いつものようにルミはカズマよりも早く起きてなんとなく散歩してからギルドの中で座っていた。まだ冬だからか朝早くでも、そこかしこで酒を飲む冒険者たちがいて酒の匂いもしてくる。初めの頃は慣れない匂いに気分が悪くなっていたが、最近は割と平気になっていたことだけは幸いだった。しばらくそんなギルドの中を眺めていると、カズマがギルドに入ってきた。
「お、いたいた。なあルミ。ちょっと今日は付き合ってくれないか?」
「え?どこに?」
「ウィズの店。そろそろアクアも落ち着いただろうから改めて紹介をってのと、せっかく知り合いなんだからリッチーのスキルを覚えてみるのはどうかと思ってな。ルミはいつも行ってるみたいだからたまに一緒に行くのもいいかと思うし。」
「ウィズの店?それならいいよ。ちょうど用事もあったし。」
「そっか。じゃあよろしく。…で、アクアは呼んであるんだがまだ来てないな…」
「朝は起きたの?」
「ああ、一応な。用事があるから先に行っててとは言われたんだが…」
「おっ待たせー!」
「遅いぞアクア。何やってたんだよ?」
「子供達に宴会芸を見せてあげる約束をしてたのよ。またみんなを笑顔にしてしまったわね!」
「何を見せてあげたの?」
「機動要塞デストロイヤーよ。」
「「だからなんなんだ(の)それ。」」
「デストロイヤーはデストロイヤーよ。とにかく、どこかに行くんでしょ?」
「ああ、そうだな。まあ街の中だしゆっくり行くか。」
○
「ねーねーカズマさん、一体どこに行くの?」
「もうすぐ分かるからそんな十数秒に一回ぐらいの割合で聞いてくるなよ。」
「でもアクア、暴れたりしないでね?前科あるんだから…」
「私はそんなむやみやたらに暴れたりしないわよ…というか前科?私会ったことがあるの?」
「まぁな。っと、ついたぞ。」
「お邪魔しまーす。」
「あ、ルミさんいらっしゃ…きゃああぁぁー!!」
「ん?あ、あぁっ!!あ、あんたあの時の………ちょっとカズマさん!なんだってこんなとこに私を連れてきたのよ!私女神よ⁉︎私が死んじゃってもいいの⁉︎」
「えっと…アクアさん…」
「ひゃいっ⁉︎」
「その、私はあなたを倒そうなんて思っていませんから…」
「そうだよ。ウィズは怖い人じゃないんだよ。アクアは浄化したくなるかもしれないけど、リッチーにもいい人がいるかもしれないでしょ?落ち着いて話してみたりしたらどうかな?」
「…わかった、そうしてみる…で、でも絶対に守ってね⁉︎いつまた気絶させられるか…!」
……………
10分ほどあの夜のことを三人が説明すると、アクアは頬を膨らませながら椅子に座ってしまった。
「…………………」
「えっと…」
「あーあ!怖がってて損しちゃったわー!話してたら喉乾いてきたわー!この店はお茶も出ないのかしらー!」
「すみません!すみません!今用意します!」
「お前…」
「何よその目は。というか、私リッチーになにもされてなかったんですけど!むしろルミにされてたんですけど!」
「うん、それは本当にごめん…でも、あのままだと話を聞く前にウィズを浄化しちゃいそうだったし…」
「それは…その、少し、少しは反省してるけど…でも軽く記憶が飛ぶぐらい思いっきり叩きつけなくってもよかったじゃない!あれすっごく痛かったんですけど!」
「私にはあれぐらいしか思い浮かばなくって…」
「お、お待たせしました…」
「ふんっ!」
アクアは膨れながらウィズのいれた茶を飲んだ。喉が渇いたのは本当だし、もし不味ければ少し文句でも言ってやろうと思っていた。だが、実際はちょうどいい味で、とても美味しいとは言わないまでも非の打ち所は見つからない味だった。しかし、素直に言うのはなんとなく嫌だった。
「………………ぬ、ぬるいわね。」
「すみません!すみません!」
「お前な…普通道具屋とかで茶とか出ないからな?」
「い、いいじゃない!女神なんだし少しぐらい…」
「それにしてもこれが魔道具店か…これとかも普通の水じゃないんだよな。」
「あ、カズマ、それ対モンスター用の爆薬だよ。」
「えっ、マジで⁉︎あ、危ねぇ…!じゃあこっちは…」
「あ、それは宴会用の爆薬です。」
「…これは?」
「「衝撃を与えると爆発する爆薬です(だよ)」」
「ここには爆薬しか置いてねーのか⁉︎」
「いや、だってそこ爆薬コーナーだよ?」
「そういえば、さっきアクアさんが女神…とか?」
「ふふん、聞いて驚きなさい!私こそはアクシズ教で崇められている、あの女神アクア様なのよ!」
「きゃあーーー!!!」
「おいおい、リッチーだからってそんな怖がらなくても…」
「あれ?でもアクアが神様だとはもう伝えてたよ?」
「えっと…確かにルミさんからアクア様が神様だということは聞いていたのですが、その、アクシズ教の神様だとは思っていなくてですね…その、アクシズ教徒は頭がおかしいから近づくなと言うのが一般の人の共通認識でして…そんな人達の元締めの女神様なんて聞いて…」
「…な、な…ア、アクシズ教徒はみんなやればできる子なのよ!そんなふうに思う世間の方が悪いの!」
「ああもう落ち着けアクア。とりあえず俺とルミには用事があるんだからそれ以上騒ぎは起こさないでくれ。」
「そういえば、リッチーなんかに何の用があるのよ?」
「ああそうそう。ウィズ、スキルポイントがそこそこ溜まったからリッチーのスキルを教えてくれないか?」
「ブーーーーー⁉︎」
「うわっ!びっくりした!」
「お前口から茶を吹くなよ!汚いだろ!宴会芸の練習なら他所でやってこい!」
「汚いって何よ⁉︎って今はそれどころじゃないわ!カズマ何考えてるのよ!女神の従者がリッチーのスキルを覚えてるなんておかしいでしょ!リッチーなんて、薄暗くてジメジメしたところが好きな、言ってしまえばナメクジの親戚みたいな連中なのよ⁉︎」
「ひ、酷いっ!」
「じゃあおまえの回復魔法をいい加減教えろ!」
「嫌よ!私のパーティーにおける存在意義を取らないでよ!」
「ならとりあえず静かにしとけ。いいか?俺たちのパーティーはルミ以外おまえも含めてポンコツだ!それを活かすためには俺が色々できなきゃダメなんだよ!今のままで魔王を倒せると思ってるのか!」
「うっ…それは…その…」
「カ、カズマ落ち着いて…アクアも、カズマがリッチーのスキルを教えてもらうのを許してあげてよ。」
「うぅ〜…」
「人間もリッチーも同じだって。一回死んだことがあるかそうでないかってだけで、この世界には存在してるんだから。神様とリッチーって真逆みたいな存在かもしれないけどさ。」
「…わかったわよ…カズマならともかくルミに言われちゃしょうがないわね…じゃあカズマ、どうせなら使えるスキルを教えてもらってよ?」
「えっと、それでは…そうですね…ドレインタッチなんてどうでしょう?対象から体力や魔力を奪ったり、逆に自分から分けあたえたりもできるスキルです。」
「わあ…すごく便利そうだね、それ。カズマ、うまく使えればめぐみんが何発か爆裂魔法撃てるんじゃないかな?」
「や、やめろー!そんな提案をめぐみんに話してみろ!うちのパーティーの魔力が全て爆裂魔法に消えるぞ⁉︎あいつはこう言う時はかなり頭が回るから怖いんだよ!」
「あー…」
「ま、まあその意見もめぐみんを抑えられるならアリなんだが抑えられなかった時がマジで怖い…下手すりゃ今は注意ですんでる騒音騒ぎに弁償だとかがついてきかねないぞ…」
「えっと…他のがいいですか?」
「うーん…しかし、リッチーのスキルだと他のは状態異常だとかそういうのになるのか?」
「あるにはありますけど、カズマさんの言っていた量のスキルポイントではしばらく取れないかと…」
「まあ、そうだよな。それならドレインタッチでいいよ。早速教えてくれるか?」
「はい、わかりまし…あー…その、ドレインタッチは対象がいないと発動できないスキルなので、教えるためにルミさんかアクア様に対象になって欲しいんですけど…」
「あ、それなら私が…」
「私がやってあげるわ。なぁんにも警戒なんてしなくていいわよ?」
怪しすぎる無駄に慈愛に満ちた笑顔でアクアは手を差し出した。ウィズは若干ビクビクしつつその手を握る。
「そ、それではいきますね。……………あれ?…あ、あれっ?」
「あらあら遠慮なんてしなくてもいいのよ?さぁ、どうぞ?」
「あれーーーー⁉︎」
「ピギャ!」
「話が進まんから早く吸われてやれよ!」
「叩くことはないでしょ⁉︎わかったわよもう!」
「そ、それではもう一度…」
今度はちゃんと目に見えてアクアからウィズへと魔力が移動していく。
「………はい、もう大丈夫ですよ。……あの、アクア様?もう手を離していいんですよ?あ、あの!アクア様に触れられてるところが熱くなってきたんですけど!消えちゃう!私消えちゃいますから!」
「ストップストップ!アクア手を離して!ウィズが消えちゃう!ってターンアンデッド発動してない⁉︎」
「おまっ!暴れんなって言っただろ!」
……………
「どう、ですか…?習得できましたか?」
「………よし、これでドレインタッチ習得だ。ありがとな、ウィズ。」
「ウィズ、顔色悪いけど大丈夫…?」
「あー…アクアの聖なる力(仮)にあてられたか?」
「(仮)ってなによ⁉︎」
「じゃあ(笑)。」
「(笑)ってなによぉぉぉ!!!?」
「それで、ルミは店に用事があるって言ってたけどなんの用事だったんだ?」
「ああ、ウィズに売り上げどうだったかって聞こうと思って。」
「売り上げ?」
「あれ?一応掲示板に貼ってたんだけど最近ウィズの店でお薬売ってるって知らない?」
「あー、そういえばそんなのもあった気がするな。冒険者も、回復薬ほどの効果はないけどちょっとした傷にはちょうどいいし安いからいいとかって言ってたな。」
「あれ、私が作ったやつなんだよ。ウィズに売ってもらって売れた分のお金を半分こしてるんだ。少しでもパーティーの借金返済できないかなって。」
「そんなことやってくれてたのか…ちょっとずつ借金をルミが返してるってルナさんが言ってたがそういうことか…いや、ほんと助かってる。」
「…もしかしてルミがたまにいなくなるのってここにきてたからなの?」
「あー、うん、そうだよ。」
「だからルミにアンデッドの匂いがついてたりしたのね。さすがに言うのはやめてたけど。」
「匂いとかそんなのあるんだ…」
「あ、ルミさんの分はこれだけです。最近寒くなってきたので、風邪の人が多かったのかもしれないですね。」
「結構入ってるな。どれぐらいだ?」
「んー、二十万エリスぐらい?だっけ?」
「そうですね。」
「二十万⁉︎」
「下手なクエスト報酬より多いな…」
「傷薬から風邪薬まで幅広く作ってるからね。10種類ぐらいだったかな?」
「素材取ってくるの大変じゃないのか?」
「どのお薬も全部同じ草だよ?ほら、前にカズマに採ってもらったやつ。葉っぱとか根っことか使う場所で効能違ったりするし、混ぜる量を変えたりしても効果が変わるからいろんな効果ができるんだ。むしろ、全種類いくらかずつ作らないと捨てるとこできちゃうからもったいないんだよね。ある程度の大きさがあれば一本でも全種類のお薬が一つずつぐらいはできるから、売る値段もけっこう安くできるんだ。」
「ね、ねえルミ?その、よければだけど、それ私に教えてくれたりしないかしら?」
「無理だよ。スキルだし。あと、私の他の技と同じでたぶんカズマも覚えられないと思うよ。」
「うう…私のシュワシュワライフ…」
「お前は金稼いだら宴会の前に借金返せよ…そんなだからツケ作るんだろ…」
「あ、そういえば皆さんが最近ベルディアさんを討伐したんですよね?あの方は魔王軍の中でも剣の腕に関しては相当なものだったはずなのですけど…」
「なんであんたそんなこと知ってるのよ?」
「私、魔王軍の幹部の一人ですから。」
「確保ーっ!」
「きゃああぁぁ!!」
「ルミ!」
「うん!ストップアクア!」
「ヒグッ!」
「これを聞いたら絶対アクアが飛びかかると思った…」
「ううぅぅ〜…何よ二人揃って!掴まれて倒れた時に打っちゃって鼻が超痛いんですけど!」
「アクア、とりあえず落ち着いて聞いてね?カズマ、私がアクアを抑えてるうちに…」
「おう。ウィズは確かに魔王軍の幹部らしいが、ルミが聞いた話によるとただのお飾りなんだと。一応魔王城の結界の維持は任されてるらしいが、俺たちのレベルじゃまだまだたどり着けるところでもないしウィズを倒すことないだろ?人に危害を加えてこともないから懸賞金も出てないらしいし。」
「でもどうせ倒すんでしょ?なら今倒しましょう。」
「アクア、ちょっとこっち来い。」
「え?何よ?」
(…ルミの売り上げ。)
「あんたを浄化するのは最後にしてあげるわ!感謝しなさい!」
「は、はぁ…ありがとうございます…?」
アクアの変わり身の速さに少し戸惑いながら一応は許してくれたことに礼を言っていると、店の扉が開いた。
「ごめんください、ウィズさんはいらっしゃいますか?」
アクセルの街中でルミの薬はなかなかの評判になってます。ただし副作用があるほど強い薬は高くなりすぎてしまうために売られていません。
今回のうたわれるもの要素は薬の説明も前に軽くしたので無いと思われ。