『私/俺』は『アナタ/アンタ』を『殺したい』   作:柳野 守利

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今回文頭の字下げを行いました

正直いって、違和感があります。ずっと字下げしないで書いてましたからね...

しかし、字下げのボタンを使って行うと、「」の先頭も字下げされるんですね


彼女は疑問を抱き、俺は新たな依頼に着手する

 ピッと音を立ててテレビの画面は真っ黒に変わった。リモコンを置いた総司さんは、私に向き合って真剣な表情で語りかけてきた

 

「そういえば、昨日の夜に家のそばに不審者がいたようだ。音が聞こえたし、僕も起きてたから見に行ってみたんだけどね。真夜中だったかな、路地を走っていく人影が見えた。容姿とかはわからないかな、街灯の明かりの範囲外だったし」

 

「...不審者、ですか?」

 

「うん。怖がらせるようで悪いんだけどね...もしかしたら、お兄さんなんじゃないかなって」

 

「...兄さんが」

 

 口を噤んだ。奥歯がギリッと音を立てる。どうしようもない怒りのような感情が身に起こり、それと同時に不安も大きくなる

 

「...どうやって、この家を突き止めたのかわからない。偶然かもしれない。ただターゲットを探していて、目に止まっただけかもしれない。けど、もしも突き止められたのなら...雪菜、ここ最近で住所とか教えた人いる? もしくは紙に書いたりとか」

 

「...ない、と思う......」

 

 あっ、と声が漏れた。私は住所を彼に教えたのだ。その上、私は彼に家まで送ってもらった

 

 ニュースの内容が頭をよぎった。嘘だ、と心の中で強く否定した。そんなわけがない、と否定した。彼はそんなこと、しない...と段々と心の否定は弱まっていく

 

「...雪菜?」

 

「...なんでも、ないです。それより...どうするんですか?」

 

「あぁ...。警察に相談してみようかなって思ってる」

 

「そう、ですか」

 

 

 どうしよう。私はどうすればいい。晴大さんは、兄なのだろうか。いやでも、そんな訳ない。だって名前も違うし、そもそも恭治さんも共犯になってしまう

 

 二重人格で誤魔化してる? 本当に、そんなことができるの? わからない。どうしたらいい。もしも本当に、晴大さんが兄だったら...

 

「..........」

 

 ...私にできるかわからない。けど、私はきっと彼を殺すだろう。だって、裏切ったのは...向こうだ。その時に、私のこの想いが邪魔をしなければいいのに...こんな想い、いらなかったのに。これがなければ...私は、兄を恨むだけで済んでいたのに

 

 ......全部、晴大さんのせいだ

 

 

 胸が、キュッと締め付けられた

 

 

 

 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 カタカタッとキーボードを叩く音だけが響く。目の前に現れる数字の羅列や暗号、それらを解読してなんとかタイプしていく。だが、少年の目には疲労感を感じる隈が浮かんでおり、やがて彼は両手で目を抑えて椅子を後ろに倒すように体を伸ばして叫んだ

 

「...っ、あぁーッ!! あんだこれ全ッ然わかんねぇ!!」

 

「二時間はそうしてるぞ。一旦休め」

 

 目の前にカフェオレの入ったマグカップがコトリと置かれた。顔を上げれば、そこには眼の下にクマを作った親父が立っている。今も尚目の前に映る数字の羅列は変化を続けている

 

「俺の技術じゃ無理だ...」

 

 ゴトンッと鈍い音が響く。彼が頭をテーブルにぶつけたからだ。目の前にあるパソコンでやろうとしていたことは、プロテクトの解除。以前ヒューマンショップの店員が持っていた顧客リストをデータ化してUSBに保管されていたものを見つけたのだ。だから弟の体がどこに行ったのかわかったのだが、問題はそこではなく、誰が売ったのか、という所だ。その誰がの部分には流石にプロテクトがかかっていて開けることが出来なかったのだ

 

「...俺の知り合いにハッカーはいないんだよな」

 

「いてもおかしくない友好関係な気がするんだが...」

 

「警察に相談してみるか?」

 

「...いや、アカンでしょ。これ盗んだに近い代物だからね?」

 

「なら無理だな」

 

 親父と俺は深くため息をついた。手詰まり。鍵のこじ開けはできても、電子の海の中にある金庫には手が届かない。身の回りでそういった専門知識やハッキング能力を持ってたりする奴はいない

 

 ガタガタと机が揺れる。先程から貧乏ゆすりが止まらない。普段はこんなにイラつかないんだが...目の前に決定的な証拠になり得るものがあるかもしれないから、かな。このままだと怒りのあまりにUSBをぶん投げてしまいそうだ

 

「...代行屋とかいないのかね」

 

「ネットで探せばいい。今の世の中それで全部解決だ」

 

「これで解決すんなら警察も探偵もいらねぇよ...」

 

 パソコンの横に置いてある携帯を手に持って、もはや見慣れたGから始まる検索画面を開く

 

「パソコン、データ、解析代行っと」

 

 検索して出てきた結果は、そんなものはないと言わんばかりの内容だ。むしろ、プロテクト解除、違法、等といったものばかりが並んでいる

 

「...まぁ、違法だからね」

 

「ないなら仕方がない。他の方法を探すとしよう。それよりも、お前はこんな事していていいのか?」

 

「...こんな事とはなんだ、死活問題だろうが」

 

「いやお前、明日デートじゃんか」

 

 チラリとカレンダーを見た。本当だ、もう金曜日だ。ここの所煮詰めた作業ばかりですっかり忘れていた。この前大学に行って、レポート出して夏休みに入ってからずっと作業してたからな...

 

「現役女子高生二人とデートとか、ギルティだな」

 

「くだらん。それに、わかってんだろ? 片一方はアイツの臓器提供先、もう片方は...」

 

「...兄妹、か」

 

「...今どきのラノベでもこんな関係存在しねぇよ、まったく」

 

 マグカップの中にあるカフェオレを口に含む。そういえば、雪菜はあの日以来ここに来ていない

 

 客観的に見れば、俺と彼女らの関わりというのはなかなか面白いものだ。探偵と世を騒がす殺人鬼の妹、そして探偵の弟の臓器を持った女の子。どこの世界にこんなメンバーで始まるラブコメがあるだろうか

 

「...そういえば、雪菜ちゃんの家の周囲で警察が張り込むらしい」

 

「...なんで?」

 

「不審者が出た、だとさ。それが殺人鬼なんじゃないかって」

 

「...マジで?」

 

「あぁ。俺も現場に回されることになった」

 

 頭が痛い事態になってきた。いやまぁ、俺がどうこう言えたもんでもないが...。不味いな、このままだともっと殺人鬼の行動範囲が広がっちまう。さっさとこの中身を暴かないと...

 

「あぁ、後はあれだ。例の殺人犯、まだ捕まってないんだと」

 

「殺人犯?」

 

「殺人鬼の模造犯」

 

「あぁ...」

 

 まだ捕まってなかったのか。顔も名前も割り出されてるだろうに。どんだけ警察は人をさけないんだよ、そんなに人が足りないのか?

 

 ...まぁ、探偵を頼るくらいだからなぁ。酷いもんなんだろう、きっと

 

「お前はニュースを見なさすぎだ。こんな部屋にこもってるから...」

 

「仕事だ、仕方ないだろ」

 

 社畜じゃないだけマシかもしれんが、今の俺の現状だって酷いものだ。しかも、俺にはまだ他の依頼も残ってる

 

「一旦休め。殺人鬼は俺が追うから、お前は別の依頼を片してこい。何のつながりもないもの同士が、どっかで結びつくこともある」

 

「...わかったよ。明後日からは、こっちの依頼の捜索もしていく」

 

 壁にかけてあるボードに貼り付けられた一枚の紙と写真。その写真には白い紙が一枚写っており、厚さは向こう側が見えるほどに薄い。形は正方形、大きさは縦横3センチといったところだ

 

「...こういったのは、俺ら探偵の仕事なのかね。警察じゃなく」

 

「警察は大きく動くことが少ない。尋問はできても捜査はしづらい。探偵は警察の小間使いみたいなもんだって、親父は言ってたよ」

 

「...爺さんも苦労してたのかね」

 

 この写真は親父が警察から渡されたものだ。そう、()()()()の依頼である。内容は、麻薬の提供元の判明、製造場所の特定だ。警察も見たことがない新しいタイプのものらしい。正式名は不明だが、これを所持していた人物はこれを、『フォーム』と呼んだらしい。この麻薬の効果というのは、意識が朦朧とし、判断能力の低下、気分高揚、そして強度の依存性といったものだ

 

 まず、麻薬というものには種類がある。錠剤タイプや、粉塵タイプ、こういった紙のようなものに加工もできる。そして、それらはアップ系、ダウン系、の二種類に分けられる。読んで字のごとく、アップ系は気分高揚、ダウン系は沈静化だ。厄介なことに、アップ系は効果が切れるとイライラして、ダウン系は少しでもイライラしたり嫌なことがあるとすぐに使いたくなってしまうことだ

 

 そうして次の麻薬に、切れてまた買って使って、そうやってバイヤーは金を回す。最初は弱くて安いものを、そして何度もやってきた相手にはこう言う。もっと良いのがある、と。値段は高め、だが買い手はそれを買ってしまう。そしてその良い麻薬にハマり、弱い麻薬が効かなくなる。これじゃなきゃ満足出来ない、だがそこにまたバイヤーはつけ込む

 

 もっといいのがある、これはまだ出回らないものだ。お得意さんにはこれを言い値で売ろう。どうだい?

 

 ...そして、破綻して、それでも止められなくて、お金が欲しくなって、殺して奪って捕まって。そんで薬中で死ぬか、刑務所で死ぬか。ろくな結末にはならない

 

「気をつけろよ。バイヤーっつうのは大体隠れるのが上手い上に、ボディーガードがついてる。返り討ちに遭うなよ」

 

「任せとけ。腕っ節なら自信あるし。それに...殴って解決するなら、それに越した事はない。頭使うより簡単だ」

 

「脳筋思考のくせに、頭が回るからタチが悪い」

 

「探偵なんてそんなもん」

 

「俺はちげぇよ」

 

 親父が胸ポケットからタバコの箱を取り出して、一本取り出して火をつける。大きく息を吸いこみ、煙を吐き出した。独特で嫌な匂いが部屋に充満する

 

「俺の部屋で吸うな。ってか、事務所の中で吸うんじゃねぇよ」

 

「許せ、こっちも連日通い詰めで疲れてんだ。今日もこの後雪菜ちゃんの家で張り込みだよ」

 

 やれやれ、といった感じで親父が首を降る。煙は上へ上へと登って、天井にあたって周りに四散する。立ち上がって部屋の窓ガラスを開けた。夕日が地平線の向こう側に隠れようとしている

 

「ヤニがつくだろ。それに匂いも。タバコなんてやめちまえよ、麻薬みてぇなもんだ」

 

「確かにな。百害あって一利なし。癌にはなるし、周りの迷惑になるし、金はかかるし依存性もある」

 

「麻薬と何が違うんだか」

 

「強いて言うなら、強さだろうな。麻薬は強力だとも。まぁ、タバコも弱くはないが...必需品ではない。嗜好品だ。けど、麻薬は認められず、タバコは販売許可されている。何故かわかるか?」

 

「...犯罪者が減るから、か?」

 

 親父は顎に生えた髭に手を当てて、何故そう思う、と聞いてきた

 

「心身ともに疲れた人には安らぎが必要だ。しかも、それを得るためには暇がない場合が多い。簡単に誰でも手に入れることが出来て、少しの時間で使用でき、ストレスを発散させることができる。それが犯罪防止に一役買ってる、ってのが俺の予想」

 

「あながち間違っちゃいない。そんな部分もあるんだろうさ。まぁ、単に法律で規制されてないってだけだが、そんな裏事情もあるのかもな」

 

「おい」

 

 ニヤリと笑う親父に少しだけ腹が立った。笑ったまま、親父は警察から依頼された内容の書いてある書類を手に取って、鼻で笑った

 

「しっかし、製造者はなかなかの皮肉屋だな」

 

「どうしてそう思う?」

 

「『フォーム』、俺の予想だと『foam』だな。訳すと、泡だ」

 

「泡...?」

 

 麻薬の名前に泡、ねぇ...。おかしなもんだな。普通はもっと違う名前をつけるだろうに。ただ適当につけただけだろうか

 

「わからねぇか? 何もかも失って、()()()ってことだよ」

 

「...強引な気がしなくもないが、ねぇ」

 

 あぁ、けど確かに、そんな理由でつけられたのならよっぽどの皮肉屋だな。麻薬で人生壊された奴の復讐劇か、それとも単に人生ブッ壊れた奴を見るのが大好きな性格破綻者か

 

 ...まぁ、どちらにしろ..........

 

 

『面倒なことには変わりねぇな』

 

 

 俺と親父は、全く同時にそう言って溜息を吐いた

 

 

 To be continued...


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