使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

18 / 37
前17話のタイトルを変更の上、内容を追加しております。
まだ追加分をお読みでない方は、先にそちらからご覧になって下さい。(2018.1.28)

追加箇所へのリンクはこちら
失礼、リンク修正しました


STAGE 18 まじんGO

 

 

 

フーケの巨大ゴーレムは倒れた。いよいよルイズ自身が、フーケと対峙せねばならない時が来る。

 

「巨大ゴーレムも倒しましたし、これで今まで逃げ惑っていた地上の二人も休めることでしょう。

 ですがここからが本番です。自慢のゴーレムを倒されたことで、フーケも本気になって

 攻めてくるハズ。彼女がここに到達するまでがタイムリミット、まさに時間との勝負です!」

 

「えっ? 彼女ですって?」

 

「あっ・・・」

 

「まさか、あんたフーケの正体に心当たりがあるんじゃ・・・」

 

「・・・ハイ! 時間がないので後にしましょう!」

 

「後で絶対、話して貰うからね」

 

ルイズは魔王に睨みを効かせるも、状況を考えて引き下がった。

 

「理解が早くて助かります! そのまま忘れてくれてもいいんですが・・・

 さて、フーケを地下に引きずり込むことには成功しました。

 まさにここからがワレワレのターン! ですが問題もあります。

 先ほどの落とし穴を掘るのに、ルイズ様も大分チカラを消耗したのではないでしょうか?」

 

「そうね。いくら簡単にツルハシを振れるからって、流石にあれだけ掘ったら疲れるわよ。

 正直、この後どれだけ掘れるか不安だわ」

 

「フム、やはりもう余裕が無くなってきているようですな。 

 そうなると、今からたくさんのマモノを呼び出すような余裕はありません。

 マモノの強化だってムズカシイでしょう。つまり今回は、敵を倒すのに

 数で押し切ることは出来ません、代わりに例え一匹であれ、とにかく強いマモノを

 作り出す必要があります。ですからルイズ様には今からツルハシを駆使して、

 出来得る限り最強のマモノを呼び出して頂きます!」

 

「最強、ね。本当にこの絶体絶命な状況をひっくり返せるの?」

 

「もちろんです! それであのフーケを打ち負かし、やつの世にはせた名を

 栄えあるルイズ様の名で塗り潰してやるのです! さあ、私に着いて来て下さい!

 ・・・あ、ルイズ様、私のいう方向を先に掘って貰ってもいいですか?」

 

「・・・」

 

「・・・ハイ、ありがとうございます。それでは私に着いて来て下さい!」

 

ルイズはやっぱりコイツを信じて大丈夫なんだろうかと不安になりながら、魔王の後ろに続いた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今からルイズ様に掘って頂くのはここです。」

 

「ここって、あのゴーレムが崩れた場所?」

 

「その通りです。 見てください、このマバユイばかりの輝きを!」

 

魔王の言葉通り、辺り一面の土がキラキラと怪しい光を放っていた。

 

「これって、もしかして魔分?」

 

ルイズの疑問に、魔王は嬉しそうにしながら答えた。

 

「ウフフフ・・・狙い通りに行き過ぎて、ジブンの才能がオソロしいですね。

 あのゴーレムは巨大でしたから、幸いここにはアレに使われた魔分が

 まだタップリ残っているようなのです。」

 

「じゃあ今回は、ここの魔分を使ってマモノを生み出す訳ね」

 

ルイズは魔分を含む土を掘り起こそうとツルハシを振り上げた。

 

「お待ち下さい、ルイズ様。確かにここの魔分を使いはします。

 ですが、ここで目的のマモノを作り出すワケではないのです。」

 

「何よそれ? どういうこと?」

 

「まあまあルイズ様、あまり時間がありませんのでハナシは後、

 先ずは魔分をより深い地層に導いて下さい。

 そこでまた次の説明をしたいと思います。」

 

「・・・分かったわ。魔分を運ぶにはエレメントを使えばいいのかしら?」

 

「その通りです。エレメントは魔分をホンノリ含んだ土から生まれるマモノ。

 動きのパターンはコケと変わりません。魔分がタップリ溜まってる土を見ると

 つい掘りたくなるかもしれませんが、ここではそれをグッと堪えて、

 魔分をより深くに移動させてください」

 

ルイズは急ぎながらかつ慎重に、地中に穴を穿っていく。縦にも横にも、幾重にも連なるトンネルにエレメントのマガマガしい光が満ちていき、幻想的にすら見える光景が地中に広がった。これらのエレメントは、皆すべて一か所に集められるべく、誘導されていた。コケと同様にT字路を掘っておくと、壁にぶつかったエレメントは新たな道に沿って曲がり、先へ先へと進んでいく。そうやってエレメントが掻き集められた深い地の底で、ルイズは魔王に次の指示を仰いでいた。

 

「さあ、魔分を運んで来たわ。後からも、次々とエレメントがやって来てくれるはずよ。

 次にどうすればいいのかしら?」

 

魔王はニッコリ不気味にほほ笑んで、ルイズに告げた。

 

「お待たせ致しました。いよいよルイズ様に、アレを召喚する方法をお伝えする時です。」

 

「・・・これから作るのは、ゴーレムなのよね」

 

ルイズは少し不安そうに呟いた。

 

「いえいえ、ただのゴーレムではありません。フーケを倒すのにフツーのゴーレムでは

 力不足というものです。ルイズ様には是非、ゴーレムを超えたスーパーゴーレムを

 作り出して頂きたいものです」

 

「私、土魔法の基本の錬金すら失敗するのよ。

 そんな私が、本当にそんな凄いゴーレムなんて作れるのかしら?」

 

「フフフ、弱気などらしくありませんぞ。確かに今からやろうとしていることは、

 ある程度の労力を必要とするかもしれません。ですがルイズ様はもう知っているハズです。

 そのツルハシが、杖とはチョッピリ違う方法でフシギを実現することを。

 そしてそのチカラは、ほんのチョットかもしれませんが、ルイズ様が目指しておられる

 立派なメイジの魔法と重なっているし、それを飛び越えても行けるのです!」

 

「・・・ダメだったら恨むわよ!」

 

ルイズはそう言ってツルハシを持つ手の力を強めた。

 

「ではルイズ様、ここに魔法陣を作り出してください。」

 

ルイズの眉がぴくりと動いた。

 

「魔法陣? 魔法陣って、デーもんを作ったときのアレ?」

 

「確かにそうです。しかし前の時とまったく一緒ではありません。

 先ず一つ目に魔法陣を作る場所が違います。よく見てください。

 ここは上の方と比べて、土の色が変わって来ているでしょう?

 ここまで掘って地層が変わると、同じ魔法陣でもデーもんではなく、

 ゴーレムが召喚されるようになるのです。」

 

「どうして違うものが出てくるのよ?」

 

「どうしてって・・・深い地の底に埋もれた、超古代文明のキオクが

 呼び覚まされるとか、まあそんなカンジじゃないでしょうか?」

 

「適当ねえ」

 

ルイズは話しながらも、魔分を一か所に集め出していた。

 

「! 土が淡いピンク色に輝き始めたわ!」

 

「順調なようで何よりです。ですがまだまだです。もっともっと魔分をかき集めるのです。

 そこ! 魔分を吐きつくしたエレメントは土の近くで潰してやるのです!」

 

ルイズは魔王のアドバイスに従い、エレメントを時折間引きながら、更に魔分をかき集めていく。

 

「さあ、話の途中でしたな。今回の魔法陣、二つ目の違いは魔分を使うところです。」

 

「魔分からは、養分とは違うマモノが生まれるのよね」

 

「そうです。フツーのゴーレムを生み出すなら、ただの養分で良かったでしょう。

 しかし今回作りたいのは、スペシャルなゴーレムですから」

 

ルイズはゆっくりと動くエレメントにやきもきしながらも、必死に頭を働かせ、ツルハシを振るい続けた。ルイズがやっとの思いで、魔王が満足するだけの魔分をかき集めた頃には、彼女の額から汗が噴き出ていた。魔分が貯まった土は、今やギラギラとした紫光を放ち、異様な様相を呈している。

 

「何だか魔力に満ち満ちて、おどろおどろしいぐらいに見えるわね」

 

「感傷はあとです! 急いでその土の周囲を掘って、魔法陣を完成させてください!」

 

ルイズはあっと言う間に魔分を貯めた土の周りを掘り、最後の仕上げにツルハシをぶんと振り下ろした。重々しいガタンという音と共に、威圧感あふれる、いつか見たような魔法陣が完成した。だがその魔法陣は淡い藍色の光を放っており、そして紋様も以前デーもんを召喚した時とは異なっていた。ようやくこの大変な土堀りを終わらせることが出来る。ルイズはふうと息を吐いた。

 

「後はこれを突けばいいだけね」

 

「待った!」

 

ルイズは魔王の大声にびくりとして、動きを止めた。

 

「フー、アブナイところでした。」

 

「・・・何よ、いきなり大声出して! どういうつもり!?」

 

あまりの大声に耳がキンキンと鳴って不機嫌になったルイズは、魔王に掴み掛った。

 

「いやいや、揺さぶらないでください!異議は受け付けません!

 ルイズ様、まだここから最後の仕上げが残っておるのです。」

 

「ええ、何ですって! なら早く言いなさいよ!」

 

ルイズは慌ててツルハシを握り直した。

 

「ああ、そういうことではないのです。もうツルハシをガンガン振るう必要はありません。

 準備だけはもう整っているのです。後は放っておけば、勝手に強力な魔法陣が

 出来上がることでしょう。ルイズ様、本当にお疲れさまでした。」

 

「??? 何よそれ、一体どういうこと?」

 

「まあ、ノンビリ眺めていて下さい。ほら、ルイズ様が作り出したエレメントが

 魔法陣に近付いて行きますよ?」

 

ルイズが目を向けると、上の地層にはまだたくさんのエレメントがゆらゆらと、道を行ったり来たりしながら漂っていた。その内の何匹かが、少しずつ魔法陣に向かっていく。

 

「それがどうしたっていうのよ。・・・急いでたからしょうがないけど、

 ちょっと余分に作り過ぎたみたいね」

 

「いえいえルイズ様。努力が勇者のユメを裏切らないかどーかは知りませんが、

 エレメントは魔法陣を裏切りません・・・ホラ!」

 

 

魔王が指さした先で、魔法陣に近づいたエレメントが突如、ぎゅんと動きを速めると、そのまま魔法陣に突っ込んで消えた。後に続くエレメントたちもまた、ひゅるひゅると音を立てながら魔法陣へと吸い込まれていく。

 

「何よあれ! 一体何が起こってるの!?」

 

「魔法陣はああしてエレメントごと魔分を吸い込み、蓄える魔分を高めることが出来るのです。

 すると! なんと、それまでよりもハイレベルなマモノを呼び出すことが

 出来るようになるのです! さあ、魔法陣が変化する瞬間を見逃さないでください!」

 

ルイズと魔王がじっと見守る中、エレメントは一つ、また一つとその姿を魔法陣の中へ消していった。そしてもうエレメントが残り僅かになった頃・・・

 

「あっ!」

 

ルイズは思わず声を上げた。魔法陣はその色を変え、目立たないグレーに変化していた。だがルイズには、自己主張の薄いその目立たない色こそが、そこに潜むマモノの強さを暗に示しているような、そんな気がした。

 

「今度こそ、本当に完成です。ルイズさま、お疲れ様です。

 いやはや、間に合ってホントーにヨカッタ・・・

 後は調子に乗ったフーケがやってくるのを待つだけです。」

 

「結構、危なかったかしら?」

 

ルイズは、地上からここに至るまでに長々と穴を掘ってきた。しかしフーケはそれを物ともせず突き進み、間もなくルイズらのいる所まで至らんとしていることを、彼女は地中を見通す視界の中に捉えていた。

 

「ねえ、戦いが始まる前に、これから呼び出すものの名前を教えなさいよ。

 ただのゴーレムではないんでしょ?」

 

「いいでしょう。これから我らのイノチを預けるマモノ。

 ゴーレムを超えたスーパーゴーレム。

 それを手にした者は、始祖(かみ)にも悪魔(シャイターン)にもなれる!」

 

「シレッとブリミル様を冒涜してんじゃないわよ!」

 

「その名も!」

 

「その名も?」

 

「その名も!!」

 

「その名も、って早く言いなさいよ!」

 

魔王は大きく息を吸い込んで叫んだ。

 

「マジンg、ゲフッ! ゲフンゲフン! ゲフン! ・・・・いえ、まじんです。ハイ。」

 

「・・・今、まじんって言った後に何か言いかけたわよね?」

 

「いえ、ただ咳き込んだだけです」

 

そう言ってから、魔王はもの悲しそうな顔でルイズに答えた。

 

「このまじんは、今この状況で出せるマモノの中でも、間違いなく最強な存在の一つなのです。

 ですが魔王的には、このまじんにもっと高いポテンシャルが秘められていて、

 ワレワレはそれを十分に引き出すことが出来ないでいるのではないかとも思うのです。

 こいつを呼び出す手間も結構掛かりますしね。」

 

「秘められたポテンシャルねえ。私はまだ見てないから何とも言えないけど、

 そんなに期待出来るのかしら?」

 

「まあ今回、戦闘に関して心配はいらないでしょう。

 ルイズ様は元気良く、まじんGO!とでも応援してやって下さい。

 ・・・ダンジョン内を歩き回って、アメでもたくさん舐めさせてやれれば、

 こう、名前の後ろにガーッと付いた強そうなマモノに進化させられたんではないかと・・・」

 

「何の話よ?」

 

「いや、無いものねだりをしてもしょうがありませんな。ポケットの中のマモノですら、

 マガシンカしてもXやYにしかなれないんですから、Zなんてなおさら無理です。」

 

「いや、だから何の話よ」

 

「ああ! でももし可能なら、目から怪光線とか出て、吐く息で敵を粉々にし、

 胸からは全てを溶かし尽くす熱線を放射するマジンg、ゲフンゲフンの大活躍で、

 世界征服もラクショーだったことでしょう! クヤシイ! クヤシすぎる!」

 

「それってもはや、ゴーレムってレベルじゃないわよ」

 

ルイズは呆れた声を出した。

 

「まあルイズ様はそんなもの手に入れなくても、既に破壊神様ですから、

 世界を好き勝手に手玉に取ることも可能でしょうケド」

 

「馬鹿なこと言ってないで、気をつけなさい。フーケがもうそこまで来たわ」

 

「む、もうですか。流石はフーケ、素早さも高いようです。

 では今こそまじん出撃と行きましょう!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ダンジョンの静けさを破る足音が、徐々に大きくなっていく。長い距離を走ってきたであろうに、フーケに疲れの色は見えない。彼女は怒りを情熱に変えて、地下の長い道のりを駆け抜けて来た。そして今、彼女はみなぎる自信を胸に、堂々とルイズ達の前に躍り出た。フーケは二人の姿を認めると、敵意を剥き出しにしながらに言った。

 

「あんたたち、さっきはよくもやってくれたじゃないか」

 

だがルイズも負けてはいない。

 

「あら、盗賊ともあろうものが、コソコソと隠れもせずに姿を現すなんてね。

 捕まりに来たのかしら?」

 

強気で言い返したルイズを、フーケはふんと鼻で笑った。

 

「こんな誰の目にもつかない地の底にいるんだ。隠れるまでもないね。

 それに誰が誰に捕まるだって? 馬鹿言っちゃいけないよ。

 そういうお前たちこそ、そんなところに突っ立って、逃げ隠れるのは諦めたって訳かい?」

 

お些末なことだねえと、フーケは嘲笑った。

だがルイズは、胸を張って言い返した。

 

「ふん。私はコソコソしなきゃいけないような生き方はしていないのよ。誰かさんとは違ってね」

 

フーケはそれを聞くと、口元をムッと歪めたが、すぐに獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「まあ、どうせあんたじゃ、逃げようにも逃げられなかっただろうさ。

 相手はこのフーケなんだからね。さあ、とっとと私のお宝を返しな!」

 

するとルイズは破壊の杖を見せびらかすように、フーケの目の前に掲げた。

 

「どれがあなたのお宝ですって? この破壊の杖は学院のものよ!

 私はそれを取り返したまでだわ!」

 

「ふんっ、話にならないね。学院の生徒は世間知らずで、これだから困るよ。

 王都じゃ街外れの平民だって知ってることだっていうのに・・・」

 

「何ですって?」

 

平民を引き合いに出され、ルイズの眉間がみしっと寄った。

 

「不勉強なお貴族様に教えてやるよ。

 貴族のお宝はフーケのもの、フーケのお宝はフーケのもの、ってね!」

 

フーケはそう言うと同時に、鮮やかな杖さばきでゴーレムを作り上げた。地上で暴れ回っていたものとは比べるべくもないが、それでも大熊ぐらいの大きさはある。とても生身の人間が敵う相手ではない。

 

「どうだい、こいつは? こんなせまっくるしい穴の中じゃ、この程度のゴーレムが限界だよ。

 だがね、それでもこいつはお前たちをペタンコにするのに十分だろうさ」

 

そう言うフーケは、どこか自慢げな様子であった。

 

「さあ、さっさとその杖をよこしな」

 

「嫌よ! あんたこそさっさとお縄について、チェルノボーグにでも入れられるがいいわ」

 

強気を頑なに崩さないルイズを前に、フーケは冷たく返事を返した。

 

「・・・話が通じない奴だね」

 

「元より泥棒に話が通じるなんて思ってないわ」

 

「あんには、このゴーレムが目に入らないのかい?」

 

「冗談、そんなちっこいの、真正面から叩き潰してやるわ」

 

フーケは、深く被ったフードの下から覗く口元を、不快そうに歪めた。

 

「ゼロのくせに大した自信じゃあないか」

 

ルイズは、はっと目を見開いて、フーケの姿をまじまじと見つめた。

冷酷残忍で、口汚く、乱暴な女、フーケ。

だが、例え彼女がどれだけかの女性とかけ離れているのだとしても、

そのフードの下から覗く美しい緑髪が、ローブを身にまとった彼女の背格好が、

そして何よりも今の発言が、彼女の信じ難き正体を物語っていた。

 

「ミス・ロングビル、あなたがフーケだったのね」

 

「ほんと、学院のやつらはにぶくて助かったよ。いや、ここは私の演技力を褒めるべきかしら?

 しかしやけに冷静じゃあないか。アンタたちを守るために付いてきたやつが敵だったんだ。

 ほら、もっと驚いてみせな」

 

「おあいにく様、驚くのは使い魔のせいで、もう慣れたわ」

 

二人はそう言ったきり、しばらく睨み合った。

魔王はバツが悪そうに、顔を掻いている。

 

「どうしてもそいつを手放す気はないってのかい?」

 

「私の気が変わることはないわ」

 

「それじゃあ、お望み通りこいつにやられちまいな!」

 

フーケのゴーレムが、物々しい唸り声を上げながら動き出した。

 

「今までの私なら、勇敢に立ち向かって、そして何も出来ずに死んでいたでしょうね」

 

「でも今は違います! 今のルイズ様には、私が、そしてツルハシが付いている!」

 

「お前のような使い魔に何が出来るってんだい!」

 

ルイズは、一歩二歩と後ろに下がり、背に隠していたツルハシを前に掲げた。

彼女の背後に隠されていた魔法陣が、フーケの目に露わになる。

 

「魔法陣? そんなもので何をするってのさ!」

 

フーケのゴーレムはずんずんと足を前に進めている。

今まさにルイズを殺めんと、その腕を前に突き出して、駆け寄って来ている!

だがルイズは狼狽えない。

ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは狼狽えない!

ルイズは毅然として、ツルハシを頭上へと振り上げた。

 

「そうです! 今こそ、無敵なチカラをワレらのために!

 じゃあくなココロをツルハシでオンッ!!」

 

一閃の元、ツルハシは魔法陣へと突き立てられた。

すると、地面をガタガタと揺らしながら、魔法陣がゆっくりと扉のように開いていく。

そしてフーケは見た。

 

胸だ! 頭だ! 巨大な腕だ!

 

そうだ! それこそが地下にそびえるくろがねのキャッスル!

 

「「まじん!!」」

 

 

 

 

「はは、ははははは、ハハハハハハハハ!」

 

警戒心を露わに魔法陣を見守っていたフーケは、そこから出てきたものを見て、笑いが止まらなくなった。異様に長い腕と、馬鹿に短い足をした黒っぽいゴーレムが、彼女の前に立ちはだかっていた。

 

「この私を相手にゴーレム勝負だって? はっ! ははははは!

 しかも何だい、その不格好なやつは!? ハハハハハハハハ!!」

 

お腹を捩り涙を浮かべながら笑うフーケを、ルイズは真剣な表情で睨み返した。

 

「舐めるんじゃないよ!」

 

二人のゴーレムがついに動き始めた。自らが傷つくことを恐れない、ゴーレムだけに出来る全力疾走で、互いのゴーレムはぶつかり合いに行った。

 

「散々コケにしやがって! ぶっ潰してやる!」

 

「絶対に負けないわ!」

 

ついに互いのゴーレムが交差した。

互いの腕と腕が組み合わされる。

否! 組み合いにすらならない!

フーケのゴーレムは彼女の予想に反し、一瞬で崩れ去った!

まじんと腕を組み合わせるや否や、その衝撃に耐えきれず、先ず腕の先から吹き飛んだのだ。

そしてそのまま、まじんの体当たりを防ぐことも叶わず身に受けた。

フーケのゴーレムは、まるでその身体が水で出来ていたかのような勢いで、

その身を成す土を撒き散らし、脆くも崩れ去ってしまったのである!

 

「まさかそいつは(くろがね)で出来てるってのかい!」

 

「驚いたかしら! 降参するなら今の内よ!」

 

「調子に、乗るんじゃないよっ!!」

 

フーケは向かってきたまじんの突進を地面に転がって避けると、急いでスペルを唱えながら杖を振るい、3体のゴーレムを生み出した。更にもう一度彼女が杖を振るうと、ゴーレムの身体は鏡のように輝き始めた。

 

「ならこっちも鉄を使ってやるさ! フルメタルの威力を食らいな!」

 

まじんを取り囲むように立ったフーケのゴーレムたちは一斉に突進し、まじんに向け激しい殴打を浴びせかけた。殴打、殴打、殴打! 止むことのない連打!

 

「ほらほらほら! どこまで耐えられるかい!」

 

「バカにしちゃあいけません! その程度のものにやられるまじんではないのです!」

 

魔王の声に答えるかのように、まじんが動き出した。まじんは彼を取り囲むゴーレムの内の一体に狙いを定めると、その異常に長い腕を伸ばし、メルヘンな見た目からは想像もつかないような激しい動きで振り回した。狙われたゴーレムは、みるみる内にボコボコにへこんで、動かなくなっていく。見かねたフーケは慌てて杖を振るい、残る2体のゴーレムに距離を取らせた。

 

「あら、敵わないと知って退却かしら? 」

 

「冗談もほどほどにしな!」

 

フーケは残った2体のゴーレムに肩を並べさせ、一方向からの突進を仕掛けさせた。だが、まじんもそれに合わせて駆け出していた。その場に、重い金属同士のぶつかり合う鈍い音が響き渡った。

 

「くっ! これでもまだ足りないってのかい!」

 

「ふはっ! フハハハハ! 取り囲んでダメなら、

 一方向から薙ぎ倒せばいいとでも思ったのですか?

 しかしムダですっ!!」

 

2体のゴーレムはまじんと組み合ったまま、一歩も前に進むことが出来ないでいた。やがてまじんはその長い腕を大きく広げ、彼らをガッシと抱え込むと、前へと倒れ込むかのように、重そうな上体を傾け始めた。するとゴーレムたちは、まじんの体重に耐え切れず、元来た方向へとズルズル押し返され始めた。まじんはそこへ更に力を込めて前進し、足を速めていく。ついにゴーレムたちは、猛烈な勢いでダンジョンの壁に身体を叩き付けられ、大きなひび割れと共に沈黙した。フーケは苦々しい表情をしたまま、杖を振るった。再び、ピカピカのゴーレムが3体、姿を現した。

 

「同じことをしても無駄よっ! いい加減、大人しく降参しなさい!」

 

「ご忠告どうも! それじゃあ、同じじゃないことをしてやろうじゃないか!」

 

フーケは呪文を唱えながら、杖を複雑な動きで振った。フーケのゴーレムたちが、体を組んで身を寄せ合う。すると、見る見る内にその体は溶け合い、一つのゴーレムとなった。

 

「な! なによそれ!! 」

 

「グゥオ゛オ゛オ゛オ゛!」

 

ルイズたちの前で、見るも威圧的な異形のゴーレムが叫びを上げた。

そのゴーレム、3つの頭と6つの手足を持っている!

 

「何よ! 人のゴーレムを馬鹿にしておいて、あんたのゴーレムも大概じゃないっ!」

 

「勘違いしないでほしいね。私はただ、あんたのゲテモノゴーレムに

 合わせてやっただけさ! さあ行け! アシュラよっ!」

 

アシュラと呼ばれたゴーレムは、6つの手足をワラワラと動かしながら、まじんに組み付いた。まじんがぐらりとよろめいた。まじんはすぐさま足を踏ん張って、持ち堪えた。

 

「何よ、 大口叩きながら、さっきと大して変わらないみたいね」

 

「それはどうかしら? ゴーレムの足元を見てみな!」

 

「!!! 何ですって!!」

 

まじんは確かに、フーケのゴーレムとがっしり組み合ってはいる。だが足元を見れば、少しずつではあるが、後ろへと押し戻されつつあるのが分かった。

 

「見たかい、この威力! アシュラのパワーは、3つの首が表すようにゴーレム三体分!

 そう簡単に抗えはしないさ!」

 

まじんはパワー負けしているのか、時折 姿勢を崩し、その度に一歩、また一歩と後退していく。

 

「さあ、今度はあんたたちが思い知る番だよ!

 このままあんたらのゴーレムを、あんたたちごと押し潰してやろうじゃないか!」

 

だがルイズは悔やまない! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは悔やまない!

 

「そうよ! 私は迷わない! 魔王、あんたは言ったわね! このまじんは最強だって!!

 さあまじんよっ! そんなことしてないで、早くそいつを叩き潰しなさい!」

 

まじんは腕をブンと振り払った。雪崩れ込むように、フーケのゴーレムがまじんの胴へと押しかかる。まじんは2歩、3歩とよろめいたが、そこでまた持ち堪えた。そしてまじんは腕を縮めた。蛇腹状になったその長腕を、まるでばねのように、限界まで押し縮めた!

 

「何をしようってんだい! そんなもの許さないよ!」

 

フーケのゴーレムは、腕二本でまじんの胴を押したまま、もう二本の腕でまじんを掴み、

残る最後の二本の腕でまじんを殴打し始めた。まじんの頭が殴られる度に、がくんがくんと揺れる。

 

「どうだい! これでも何か出来るってのかい!」

 

だが出来る! まじん、お前になら出来る!

まじんは縮めていた腕を一気に伸ばした。

腕を捕まれていようとも、そんなものは無意味だとばかりに腕を伸ばして、

拳を勢いよく弾き出した。その拳、まるで小さな岩石の様!

だがその拳もやはり、鋼鉄で出来ている。その破壊力は計り知れない。

それだけではない。まじんの鉄拳は、長腕を活かして宙を舞う!

放たれた鉄拳は、勢いをそのままにゴーレムの背後まで回り込み、

そのまま後ろから突っ込んでいく!

この技に名前を付けるのなら!

トリステイン語で『岩』を意味するRockに、『小さな』を意味する接尾語-etを付けて!

 

その名を! その名を!! その名を!!! その名を!!!!

 

 

「「ロケット・パ――――ンチ!!!」」

 

 

拳が一発、そして二発! ゴーレムの背中から突き刺さった!

 

「グゥオオオオ!」

 

めり込んだ拳の周りに、大きなひびが入っていく。

まじんは、めり込んだ拳を引き抜くように、腕を大きくしならせた。

ボコッとまじんの拳が抜けると同時に、ゴーレムの体は切り出された岩のごとく、

バラバラに砕けて地面に転がった。

 

フーケの顔が、引きつったまま固まった。

 

「どうやら、あんたの負けのようね」

 

「くっ!!」

 

まじんは、次のターゲットとしてフーケを見定め、勢いよく突進してくる。

だがフーケは、まじんが突進してくる前に、素早くその半身をダンジョンの曲がり角に隠すと、冷酷な笑みを浮かべてルイズに言い放った。

 

「認めようじゃないか。どうやったかは知らないが、確かにあんたのゴーレムは強力だよ。

 ここが学院だったなら表彰ものだろうさ。

 だがね! 土メイジ相手にその真似事で勝てる訳はないってこと、思い知らせてやるよ!」

 

「あなたに勝ち目なんてあるのかしら?」

 

「あるさ! 実は私には、ゴーレムを作るよりも得意なことがあってね!」

 

そう言って、フーケは聞こえよがしに呪文を唱え始めた。

ルイズは、そのスペルを聞いて真っ青になった。

 

「青くなってももう遅いよ!

 私のありがたき二つ名通り、お前のゴーレムも土くれに変えてやる! 錬金!」

 

 

フーケは容赦なく杖を振り抜いた。

ルイズの努力の結晶を、灰塵に帰すべく杖を振り下ろした!

 

 

 

 

だが変わらない!

 

杖を振っても、黒光りするまじんのボディには、いささかの陰りも見られない!

 

「そんなまさか! あいつのゴーレムは、スクウェアにも匹敵するってのかい!?」

 

そうだ! まじんのボディは、超高濃度にまで濃縮された魔分を使って出来ている!

フーケの錬金では、この濃縮された魔分によってゴーレム化したボディを

変質させることは叶わない!

つまり、フーケはまじんを止められない!

まじんは、決して止まらない!

 

「ガッ・・・!」

 

フーケは慌てて身を守る土壁を錬成したものの、壁ごしの衝撃にその身を弾き飛ばされた。あまりの痛みに息も出来ない。彼女の体は地面をゴロゴロと転がっていき、ダンジョンの壁に当たってその動きを止めた。フーケは起き上がろうとしたが、身体中に走った激痛に耐え兼ね、その意識を手放した。

 

「ググゥオオオオオオォォォァァァアアアアア!!」

 

勝利を誇るかのように、まじんが吼える。

耳をつんざく凄まじい咆哮が、ダンジョン全体を揺らしていった。

 




まじん・・・かつては、地獄の奇怪な獣軍団を相手に、暴れまわっていたというスーパーゴーレム。
      最近、その倒したはずの敵が復活したと聞いて、うずうずしている。
      ボスボ■ットの方が似てるとか、言ってはいけない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。