カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第九話 来訪者

 翌日は数少ない里の中でできる任務を請け負った。勿論、リッカを同行してだ。

 ナルト達を休ませておく訳にはいかなかったからだが、三人はリッカとの再会を大いに喜んだ。

 

 里の中で遂行できる任務がない日は演習をした。いつもリッカは隣で、オレの家から持ってきた本(…勿論、イチャイチャシリーズではない本)を読んでいて、大人しく終わるのを待っていた。

 

 が、そろそろこれも限界だ。三人にとっては非常に重要な時期なのだ。早く代理の隊長を見付けてやらなければいけない。

 

 そう考えていたある日、朝からサスケとサクラがアスマ班の助っ人に行って留守だったので、ナルトだけが一緒に付いてきていた。

 雨上がりで里中がにぎわっていた。

 旅芸人が来ているようで、広場から音楽が聞こえる。

 せっかくだから見に行こう、と、ナルトが言い出したので広場に向かった。

 ナルトとリッカは人垣の一番前まで行って、旅芸人の踊りに見入っている。

 

 オレは少し離れて、楽しそうな二人を見ていた。

 

 暫くして、秘かにリッカに近付く影があった。

 本人はまだ気付いていない。

 

 これが護衛任務であればこの時点で動くのだが、今のオレの任務は「護衛」ではない。

 二人がどう動くか…、少し様子を見てみるかな。

 

 リッカの表情が凍る。接触したのか。

 何か話しているが、もちろん声は聞こえない。

 写輪眼を使っていないから唇を読むこともできないが、リッカの様子からしてあまり良い雰囲気とは言えない。

 

 そろそろ限界か、出るか…。と思った時だった。

 

 リッカが先に跳び上がり、続いて男も跳び上がり、リッカを追いかけて行った。

「あれ?あれ? リッカ??」

 キョロキョロするナルトに指示を出す。

「ナルト! 誰か上忍連れてこい!」

 男が単独で木ノ葉に潜入したという保証はない。念の為の指示だ。

 ナルトに指示を出していた分、少し出遅れたが、これくらいなら問題ない。

 

 それほど探す必要はなく、林の中でリッカの声が聞こえた。

「……木ノ葉は関係ない!!」

 リッカは珍しく感情を露にしている。オレは姿を隠して話を聞いてみることにした。

 

 男はリッカとよく似た黒髪で、歳は見たところハタチ位だろう。

 短めの黒髪に、裾が長い上着も黒…、色で言えば黒ずくめなのだが…

 木ノ葉に潜入できたのを元暗部のオレでも納得してしまう程、忍の持つ独特の雰囲気は欠片もなかった。

 どこかの国の富裕層の子息にしか見えない…。

 ま、ただのいいとこのお坊ちゃんじゃないのは、ここまで移動して息一つ切らしてない事と、リッカに詰め寄られても全く表情を動かさずにいる事からもわかる。

 二人が険悪な雰囲気でなければ、同じ黒髪なこともあって、年の離れた兄妹にも見えるだろう。

 しかし、愛らしい雰囲気のリッカとは違い、男の切れ長の目は、怜悧そうだが、どこか冷酷さも滲ませているような気がした…。

 

「しかし、木ノ葉の忍によって」

 あくまでも冷静な男の言葉が終わらないうちに、リッカが反論する。

「違う!兄様達が私を殺そうとしたの!だから私が返り討ちにしただけ!」

 兄様…? あの刺客が兄だと…?

「貴女には無理です。武器もお持ちでなかったはず」

 風を切る音とともに、男の足元に氷柱(ツララ)がいくつも突き刺さった。

 そうだ、あの日もこんな雨上がりだった…。

 

「知ってるでしょ?武器なんかなくても殺せるわ!」

「国に戻ったニレが言うには、妹姫を案じられ様子を伺いに行かれた兄君達が、木ノ葉の忍に殺害されたと…。事実、現場に残されていたという、木ノ葉の手裏剣を持ち帰っております」

 オレはあの時、帰る前に手裏剣とクナイを全て回収させた。間違いない。

 恐らくサスケ達が投げたものを、戦闘中に隠し持って行ったのだろう。

 だとしたら、えらく用意周到だな…。

 

「嘘よ! 兄様達が突然襲ってきたのよ」

「しかし、そう信じている者もおります」

「…お父様はご存知なの?」

「勿論です。私は陛下のご命令で」

 …陛下ね。

 

「ヒイラギ!」

「ハッ」

「木ノ葉に手を出すというなら…、例え貴方でも許さないわよ」

 絞り出すようにリッカが言ったが、男は笑いながら応えた。

「フッ…、貴女が私を止められると? 貴女の戦闘術は全て私がお教えしたのですよ?」

「……」リッカは悔しそうに拳を握り締めた。

「それに誤解されているようですが、私は木ノ葉に報復に来たのではありません。陛下のご命令で貴女をお迎えに参ったのです。 …よろしいですね? 木ノ葉の方!」

 最後のはオレが隠れている方を振り返りながら言った。

 気付いていたのか…。

 

「よろしくは…、ないですね」

 と言ってオレが突然隣に姿を現すと、リッカは驚き、声をあげた。

「カカシ先生! …いつから…」

 その声に男は僅かに表情を動かした。

 今のはどういう感情なんだろう?

 

「やぁー。いつから…かなぁ。たぶん、わりと最初の方だね!」

「…じゃあ、話を…」

「ヒイラギ君…でいいのかな? お迎えは少し早すぎたね。この子にはまだ少し用があるんだ。スマナイね」

 言いながらリッカを引き寄せようとする…が、冷気が固まるのを感じ、手を引いた。

 オレとリッカの間で、凝縮された氷の欠片が爆発したように弾け飛ぶ。

 その隙にヒイラギがリッカを引き寄せてしまう。

 

 こいつも氷遁を…。

 殺傷能力の低い足止めや目眩まし用の術なのだろうが、オレの手元を狙ったおかげで近距離にあったリッカの髪には氷の欠片がいくつも飛び、頬にも当たったのだろう、血がじわりと滲み出した。

 

 しかしリッカはひるむことなく、ヒイラギに向かって言った。

「わかったから!もう止めてっ!カカシ先生に手出ししたら本当に許さないわよ!!」

 お願いではなく、命令という口調だ。

「では、帰国されるのですね?」

 そう言いながら、ヒイラギは左手でそっとリッカの頬の血を拭う。

 リッカはコクリと頷いたが、そういう訳にはいかない。

「あのねー。帰るかどうか決めるのは、リッカでもヒイラギ君でもオレでもないの。…火影様だからね!」

 言葉が終わらないうちに瞬身の術で二人の間に割って入り、リッカを引き離して背中に隠す。

 

 ちょうどいいタイミングで、ナルトの声が聞こえた。

「カカシせーんせー! どーこだってばよォー!!」

「おーい、カカシィー!」

 連れて来たのはガイか…。

 二人とも忍者とは思えない登場だが…、この場合は正解だった。

 

「残念ですが、今日は引き上げます。リッカ様、貴女が此処に残る事が火種になり得る事をお忘れなきよう」

 ヒイラギが言った。ついでにオレに向かって

「はたけカカシ! リッカ様を必ずお守りしろ!」

 コイツ…、オレの方が絶対年上でしょ。初対面で呼び捨てってどうなのよ…。

 それに、わがままな奴だね、どーも…。

 

「まっ…さっき怪我させたのは、君なんだけどね…」

 オレの嫌味が聞こえたか聞こえていないかわからないが、彼は煙を残して消えた。

 

 派手に登場したナルトとガイに、もう大丈夫だと言って帰ってもらう間も、リッカは一言も喋らなかった。彼女の性格から考えたら、二人にお礼だとか謝罪だとかをしそうなものだが…。

 

 ヒイラギが消えた後から、ずっと何か考え込んでいる。

 最後の「此処に残る事が火種になる」という言葉についてだろう。

 オレも先刻の彼の言葉を思い出していた。

「はたけカカシ!」ま、呼び捨てはともかくだ…、リッカはオレの名前しか呼んでいない。にも関わらず、オレの姓も知っていたという事だ…。

 

 リッカは暫く黙って考え込んだ後、顔を上げ、はっきりと言った。

「私が木ノ葉に来た理由をお話しします。だから、私を帰国させてください!」

 

「…さっきも言ったとーり、決めるのは火影様だから…ね。 ま、とりあえず、火影様に話聞いてもらおっか…」

 


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