「………ねーねーカズマ。」
「カズマだよ。」
「アクアが火を起こそうと悪戦苦闘してるけど…」
「あいつなら変なところ器用だし勝手につけるだろ。」
「………ねーねーカズマ。」
「カズマだよ。」
「火はついたみたいだけど、私の経験的に絶対に燃やす物足りないと思うんだけど…」
「適当になんか燃やすだろ。」
「………ねーねーカズマ。」
「カズマだよ。」
「アクアが火にくべようとしてる緑色のやつ、カズマのジャージに見えるんだけど…」
「へー…はぁっ⁉︎お、おま、お前えぇぇぇー!!!お、俺の唯一の日本の思い出の品になんってことをしてくれてんだあああぁぁぁぁーー!!?」
「………カズマとアクア、元気だなぁ。……クチュン………ぅぅ……寒い………」
魔王軍幹部ベルディア討伐から数日…季節は冬。自然が最も牙を剥く季節である。
○
「…借金の返済のためにほとんど金がないためこのままでは冬を越せません。なのでルミ以外の全員でクエストに行きます。」
「あれ?ルミは一緒に行かないんですか?」
「壁の修復の規模がでかいから手が回らないらしくて、一人だけでもいいからよこして手伝ってくれって言われててな。うちのパーティーの中で一番向いてるのはルミだと思ったからそっちに行ってもらうことにした。」
「壁の工事は私とカズマとアクアでやったこともあるからね。」
「壁の修復なら私も得意よ?」
「今回の修復ではまず材料を運ぶところからやらないといけないらしくてな。アクアよりはルミの方が力があるからルミに行ってもらいたい。」
「一応私も力はあるぞ?」
「さっきルミが行ったように工事をしたことがあるってのと、ダクネスの場合不器用だから下手したら足を引っ張りかねないだろ?ついでに言うまでもないがめぐみんは力不足だ。」
「…なるほど。」
「そういうわけだ。ルミ、頼めるか?」
「うん、了解!時間は?」
「今すぐってわけじゃないからまだゆっくりしてて大丈夫だ。まあ、一時間弱ってとこか。」
「じゃあもうちょっとみんなといようかなー。クエスト探しに行くんでしょ?」
……………
「しっかし、報酬はよくても冬は俺たちにできそうなクエストなんてないな。」
「それはそうですよ。弱いモンスターは軒並み冬眠しますし…」
「……ん?機動要塞デストロイヤー、及び随行兵器の進路予測のための偵察?………デストロイヤーってなんなんだよ?」
「デストロイヤーはデストロイヤーだ。大きくて高速起動する要塞だ。」
「ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供達に妙に人気のあるやつです。」
「…なるほど、わからん。」
「ねーねー、めぐみん。この随行兵器っていうのは?」
「デストロイヤーの足元を歩いてる小さめの機械ですよ。まあ小さめとはいっても馬車よりは大きいぐらいですけど。四足歩行で遠距離攻撃をしてくるらしいです。」
「ちなみにそっちも子供達に人気になりつつあるぞ。」
「こっちは名前とかはないの?」
「まだ決められてないですね。基本的にデストロイヤーには近づけませんから、それの存在が知られたのは割と最近なんですよ。」
「この類のクエストを受けて近づき過ぎてしまった冒険者がいて襲われたそうでな。幸い大事にはならなかったらしいが。」
「そうなんだ…遠距離攻撃ってなんなの?」
「まだ詳しくはわかってないですけど、何かの魔法が仕組まれてるのではないかと言われてます。」
「そんな物騒なクエストなんて受けられるか。他のを当たるぞ。……ん?この雪精ってのは?そんな強くなさそうに思うが…」
「雪精は確かに弱いですけど…」
「脅威も何もないやつだが、一匹倒すごとに春が半日近づくと言われている。」
「へー、そうなのか。それ一匹で10万エリスってうまい話だが…」
「みんなはお金持ってたりするから受けたりしてないんじゃないかな?」
「ああ、前のベルディアだっけか、あいつ。俺たちが一番多くて目立ってたけど他の冒険者も報酬をもらってなかったわけじゃないしみんなには金に余裕があるのか。」
「で、でもですね、報酬が高い理由は…」
「いいんじゃないの?雪精を倒してがっぽり稼げるわよ!」
「ああ、私もいいと思う。今鎧が手元になくて防御力に不安もあるし…フヒ…」
「フヒ?…気のせい、か…?…よし、じゃこれにするか。早速出発しよう。ルミもそろそろ行っといていい時間じゃないか?」
「あ、ほんとだ。じゃあ行ってくるね!そっちも頑張って!」
○
ルミが破壊されてしまった門の前に着くと、忙しなく働く男たちがいた。その中の一人がルミに気づき、声をかけてきた。
「おう、ルミちゃんじゃねぇか。カズマんとこのパーティーからの助っ人ってルミちゃんのことだったんだな。」
「あ、親方さん!久しぶり!」
彼はこの街に来てから1ヶ月ほど働いていた時に世話になっていた現場監督のような人だ。ルミやカズマは親方さんと呼んでいる。
「そっちも元気そうで何よりだぜ。しっかし、アクアのやつやらかしちまったもんだなぁ。」
「あはは…改めて見ると酷いねこれ。」
「これがなきゃ冬の間はゆっくりできたのに災難だったな。報酬が吹き飛んだんだろ?」
「ある意味退屈はしないかなー。意外とそういうところは居心地いいんだ。」
「まあ確かにあいつといれば退屈はしねえだろうな。んじゃあ、早速だが仕事をやってもらうか。あっちの方に壁の材料があるだろ?あれを持ってってこの設計図通りにあの辺に組んでいってくれ。地面に簡単に印は付けてっからそれの通りにやりゃあ問題ねぇ。まあ、ひと月で俺たちが信頼を置けるぐらいのいい仕事をやってくれてたんだしそこまで不安には思ってねえが、分かんねぇところがあったら声をかけてくれ。」
「了解です!」
○
「よいしょっと…ふぅ…結構疲れたなぁ。」
「おーい!とりあえず昼休憩だ!弁当持ってきたぞ!」
親方に声をかけられたルミは、少しずつ積み上げていたレンガから飛び降りた。
「ありがと親方さん!…わぁ!キャベツ炒めだ!」
「ルミちゃんが好きだって、ギルドのルナさんから聞いてな。せっかくだからそれにしたんだ。」
「うん!これ本当大好きなんだよ!いただきます!」
「はっはっは!いい食べっぷりだな!ところでこっちにはカエルの唐揚げがあるんだがどうする?」
「
「食いもんは逃げねぇからもう少しゆっくり食ってもいいんだぜ?」
「……!んー!むーーー!!!」
「ああ、ほら言わんこっちゃない…」
○
日は傾きつつある時間になっても、手を抜くことなくルミは働いていた。
「…よしっ、ここは完璧だね!……みんなまだかな…じゃあ次は…」
「おーいルミちゃん降りてきてくれ!」
「ん?あ、はーい!」
「今日はもう上がって大丈夫だぜ。」
「あれ?まだ少し時間はあったと思うけど…いいの?」
「カズマたちが帰ってきてたし、相変わらずよく働いてくれたからな。早めに上がっても十分だ。今度はいつになるかはわかんねえが、こんな感じに頼むこともあるかもしれねぇから、そんときにまた頑張ってくれりゃいい。…まあ、あんま子供が遠慮すんなってことだな。仕事がひと段落つくたびに街の外の方をチラチラみてたりしてたし、割と心配はしてたんだろ?」
「…あ、ありがと親方さん!また今度手伝う時も頑張るから!」
「カズマとアクアのやつにもよろしく行っといてくれよー!」
「わかったー!」
○
「…金はある程度はもらえたが……やっぱ今回も割りに合わねー………」
ギルドに入るといつものように項垂れているカズマと他の三人がいた。
「あ、いた!みんなーお疲れ様ー!」
「ルミじゃないですか。」
「早かったわね。仕事が終わる時間ってもう少し後じゃなかった?」
「頑張ったから早めに帰ってもいいって言ってくれたんだ。」
「さすがは私の弟子ね!」
「いやアクアの弟子になったつもりはないけど…あ、そっちはどうだったの?………ってなんだか血の匂いがする気がするんだけど…」
「それは…その、カズマが首を切られてな…」
「えっ?………カズマそれでも生きてたの?」
「俺は人間だ!普通に死んだよ!」
「も、もしかして幽霊なの⁉︎どどど、どうすれば!」
「お、おい落ち着けルミ!」
「そんな時こそ私の出番よ!死んだばっかりなら私のリザレクションを使えば朝飯前ね!」
「……そ、それなら、いいけど……じゃあ今生きてるんだよね?」
「ああ、まあな。」
「よ、よかったぁ………」
「まあ、ちょうどよくルミも帰ってきたし、今日は宴よ!」
「は?お前何言って………」
その時、カズマたちが座るテーブルに大量の料理や飲み物が次々と置かれていった。
「お、お前ら何やってんだ⁉︎これはなんだよ⁉︎」
「何よ、お金は入ったんだから今日ぐらい贅沢してもいいでしょ。」
「食べないことには始まりませんよ?」
「ほら、カズマも食べればいいだろう。」
「きょ、今日の報酬は冬越しのための金だったんだぞ!そ、それを、お前ら!お前らぁー!?」
「カ、カズマ落ち着いて!慌てすぎて語彙力が酷いことになりかけてる!」
○
それから数日後、ルミは今や習慣となっているウィズの店への訪問をして、自分の作った薬についての話を聞いていた。
「えっと、じゃあ効果とかはいい感じだけど、すぐ売れ切れちゃうってことは量が足りてないってことだよね?」
「そういうことですね。」
「うーん、どうしても今の季節はね…私の薬って、要するに薬草の効果を高めてる感じだから元になる植物が取れないことには作りようがないんだよね。」
「そうなんですか。」
「一応は冬でも生えてるけどやっぱり雪で埋もれちゃってたりして見つけにくいからね。育てるのは簡単なんだけど場所があんまりないし。」
「少し残念ですね…ルミさんが持って来てくれる薬で少しずつ売り上げが伸びているので…」
「そうなの?」
「はい!少し前、久しぶりの黒字だったんですよ!」
「そうだったんだ。…って、あそこにおいてあるあんまり見たことないやつってそれで買ったりしたやつなの?」
「そうなんです!これは絶対売れますよ!」
「魔道具なんだろうけど、どんな使い道なの?」
「魔力を込めながらここを押すと、姿が消えるんです!潜伏スキルを持ってない人でも姿を消せるようになるので、今までは厳しかった盗賊がいないパーティーでのダンジョン探索にも助かると思うんです!さらに、子供に持たせれば、ここを押して起動する時に大きな音がなるので、子供が迷子になってしまわないようにも使えるんですよ!」
「へー、それは便利そ……あれ?ねえウィズ、姿を消す時と音が出る時の条件が同じような気がするんだけど?」
「そうですね。」
「…姿は消えるけど音でバレちゃうんじゃ…」
「………あっ………で、でも、迷子の時に使えますし…」
「それだけのためにしては値段高いし…それに、音が鳴っても姿が消えてるから見つけにくいような気がするんだ。」
「………あっ………」
「…………あ、そうだ!わ、私、そろそろみんなのとこに帰るね!じゃ!」
空気に耐えられなくなったルミはウィズの店から走り去り、ギルドの方に向かった。
無慈悲な冬将軍カット。しかしこうしないと色々やばいのです。世界が。うたわれるもの二人の白皇やった人なら理由に予想つくかも?
うたわれるもの用語(?)
アクアよりはルミの方が力があるから…うたわれるものに出てくる人物は一部例外を除いて身体能力がかなり高い。多分子供でも米俵ぐらい余裕で持てると思う。