この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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アレンジは多少加えましたがアニメでは放送されてなかった(と思う)この話を。


退屈といえば退屈だけどリラックスできるね…

ウィズの魔道具店から逃げるように出てきたルミがギルドに着くとカズマを見つけたが、いつものみんなではなく、見知らぬ三人と一緒にいた。

 

「あれ?カズマ、みんなは?」

「ん?おお、ルミじゃないか。いや、今日は1日パーティー交換をすることになってな。ルミはどうすっかな…」

「んー、どうせならカズマがいる方がいいかなぁ…」

「…じゃ、そうするか。その方があいつも俺の苦労が数割り増しでわかるだろ…ってことで、ルミもこっちのパーティーでいいか?」

「うん、大丈夫よ。」

「まあ、クルセイダーの俺が守ってやるよ。よろしくな。」

「うん!よろしく!…って、名前とかまだ言ってないや。私はルミだよ。職業は新しい職業のうたわれるものっていう多分聞き覚えないやつだけど、よろしくね。」

「大丈夫、ルミちゃんは有名人だから、みんな知ってるよ。」

「そうなの?」

「まあな。とりあえずこっちの自己紹介は俺からするか。俺はテイラー。さっきも言った通りクルセイダー、一応元のパーティーのリーダーをやってる。もしアレならルミへの指示はカズマに任せるがどうする?」

「たまにはカズマ以外の指示も珍しいし従うよ。」

「じゃあそうするか。」

「本当に冒険者がリーダーやってたんだね…あたしはリーン、見ての通りウィザードよ。」

「んで、最後は俺だな。アーチャーのキースだ。よろしく、ルミちゃん。」

「じゃあ、とりあえずゴブリン退治に向かうが…っと、まだルミちゃんは武器の用意とかできてないか?」

「あ、さっきまでお店行ってたから馬小屋に置きっぱなしだ。ごめんね、ちょっと門で待っといてもらってもいい?」

「特に急ぎでもないしいいぜ。」

「あ、ルミ、どういうスタイルがパーティーにあうかわからないから一通り持って来たといた方がいいかもしれないぞ。」

「そっか、バランスとかわからないもんね。じゃそうするよ。」

 

そうしてルミはギルドから出て馬小屋に向かった。

 

「一通りってなんのことだ?カズマ。」

「まあ、見ればわかると思うぞ。」

 

 

「ごめん!お待たせー!」

「そんな待ってないから大丈夫だぞー。」

「「「………」」」

「あれ?カズマ、みんなどうしたの?口開いてるけど…」

「…?さあ?」

「「「いや、おかしいだろ(から)⁉︎」」」

 

ルミの持って来たものを見た三人は声をハモらせて突っ込んだ。

 

「いや、いろんな武器を使うから一通りって言ってた理由はわかったけど数が多くない⁉︎」

「短めの剣二本にでかい鉈一本、それに弓に杖か?」

「あ、あと使うかはわからないけどこれもだよ。」

「鉄扇ってやつか?初めて見たぜ…」

「他にもこまごまとたくさんあるよ。」

「なあカズマ。ルミちゃんってどういう戦い方するんだ?武器じゃわからないんだが…」

「んー…なんて言ったらいいんだ?まあ、前衛も後衛もできるぞ。」

「そりゃすごいな…やっぱりダストの言う通り結構楽できてたんじゃねぇか?」

「俺とルミだけならな。」

「…?普通は人数多ければそっちの方が楽なんじゃねえのか?…まあいいか。じゃあ、とりあえず弓持ってるみたいだし基本的には後衛に行ってもらうか。今日はうちのパーティーとはいえ、他所から来てもらってるんだしな。」

「ん、わかった。」

「じゃあ、クエストの紙に書いてあったゴブリンの位置は森を抜けたところの岩山の山頂近くらしいからそこに出発するぞ。」

 

 

カズマとルミを加えた即席の五人パーティーは森の中を歩いている。カズマは戦力外という判断で荷物持ちをしながらのんびりと歩いていた。

 

「カーズマー。」

「カズマです。どうした?」

「何も起こらないねー。」

「ああ、そうだなぁ。」

「退屈といえば退屈だけどリラックスできるね…」

「…ああ、そうだなぁ。ふぁ……ぁ…」

「荷物重くない?大丈夫?」

「一応冒険者だしこのくらい余裕だぞー。」

「なんで二人はそんなにのんびりしてるんだ?一応は魔物だって出るかもしれないってのに…」

「いっつもはもっと大変だからな…荷物持ってるだけならそんな苦労もないし。」

「うんうん。移動するだけでいいんだから疲れることもないよね。」

「いつもは鍛えたりしながら歩いてたりするの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけどね。……あ。」

「ん?ルミちゃんどうかした?」

「カズマ、敵感知!」

「おう。…右から来るぞ。一体だけか?」

「カズマ、敵感知なんて使えたのか。」

「だけど、一体ってどういうことだ?」

「ゴブリンって一体でいることなんてないよね?」

「そうなのリーン?じゃあ一度隠れて様子を見た方がいいよね…カズマ!」

「よし、みんな俺に触れ!潜伏スキルを使う!」

 

全員がカズマが潜伏スキルを持っていることに驚きつつも慌てて触れると、カズマは潜伏スキルを使って気配を消した。少しして、カサカサと草むらがかき分けられ、一体の大きな獣のようなものが現れた。それを見たことがないカズマとルミ以外の三人は顔を青くし、息をひそめようと必死になっている。その獣はしばらくその辺りをうろうろすると、今度は街の方角に向かって歩いて行った。

 

「………プハー!い、生きた心地がしなかったぜ……」

「まさかあいつがいるなんて…」

「あれってなんなの?」

「あ、あいつは初心者殺しって言うモンスターで、今回のターゲットのゴブリンみたいな初心者向けのモンスターを狩りに来た冒険者を狩るの!こ、怖かったよぉ!」

「ゴブリンがこんな街の近くまで来たのはあいつのせいか…」

「獣が釣りするとかマジでなんなんだよこの世界……アクアより頭いいぞ……」

「それにしても二人が気づいてくれて助かったぜ…カズマ、ただの冒険者と思ってたが便利なスキルとってるな。」

「基本ステータス低いし、こういうのとってないとやっていけないんだよ。」

「ルミちゃんは最初に何かに気づいてたけど、それはなんでわかったんだ?」

「あの辺りの草むらに何かが通ったような新しい跡があったのと、ほんの少し音が聞こえて来たからね。」

「それ、普通わかることじゃないと思うんだけど…音なんか全然聞こえなかったよ?」

「まあ、ルミは森育ちだし、森での周囲警戒ぐらいは朝飯前なんだろう。」

「ん?どういうことだ?」

「私、三年ぐらい森で暮らしてたんだよ。」

「え、三年って…ルミちゃんそん時何歳だ?」

「七歳ぐらい?いや、記憶もなくってポツンと森の中にいたんだよね。」

「いやいやいや…軽く言ってるけどすごいことだよ?よく生きてたね…」

「友達がいたんだよ。色々助けてもらって、みんなで狩りをしたりしてたんだ。」

「森の中に友達か?」

「あー、人間じゃないけど、みんないい子なんだよ?」

「なんていうか、色々凄いな。」

「とりあえずどうするんだ?そんな強いモンスターが出たってことは街戻るのか?」

「いや、街の方に行っちまったからな…」

「ねえねえ、ゴブリンとかの周りをうろうろするんだよね?だったら、それを倒しちゃったらいいんじゃない?」

「そうか!そうすればクエストも達成できるし初心者殺しはやり過ごすだけで済むかもしれないな!」

「おお!そうと決まれば行こうぜ!」

「あ、ちょっとストップ!森で走ると体力使うからゆっくりのがいいよ!」

「ちょっとテイラー、キース!ここは森の専門家の言う通りにしようよ!特にキースは後衛でしょ!…あ、カズマ、冒険者だから荷物持ちって言ってたけど、みんなで逃げるならカズマも身軽な方がいいし自分のぶんは持つよ。そ、その代わり潜伏とか敵感知、頼りにしてるよ?」

「俺も持つから…そ、その、マジで頼むぜ?べ、別にお前に頼りっきりってわけじゃないが…」

「向こうのほうまで行ってたのにいつの間に戻って来たんだよ。あと男のツンデレはいらん。」

 

 

五人は森を抜け、岩山の細い一本道をテクテクと登っていった。初心者殺しが戻って来る気配もなく、落ちないようにだけ注意して進み、ゴブリンが目撃されたという場所の近くまで来た。

 

「そろそろだな。カズマ、敵感知に反応があるか試してくれないか?」

「了解………っと、確かに向こうの方に反応がある。今度はめちゃくちゃ数多いけど…」

「じゃあそれがゴブリンなのかな?」

「多分ね。ゴブリンは群れを作るから。」

「ちょっと私見て来るよ。」

 

ルミはスキルの影走りを使いながらカズマが言った所を覗くと、それぞれ様々な武器をもつ集団が見えた。本当にありがとうございましたと言いたくなるぐらいどう見てもモンスターだ。確認が済んで素早く戻ってみんなに報告する。

 

「うん、確かに私ぐらいの大きさのモンスターがたくさんいたよ。」

「よし、じゃあ行こうぜ!」

「あ、待ってくれ!数がマジでやばいって…」

「ちょ、ちょっと!ルミちゃんからどのぐらいの数がいたか聞いてからの方が…」

「せいぜい十五体ぐらいだ……ろ…」

「な、なんだぁこの数は⁉︎」

「やっぱりこの数って普通と違うのか⁉︎」

「普通は十体そこらだって!三十どころじゃないぞ!ど、どうすんだこれ⁉︎」

「だから言ったじゃん!どのぐらいの数なのか確認してからの方がいいってあたし言ったじゃん!」

 

高台から姿を現したテイラーとキースはゴブリンの数を見て顔色を変えた。すでにゴブリンには気づかれ、奇声をあげながら坂を登ろうとしているものもいる。

 

「くっ、とにかく俺が前に出る!援護は…っ痛!矢を食らった!あいつら弓を持ってやがる!魔法頼めるか⁉︎」

「リーンが詠唱してるが今すぐは無理だ!」

「ルミ!矢を撃ち落とせ!俺は近くまで来た矢を魔法で落とす!ウィンドブレス!」

「了解!」

 

数年とはいえ生き残るために弓を使っていたルミの腕はかなりのもので、完璧にとは言わないまでも、一本、また一本と、矢を矢で撃ち落とすという絶技を披露していく。撃ち漏らした矢はカズマの魔法で全て軌道をずらされていた。

 

「す、すげぇ!でかした!」

「ウィンドカーテン!これで矢は大丈夫だよ!」

「この地形ならこいつが効くだろ!クリエイトウォーター!」

「カズマ水なんか撒いて何してんだ?」

「俺の魔法はまだこれからだ。フリーズ!」

「す、すごい!坂が凍ってる!」

「ついでに私も………虚弱呪印!少しは倒しやすいはずだよ!」

「これで坂を登ろうとするゴブリンはろくに動けないし俺たちに矢も当たらない!後は倒すだけだ!俺とテイラーは登って来たやつを片っ端から叩き落すぞ!」

「で、でかしたぞ!お前ら、ゴブリンなんかやっちまえ!」

「なんだこれ楽勝じゃねーか!矢が当たれば一発だし!」

「これなら落ち着いて詠唱もできるよ!ファイアーボール!」

 

 

ゴブリンの討伐は簡単に終わり、五人はホクホク顔で山を降りて森を抜け、草原を歩いていた。すでに日は沈んで遠くの街の明かりが見えている。

 

「全く、お前なんなんだよー。冒険者のくせに魔法職より上手く魔法使ったりよ〜。」

「ルミちゃんの支援もすごかったよね。新しい職業って、上級職なんじゃないかな?」

「ダスト一人と交換ならいつでも二人ともこのパーティーに来ていいぞ。…ってかその方が上手くいくような気もして来たぜ。」

「いつも上手くいくかはわからないが是非。」

「いや、カズマ、みんなはどうするの?」

「実際交換してくれるならマジでしてほしい。」

「ダメだよ!ダクネスは友達がいるみたいだからともかくとして、アクアとめぐみんはたぶん生きていけないし、ダストって人が過労死しちゃうよ!」

「…結構ルミも言うようになったよな…」

「カズマとルミちゃん以外のメンバーはそんな問題あるのか?ダストもそう思ったんだろうが、俺たちからすれば上級職ばかりで羨ましいと思うけどな。王都レベルの冒険者パーティーのテンプレみたいな編成だし。」

「肩書きのバランスがいいのは認める。」

「でも、冒険者カードの偽造なんてできないし、職業はアークプリーストにアークウィザード、クルセイダーなんでしょ?」

「残念ながらまともなスキルを覚えてるのがな…」

 

『誰か!助けてえぇぇぇ!』

 

「…ねぇ、カズマ…」

「…はい、カズマです…」

「…とても聞き覚えのある気がする叫び声が聞こえて来たんだけど…」

「…気のせいです…」

「…いや、でも…」

「…気の、せいです…」

「なあ、あれダストとカズマのパーティーじゃないか?」

「あ、ホント…って、あれ初心者殺し!」

「ど、どうすんだよあれ!もうカズマのパーティーの子、一人しか立ってないぞ!」

「カ、カズマ!」

「………ああっ、くそっ、しょうがねぇなぁ!行くぞルミ!」

「うん!」

「お、おい二人とも!俺たちが行ったって…!」

「カズマ、あれの足止めれそう?」

「ああ、たぶんいける!ルミはそれでなんとかなりそうか?」

「威力が足りるかはわからないけど手傷ぐらいは負わせられると思う!」

「わかった!じゃあ行くぞ!ティンダー!」

 

カズマが魔法を唱えると小さな火が現れて初心者殺しの顔に当たった。ゆっくりと首をカズマの方に向け、睨みつけている。

 

「カ、カズマさん!」

「お、お前の相手は、俺だぁ!クリエイトアース!ウィンドブレス!」

 

声を震わせながらも、カズマは魔法を唱えて土を初心者殺しに飛ばすと、こちらを睨みつけていたために目の中に土が入り、苦悶の唸り声をあげ、足を止めた。

 

「ルミ!」

「うん!式神召喚!」

 

ルミが紙をばらまくと、それらの形が変わり、イカのような姿をとった。十数体ほどのそれを初心者殺しの周りに配置する。

 

「…お願い、効いて!」

 

ルミが二本の指をピッとそちらに向けると、イカのような式神たちが突然爆発した。

 

「おお!」

「すごい爆発だ!」

「ダスト!大丈夫なの?」

「リ、リーン…お、お前らも…」

「連続爆破…そういう爆発もあるのですね…」

「めぐみん、お前何する気だ…ってか起きてたなら声ぐらいかけろよ。また爆裂魔法撃ってぶっ倒れたんだろ?」

「ふっ…さすがカズマ。私のことをよくわかってますね。」

「お前少しは反省をだな…ん?みんな気をつけろ!まだ立つぞそいつ!」

 

二つのパーティーが合流して軽く談笑を始めていたが、カズマの声に煙の方を見ると、そこには初心者殺しの影が見えた。

 

「あれでまだ立てるのかよ…!」

「人数はこっちの方が多いが初心者殺し相手じゃ分が悪いぞ…」

「カズマさんどうしよう!ダクネスもあいつに攻撃され続けて気絶したの!」

「どうせ突っ込んで行ったんだろうが今は動けないのが悔やまれるな…く、どうすれば…」

「…ううん、カズマ、大丈夫そうだよ。もう逃げ帰って行くみたい…」

 

ルミの声の通りに、煙が腫れた後、初心者殺しは踵を返して足を引きずりながら去って行った。

 

「「「「ふぅ〜………」」」」

「カズマしゃーん!ルミー!怖かったよぉ〜!」

「ジャイアントトードならまだしも初心者殺し相手に動けないのは生きた心地がしませんね。」

「そう言うんなら撃っても倒れないようにしほよ…背負うの大変なんだぞ。」

「おい、私が重いかどうかその辺のことをちゃんと話そうじゃないか。」

「はいはい、後でいくらでもな。さて、と…ダストとやら。うちのパーティーはどうだった?これでも、俺がハーレムだの楽してるだの文句を言われる立場だってのか?まあ、それでもいいってんなら俺とお前が交代でこのままってのも俺は別に…」

「すんませんっしたーっ!!!朝のことはちゃんと謝る!だからそれだけは勘弁してください!!!」

 

カズマと交代でアクア、ダクネス、めぐみんとともにクエストに行っていたダストは、綺麗な土下座をした。

 

「…リーン、カズマは何の話をしてるの?」

「パーティーの交代とかのこと?あれはダストが、カズマが周りは上級職ばっかりで楽してる、とかハーレム、とか言って怒らせたのが原因で、それなら1日変わってやるって話だったの。そういえば、ルミちゃんにカズマは細かく説明してなかったね。」

「…えっと、リーン…こっちのパーティーで一番苦労してるのはカズマだと思うよ…」

「…だよね〜…ダストが1日でやつれてるし…ちなみに、あっちのパーティーに何があったか予想できたりする?」

「うーん…多分だけど、まずスキルの把握のために自己紹介した時にめぐみんが爆裂魔法を褒められてそれを見せるって言って、草原のそのあたりに爆裂して倒れちゃって、アクアの運の悪さでクエストの帰り道に初心者殺しと遭遇して、ダクネスはその初心者殺しに突撃していって攻撃を受けて気絶したんじゃないかな?」

「…ルミちゃん、もし辛くなったらあたしたちのとこに来てもいいからね?」

「あはは…無いとは思うけどその時はよろしくね…」




基本的にはアニメの時系列で行くつもりですが、今回のように小説のほうの話も入ったりするかもしれません。

うたわれるもの用語
虚弱呪印…二人の白皇に出てきた呪僧兵の技。数ターンに一度こちらのキャラクター全員の現在の最大体力を一割ずつ下げる。最優先で倒したいのにだいたいマップ奥におり、その上複数体いて、進行が遅れると手に負えない状況になりかねない。
式神…呪兵(呪僧兵ではない)が召喚してくる自爆式神。レベルを上げていればそこまで痛くないが、そこそこの数を出してくるためにうっとおしいことがある。名前はデグチャカ。(名前を教えていただきました。ありがとうございました!)

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