『私/俺』は『アナタ/アンタ』を『殺したい』   作:柳野 守利

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今回ちょっと沙耶との話が書きにくかったです
なんか変な感じになってるかもしれません...
もっと文才があればうまくこういったのも書けるんでしょうけどね...


俺は再び危機に瀕する

 懐かしい風景が見えた

 

 部屋には少年がいて、若い男と女がいた。少年は刃物を持って女に向けていた

 

 俺はそれを見ていた

 

 その少年の顔は、幼い頃の自分だ。少年は俺に向かって目を向けて、声を出さずに目で訴えた

 

 ──たすけて

 

 されど、俺に助ける手立ても、勇気も、力もなかった

 

 ──たすけて

 

 少年は助けを乞うた。あぁ...それでも...俺には見ている事しか出来ない

 

 ...やがて少年は刃物を振りかざした。女の身体に、深々と突き刺さる。辺りに血が飛び散った。少年の顔が血で汚れた

 

 ...少年は自分の母親を刺したのだ。紛れもなく、自分の身体で、自分の力で。母親はもがき苦しんでいる。痛い、死にたい。けど死にたくない

 

 ...少年はもう一度刃物を振りかざした。胸に向けて、真っ直ぐ振り下ろす。手に伝わる感触に、少年は顔を歪めた

 

 そして、少年は言った

 

 ──俺が、鏡夜だ

 

 俺はそれを見ている

 

 ──俺が、浪川 鏡夜だッ

 

 刃物を抜いて、勢いよく走り出した。今度は、男に向かって

 

 ...俺はそれを、見ていた

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

「..........」

 

 目を覚ませば、明るい日光が部屋を照らしていた。窓からは、街を見下ろすことが出来る。周りは、白、白、白。見渡す限り白。身体を起こしてみようとすれば、酷い激痛がはしり、たまらずまた横になった

 

「..........」

 

 ベッドと合体されたテーブルには、何枚かの紙が置いてあった。とりあえず、一番上にあったものを手に取って読んでみる。差出人の欄に、恭治と書かれていた

 

「......親父...?」

 

 紙に書かれていた文はなんとも簡潔にまとめられていた。あの後病院に運ばれて入院させられたようだ。なんでも、一番酷い状態だったらしい。いや...もう一人、強姦魔がよりもっと酷い状態らしいが、もう警察の厄介になって身動きできないとのこと。雪菜も沙耶も、怪我なく帰ることが出来たこと。殺人鬼に関するものは何一つ得られなかったこと。フォームについて、新しく情報が得られたこと。そして、起きたら電話するようにとのこと

 

「...電話、ね。公衆電話までか...この身体じゃ、なかなかキツいな...」

 

 病院内で携帯電話は原則使用禁止だ。いやまぁ、使えるなら使ってもいいんだが...リハビリも兼ねてだ。医者になんの確認もなしだが、別に構わないだろう。とりあえず、立つところからどうにかしないと...

 

「ふっ...ぐぅっ......」

 

 立つために体に力を入れると、右腕全体と両足が痛む。やはりあの麻薬の副作用か...。いや、副作用というよりも、飲んだことによる影響と言った方がいいな。俺の予想していた通りの効果なら...この程度で済んだだけマシとも言えるかもしれない。そのことに関しては後で教えてくれるだろう

 

「..........?」

 

 部屋の外から誰かの足音が近づいてきた。医者が来たか。立っているところを見られてもアレか...。一応、座っておくか

 

 部屋の扉がゆっくりと開かれる。そこに居たのは、予想していた人物とは違っていた。病院の中で黒服を着るのはそう多くはない。喪服と思われがちだからだ。それでも尚黒の服に見を包む女の子。そしてその隣で明るい服を着た対照的な子。雪菜と沙耶だ。彼女達は俺が起きているのを見て、目を見開いて驚いていた

 

「晴大さん...良かった。目が覚めたんですね」

 

「...あぁ。今しがた、な」

 

 雪菜がホッと息を吐いた。どうやらずっと心配していたらしい。嬉しいことだ。隣にいる沙耶は、どこかオドオドとしていて、何かを言おうとして口を噤んでいた。が、やがてたどたどしく声を発した

 

「あ、あの...晴大さん。身体は、大丈夫ですか...?」

 

「あぁ。大丈夫だとも。そんなにヤワな身体じゃないよ、俺は。これでも多少は鍛えてるんだ」

 

 むしろ鍛えていなかったら下手すると初撃で死んでいたんじゃなかろうか。親父との猛特訓は幸をなしたようだ。二度としたくはないが。誰があんな化物と殴り合いたいと思うよ。どんなふうに攻撃しても全部受け流されるか止められてカウンター貰って脳震盪起こして気絶とか。親父が子供にやる特訓法じゃない

 

 ...まぁ、それ以外の目的もあったんだろうがな

 

「...良かったです。私達のせいで、晴大さん動けなくなっちゃうんじゃないかって、ずっと心配で...私、私っ......」

 

 沙耶は涙を流して泣き出してしまった。そんな沙耶の頭をゆっくりと撫でる。心配させたくはなかったが...やむを得ない状況でもあった。あれ以外に方法はなかった。少なくとも、俺の実力では。親父が全快なら、他の方法もきっとあった。やはり俺は弱い。このままでは...あの時の二の舞いだ

 

「...お前達のせいって訳じゃない。むしろ、俺の不注意のせいで起きた事故だ。お前達に怪我がなくて、本当に良かったよ」

 

「せぇだいさんっ......」

 

 沙耶が泣きながら抱きついてきた。悲鳴をあげそうになるのを歯を食いしばってぐっと堪える。なんだ、女の子に抱きしめられているというのに、酷い顔をしていそうだ。苦虫を噛み潰した顔でもしてるかな

 

「...沙耶、それくらいにしときなよ。晴大さん身体まだ痛そうだから......」

 

 ナイスだ、雪菜。俺は心の中で感謝した。このままの状態でいたら、もう一度気絶していたかもしれない。悲鳴を上げなかった俺を、誰か褒めてほしいものだ

 

 沙耶は少しだけ名残惜しそうに俺の身体から離れた。まだ泣き止まぬ様子のまま、彼女は俺に聞いた

 

「なんで、そこまでして私達を...助けてくれたんですか? 会って間もないのに、命を張るような真似までして...」

 

 ...彼女は俺の目を見て問うた。真っ直ぐな瞳は、俺に嘘をつかせることをはばからせる。本当のことを言うべきか。いや、言った方がいいのだろう。しかし彼女の個人的な話だ。雪菜に聞かせるのも...。いや、観覧車の中で、ひとしきり聞いているから、そこまで深く考え込む必要も無い、か

 

「...前にも言ったよ。君が大切だからだ」

 

「それは...どういった、意味でですか」

 

「...あまり、いい話ではないんだ。けど、悲観しないで聞いてほしい」

 

 チラリと雪菜を見ると、彼女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。沙耶も、少しだけ不思議そうだ。俺は話を続けた

 

「俺には、弟がいた。昔の事だ。俺の弟は今世の中を騒がせている殺人鬼に殺されたんだよ」

 

「...えっ?」

 

 沙耶が驚いたように声を上げる。雪菜は前にもこの話を聞いていたからか、特に反応はなかった

 

「...とても元気な男の子だった。頼りになるし、強かった。頭はあまり良くなかったけどね。それで...殺された弟は、臓器を死体ごと売られちゃったんだ」

 

「...臓器......それって...」

 

 沙耶はどこか悲しそうに、自分のお腹に手を当てた。俺は軽く頷いて、彼女に真実を告げた

 

「そう...。君が昔交通事故で手術した際に移植された臓器。それこそが、俺の弟の臓器なんだ。だから...俺は君を守らなきゃって思った。君に、幸せになってもらいたかった。俺の弟の分まで、生きて欲しかったんだ。だから命を張ったんだよ」

 

「..........」

 

 沙耶は自分のお腹を両手で抱きしめた。俯いたまま、彼女は俺に言った

 

「...私の、勘違いだったんですね。私、てっきり、晴大さんに好かれてるのかなって思って...。そうじゃなかったんですね...。ただ、私の中に晴大さんの兄弟の臓器があったから、助けてくれただけで...。だから私に優しくしてくれて、ディスティニーランドにまで連れてってくれて...。全部...私の思っていたこととは、違っていたんですね」

 

「..........すまない。俺には、謝ることしか出来ない。けど、君が大切なのは事実だ」

 

「それは、私の中に臓器があるから、ですよね。なかったら、私なんて目にもとめなかったんですよね。そうじゃなきゃ...私に、優しくしてくれる義理なんてなかったんですから」

 

 彼女が俯いていた顔を上げる。酷く歪んだ顔のまま、泣いていた

 

 ...あぁ、俺にはどうすることも出来ない。だって、事実は事実だ。俺は確かに、彼女が大切だと思っていた。アイツの臓器があったから。けど...それだけじゃなかったはずだ

 

 視線をそらして、雪菜を見た。彼女もだいぶ困惑した様子で沙耶を見つめている

 

 ...そうだ。彼女の、雪菜の大切な友達だから。だから守ろうとしたんだ。理由なんて、その程度のものだ。それに、きっと俺は...誰であろうと、助けていただろう

 

「...君に臓器があることを知ったのは、君と知り合って暫くした後だ。それまでは、知らなかった。それでも、俺は普段は入れることのない連絡先に君のを入れた。元より...大切に思っていたよ。ただ、それは好意ではなく...友人として」

 

「......ごめんなさい...。私もう...なんて、言えばいいのか......。貴方を、軽蔑すべきなんでしょうか...それとも、感謝すべきなんでしょうか...わからない。わからないです、晴大さん...」

 

 ...俺は彼女をそっと抱きしめた。彼女が腕の中でもがく。激痛が走った。が...こんな痛みはきっと、彼女の心の痛みに比べたら、きっとなんてことはないんだろう

 

「...やめて、ください...。こんなこと、されたら...私......。諦め、きれないじゃないですか......。ズルイです...こんなの......」

 

 ...貶されようと構わない。俺に出来ることは、これくらいしか思い浮かばなかったから。酷い手だ。彼女が好意を抱いていると自覚していて尚、それを利用しているのだから

 

 ...屑だな、俺は

 

「..........ありがとう、ございました」

 

 腕の中で、震えた声で感謝の言葉を述べられた

 

「...助けてくれて、ありがとうございました...。私は...勝手に勘違いしてて...どうしたらいいか、分かんなくて...けど、どうしたいかは、わかってるんです。だから...これからも、一緒に居たりしては、ダメですか...?」

 

「...勘違いさせたのは、俺だ。君の好きにするといい。ただ、忘れないで欲しい。内臓も何も抜きにして...俺は君のことを大切に思っていると」

 

「......酷いです、本当に...。晴大さんは、女の敵です...」

 

 彼女は腕の中でもがくのを辞めて、そのまま身体を預けてきた。雪菜の方を見ると、彼女は恨めしそうに沙耶を見ている

 

 ...しばらくの間、安息の時を過ごした

 

To be continued...


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