使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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2018.1.21 本17話タイトルを変更した上、内容を追加致しました。
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STAGE 17 最後の一掘りは、せつない。

一行は森の茂みが深くなったところで馬車から降り、細い小道を辿っていった。この先にフーケが潜んでいるという事実が、森の暗がりをより一層怖いものに思わせ、ルイズの心をざわつかせた。しかし、しばらく行くと深かった森の繁みはいきなり途絶え、一行の前に大きく開けた場所が姿を現した。先頭を歩いていたロングビルは、そこにポツンと建った小屋を見て、きっとこれが例の小屋でしょうと言った。小屋は見るからに年季が入っており、果たして本当にフーケはこのような場所で寝泊まりするのだろうかと思わせる代物であった。貴重なお宝を幾つもせしめ、大いに儲けているはずの怪盗も、案外金の出が多く苦労しているのかもしれないと、ルイズは益体もないことを考えた。

 

「先ずはあの小屋を探らないといけないわね。とりあえず作戦を立ててみましょうか?」

 

キュルケの言葉に、ルイズとタバサも頷いた。

 

「ハイ!私に腹案があります!」

 

一番に手を挙げたのは魔王であった。皆、嫌な予感がしつつも、フーケの捜索に乗り気であった彼の話を初めに聞くこととなった。

 

「フーケは強敵です。中途半端なことをしていては、返り討ちがイイトコロでしょう。

 それに我々には向き不向きもあることですし、ここは適材適所、皆が最適な役割を担っていく

 ヒツヨーがあるのではないでしょうか?そこで提案があります。皆で我が地下帝国の誇る陣形を

 組んで、あの小屋を強襲するというのはどうでしょうか?」

 

「役割を決めるって発想は悪くないでしょうけど・・・」

 

内容はともかく、それを言った相手が相手なだけに、キュルケは警戒を隠さなかった。

 

「とりあえず、あんたの言う陣形とやらを詳しく話してみなさいよ」

 

ルイズの許しを得て、魔王はつらつらと自分の考えを述べ始めた。

 

「よいですか、ルイズ様。我々は地下インペリアルクロスという陣形で戦います。

 防御力の高いフレイムが前衛、両脇をタバサ嬢とキュルケ嬢が固める。

 ルイズ様はシルフィードの後ろに立つ。つまりルイズ様のポジションが一番安全です。

 安心して戦うと良いでしょう!」

 

それを聞いたルイズはすぐさま突っ込みを入れた。

 

「あんたのポジションはどこよ!」

 

「私は控えです。悪のオヤダマ的に皆が戦う様子を地下から見て笑っておけばいい、

 オイシイ役割ですね!」

 

「使い魔が一番楽してどうすんのよ!」

 

タバサやキュルケもこの反論に加わった。

 

「無意味どころか不合理」

 

「地下の要素ゼロじゃない」

 

バッサリだった。

 

「いや、だから私が地下に潜む皇帝的な感じで、他の皆が地上で頑張るという陣形です」

 

「「却下よ!」」

 

「先ずはフーケが小屋にいるか確認すべき。

 いるならフーケを外に誘き出す。後は皆で袋叩き」

 

タバサの提案には、魔王と違って一人の反対も起きなかった。彼女らは意見を出し合い、実行の段取りの詳細を詰めていった。この作戦には、第一に偵察を行う人員が必要となる。フーケに気付かれない方がいいため、一人が小屋の近くまで様子を見に行くこととなった。

 

「誰がいいかしら?」

 

「捕まっても平気そうなの」

 

一斉に皆の視線が魔王へ集中した。

 

「・・・何でしょう。このウレシクない信頼感は・・・」

 

簀巻きにされて、引きずられて、吹き飛ばされて、そんなことをされた挙句にビッタンビッタン動き回れる。戦闘ではまるで使い物にならない魔王の隠れた才能だった。

 

「良かったじゃない。あんたも補欠と言わずに役に立てるわよ」

 

「いいえ、ジョーダンじゃないです!戦闘要員でもなく、シナリオ進めるためだけに入れられた

 メンバーなんて、大した思い入れもなく使い捨てにされるのがオチじゃあないですか!」

 

「自ら補欠になろうとした奴が、何言ってんのよ!」

 

「ルイズ様、もっといい方法があります。フーケがいるなら、

 その時点で小屋ごと燃やしましょう。窓と扉を監視しておけば、

 確実にフトドキモノを葬り去ることが出来るハズです。」

 

「破壊の杖ごと葬ってどうすんのよ!」

 

結局、小屋への偵察役が覆ることは無かった。魔王はしぶしぶと、慎重に身を潜めながら小屋へと近付いて行った。しかし魔王が窓をひっそり覗いてみても、中に人がいる気配はなかった。一先ず簀巻きの危機が回避されたことに魔王は安堵して、皆を呼び寄せた。

 

「どこかに出かけてるのかしら?」

 

「まさかもう逃げ出した後じゃないわよね?」

 

ルイズは不安そうに言った。

 

「確かめるべき」

 

「そうですわね。小屋の周りの茂みにひっそりと隠れているなんてこともあるかもしれません。

 私は周りの森を見てきますわ」

 

ミス・ロングビルはそう言うと、辺りを囲うように生えている木々に分け入り、フーケを探し始めた。

 

「じゃあ私は小屋のすぐ外から見張ってるわ。森からだろうと小屋からだろうと、

 フーケが飛び出してきたら火で巻いてやるわよ。ね?フレイム!」

 

「キュキュキュッ、キュキュ~」

 

「上から見張っておく」

 

「きゅい♪」

 

「・・・私は小屋の中を探すわ」

 

火を吹いたり、空を飛んだり出来る使い魔を持たないルイズは、渋々と誰もいない小屋内の探索を申し出た。

 

「それじゃあ、私は余りということで「あんたも一緒に探すのよ!!」

 

ルイズと魔王が小屋の中に入ってみると、中には至る所に埃が積もっていた。しかし最近になって人が出入りしたのも確かなようで、床にはくっきりとした足跡が残っていた。扉から続く足跡は、そのまま真っすぐと、大きなチェストの前まで続いていた。ルイズはチェストの引き出しにひっそりと手を伸ばし、触れそうか触れまいかというところで、その手を引っ込めた。

 

「この中に破壊の杖が隠されてるかもしれないわ。

 ねえアンタ、学院の秘宝に興味はない?開けてみなさいよ」

 

「まあ、魔王的にはキョウミシンシンです。

 秘宝を集めて新しきカミになるというのも悪くないかもしれません」

 

そう言うと魔王は手を伸ばし、ガラッと勢いよく引き出しを開けた。

 

「む?何か入っておりますな」

 

「手に取ってみなさいよ」

 

「ルイズ様は手に取られないのですか?」

 

「いいのよ。使い魔の手柄はメイジの手柄なんだし、

 あんたへ破壊の杖を初めに手にする栄誉を与えて上げるわ」

 

魔王はルイズの様子に妙な違和感を覚えつつも、奇妙な形の『杖』に手を伸ばした。

 

「アララララ?」

 

魔王はそれに触れた途端、へなへなと体の力が抜けて床に座り込んだ。左手のルーンが一瞬だけ、光を放っていた。

 

「ルーンが反応しただけ?・・・どうやらトラップのたぐいは無さそうね」

 

「何てことに私を使ってるんですか!イキナリ栄誉を与えるだとか言い出して、

 アヤシーと思ってたのです!」

 

「何よ!どうせあんた自身は、フーケに出くわしても何もできないじゃない!

 私はあんたに使い魔としての活躍の機会を与えただけよ!」

 

それを聞いてなお、魔王は不満そうな顔をしていたが、ルイズが取り合いそうもないのを見て、ハァーとため息を付いた。

 

「そもそも使い魔のくせに楽して過ごそうってのが甘いのよ。

 それにしても、これが破壊の杖なのかしら?これって杖というより・・・」

 

学院の秘宝を手にして、ルイズは思わず困惑した。古い時代の杖は、タバサが手にしているような大きいものがほとんどだが、破壊の杖はそれにしても重く、また太かった。

 

「どうやらルイズ様、それが破壊の杖でマチガイないよーです。

 私のこのルーン、ヤッカイですが、どうやら武器に反応する性質があるようです。

 それに触れた途端、その『破壊の杖』の本当の名前や機能、使い方が、

 スーッと私の頭に入ってきました。まあ、私の意識もスーッと消えかけたんですけどね!

 サイテーですよ!」

 

ルイズはあんまりな使い魔の状態に頭を抱えつつも、魔王に問い返した。

 

「ちょっと待って、それじゃ破壊の杖は武器だってこと?」

 

「ああ、それはですね・・・」

 

その時、小屋の外からキャー!というキュルケの叫びが響いた。ルイズたちは何事かと身構えたが、彼女らは小屋を出るまでもなく、何が起きたのかを思い知らされることとなった。突如として、小屋の屋根が轟音と共に吹き飛ばされた。ルイズが見上げると青い空、そして高くそびえ立つ巨大なゴーレムが目に入った。ゴーレムが腕を振りぬいた先へと、元は屋根であった木片が、ばらばらになって落ちていく。

 

「ルイズ様!」

 

魔王が声を掛けた時には、既にルイズは詠唱を始めていた。タバサやキュルケも既に呪文を唱えており、竜巻や火の球がゴーレムにぶつけられている。ルイズが杖を振るうと、狙いの定まっていないような爆発がゴーレムの表面を弾き飛ばした。しかしゴーレムは動きを鈍らせることなく、彼女らに襲い掛かった。始めゴーレムは、その巨大な腕をぶん回し、空を駆ける風竜を叩き落そうとした。しかし風竜はタバサを乗せたまま必死に羽ばたき、ゴーレムの腕の合間を縫って、攻撃を器用に避けた。ゴーレムはその後も腕を振り回したが、風竜が距離を取り始めたのを見て取ると、今度は巨大な火の玉を放ち続ける地上の邪魔者に目を光らせた。

 

「勝てるわけないわ!退却よ!」

 

キュルケは既にフレイムにしがみ付いていた。地を這うトカゲの動きは中々早いもので、あっと言う間に彼女らは森の茂みに姿を隠した。そこまで来て、ゴーレムの動きに迷いが生じた。このまま木々を薙ぎ払って、キュルケを追うべきか、それとも・・・。ゴーレムはしばらく動きを止めた後、ようやく今の今まで無視して来たルイズたちの方へと振り向いた。

 

「ルイズ様、早く退却しましょう!」

 

魔王は必死になって叫んだ。だがルイズは『ファイアーボール』を唱え続けた。

成功もせず、ろくに当たりすらしないその魔法を、彼女は何度も何度も唱え続けた。

ルイズの足は、後ろに引くどころか、ゴーレムに向かって少しずつ前に進んですらいた。

 

「ルイズ様!!」

 

「使い魔は黙ってなさい!」

 

ルイズは、まるで聞く耳を持っていなかった。

 

「このままじゃ勝てる訳がありません!」

 

「あんた言ったじゃない!私には大きな力があるって!」

 

「その通りです!ですからツルハシを振るうためにも、早く地下に逃げましょう!」

 

魔王が言い返しても、一つの思いに囚われた彼女の顔が変わることはなかった。

 

「私はメイジなのよ!ツルハシを振るう者をメイジと呼ぶんじゃあないわ!」

 

魔王に言い返しつつもルイズは杖を振るい、一際大きな、それでいて失敗している魔法を解き放った。

 

「杖を振るう者を、メイジと呼ぶのよ!」

 

「・・・それは、まあ、ゴモットモで」

 

ゴーレムはその身体の一部を吹き飛ばされても、すぐに周りの土で欠けた箇所を埋め、元の形に戻る。それでもルイズは諦めずに、何度も杖を振るった。そしてその間にも、ゴーレムはずしずしと地面を揺らしながら、彼女に近付いて来ていた。ゴーレムが間近に迫り、持ち上げられた大きな足の裏側を仰ぎ見る頃になって、ようやくルイズは踏み潰される未来に恐怖し青褪めた。ゴーレムは戸惑いなく、その足を踏み下ろした。

 

 

「ふん、バカなガキもいたもんだよ」

 

森の陰からゴーレムを操っていたフーケは、くだらなさそうに呟いた。

彼女はゴーレムが踏み下ろした足を、ゆっくりと持ち上げさせた。

 

「チッ!やっぱり逃げたか」

 

ゴーレムの巨大な足跡の内側に、底を見通すことの出来ない、深い深い穴が掘られていた。

 

「まあいいさ。まだ機会は十分にある」

 

木陰に隠れたフーケは、風竜と共に空を舞うタバサと、森に身を潜めつつゴーレムを窺うキュルケを盗み見た。

 

「あの小娘が、あれの使い方を知ってるといいんだけどねえ。

 まあ、知らなきゃ皆殺しにするまでさ!」

 

それまで立ち止まっていたゴーレムが、グォオオオと大きな唸り声を上げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

地の底深く、地上で暴れまわるゴーレムの物音一つ届きはしないところにルイズは潜んでいた。あらゆる音が吸い込まれていくように消えていくその場所では、コケがにじり寄っては壁にぶつかり引き返していく、ゆったりとした時が流れている。ルイズはツルハシを片手に、肩で息をしながら穴倉の底にうずくまっていた。そこに、ゼイゼイと息を切らしながら、魔王が転がり込んできた。

 

「し、死ぬかと思いました!あのままじゃ、ゴーレムを駆逐してやる前に

 我々が踏みつぶされてオシマイです!」

 

「・・・・・・」

 

「ルイズ様、先ほどはなぜすぐに逃げなかったのですか?

 相手にまわりこまれてしまった訳でもないのに『逃げる』を選ばないなんて、

 いくら何でもガンガン行き過ぎです!」

 

興奮冷めやらぬ様子の魔王に向け、ルイズはぽつりと呟いた。

 

「杖が・・・・使いたかったのよ」

 

「杖ですか? まあ最近はずっとルイズ様、ツルハシを握ってきましたからね。

 たまにはそんなキブンの時もあるでしょう。しかし今は状況がチガウのではないでしょうか?

 今のルイズ様はツルハシでこそ、その秘められた力を発揮出来るものだと思います!」

 

しかしそれを聞いたルイズの反応は鈍かった。彼女はそのままずっと黙っていそうな様子だったが、『はい』 か『いいえ』の返事をひたすらに待ち続けるかのような魔王の視線に気付くと、諦めたようにため息をついた。

 

「確かに、あんたの言うように私はツルハシを使って、すごいことが出来るようになったわ。

 地面に一瞬で穴を掘れるし、見たこともないようなマモノを何匹も呼び出せる。それに地下の

 様子なら全て見通すことが出来るから、ここにフーケが乗り込んで来てもすぐに分かるわ。

 本当、今までならどれも出来なかった、夢のようなことよ」

 

「おお! ルイズ様にもようやくツルハシの素晴らしさがワカッてきましたか?

 この魔王、辛抱強く待った甲斐があるというものです!」

 

「何も出来なかった今までより、ずっと良いはずなのよ」

 

「そうと分かっているなら話は早いです。さあ今からでもツルハシを!」

 

「でもイヤなの! いくらツルハシを通じて不思議なことを起こせても、

 普通のメイジみたいな魔法は使えないじゃない!」

 

「・・・」

 

「このままツルハシを振り回していたら、一生懸命練習すれば出来ていたかもしれない魔法まで

 出来なくなってしまいそうじゃない! 私、魔法から一生遠ざかってしまうのは嫌よ!」

 

ルイズが叫び終えると、途端にその場を静寂が包み込んだ。再び全ての音が土の中に吸い込まれていく。魔王はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

 

「・・・私もルイズ様にそういう願望があるのはワカッています。

 確かに杖とツルハシは違うでしょう。いくらツルハシを振るっても、

 他の生徒みたいに呪文一つで空を飛べるようになるワケではありません」

 

「・・・・・・」

 

「ですが、それを踏まえてなお、今はルイズ様にツルハシを持っていて頂きたいのです。

 ルイズ様の身を守る武器として、また盾としてツルハシを使って欲しいのです。

 コレ、主を思う使い魔としての真摯なお願いです。

 まあ、少しは私の願望も入ってますケド・・・」

 

「・・・・・・」

 

ルイズは魔王の言葉を聞いてはいるものの、普段の元気はなく、彼のふざけたひと言にも反応を返さない有様だった。魔王はどこか調子の出ない様子で、言葉を続けた。

 

「私もツルハシだけ持っていてくれ、なんてことは言いません。

 いくらルイズ様が杖でシッパイ続きだろうと、魔法の練習をすること、

 その努力を笑ったりはしません。むしろ応援したいぐらいです。

 杖もツルハシも両方使えたら、歴代破壊神様サイキョウもユメではありませんしね。

 あ、でもD●mp様超えは・・・いやいや、私が限界を見定めてはいけませんな」

 

これはシッケイと魔王は謝ったが、ルイズはそれを聞いても複雑そうな顔をしたままだった。

 

「トモカク、私もセッカクこの世界に呼ばれた訳ですし、ルイズ様には笑顔で世界征服して

 貰いたいのです。そのためならこの魔王、多少ムチャなことでも努力は惜しまないつもりです。

 ああ、でもあのゴーレムに剣を突き立てに行けだとか、七万の軍勢を一人で押し留めろだとか、

 そういうのは無しの方向でお願いします。いやホント、これジューヨーですからね。

 ・・・無反応は困ります。エ?いやマサカ、ホントーにそんなことしませんよね!!」

 

急におどおどし始めた魔王を見て、ルイズは少しだけ笑った。

 

「・・・あんたも相変わらずね」

 

それをきっかけに、ルイズはぽつりぽつりと胸の内を明かし始めた。

 

「私、一年生の間はずっと馬鹿にされてきたわ。みんなからはゼロと呼ばれてばかり・・・

 でもアンタを召喚して、そしてツルハシを振るうようになってからは、少しは違う目で

 私を見てくれる人も増えたのよ。まあ、気に入らない二つ名も増えたけど・・・

 何よ『破壊神』って! 完全にあんたのせいじゃない!」

 

ルイズは荒くなった息を整えると、話を続けた。

 

「でもね・・・やっぱりそれだけじゃあなかったのよ。あんたには言ってなかったけど、

 ゼロのルイズは遂に杖を諦めただとか、ツルハシを振るって平民になるつもりなんだとか、

 そんな陰口も叩かれてきたのよ」

 

それを聞いて魔王はいきり立った。

 

「それ、どこのどいつですか? 名前を教えてください。私がフルボッコにしてきましょう!

 マリコルヌですか?マリコルヌですね。ルイズ様にはあいつの丸焼きをご覧に入れましょう!」

 

「なんでマリコルヌをそんな目の敵にしてるのよ!まあ、マリコルヌなんだけど。

 でもそういう話じゃないのよ」

 

息まく魔王を宥め、ルイズは話を続けた。

 

「悪く言う人が出るのも無理はないわ。私だってはじめは散々嫌がってたもの。

 でも、そのことでクラスメイト相手に何か思っている訳じゃあないのよ。

 だってこのツルハシを使えば、下手なメイジよりずっと凄い力を発揮できるじゃない。

 私がこれをもっと上手く使いこなせれば、トライアングルメイジとだって、十分に

 張り合えるんじゃないかとすら、今では思ってるわ。クラスメイトに何か言われたところで、

 アンタたちの振るう杖より私のツルハシの方がずっと凄いわよって、言い返してやれる。

 でもね・・・」

 

ルイズは自分の心の内を確かめる様に、胸に手を置き、ゆっくりと言葉を続けていった。

 

「でも・・・ツルハシを振るうこと、それを今、みんなに胸を張って誇れるかと言ったら、

 それは違うわ。この捜索に出かけるとき、私は杖を掲げて貴族としての名誉を誓ったわ。

 そこで思ったの。確かにクラスメイトには何を言われても気にせずにいられるけど、

 これがもし尊敬する先生方や、父様母様に咎められたとしたら、どうなんだろうって。

 正直、私には胸を張れる自信がないわ。もし杖を使えないことを責められたら、

 きっと私は何も言い返せない。先生方は、面と向かって私に何かを言うことは無いけれど、

 心の内で悪く思っていてもおかしくないわ。父様母様だって、きっと良い顔はして下さらない。

 そう思ったら、つい杖を使って、何とかしてやろうって思ってしまったの。私はもうこの先、

 立派なメイジとして見られることは無いのかしらって、不安に駆られてしまったの。

 ・・・なんて、今までずっとゼロだったくせに、生意気よね。ごめんなさい、

 あんたが私の力を引き出してくれたのに・・・」

 

「ルイズ様・・・」

 

ルイズは物分かりよく冷静になった風を装っていたが、魔王の目には、彼女が今なお深い悲しみに囚われていることは明らかだった。こんな形でツルハシを頼りにされても、それは魔王にとってまったく嬉しくないことだった。

 

「ルイズ様、確かに杖とツルハシは似て非なるもの・・・というより、

 ブッチャケ少ししか共通点がありません。形状も、使い方も、それから効果だって、

 だいぶチガウものです」

 

「・・・」

 

「ですが、ツルハシを使う時に込めるチカラも、元を正せば全てルイズ様のモノです。

 つまりそのチカラは、きっと魔法にも通じているハズなのです。

 杖を使っても、なぜか魔法が上手くいかない。

 残念ながら、私はそれをどうにかするスベを知りません。

 ですが・・・もしルイズ様が私を頼って下さるのであれば、ルイズ様がメイジらしく活躍し、

 皆に認められる・・・そんな活躍が出来るよう、私もお手伝いしたいと思うのです。」

 

魔王の言葉を聞いて、ルイズは儚げに微笑んだ。

 

「・・・ありがとう。でも無茶をしなくていいわ。

 私のわがままで、これ以上アンタが危険な目に遭うことは無いもの」

 

「いいえ、ムチャなどではありません!ルイズ様はもっと自分の可能性を信じるべきなのです。

 だってルイズ様には、杖やスペルがどーだとかいう、そんな偏見や常識を跳ね除けるだけの

 ビッグなポテンシャルが秘められているんですから!」

 

「・・・・・・」

 

「おや?その様子は信じていませんね?」

 

「だって・・・じゃあ、あのゴーレムにどう立ち向かえというのよ」

 

「私に腹案が「その言い方は信用出来ないわよ!」

 

あまり気の乗っていない様子のルイズを見て、魔王は考え込んだ。

 

「思うに、ルイズ様はまだツルハシの絶大なチカラと可能性を知っていないのです。

 ツルハシによるホンキの100%を出せていないのです。だから普通のメイジはどうだとか、

 そういうことに意識を囚われ、自信を持てなくなるのです。トライアングルどころか、

 スクウェアをも超える大メイジや伝説級の勇者どもすら捻り潰すツルハシの真価を

 発揮出来ていないから、大人たちへと胸を張れないように思うのです。今のルイズ様には、

 ツルハシが杖より劣って見えるかもしれませんが、決してそんなことはないのです。

 ルイズ様の努力は、そしてツルハシは、ルイズ様のユメを裏切ったりしません!」

 

「でも・・・ツルハシじゃあ、杖を振るう時みたいな魔法は使えないでしょ?

 まあ、ダンジョンを揺らせたりはするみたいだけど・・・」

 

力ないルイズの返事に、魔王はニヤリと笑みを零した。

 

「確かにツルハシと杖とでは力を向ける方向性がズレております。

 しかしズレているからと言って、重なるところがまったく無い訳ではないのです!

 知っていますか、ルイズ様? メイジが使う、メイジらしさ極まりない魔法の一部は、

 ツルハシを使うことで同じように再現出来るのです。」

 

「なら、具体的に言ってみなさいよ。どうせしょぼい魔法なんでしょうけど」

 

まるで期待していない風に言うルイズだったが、その実、彼女は注意深く耳を傾けていることに魔王は気が付いていた。

 

「ルイズ様。土メイジにとって、ゴーレムというのはなかなか象徴的な魔法のようですな。

 フーケしかり、前に相手したギーシュしかり・・・」

 

「・・・まさか!?」

 

信じられないというように目を見開いたルイズへ、魔王は力強く頷いた。

 

「ルイズ様さえ上手くやれば、どんなメイジよりもずっとイイモノが作れることでしょう。

 ゴーレムを超えたスーパーゴーレムだって、作ってのけることが出来るハズです。

 ルイズ様がメイジとして認められるためには、どんな魔法を使えるかがダイジなのでしょう?

 周りのニンゲンどもが、そういうモノの見方に捉われているのであれば、

 そんな見方に当てはめてでもルイズ様がサイキョーであることを示すまでです。

 地底最強のルイズ様の力を皆に思い知らせてやるのです!」

 

ルイズは呆れて言った。

 

「地上最強ではないのね」

 

「細かいことはいいではないですか!地底でもサイキョーなら地上でもサイキョーです。タブン。

 ツルハシに不可能はナァイイ!! ・・・というのは言い過ぎですが、

 ドロボウ相手に遅れを取るようなツルハシと破壊神様ではないハズです。」

 

「ウソでしょ?あの巨大なゴーレムにどうやって立ち向かえというのよ!」

 

「ダイジョーブです。だって私には腹案がありますから!」

 

「だから、それをあんたが言っても安心出来ないわよ!」

 

しかし魔王は構うことなくケラケラと笑った。マガマガしさのにじみ出た笑い声であった。

 

「確かにまともに相手したら、あの超大型ゴーレムに打ち勝つのはムズカシイでしょう。

 しかしワレワレにはツルハシがある! しかも今は、破壊の杖だって我らの手中にあるのです。

 まさに鬼に金棒、破壊神にツルハシです!」

 

「破壊神にツルハシはいつものことじゃな・・・い?」

 

ルイズは、自分がいつの間にか魔王の常識に染まり、破壊神がツルハシを持つものと思い込んでいたことに愕然とした。

 

「前回はワレワレがあのゴーレムに引きずり込まれましたからね。

 今回はワレワレがあのゴーレムを地下に引きずり込んでやりましょう!

 さあ、そうと決まれば、とっとと準備しますよ。

 今のこの状況、ルイズ様の名を上げるのにまたとないチャンスです。

 世間に名を馳せたフーケをメイジらしくやっつけたとなれば、

 もはや誰がルイズ様のことを後ろ指差して笑えるでしょーか!

 さあ、私について来て下さい!!」

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

魔王は、少し前まで補欠になろうとしていたのが嘘のように、イキイキと動き始めた。使い魔に引きずられる形のルイズは、魔王の様子を見ているだけで元気が出てくるような気がして、単純な自分に少し自己嫌悪した。しかしルイズは、この奇妙な使い魔ならば、自分の諦めや失望を思いも寄らない形で裏切ってくれるんじゃあないかと、そんな期待をついつい寄せてしまうのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どうなってんだい! あの小娘、隠れたまんまじゃないか!」

 

フーケはゴーレムにキュルケらを襲わせながら、乱暴に吐き捨てた。ゴーレムが腕を振るうごとに、森の木々が宙を舞う。フレイムは器用に逃げ回っているものの、彼にしがみ付くキュルケの表情は既に真っ青だ。風竜に乗り空を飛んでいるタバサは、隙を見て彼女を救い出そうと地上への接近を試みるも、フーケのゴーレムはそれを許すほど甘くはない。タバサらが少しでもキュルケに近づくと、すぐさまゴーレムは標的を変え、彼女らを地上に叩き落とそうとする。その間に地上のフレイムは少しでもゴーレムから距離を取ろうと走り出す。しかしさして逃げる間もなく、ゴーレムの剛腕がフレイムの隠れ込もうとした茂みを吹き飛ばす。先ほどからその繰り返しだった。だが、圧倒的に優位なはずのフーケの表情は優れない。それどころか、彼女はこんなことを続けなければいけないことに辟易して来ていた。キュルケらには知る由もないことだが、彼女の目的は彼女たちを叩き潰すことではなかった。実のところ、彼女は手加減すらしてまで、キュルケらのピンチを演出し続けていた。

 

彼女が、こうしているのには当然、訳がある。その訳とは、フーケが学院から鮮やかな手口で盗み出したはずの秘宝、破壊の杖そのものにあった。破壊の杖は、それ自体を『杖』と呼んでいいものか、戸惑われる様な形をしていた。だが確かにその品が『破壊の杖』と呼ばれているあたり、それは杖で、そして噂によればワイバーンすら容易に打ち倒すほどの強力な力を秘めているはずなのだった。噂に尾ひれが付くことは珍しくないといえど、ハルケギニアに名高い大メイジ、オールド・オスマンに縁の秘宝ともなれば、その話にも信憑性がある。そんな高く売れるに間違いないはずの秘宝を手に入れて、さしものフーケも当初は興奮を隠せなかった。そこで昨晩、彼女はアジトに立ち寄るや否や、破壊の杖を試そうとした。ところが、片手で扱うには大きく重すぎるそれを、普段扱う杖のように振って呪文を唱えるという難儀な作業の末に分かったことは、それが普通の杖としては全く機能しないということだけだった。かと言って、ただ単に魔力を込めて振ればいいのかというと、どうもそういうものでもないらしい。何も起きないそれを必死で振り回した後、フーケの心には空しさだけが残された。秘宝の名に恥じないお宝を手にして、フーケは深い憂鬱を抱え込むことになった。

 

使えない秘宝に用はない。特に高そうな宝飾が施されているわけでもないそれを貴族相手に高く売り付けるには、どうしてもその使い道を知っておく必要があった。折角苦労して手に入れたお宝を買い叩かれるようでは、この商売はやっていけない。そんな訳だから、自分をエサに引きずり込んだ教師たちを逆に捕まえ、杖の使い道を聞き出すというのが、フーケの本来の計画だった。ところがその計画は、物知りぶった教師連中の誰もが捜索に参加すらしようとしなかったことで、破綻しかけていた。そんなことだからフーケは、捜索隊に志願した生徒を人質にオスマンから杖の使い方を聞き出そうか等と、物騒なことも考えた。しかし外国からの留学生や大貴族ヴァリエールの娘を人質に取ったとあっては、流石に魔法衛士隊が動きかねない。選りすぐりの実力者ぞろいだと言う部隊を相手にするのは、分が悪すぎるかとフーケが悩んでいたところ、彼女の頭に閃くものがあった。

 

「(そういえば・・・ピンク頭のこいつは確か、二つ名が『破壊』とか言ったね。

 使い魔も妙な杖を持っているらしいし、『破壊の杖』の使い方も分からないもんかねえ)」

 

彼女自身、特に期待が大きいわけではなかったが、可能性があるなら試してみるのも悪くない。そう考えたフーケは、あえてルイズに破壊の杖を取り戻させ、その上で杖を使わせようという賭けのような選択をした。もし彼女が使い方を知らなくても、その時は破壊の杖を奪い返せばいい。フーケにとって、面倒だか失うもののない賭けであるはずだった。だからこそ、今の状況は彼女に取って、想定外もいいところだった。杖を手にしたはずのルイズが、穴に逃れたまま一向に姿を現さない。

 

「さあ!隠れてないでとっととツラ見せな!

 この私からお宝を奪い返そうなんて100年早いんだよ!

 何ならその破壊の杖でも使って戦ってみるかい?」

 

焦れに焦れたフーケは、身を隠すのもやめてルイズの堀った穴まで近付き、大声で挑発を始めた。しかし穴の中から返事が返ってくる様子はない。地上がどんなことになっているか、想像が付かない訳ではないだろうに、全く音沙汰がない。

 

「早く出ておいで! お仲間が苦しんでるのにダンマリかい?」

 

まさか、地下で人目がないのをいいことに、聞こえないふりでもしているのか。そっちがそういうつもりなら、もっと耐え難い挑発をしてやるまでだと、フーケはルイズのプライドに訴えかけるような文句を叫んだ。

 

「こいつは驚いた! まさかお仲間を見捨てるつもりだったとはね!

 そうやって隠れ続けて、仲間がやられた隙に逃げ出そうってかい?

 ハッ、ヴァリエールの名が泣くね! いや? ある意味とーっても貴族らしいかもしれないね。

 普段は綺麗ごと並べ立てても、人目のないところではいくらでも汚いことをやってのける。

 それが貴族ってもんさね!」

 

フーケは、ルイズが青筋を立てた顔で飛び出してくるのを今か今かと待った。彼女の知っているルイズとは、こういう言葉にすぐ反応する短気で無駄にプライドの高い少女であるはずだった。しかし、穴の中からは物音一つ返って来ない。 ・・・おかしい。流石に何かが変だと、ようやくフーケも気付き始めていた。まさかあの小娘の心は、ゴーレムに踏みつぶされそうになった時に折れてしまったというのか?

 

「まさかビビっちまってるんじゃないだろうね!

 臆病な使い魔の性格があんたにもうつったかい?こいつは傑作だ!

 使い魔は主人に似るってね!」

 

挑発を続けていてふと、フーケの頭に嫌な考えがよぎった。確かに、あのピンク頭のガキは短気ですぐ挑発に乗りそうな、扱いやすい性格をしている。しかし彼女の隣には、あのお調子者でろくでなしな使い魔が付いている。もし彼女があの使い魔に何か吹き込まれたら、ホイホイと口車に乗ってしまわないだろうか? あれだけ小屋の偵察を嫌がっていた彼のことである。もう秘宝は手に入れた、だからフーケなんて無視して帰ってしまえだとか、仲間はトライアングルなんだから、自分たちでどうにかするだろうだとか、そんな悪魔のささやきで彼女をそそのかしていないだろうか?

 

「まさか、今この場から逃げてる最中なんてことはないだろうね!」

 

もしそうならまずい。フーケは途端に焦りだした。お宝の使い道を知ろうとして、お宝を失ったのでは本末転倒である。ゴーレムでキュルケらを弄ぶようなダラダラとした動きは止め、すぐさま穴に乗り込みルイズを確保しなければならない。フーケはキュルケたちを叩き潰してでも排除し、杖の回収に取り掛かることを決めた。彼女に操られたゴーレムは大きく足を踏み出した。1歩、2歩とゴーレムが歩くごとに、キュルケとの距離がぐんと縮まる。キュルケが踏み潰されるのも時間の問題かと思われたその時、ゴーレムの足がずぼっと、地面に沈み込んだ。

 

「へ?」

 

フーケは思わず呆気に取られるも、直ぐに気を取り直して、ゴーレムが倒れないように杖を振るった。

 

「一体何だってんだい! この辺りで地盤沈下なんて・・・まさかあいつらか!」

 

フーケの疑問に答えるように、ゴーレムが足を取られた場所の近くから、桃色の髪をした少女がひょこっと頭を出した。ルイズは思うように動けずもがいているゴーレムを見上げると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「フッ! 巨大ゴーレムなんて言ってもざまぁないわね。

 足を取られたら何にも出来ないじゃない!」

 

どうやらルイズはゴーレムに夢中で、潰された小屋のそばにいる自分に気付いていないらしいと悟ったフーケは、黙って杖を振るった。その動きに合わせ、ゴーレムはルイズを叩き潰さんと、腕を目一杯に伸ばして振るった。だが、彼女まではあともう少しのところで距離が足りない。フーケは考えを切り替え、先ずは地面からゴーレムの足を引き抜くことにした。

 

「おっと、そうはいかないわ! 私にはこの破壊の杖があるんだから!」

 

フーケはぴくっと眉を動かした。彼女は杖を振るう手を休めずに、ルイズの動きを観察し始めた。ルイズは破壊の杖の両端からカバーのような部品を取り除くと、破壊の杖をぐぐっと引っ張って、その胴部を引き延ばした。

 

「(何だい、あの杖は! あんな風に引き延ばせるだなんて、分かるわけないじゃないか!)」

 

フーケは破壊の杖の思わぬ構造に驚愕するも、こうも上手く使い方のお手本が見れることにほくそ笑んだ。見ている間にも、破壊の杖の常識を超えた使い方が明らかにされていく。ルイズは今や、破壊の杖を肩に担いでいた。そんな使い方をする杖など、聞いたこともない。

 

「で、次にどうするんだっけ?」

 

「ココです! この部分を照準に使って、ここを押すのです!」

 

ルイズの隣にひょっこり顔を出した使い魔が、彼女に指示を与えていた。

 

「あいつが使い方を知っていたのか。まあ、もうどうでもいいけれどね」

 

ついにルイズが、破壊の杖をゴーレムに向けて、姿勢を固めた。これで破壊の杖の威力も明らかになる。

 

「その汚い顔を吹っ飛ばしてやるわ!!」

 

ルイズがそう叫んでから、破壊の杖がバシュッと音を立てた。杖の両端が光ったかと思うと、次の瞬間には既に、杖から飛び出た光がゴーレムの体に吸い込まれていた。耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、ゴーレムの体が弾け飛んだ。下半身だけ残ったゴーレムの体から、土砂が血のように流れ落ちていく。フーケが破壊の杖の威力に目を見開いていると、地面がゴゴゴゴと音を立てて揺れ始めた。

 

「キャーー!」

 

ルイズたちは叫び声を上げながら、地中に引っ込んでいった。ゴーレムの足を呑み込んでいた地面が、更に深く陥没していく。やがて、ズシンという響きが地面を伝ってフーケの身体を揺らした。今や、フーケの作り出したゴーレムは完全に土にまで戻り、落ち窪んだ地面を埋めるのに使われていた。

 

「チッ! まさかあいつ、あんな深い穴を掘っていたとはね!」

 

ゴーレムが崩れたことで、先ほどまでルイズらが顔を出していた穴も塞がれてしまった。フーケは、ゴーレムを一発で倒してしまう破壊の杖の威力だけでなく、短時間にあれだけの大穴を掘っていたルイズという少女の力にも注意を払わざるを得なくなっていた。

 

咄嗟に、フーケは背筋が冷たくなるような気配を感じ、急いでかがみ込んだ。彼女の背中を、猛烈な突風と共に大きな影が掠めていった。フーケがそれを目で追うと、上空に舞い上がったそれは、きゅいー!と鳴いた。ついにタバサに見つかってしまったらしい。ゴーレムという難敵が失われた今、彼女と使い魔のコンビはいくらでも地面すれすれまで降下して、フーケの身を脅かすことが出来る。フーケがちらりと森の方に目を向けると、そちらはそちらで、赤い大きな影が茂みから姿を現すところであった。一目散に這い寄ってくるフレイムの口からは、絶え間なく炎が漏れ出ている。強力な使い魔を従えた彼女らを相手にしては、フーケ単身では身が持たない。だが彼女らの接近を防ぐためのゴーレムは崩れ去ってしまったし、もう一度あの大きなゴーレムを作り出そうとノロノロしていれば、彼女たちのコンビによる死の暴風をお見舞いされるのは目に見えていた。

 

「くそッ! 私に地下へ逃げろってかい!」

 

フーケは迷わず小屋の跡に残された深い穴へと飛び込んだ。そして足が地に付くと、目にも止まらぬ杖さばきで小型のゴーレムを作り出し、辺りにひしめく不可解な生き物たちを一掃した。フーケは頭の上に空いた穴を見上げると、杖を振ってその入り口を固く閉じた。

 

「これで一先ず、挟み撃ちの心配は無いね」

 

彼女は窮地を脱し、ようやっと息を付くことが出来た。だがその顔は未だ険しい。先ほどからフーケともあろうものが、不覚を取ってばかりいる。落ちこぼれだったはずの生徒に、良いように翻弄されている。おまけに自慢の巨大ゴーレムが、その大質量ゆえに落とし穴という手段で封じられてしまった。破壊の杖も、奪われたままである。もはや、ルイズらを放っておく訳にはいかなかった。何よりフーケの『土くれ』としてのプライドが、自慢の魔法に土を付けられたままで終わることを許しはしなかった。

 

「ふん。ガキでも舐めてかかると痛い目見るって事かい? だがねえ!」

 

彼女は獰猛な目をひと際輝かせて言った。

 

「私の自慢のゴーレムをこんな形で倒して見せたこと、死ぬ気で後悔させてやるよ!」

 

フーケは凄惨な笑みを浮かべ、穴の奥深くへと突き進んでいった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「どうですか、ルイズ様? あんな巨大なゴーレムが相手だと、

 最後の一堀りがセツナイ感じになったりするんでしょうか?

 ちなみに私は、笑いが止まりません!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ。本番はこれからでしょ?」

 

「モチロンです! 条件は全てクリアーしました! 後はフーケを血祭りに上げるのみです!」

 

それを聞いてから、ルイズは深呼吸した。いよいよ直接フーケと対峙しなければならない。そこで自分の、そしてツルハシの真価が試される。ルイズは決意を新たにツルハシを握りしめた。

 




次回・・・ ゴーレムを超えたスーパーゴーレム。始祖にもシャイターンにもなれる?

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