『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』
ルミのあの帰省から一週間、今日も近くの森まで草を摘みに行こうかと準備をしていたところでルミはそんな放送を聞いた。
「なんだ?またキャベツか何かか?」
「あ、カズマおはよう。キャベツじゃないとは思うよ?ほら、明確に武装してきてって言ってたし。」
「じゃあいよいよモンスターが襲ってきたのか?」
「さあ…って、話してる場合じゃないよ!緊急の放送なんだから急がないと!」
「あ?ああ、そうだな!」
……………
「俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部のものだが……………ま、まま、毎日毎日毎日毎日!!お、おお俺様の城に毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、だ、誰だあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
冒険者たちの人混みの中にたどり着くと、門の前でデュラハンが馬にまたがりそんなことを叫ぶところだった。
「「「…………」」」
(………ね、ねえ、カズマ?今あのデュラハンの人から爆裂魔法って聞こえてきたんだけど…)
(…おお。)
(も、もしかしてだけど、心当たりあったりする?)
(…おお。)
「…おい、爆裂魔法って言ったよな?」
「ああ言った。」
「爆裂魔法って言やぁ………」
そんな言葉とともに冒険者たちは、いつもと同じく一風変わった紅魔族スタイルをしているめぐみんに視線を送る。めぐみんは視線が自分に集まっているとわかると、ふいと隣にいた見ず知らずの魔法使いの女の子の方を見た。もちろん、ほかの冒険者の視線もそちらに向くことになった。
「ええっ⁉︎あ、あたし⁉︎なんであたしが見られてんの⁉︎爆裂魔法なんて使えないよっ!」
(…ね、ねえカズマ?あの、あれ…)
「おいそこのお前ぇ!さっきからコソコソと何をしておるのだ!お前か?爆裂魔法を撃ち込んでくるのは!」
「え、ええっと、私も使えないよ!」
「ならば大人しくしていろ!爆裂魔法を撃ったやつ!早く出てこんか!見せしめにその子供を殺しても、お、俺は、構わんのだぞ!」
「………はぁ………」
ため息とともにめぐみんが人々の中から歩み出た。
「私の仲間に手を出すのはやめてもらおうか。それで、我が爆裂魔法に何か文句でも?」
「そうか…お前が………お前が毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んで行く大馬鹿者かぁ!俺が?魔王軍幹部だと知って喧嘩を売っているなら、堂々と攻めてくるがいい!その気がないのなら街で震えているがいい!ねぇー、なんでこんな陰湿な嫌がらせするのぉー⁉︎この街には雑魚しかいないと放置しておれば調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポンポンポン!撃ち込んできおって!頭おかしいんじゃないのか、貴様ぁっ!」
「………我が名はめぐみん、アークウィザードにして爆裂魔法を操る者………!」
「………めぐみんってなんだ。バカにしてんのか?」
「ち、ちがわい!我は紅魔族の者にしてこの街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは魔王軍幹部幹部のあなたをおびき出すための作戦…こうしてまんまと」
「あれ?1日1回爆裂魔法を撃たないと気が済まないからって言ってなかったっけ?」
「……………」
ルミの言葉にめぐみんは固まった。
「…敵である俺が言うことではないが、もう少し空気を読んでやってはどうだ…?………まあいい。それにしても紅魔の者だったか。そのイカれた名前は俺をバカにしたわけではなかったのだな。」
「おい、両親からもらった私の名に文句があるなら聞こうじゃないか。」
「そうだよ!めぐみんの名前はおかしくないもん!かわいいもん!」
「………なんだ、俺がおかしいのか?………とにかくだ!俺はお前らに構うためにこの地にきたわけではない。ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在することになるだろうが、もう爆裂魔法を使うな。いいな?」
「無理です。紅魔族は毎日爆裂魔法を撃たないと死ぬんです。」
「そんな話聞いたことないし1日1回撃たなければ気が済まないと言っていたのだろう⁉︎適当な嘘をつくな!そちらがその迷惑行為を続ける気なら、こちらにも考えがあるのだぞ?」
「こちらもあなたには迷惑してるんです。あなたがこちらに来たせいで街の近くのモンスターも逃げて仕事もろくにできないんですよ!…フッ、魔王軍幹部だろうがあなたがアンデッドだったのが運の尽き…こちらには対アンデッドのスペシャリストがいるのですよ!先生!お願いします!」
「丸投げかよ⁉︎」
「しょうがないわねぇ…魔王の幹部だかなんだか知らないけど、あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ覚悟はいいかしら!」
「おいアクア⁉︎」
「ほう、これはこれは。アークプリーストとは珍しいな。だが、俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれておらんし、弱点の対策もしている。…そうだな、ここはひとつ、紅魔の娘を苦しませてやろう。…汝に死の宣告を!お前は、一週間後に死ぬだろう。」
デュラハンの指先から禍々しい黒い何かが出て来てめぐみんに向かう。だが、めぐみんの前にダクネスが立ちはだかった。
「ダクネス⁉︎」
「大丈夫⁉︎」
「ど、どっか痛いところとかはないか?」
「いや、特に変わったところはないのだが…」
「その呪いは今は何ともない。多少予定は狂ったが仲間の結束が固い貴様ら冒険者にはこちらの方が応えさそうだな。紅魔族の娘よ、このままではそこのクルセイダーは一週間で死ぬ。素直に俺の言うことを聞いておればいいものを。お前の大切な仲間は一週間、苦しみながら死ぬのだ。仲間の苦しむ姿を見て自らの行いを悔いるがいい!」
「なんということだ!つまり貴様は私にこう言いたいのだな!この死の呪いを解いてほしくば俺のいうとおりにしろと!」
「…えっ?」
「そ、そうだったの?あの人ってそんな目的で?」
「えっ?えっ?」
「くっ、呪いぐらいでこの私は屈しない……屈し……ない、が!カズマ!見ろ!デュラハンのあの兜の下のいやらしい目を!あれは私を城に連れ帰り、呪いを解いてほしくば黙って言うことを聞けと凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だ!!!」
「はーど…?へんしつ…?」
「……えっ?」
「おいおい、あのデュラハンマジかよ…ルミちゃんみてえな小さな子がいる前で変態発言だぜ。」
「ああ、最低だな。」
「そうよそうよ。教育に悪いわ。」
「………」
デュラハン自身は何も言っていないはずなのに、何故か変質者のレッテルを貼られていく。徐々に手に持っている首がふるふると震えが増す。だが、同時に不規則に肩が上下してきているのでどう見ても怒気にはみえない。
「体は好きにできても心までお前のものになるとは思うなよ!ああ…どうしよう…カズマ!これは燃えるシチュエーションだ!行きたくはないが行かなくては!ギリギリまで抵抗して見せるから邪魔はしないでくれ!では行ってくる!」
「おい、待て!もうやめてやれよ!もうデュラハンの人が涙目だろうが!精神的なライフはゼロを通り越してマイナスだよ!許してやれよ!」
「………と、とにかく、これに懲りたら爆裂魔法を城に放つのはやめろ………そしてそこのクルセイダーの呪いを解いてほしくば俺の城に来るのだ。最上階で待つ。…だが、俺の配下のアンデットナイトが城内にはひしめいている。ひよっこのお前らに超えられるか…?はっはっは……はぁ………」
そうして、デュラハンは街の前から去って行った。カズマは最後に見たデュラハンの後ろ姿に哀愁を感じた。
「…って今はそれどころじゃない。…ルミ?」
「……………………やっぱり、ダメだ…やってみたけど…私のスキル……蘇生扇舞じゃ…この呪いを解けない…みたい……あはは……はは…は………」
「ルミ…」
「ルミ、私は大丈夫だ。大丈夫だから、そんな顔をしないでくれ。」
「…カズマ、少し出かけてきますよ。」
「どこ行くんだ。」
「廃城に行ってきます。あいつに爆裂魔法を直接ぶち込んでダクネスの呪いを解かせてやりますよ。」
「…お前馬鹿だな。」
「何を…」
「お前一人で行ってどうすんだよ。一人じゃ門番にでも爆裂魔法撃ってそれで終わっちゃうだろ?あれが幹部の城だって気づかなかった俺も間抜けだしな。」
「カズマ…そうですね。じゃあ、一緒に行きますか。ただ、アンデッドモンスターに物理攻撃は相性が悪いです。ここぞという時には是非私を頼ってください。」
「…待って…私も行く…仲間を助けるためなら、私はなんでもするから…だから…」
「…ルミ、ついてくるのは構わないがあんまり思い詰めるな。あのデュラハンは好戦的ではないらしいんだろ?めぐみんや俺がちゃんと謝れば、きっと呪いを」
「セイクリッド・ブレイクスペル!」
三人が話をしていると、唐突にアクアがダクネスに魔法をかけた。ダクネスの足元に魔法陣が現れて、突風が吹き上がるとともに、眩しい光が差し込んできた。
「うわぁぁぁぁ⁉︎…あ〜〜…」
ダクネスの頭の上には涙を流す呪い(?)がうっすらと見える気がする。
「…呪いが…?」
「この私にかかればこの程度の呪い楽勝よ!私だってたまにはプリーストっぽいでしょ?」
「…え、あの………え?あれ?」
「俺たちのやる気返せよ………」
「………よかった……よかったよぉダクネス〜……う…うわぁぁぁ…えええぇぇぇぇ…」
「お、おいおいルミらしくないぞ。ほら、ルミは笑顔が一番だ。泣かないで笑ってくれ。」
「…まあ、いいか。とりあえず解決したし帰るか。ルミ、ほら泣くなよ。ダクネスは無事だろ?」
「ぐずっ……うんっ……うんっ………!」
○
それから一週間後のこと、いつものギルドの一角で唐突にアクアが叫ぶ。
「難しくてもいいからクエストに行きましょう!」
「いきなりどうしたの?アクア。」
「もう嫌なのよおおぉぉぉ!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!もう店長に怒られたくないのよ!次のクエストは精一杯!一生懸命頑張るからぁぁぁ!ねぇ、カズマさんお願いよぉ!」
「…しょうがねぇなぁ…ほら、一旦落ち着け。な?とりあえずできそうなクエストがないか一回見てこいよ。」
「…そうね。見ないことにはわからないしそうしてみるわ。」
そう言って、アクアはクエストを張り出している掲示板の方に歩いていった。
「…カズマ、一応アクアが受けようとするクエストを確かめてきてくれません?とんでもないものを持ってきそうですし…」
「ああ…私もそう思う。…ま、まあどうしてもというなら私が盾になってもいいのだが…」
「あ、気になるし私も見に行こーっと。」
……………
「ん〜………ぁ、よし!」
「よしじゃねぇ!何受けようとしてんだ!」
「えっと…グリフォンとマンティコアの討伐?だってさ。」
「ナワバリ争いしてて危険だからまとめて倒せ?報酬五十万エリス……アホか!できるわけないだろ!どんだけ強いと思ってんだ!」
「何よもう…二匹まとまってるところにめぐみんが爆裂魔法食らわせれば一撃じゃないの…」
「でもアクア、もし逃げられたり耐えられたりしたら、後どうしようもないよ?」
「そもそもその二体、どうやってまとめるんだ。それも俺任せかよ?」
「ったく…しょうがないわね〜………ん?このクエストなんてどうかしら!」
「湖の浄化…報酬三十万…」
「ブルータルアリゲーターが住み着いてるけど、浄化すれば住処を移すから討伐の必要はないって書いてるわ!」
「浄化ってどうやるの?浄化の魔法とかあったりするの?」
「あるけど、そんなの私にとっては使うまでもないわ。私が触れてるだけで水は綺麗になっていくもの。ほら、私今はアークプリーストなんてやってるけど、見た目とかから私が何を司る女神かわかるでしょ?」
「宴会の神様だろ?」
「私なんの女神かとかって聞いてたっけ?」
「水よ!水の女神よ!名前とか髪の色とかこの水色の瞳とか見えないの⁉︎」
「そうだったんだ。女神ってのは聞いてたけどそれは知らなかったよ。」
「じゃあそれを請けろよ。浄化だけなら俺たちがいなくてもいいんだから、報酬独り占めできるぞ?」
「え、それは……その…一人じゃちょっと怖いなー、なんて…」
「なんだそれ…」
「じゃあみんなで行く?」
「どのくらいで浄化は終わるんだ?五分か?十分か?」
「うーん…半日ぐらい?」
「長えよ!」
「ああん待って!紙を戻さないで!これ以外できそうなクエスト無いのよぉ!お願いだから手伝って!手伝ってよぉ!」
「そう言われてもどうやって守れって言うんだ…………ん?なあアクア。さっき水に触れてるだけで十分だって感じに言ってたよな?」
「うん?確かにそう言ったけど?」
「それなら手があるかもしれないぞ。ちょっと受付に行って確かめてくるからちょっと待っててくれ。」
たぶんベルディアさんの呪いはうたわれるものでいう呪詛レベル。(ターン経過でしか解除できない呪い。)
うたわれるもの用語
蘇生扇舞…偽りの仮面主人公、ハクの回復技。体力回復、気力回復、状態異常回復という三拍子揃った便利な回復技。気力回復は元気出る的な曖昧な扱いになりそう。