異界の召喚憑依術師~チート術師は異世界を観光するついでに無双する~ 作:秋空 シキ
妖狐を解除する。
「――――っ」
思わず膝を付いた。
これは注意だな、この脱力感はヤバイ、立てなくなる。戦闘中にでも起こったら怖い、一瞬でミンチだ。
……あと眠い。
どうやら固有スキルにもデメリットがあるようで、俺の場合は眠気。妖狐の場合は脱力感。といった具合だ。 しかし、まだ決まった訳じゃないがどれも解除後であるため、対応の仕方はあると言えた。
次は白狼だっけか、でも眠気がヤバイな。体調を考えて明日にした方が良いだろうか?
でも夜中に襲われない可能性もなきにしもあらずだし、ああ、どうしよう。
寝るとしても、俺にそんなサバイバル技術はないし。もっともサバイバルグッツも持っていない。水場が近く、というかすぐそこに川があるが一定以上離れた方がいいのか、離れない方がいいのかわかんねえ。
一番良いのは、このまま下流に下っていって人里に降りるのだろうけど……いまの注意力が散漫している状態で襲われないで行けるかどうか。
【神速】か……行けるか?いや無理だろう。いくら川の下流に街が栄えてる可能性があるからって、100%ではないのだ。もし、そうだったら今のところデメリットが動けなくなるしかない固有スキルで生き残れるか。という問題も。
よく考えたら問題だらけだ。
女神は近くに街があると言っていたがどの方角とは言っていない……方角?。
ふと夜空を見上げる。……だめだ。一瞬平行世界だと思って期待したけど、あんなに月が大きいはずがない。
知っている星座の一つすら見つからなかった。
熊のせいで忘れていたが、俺のおかれた状況はこうだ。
森の中一人で遭難。勿論、異世界から来たため遭難届けすらも出ていない。いまいる場所の名称も知らず、この世界の言葉を話せるかどうかも分からず、周りには肉食獣……そして持ち札はイチかバチの賭けのみ。
改めてみるとヤベェな俺、死ぬかも。何も分からずってガイドブック頼んだ意味が……待て。ガイドブック?
俺は急いでステータスを確認する。
……ない……いやあるが、固有スキルばかりに気を取られて失念していた。
眠かったのもあるだろうが、『知識本lv error』『神託lv eroor』この二つは紛れもない特典だろう。
この二つの内、知識本が今の状況を改善できそうだ。
「知識本……」
思わず呟いた。すると目の前に突然本が出てきて、勝手にページがパラパラと捲れていく。というか浮いてるよこいつ。
「……止まったか」
随分と長く捲れていったが、ついに止まり、見開きのページに絵が描かれていった。地図だ。中心に赤い点があり、そこから青い線が延びている。さらに緑が赤い点を囲い、北の方向に街の絵が描かれている。これは俺を中心とした地図だ。なんとなく分かった。
一旦閉じて仕舞うよう目をつむりイメージする。……本は消えていた。もう一度出そうとするとすぐに出てきて地図をイメージするとさっきのページが開かれた。
ハイスペックブックである。
とりあえず目的地は分かった。行き方も分かった。後はここで夜を越すか、街まで歩くか、正直俺は寝たい、だが現実寝ては死ぬ。
そんなことを思った瞬間本が捲れていき、一つのページで止まった。そこには絵とともに文章が書いており、
「なになに、すこし南の崖に土魔法で洞穴を掘り、柳の葉で隠すと幻影付与を掛け、周りの岩と同化させるように見せる。一日宿屋の完成。だと?」
ここの近くに崖なんてあるのか、えーっと地図で南といったらこっちか……ってこっちはさっき熊を突き落とした滝壺がある方じゃないか。つまり崖ってあれか。
流石にさっき殺した相手が眠るというか放置されている場所で寝るのは……ねぇ。
ふとその時、森の中に二つの光る眼孔が見えた気がした。
しかたない我慢するか。
◆◆◆◆◆◆
翌朝、まだ日が昇り切ってない時間に俺は目覚め、ハイスペックブックを頼りに旅に出た。
道中は、特に問題という問題もなくたまにでっかいいもむしの集団を見かけたくらいで無視し、歩き続けてきた俺は遂に街の影を捉えた。
ハイスペックブックによると農業と商業が盛んなオアリスという王都とは遠い場所にある街だとか。
ちなみにだが、ここでの俺の扱いは常識忘れの田舎者としようと思う。……それがテンプレというものだ。
それから暫く歩きアオリスまでやって来た俺は……
「でけぇー」
思ってた以上の外壁の大きさに嘆声をもらした。
壁門に並んでいる人達の最後尾にならんだ。幸いそこまでの人数は居なくほどなくして順番が回って来そう。
……さて、なんて言おう?田舎者ですアオリスに買い物に来ました。じゃダメか?……いやダメだろ。
「次の人どうぞー」
門番が俺を見ながら言う。
えっ?ちょっと待って早すぎない!?まだ決まって無いんだけど!
えっと、えっと……
「お、俺は田舎者で優一と――――」
「ロスワルド商会の者です。ここの領主に商談がありまして」
横の人でした。男の人は名刺らしき紙を門番に見せると、直ぐに通されて街の中に消えていった。
クスクス……
周りから笑い声が聞こえる……どうしよう、穴があったら入りたい。
勘違いを起こした俺は相当田舎者に見えたようで、どこの村の出身ボク?とかムカつく質問をされた。だから、ハイスペックブックを駆使し辻褄が合うように全ての質問に答え、門番の前に立った。
おそらく俺の顔は恥ずかしさ八割、疲れ二割で赤面してる。
「大丈夫か?」
心配してくる門番の人の顔がにやけてる。こいつ確信犯だ。
「あなたのせいで、この通りですよこのやろう」
「おやおや、人が心配してあげているのに、その態度とは先が思いやられるな少年」
顔、隠し通せてないぞ。ウゼェ……
「ちっ。冒険者になりに来ました」
「そうか、どうせ田舎者だから身分証なんて持ってないんだろう?これ、登録料な、ほら通っていいぞ」
門番が俺の右手に銀貨を握らせ街を指差す。なんだろう、この負けた感は。全て見透かされていたし周りも慣れてるようで我関せずだ。
……とりあえず街に入ろうか。
街の中は、わいわいと活気が溢れていて、猫耳の獣人や犬耳の獣人、はてにはドラゴニュートと呼ばれる竜人が売り買いをしたり、噴水のある広場で子供たちが、鬼ごっこをしていたりする。
住人と馬車に乗った商人との楽しそうな談笑も聞こえてきた。
鎧を着ているガタイの良い人達は数人のグループで酒を片手につまみを食べている。おそらく傭兵か何かだろうが、雰囲気が良いことには違いない。
これだよこれ!俺が剣と魔法の世界に気付いて求めていたものは。
決して神様のくせして口調が悪い女神とか、召喚された瞬間に戦闘が始まるとか、街に来たら門番にバカにされるのは違うんだ。そう!これから始まるんだよ俺の異世界生活は。
「邪魔だぞおめぇ!どこ見て歩いてたんだ!?」
あっすいません。いま退きます。
感想、評価くれると嬉しいです。
次回、遂に冒険者に……