白き獣は牙を研ぐ   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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あけましておめでとうございます。


正義と風紀と

 この町には2つの秩序が奇跡的に同地にある。それは警察といった公共の機関ではなく、かといってヤクザとかマフィアなんかのアウトローなものでも何でもない。(或る意味後者かもしれないが)

 

 

「君は一体どれだけ金を溝に捨てれば気が済むんだい?」

 

 底冷えする嘲笑を含んだ声音がクーラーの壊れた真夏の教室を体感数度下げさせた。

 

「また予算の組み直しだ。そんなに爪研ぎしたいのなら(建物)ではなく有象無象(サンドバッグ)にでもすればいいのに。君用に手配してあげようか」

「ワオ、僕を猫扱いするの?良い度胸だ」

 

 対し、刺すような殺意を以て応じる一方。此方は物理的な重圧を感じさせる。

 

「寄生して栄養分を掠め取った分際で。さも自分の功績のように偉そうに踏ん反り返るなんて器が知れるね。とっとと解散したらどうだい?無能に与える餌なんてないんだから」

「へえ、そういう君は僕を寄生虫、無能と呼ぶんだね」

「事実だろ」

「……哀れだね、暴虐を為す愚王の座る玉座がどういった者に崩されるのかも知らないのかい?」

「君こそ、猫の次は愚王とは……言うじゃないか」

 

 張り詰めた緊張感という糸は、二人が各々の武器を構える事でぶつりと切れた。

 

「やっぱり僕達にはコレ(・・)がいい」

「話し合いなんて性に合わないね」

「「言う事なんて咬み殺してから聞かせればいい」」

 

「お待ち下さい委員長!まだ会議が途中で……!」

「会長も!周りには各委員会の代表もいるんですよ?!」

 

 決死の覚悟で風紀、生徒会の副委員長と副会長が間に割り込む、が、歯牙にも掛けず聞く耳持たず。

 

「うるさい。僕に命令するな」

「僕の前に立ち塞がるのは誰だろうと赦されない」

 

 返答はトンファーと釵の柄。

 昏倒した両名に周りの生徒達は我先にと悲鳴を上げて外へと逃げ出した。

 

「……、邪魔者はいなくなった。始めよう、恭雅」

「ああ、君の牙を見せてご覧……僕の半身よ」

 

 

 

 

 

 

「────と、いう訳で教育委員会からは建物に対する破損の苦言の代わりに上納金に色を付ける事になったよ」

 

 君だって並盛の景観を保つと思えば大した労ではないでしょと言う恭雅に、あちこちに裂傷を作った恭弥はむっすりと頷いた。勝敗の行方は見て分かるもの、しかし恭雅は腹を摩っている。

 

「……まさか脚が出てくるとは思わなかったよ。行儀が悪くなったね?」

「いつも君がしてくるのをやり返しただけだよ」

 

 強烈な膝打ちは恭雅をして顔を歪めさせた。少しずつ自身に迫ってくる彼に恭雅は仄かに喜色を浮べる。同時にお行儀のいい武術(父に教えられた戦法)が少し早く歪められた事に愉悦を抱く。ザマを見ろ。その様子を見てとったのか恭弥は呆れた様に視線を向けた。

 

「あの人の事、嫌いだよね。恭雅」

「大嫌いだね。ああいうのは知らない内に厄介事を試練とか言って押し付けたり、自分を超えろとか言っておいて猫みたいに知らない所でくたばるタイプだ」

 

 “真偽はどうあれ"。

 恭弥は恭雅が取り出した誓約書にサインをして立ち上がる。

 

「次は咬み殺すから」

「ふ……愉しみに待ってるよ。……ああそうだ、」

 

 恭雅はその背中に声を掛けた。

 風に流され、学ラン(・・・)がはためく。

 

「卒業おめでとう、恭弥」

「……ふん、君も早いとこ並中に来なよ。飛び級位どうにでもなるんだから」

 

 生徒会と風紀の席は空けておくからね、と言う言葉に恭雅は苦笑した。

 

「……まだ諦めてなかったんだね、僕の風紀入り」

 

 

 その後ろ姿を見送って踵を返す。

 恭雅の視線の先には生徒会の腕章を身に付けた部下(手足)。先程昏倒した副会長も意識を取り戻してその列の先にいる。

 

「先程は、すみませんでした……」

「構わないよ、過ぎた事だ。それよりこれからは忙しくなる。風紀の頭が中学に上がるからね。調子に乗った莫迦が湧く前に永遠の秩序となる楔を打たなければならない……その意味が、分かるね」

「はい!」

「終わり次第僕も中学に上がる。そのつもりで」

 

 視線を逸らす。

 

「……あと、群れないで。咬み殺したくなるから」

「そ、総員解散ッッ!」

 

 早足で散り散りになっていく彼らを見送り、恭雅は晴れた空を仰いだ。

 

「……」

 

 とうとうここまで来たのだ、と。

 否、まだスタートラインにすら立っていない。恭雅は闇の人型へ復讐する為に力を付けるというのも目的ではあるが、そも自分らしく生きる事を重点に置いている。名を奪われたが故の執着。信念。それらがなければ何れ、復讐するという事すら意味と意義を見失う事になる。

 まるで人との境界で危うくバランスを取っているかのよう。暴走してしまえば、前も後ろも分からなくなってしまう。それは果たして人なのか。それは果たして高潔な獣と言えるのか。

 失いたくない物を持つ事は人を人たらしめ人として強くさせる。それを恭雅は深く痛感している。

 

「……さて、そろそろ見回りの時間だ。草食動物共の巣に置いていた目安箱の中でも確認しに行こうかな」

 

 原作まで後少し。

 町に巣食う裏社会の人間に対する抑制策、一部危険区域の発令。各所に監視カメラを設置し情報統括組織の結成、所有。世界の裏社会の動向には特に目を光らせている。並盛町は裏の気配が強いものの、だからこそ防犯対策は整わせた。

 これから町は大荒れに見舞われる。それは嘗てから認可出来ない事。故に策を講じ、恭雅はその幼子の小さな手で僅か数年という短期間に全てを組み上げた。恭弥が徹底して不良を公正(咬み殺)した御蔭でスムーズに事が進んだのだった。

 これで迎え入れる最低限は熟せただろう。恭雅は人知れずその貌に笑みを乗せた。

 

「さあ……おいでよ赤ん坊。今度こそ完膚無きまでに咬み殺してあげるから」

 

 目下の獲物は彼の晴を象徴する黄色のアルコバレーノ。

 白き獣は猛り吼える。

 

 

 

 

 

 

 




短いながら投下。次から原作前。
ぶっちゃけ幼少編動きが少ないから飽きたんだ。すまない。

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