰っ⁉︎」
『えっ?あれ?私のことが見えてるの?』
「もう、なんでこんなことするの…って何入れたのこれ?氷?」
『…え、ちょっと待って、本当になんで見えてるの?』
「なんでって…普通に見えてるよ?」
『……私、幽霊なんだけど…透明のはずなんだけど…』
「えっ、何それ…?」
『だから、私はこの屋敷にずっといる幽霊なの。ほら、見てみなさいよ。ベッドに腕が通り抜けるでしょ?今まで私が見えた人なんて初めてだわ。』
「じゃあこの氷とかどうやって?」
『頑張れば普通に触れるけど今回はフリーズで作ったの。幽霊になってから何故だか簡単な魔法は使えるのよってそんなことどうでもいいの!なに?もしかしてあなたも幽霊か何かなの?』
「いや、私は普通の人のはず…って、なんかついさっきまでエリス様のとこに行っちゃってたんだった…もしかしたらそれのせいかも…悪霊に生気を吸われたのかもってエリス様は言ってたけど…」
『ああ、あいつらね…最近ここに入ってきたと思ったら所構わず暴れまわるんだもの。迷惑なことこの上ないわ。あなた、追い払ってくれない?』
「いや、私たちは確かにそれを目的にしてここにきたけど私に言われてもなぁ…アクアならできると思うけど…」
『え?アクア?アクシズ教の?』
「あー、うん、確かそうだったと思うよ。女神って言ってた。」
『…ちょっと、その人いきなり奇声あげたりしないでしょうね?』
「いや、さすがにいきなりは…」
(ゴッドブロオオオォォォォォーー!!!)
『…いきなりは?』
「しないと…思ってた…で、でも、確かあれはスキルだったはずだし奇声じゃなくって悪霊退治してるんじゃないかな?」
『あら、プリーストなのね。ふんっ、あの悪霊たちいいざまよ。』
「悪霊に何かされたの?」
『お人形に乗り移って襲ってきたのよ。あのお人形さんたち、お気に入りだったのに…あいつらのせいでボロボロになった子もいるのよ…』
「そうだったんだ… じゃあ、とりあえずお人形回収しに行こうか。ボロボロになっちゃってても、アクアがきっと直してくれるよ。」
『…ありがとう、嬉しいわ。えっと…』
「あ、そういえば自己紹介してなかったね。私はルミだよ。」
『私の名前はアンナよ。アンナ=フィランテ=エステロイド。よろしくね、ルミ。』
「よろしく、アンナ。…そういえば、はじめに私のことを次のターゲットって言ってたけど誰かにイタズラとかしたの?」
『高級そうなお酒があったからいただいたの。なかなか美味しかったわねぇ。』
「…それ、アクアのお酒なんじゃ…問答無用で成仏させられないように気をつけてね…?」
『やっぱりまともな人なんてアクシズ教徒には数えるほどしかいないのね…というかそもそもいるのかしら?とにかく、一瞬でも悪霊退治をしてると聞いてまともかもしれないと希望を持った自分を殴りたいわ…』
……………
ルミがアンナと廊下に出ると、大量の人形が転がっていた。
「うわぁ…すごい数だね、これ…それに暗いから見えにくいや…そうだ。えっと、カードのここに…あったあった。…よしっと。……………おいで、シュマリ。」
冒険者カードでスキルをとってルミが唱えると、足元に光る狐のようなものが現れた。暗闇はある程度照らされ、足元の人形を照らした。
『ああっ、カトリーヌ!なんてこと、首が…!みんなも…!』
「これは殴られて首の部分が少し千切れちゃった感じかな…?結構な力みたいだし、ステータス的に考えるとアクアがやったのかも。多分だけど、お人形たちに悪霊が乗り移って、みんなを襲ったんだと思うよ。」
『私にも悪霊を追い払う力があれば…』
「魔法じゃなんともならないの?」
『私自身がどちらかと言えばアンデッド寄りだから、プリーストの魔法は使えないのよ。』
「あー、そりゃそうだよね。」
(きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!)
「…今度は悲鳴が…」
『うーん、この声はあれね。あの変わった格好をした子だったと思うけど…』
「…うん、めぐみんだよね…これ、もしかしてみんな起きてる?とにかく、えっと…カトリーヌ?だけでも持って行こうか。」
『ええ…悪いけれどお願いするわね。私が持てればいいんだけど、長時間は物に触れないのよ…少し触っておどかすぐらいはできるけれど…』
「私たち、多分ここに住むからイタズラはほどほどにはしてね…?」
……………
「みんなどこいるんだろ?一応目印みたいにアクアが悪霊を浄化した後が人形で残ってるから追いかけてはいるけど…」
『こうして見ると、随分私の知らないお人形さんたちが紛れ込んでるのね。』
「まあ、何百個あるんだろってぐらいには落ちてたからね…あれ?トイレ開けっ放しだ…っていうかズボンが残ってる…」
『ズボンどころかパンツまであるみたいだけど…これどうするの?』
「…一回置いとこう。一応両手は空けときたいし…」
ガンッ
『…また何か音が聞こえてきたけれど…今度はなんの音?』
「さ、さぁ?すごく鈍い音だったけど…とりあえず行ってみよっか?」
ルミは少し警戒しながら歩いて行く。行けども行けども、動かない人形の山ばかりだ。
「うーん?さっきの音は確かこっちから聞こえてきたと思うんだけどなぁ…」
「そ、その声はルミかー?」
「あれ?カズマ?こっちかな?」
ルミが角を曲がると、そこにはあたふたしているめぐみんとダクネス、そしてカズマが立っており、足元にはアクアが転がっていた。
「えっと…どういう状況なの?」
「いや、その…この部屋から脱出しようとドアを思いっきり開いたらアクアに当たったらしくてな…」
「向こうの方まで音聞こえてきたけど、それ大丈夫なの?」
「あー…まあ大丈夫だろ。…うん。」
『なんだか騒がしくなりそうねぇ…まあいいけれど。』
「…それに関しては謝るよ…」
「ん?何がだ?」
○
一応は一通り屋敷の中の悪霊退治はできたので、朝早いがギルドに報告をしにきていた。
「カズマ。ダクネスが言ってたけど、なんで最近になって悪霊が消えない、なんてことになっちゃってたんだろうね?アクアが浄化できたからとりあえずなんとかはなってるけど…」
「いや、俺に言われてもっていうか…」
「あ、それはですね…」
「ん?ルナさん知ってるんですか?」
「それがですね…あの、墓地があるじゃないですか?イタズラなのかなんなのか、今あそこにすごく大きな魔法陣が敷かれてまして、悪霊たちがあそこから追い出されてしまったそうなんです…」
「……………」
「………おい、アクア。ちょっとこっちに来い。」
「……はい……」
「え、アクア?」
「心当たりがあるな?言え。」
「ア、アクア何したの?」
「…その、一応毎日ちゃんと行ってたんですよ?幽霊を成仏させに…あの、でも数日前にちょっとお酒飲んで酔っちゃってそのままの勢いで魔法を使ったらやり過ぎて…その時は解除するのがめんどくさくなってたし、釣り合いが取れるかなー…とか思って数日放置してました…今思い出しました…」
「…え、それって…」
「…お前…それで幽霊退治するってマッチポンプもいいとこだろ…ギルドからの臨時報酬は受け取らない…いいな…?」
「………はい………」
少しおてんばでイタズラ好きなお嬢様ってイメージで書いたけどこんな口調でいいんだろうか…
うたわれるもの用語
シュマリ…見た目の説明は光る狐っぽいやつでいいと思う。二人の白皇で仲間になるフミルィルが仲間から回復してもらった時に回復し返し、シュマリを召喚する。シュマリは他のキャラの行動順を早める技を使うことができる。このシュマリとフミルィル、そしてあるもう一人を使うと無限ループが完成し、近くに敵がいる限りずっと俺のターン!状態になることが可能。著しくバランス崩壊する可能性が高いのでご利用は計画的に。