それでは第四話です。どうぞ――
~奏side~
家の扉を開け中に入る。玄関には靴があり未来が帰ってきている事が分かった。
「……ただいま」
リビングでテレビを観ていた未来に不思議な顔で見られる。
「おかえり~。ってどうしたの?」
「あー、色々あってな」
鞄を投げてソファーに横になる。体の重みが一瞬で取れてくる。
「喧嘩?」
「それに似たようなものか? 下校途中に路上ライブっぽいのを見てな、そこに花音がいたんだよ。それもバンド組んでた」
「お姉ちゃんが? それじゃあお姉ちゃんと喧嘩したの?」
「いや違う」
俺は否定をして今日あった事を話す。
ライブを見た事、その後花音と話した事。そして……。
「女の子を泣かせた!? お兄ちゃんが!?」
ボーカルの女の子を泣かせてしまった事。
あの時はどうしても昔の自分と向き合っているようで本心を――結末を突きつけて終わってほしかった。でも、それは自分ではなく自分と似たもの、自分とは違うものなのに。
「ハロー、ハッピーワールド……確かに似てるね」
「重なったんだ、あの頃の自分と」
バンドを組んでいた頃の自分。
あの頃は自分がこうなるなんて予想もしてなかった。
「はぁ~……やっちまったなぁ」
額に手を置き後悔の念に浸る。よりにもよって女の子を泣かせてしまったなんて。
「今度謝らないとね」
未来が優しく言ってくる。
「だな~」
土曜か日曜に花音に時間を作ってもらおう、そこで全力で謝らないと。
俺は土日の予定を決めてご飯を作り始めた。
〜美咲side〜
「今日弦巻さん休み? 珍しいね」
「何かあったのかな?」
次の日何も知らないクラスメイトはこころが休みなのを不思議に思っている。出席確認では家の用事という事になっているが……。
「(ありましたよ。それも、相当な事が……)」
知らないのならそう言うのが当たり前だ、でも昨日の出来事を知っているハロハピのメンバーはこうなる事は薄々予想がついていた。
あの後、こころは泣き崩れて謎の黒い服の人達に連れられて帰った。
「(これは花音さんやはぐみに相談かな)」
「――という事で今日の放課後はこころの家に行こうと思います」
そして昼休み、あたしは二人に提案する。既に薫さんからは了承を得ている。
「私も行こうと思ってたんだ……。あのままじゃ心配だもん」
「うん! はぐみもこころんが心配!」
当然こうなる事は予想出来ていて。
「はい、満場一致ということで今日はこころの家にお邪魔するとします!」
お見舞いに行く事が決まり二人から喜びの声が上がる。
「あ、そうだ、かのちゃん先輩」
「? なに?」
「昨日の男の人って誰だったの?」
「それ、あたしも聞こうと思ってました」
思い出したように言ったはぐみの言葉に乗っかる。
こころに関してはあの男も関わっているからだ。
「えっと、幼馴染みなの……。今でも仲は良いよ」
「名前を聞いてもいいですか?」
花音さんは頷き、話を続けた。
「草薙奏くん、制服で分かったと思うけど春明高校だよ」
後……。と暗い顔をして言う。
「奏くん音楽が嫌いなの……。聴くのは好きなんだけどライブを見るのが、少し……昔の記憶が戻ってくるからって……」
昨日の男の言った言葉。その中に過去に関する事がたまに出ていた事を思い出す。
『お前に何が分かる。何も知らないから言えるんだろ。俺とお前は他人だからな。それでもな、人の心まで入ってくるなよ? 昔は昔、今は今だ』
『こう見えて俺も昔はバンドを組んでいた、奇遇な事に目標は“みんなを笑顔にする”なんて馬鹿げた目標を持っていたさ』
「昔に何かあったの?」
「……うん。詳しくは言えないけどそれがバンドを辞める、音楽を奏でなくなった理由」
そして一呼吸おいて。
「多分だけど同じ目標を持っているこころちゃんに自分と同じ道を通ってほしくなかったんだと思う……、だからあんな強く言っちゃって……」
なるほど。
「……その人なりのアドバイス、だったのかな?」
「でもあんなに強く言われたらこころんも……」
あたしも前に言ったが男と女だと違うのだろう。それも、向こうは自分らのバンドと似ていたらしい。
「そういえば黒い服の人に聞いたんだけど」
話を変え、登校中にあった出来事を話す。
「こころは部屋から出てきてないらしい、黒い服の人も心配してた」
主がそんな状態なら気が気でないと思う、いつも元気な少女なら尚更だ。
と、その時誰かの携帯が鳴った。
「あっ、私だ。ごめんね」
どうやら花音さんのだったらしい、携帯を操作して何かを見ている。
「……美咲ちゃん。今日のお見舞い、もう一人増やしてもいいかな?」
どうやらメールのようだ。
それに目を通してあたしを見て言った。
「別にいいですけど、誰ですか?」
「それはね――」
花音さんはどこか笑みを含めながらその人の名を口にする。
「ねぇ、かのちゃん先輩……それって大丈夫なの?」
「――あたしもはぐみと同じです。流石にやめた方が……」
二人で反対をするが、花音さんは強く自分の意思を伝える。
「大丈夫だよ、私を信じて。……きっと何とかしてくれるから」
~こころside~
昨日の事が、頭から離れない。
『お前に何が分かる』
あの人を怒らせるつもりはなかった。
『人の心まで入ってくるなよ』
そんな顔をさせるつもりはなかった。
『お前がただ目を瞑ってるだけじゃないのか?』
違う、と言いたかった。
『それは考えないようにしてるだけだ』
あの人が言う言葉は全て、心のどこかで思っている事だった。
『俺がお前に教えてやるよ。目を瞑ってるお前に、知らないふりをしているお前に、俺が教えてやる』
まるで、あたしじゃないあたしが、現実を突き付けるように、目を逸らすなと言うように。
『お前のその行動は――』
今までの行動を、みんなとの思い出を否定するかのように――。
「だれか……助けてよ……」
声が、漏れていた。
誰にも届くことのない声が。あたしの弱い部分が。
カチャ――。
「――っ!」
扉が開いた。
それと同時に笑顔にならないと、と思った。
だって、あたしが世界を笑顔にするんだから、本人が笑顔じゃないと意味が無いから。
「こころ?」
「こころちゃん、お見舞いに来たよ」
「…………」
「こころん……」
扉を見るとバンドのメンバーが立っている。今日学校を休んだから来てくれたのだろうか?
「あ、あらみんな……どうし――」
「こころ――」
美咲が私の声を遮る。
「無理、しないでよ……。あんたにそんな顔は似合わないよ」
苦しそうに、重く、重く言われる。
何を言ってるのか分からなかった、あたしは笑顔なのに……。
「何言ってるのよ、美咲?」
「…………」
無言で近づいてきて、あたしの目元を手で触れる。
「こころ……あんたは今、泣いてるんだよ?」
今度は優しく言われる。
そして自分で触れると、そこには濡れている自分の手があった。
「あ、あれ……? あたし……どうして?」
泣いているという事を自覚して美咲が口を開く。
「あたし達も話したい事があるけど、最初はやめとく。他に話すべき人を連れてきたよ。あたし達はその人とこころの話が終わってからにするよ」
「? 何を、言ってるの?」
「こころちゃん大丈夫だからね、奏くんは悪い人じゃないから……」
花音が言い残して四人が部屋から出て行く。そしてそれと入れ替わりに、一人の影が入ってくる。
「あなたは……」
扉が閉まり部屋には二人だけになる。
「……よお。昨日は、悪かった」
あたしと昨日の男の。
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