死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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七話目です。
ちょっと人によっては今回の展開はストレスに感じてしまうかも知れません。自分的には八幡ならこうするのでは、という手段を選んでみましたが正直自身はあまり無いです(震え


では、どうぞ


7話 ハリボテの勇者

 俺の発言に合わせて、ざわりと空気が殺気立ったのを肌で感じ取った。

 

 できるだけ意識して、俺は味のなくなったガムを吐き捨てるように、実につまらなさそうに言葉を続ける。

 

「は、はい? あなた今、なんて」

「知らねーつったんだよ。いいか? 俺が、“提督が”、いま飯が食いたいって言っただろうが。どうせないって言っても非常時用に保管してる食料とかあるだろ?」

「――――ッ!!! ……あ、あり、ます……っ!」

「ならそれで良い。あぁ、作るときはできるだけ大量に作っておけよ。俺は足りないのが嫌だからな。全く俺がこんなしみったれた場所で飯を食わなきゃいけないとはツイてねーな」

 

 わざとらしく目の前で悪態をついてやると、間宮はそれはそれは視線で人を殺せそうな勢いでこちらを睨み付けていた。

 今なら三浦に睨まれても笑って受け流せそうな気がする。

 正直、死ねそうなほど怖いっす。

 しかしここで油を注ぐ手を抜いてはいけない。やるなら徹底的に、だ。

 

「何だその態度は。―――解体されたいのか?」

『…………ッ!』

 

 ギャラリーも、その一言に一気に敵愾心を強めた。

 

「お前らも、何様のつもりだ。俺は提督だぞ? いつでもお前らなんか解体できるんだ。なぁ、間宮。俺はどっちでもいいんだぞ? まぁその場合、明日には顔見知りの一人や二人が居なくなってるかもしれないけどな?」

 

 そう言うと、食堂にいた艦娘達も逆らえないのか勢いを無くし、ただ歯がゆそうに此方を眺めている。

 

「やめて、ください! 今すぐやりますから……!」

「最初からそうしろ」

 

 じろり、と見下す様に吐き捨て俺は尊大に言う。

 

 こういう時、腐った眼なのは実に便利だと思う。もうね、これ以上ないってくらい多分似合ってると思うんだ。ん? 言ってて悲しくならないかって? 

 ならないと思ってんの?

 

「一時間後には整えておけ。でなきゃすぐにお前を解体してやるからな」

 

 ここまで言えばいいだろうと、俺は踵を返した。しかしそんな時、声が掛かった。

 

「待ってください。―――もし、余ったら。余った分は、どうなさるつもりですか」

「……好きにしろ。ゴミに興味はないからな」

「…………。そう、ですか。しかし提督、保存食をとりに行くにも部屋に入るのには提督が持つカードキーが必要です。付いてきていただかなければとりに行く事もできません」

「……くっ、面倒だな。早くしろ」

 

 せめても格好つけて帰ろうとしたらこの仕打ちですか……すごい恥ずかしいんですがそれは。俺は顔を見られないように提督の帽子を目深く被ってごまかした。

 

 そうすると、食堂にいる艦娘たちの波をかき分けて、一人の艦娘が現れた。

 

「おい間宮! まさかそいつと二人で行くつもりか!? 何されるかわかったもんじゃねぇぞ!」

 

 ショートの黒髪に眼帯……どこの小鳥遊○花ちゃんかな? まぁ冗談として、名前は確か……えーと、朝○龍的なニュアンスだったのは覚えてる。

 

「天龍さん……そいつ、なんて言ってはいけませんよ。この方は提督です。それに私も曲がりにも艦娘に名を連ねる一員であることをお忘れですか? ですので、落ち着いてください。大丈夫ですから。では提督、行きましょう」

「……ぐっ! てめぇ! 間宮になんかしたら許さねぇからな!」

 

 あーそうそう天龍だ天龍。はいよ。つーかなんかってなんだよ。具体的かつ論拠を述べて俺が何をするか30文字以内で述べろよこの頭の軽そうな中二病艦娘め。

 俺と間宮は天龍による「ばーか! あほ! まぬけ! おたんこなす! えーと、えーと、うんこ!」と程度の低い罵詈雑言の言葉をBGMに食堂を後にした。

 

 ……あの罵倒の中に八幡! があれば完璧だったな。なんて思ってしまう俺ガイル。なんつって。

 

 

 ◆

 

 

 カツカツカツカツ。

 ひたすら無言で、夕暮れに染まる鎮守府内を二人で歩く。

 前を先導する間宮の顔は伺えないが、怒っていることは確かだろう。ぶっちゃけこのあと殺されたりしないか不安です。無人の部屋に連れ込まれて「さて、もういいでしょう」とか言われちゃうのかな……。

 

 ここで雑談とかできる勇気は俺にはないので俺も黙って後ろをついていく。あ、蝶々だ。あっ、蜘蛛の巣に……うわぁ。

 

 和やかな気持ちになりかけたが、蜘蛛によるお食事シーンが始まってなんとも言えない気持ちになる。気を紛らわせることも許さないと?

 

「着きました」

「あ、おう」

 

 突然の事に思わず素で返事をし、食料庫、というプレートのついたドア横にある認証パネルにセキュリテーカードを翳した。

 一秒もせずに、ピッという電子音と共にドアのロックが解除される。

 

 そして食料庫の中を覗いた瞬間、部屋の中へと押し込まれた。

 

「ぐえっ!?」

 

 背中軽く押されたと思ったら想像以上に強い衝撃が来たぞ!?

 

 無様に顔面から転ぶのをなんとか避け、体勢をを立て直し、俺を中へと押し込んだ犯人―――つまり間宮の方へと向き直った。それと同時に、ドアはガチャンと音を立てて閉まる。

 

 誰も入ってこれない密室に、美少女と二人っきり。やばい……ドキドキする……。

 ……あまりの恐怖に、心拍数が上昇中!

 部屋は補助の電灯が薄暗く照らすだけなので、間宮の無表情が、恐ろしくみえた。

落ち着け。落ち着くんだ、俺の心臓。そうそう、ゆっくり鼓動の速度を落として……。

 

 彼女が口を開く。

 

「さて、もういいでしょう」

 

 一瞬で心拍数がトップギアになりました。

 

「ひいっ!?」

 

 当たりたくない予想当たったぁああああ!?

 死ぬ、死んじゃう! つーか殺される!? せめて遺書くらい書く時間をくださいお願いします!

 

 じりじりと、彼女はこちらに距離を詰める。こちらの背後にあるのはもはや積まれたダンボールと壁のみ。逃げ場はない。

 そしてついに間宮は俺の目の前まで来てしまった。もうダメだ……。そう思った俺は来たるべくその瞬間を脳裏に描いて目を瞑った。

 

「どういうつもりなんですか?」

 

 と。

 まさかの一言が、彼女の口から出るまでは。

 

「……どういうつもりだって? なんの事だ?」

「惚けないで下さい。少し考えたらこんなことわかります」

 

 そう言う間宮の目は、まるで何か。確信したような強い光を灯した瞳だった。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 ……あまりのアホらしさに、俺は薄暗い食料庫の単ボールの上に腰を卸し、力を抜いた。

 

「……そうかよ。あぁ全く恥ずかしい真似しちゃったぞおい」

 

 どうやら、間宮は最初からそのつもりだったらしい。

 

「やはり、そういう事なんですね」

 

 俺の言葉に今確信を持ったのか、間宮はそう零した。なんだよこいつカマかけてやがったのか……。

 ほんわかした見た目に似合わず実に強かである。

 

 そう、こいつ間宮は俺の意図―――艦娘たちに食事を与えるための算段に気が付いたのだ。

 まぁ俺が即興で考えるような杜撰で穴だらけの策なんてバレても仕方ないと思う。仕方ないとは思うが―――実際にかなりの量にバレてるとすればそれはそれで問題である。

 

 それを問い詰めようと声を上げようとすれば間宮の方から、大丈夫です。私以外に気づいた様子はありませんでした、と声を掛けられた。先読みすんなよ、こえぇよ……。

 

「なぜこんな真似を? 提督ならばもっと穏便に解決することが出来たはずです。もっと簡単に、私達の食に関する問題なんて解決できたでしょう?」

「……本当にそう思うか? まだこの鎮守府に来たばかりの、それも前任の人間が最低の屑だった鎮守府に素性もしれない男が唐突にお前らに対して、これからは無償でご飯が食べられるよ、見返りも何も必要ないよ。食べたい分だけ食べてね!―――なんて言ってお前らはそれを笑顔でみんな仲良く手を取り合って受け入れられるのか?」

「っ! それは……」

「無いだろ。どう考えても」

 

 無理だ。そんなもの逆の立場だったとして俺でも御免被る。無償の善意なんてものは世界に存在しない。あるのは有償の善意か無償の悪意だけだ。

 ……確かにこれは、時間をかければなんとかなる問題だった。さっきも言ったが、俺はこの大きな問題という名の魔王に対してレベル一の状態でエンカウントしてしまった。

 ゆっくり確実にレベルを上げることができればこの魔王(問題)を倒す勇者にもなれたはずだ。しかし、俺はその時間がなかった。レベル上げもなく魔王と対面してしまったのだから。

 ならばどうするか? 

 答えは簡単―――自分が出来ないなら、別の勇者に倒してもらう、だ。

 そんな勇者に選んだのがこの間宮である。立派な勇者像だ。俺に恐れながらも立ち向かい、皆を守る為に戦う。これだけ心優しく強い間宮ならば、あれだけ俺が言えば食料を捨てること無く他の艦娘達に残った分を分配すると思っていた。

 まぁ、正直バレるとは思わなかったけどな。

 

「いいか? もしもの話だが、仮に俺の提案を受け入れる奴がいたとしても、そいつは確実に少ないだろう。百歩譲って食べる派と食べない派が同数だとして、この時点で艦娘内で派閥が出来上がる。内部で分裂を始めた組織がどうなるかなんて、簡単にわかるだろ」

「…………」

 

 一度分裂を始めたら、そこから分裂は止まらない。分裂を重ねすぎたそれはどうなるか? 泡のように弾ける、それだけだ。

 

 それがようやく分かったのか、相手は辛そうに眉をひそめて口元を抑えた。

 

「どうして……なんで……? 理解できません……。まだここにきて初日のあなたが何故?」

「はぁ? 俺だってやらなくていいならこんなめんどくさい事したくねぇよ。ただそういう規律があるなら守らないと俺が捕まっちゃうだろ。だから別に非常時でも資源が少ないわけでもないこの鎮守府じゃあちゃんと飯与えなきゃいけないってルールを守っただけだ。理解してもらおうなんて考えてもねぇよ。お前はお前のロール(勇者)をしっかり果たせばいい。それだけだ」

「でもそれではっ」

「もう気にすんな。だいたい元からぼっちの人間だし、来たばっかの提督に下がる好感度なんてねぇだろ? お前らは飯が食えて仲良しこよし、俺は一人で静かで楽な時間を過ごせる。win-winだな。……あ、でもならやってほしいものが一つあるわ」

「……なんでしょうか。やれることなら何でもします」

 

 間宮は少なからず罪悪感を感じてしまっていたのか俺のその言葉に対して過剰に反応する。

 

「……いや、女子が軽々しく男に向かって何でもするとか言うのやめろよ……。まぁいい。えぇとだな、お前には俺の敵でいてもらわないと困るんだ」

「……敵、ですか?」

「あぁ。さっきの話の通り、お前はその内部分裂を起こさない為の指導者。みんなの偶像的役割をこなしてもらわないとならない。俺という悪役と、お前という正義の味方。この関係が成立することによって、お前の発言がみんなの信頼につながり、お前の行為なら皆が受け入れられる。しかしここからが問題でな、逆に言うと俺とお前がしっかりと明確な対立をしていないと、この状態が簡単に瓦解しちまうんだ。少なくとも裏で通じあってるとかそんな噂が出始めたらそれでアウト。というか、噂ってのが一番最悪だな。それだけはなんとしても避けたい」

 

 ソースは俺。噂は情報ではない。

 噂というのは成長する虚像である。正しい物も正しくない物もひっくるめて食べて成長する化物。おかげで俺は一時期3つの中学の不良を片っ端から殴り殺しフィリピンで女を買いまくった変態不良になってたからな。……夏休み最終日に窓から光が思いっきり入る所で昼から寝てたら日焼けし、その日の夜にラノベ読んでたら机の上で寝落ちた挙句首を寝違えて、翌日首に湿布貼って学校登校してる途中に鼻血を吹き出し、所々に若干血の跡をつけて学校についたらこの噂だからね? どんな噂の広まり方だよって思うわ。まぁあまりに酷すぎる噂のおかげでいつの間にか俺がそうだという噂さえも呑み込まれて今じゃなんか別の伝説になってたはずだ。

 

「だからお前と俺は何があっても敵同士。和解なんて出来ないし、許し合うこともない。一生を掛けて憎み合うレベルで嫌っている……ってな設定を守ってほしい」

「……それが、提督の願いなんですね?」

「……あぁ。頼む」

「……分かりました。守りましょう。この間宮、魂に誓いこの使命だけは守り抜きます」

 

 ちょ、ちょっとそれは重すぎるが……まぁ守ってくれるというなら是非もない。

 

 俺等はその後何事も無かったかのように食料庫にあったレトルトのカレーを取り出しそれを部屋で食べた。

 

 試しに使ったあとの食器を食堂に返しに行くと、食堂の艦娘達はみんな笑顔でカレーを食べていた。まぁ俺が入ってきた瞬間すごい敵意丸出しだったり嫌悪感とか無感情の嵐になったけどね。

 

 なんか起きても面倒だし、俺はぼっち108の特技“群れないぼっち特有の歩く速さ”を発揮しそそくさとカウンターに食器をおいた。

 

「……ここでいいか?」

「………はい」

 

 これ以上ないほどの、拒絶感。間宮から感じ取った空気はまさにそれだった。

 どうやら、間宮は俺の言ったことをしっかり守ってくれるみたいだ。

 それに安心しながら居心地の悪い空間から去っていく。

 

 背中越しに感じる侮蔑の視線と、こちらをこそこそと罵るような声。

 まぁ、別に元々仲良くしようなんて思ってなかった。上司なんて所詮部下に嫌われるのが仕事のようなものだし。

 むしろこんな事するだけで一般のサラリーマンより高給なんて楽すぎて困るまである。だから別に何も俺は気にしていない。

 そう、これでいい。これがいいのだ。

 所詮、職場で女の子の部下達と信頼しあえている俺、なんて言うものは幻想でしかなく、そんなものはラノベの世界だけで十分だ。つまり変な勘違いが生まれる前にその禍根を断った俺は大正解ということで何も間違っていない。

 

 俺はまだ少し肌寒い鎮守府の外の空気にうち震えながら、ポケットからスマートフォンを取り出すと、小町から連絡が来ていた。

 

『小町:お兄ちゃん! 今日からお仕事だったよね? お疲れ様! 今度寂しい可哀想なぼっちごみいちゃんの為に遊びに行ってあげるからね! あ、今の小町的にポイント高い!』

「……はっ。うっせーよ馬鹿。……ありがとな」

 

『鎮守府はそんな簡単に遊びにこれるようなところじゃねーから。あとぼっちも余計だ。俺はぼっちになってるわけじゃなくてぼっちが好きだからやってんだ。そこ勘違いするなよ』

 

 我ながら長文だな。と納得しながら送信。

 

 ……少しだけ、明日も頑張ろうと思えた。




読んで頂いてありがとうございます。

そしてまたこの場をお借りして感謝のお言葉を。
UA20000突破しお気に入りも約850件と成りました!
評価もたくさんの方にして頂いて朝起きる度にどきも抜かれてます……。

また、

おおば様 ガイドビコーン様 パイト様 refu0様
レグルスアウルム様 ぶどう党様 ひでお様 酢ブタ様
アテヌ様 Pluto様 みなたか様 黒瀧汕様 
ryon様 Q.E.D様 アルスDQ様 
グリグリハンマー様 わらふじ様
進撃のどどりあさん様 レミレイ様 
わいわいぐるみん様 pepemaruga様 白野菜様 
ゴリラの癖に生意気だ様 斉天大聖様 
MA@Kinoko様 太陽は出ているか?様 徒釘梨様 
ぶりきのカンヅメ様 (・ワ・)様 むぎたろー様  せぐうぇい様 Kohki様 つくだや様 餅大福様 karakuri7531様 消しカス様 しゃもじ55様 
姫菜様 もろQ様 Raptor-22様 
ヒゲオッサン様 aikawa様 

の、こちらには載せておりませんが以前していただいた評価の方々も含めなんと81名もの方に拙作を評価していただきました。様々な評価を頂き、時には凹み、時には頑張る力となり。しかし何にせよこの作品を見てくださったのは事実。皆様には本当に感謝しております!

これからもこの作品を覗いてくださる読者様の声や反応に一喜一憂しながらら面白おかしくやらせていただこうと思っておりますのでよろしくお願いします。

そして蛇足になってしまうんですが、見切り発車で始めた作品とはいえあまりに設定の穴が多く、この作品に関する問題をご指摘頂き、あ、これあかん(白目)と流石に問題視するようになりました。

その為に、2話の部分になるんですが

八幡が高校を卒業し、大学に入ったばかりの頃に深海棲艦たちが活動を本格的に開始。→それからしばらく経ってからの話、という体で書かせて頂いてましたが、ここを改変し。
八幡が高校を卒業し、大学に入ったばかりの頃に深海棲艦たちが活動を本格的に開始。→それからすぐのお話、という風にこの物語に繋がるまでの期間を変更しております。同時に貿易難で娯楽品や嗜好品の入手がしづらくなる、という描写を入れつつもMAXコーヒー自体はまだ現存している、という体でお話を奨めさせて頂きます。はい、そうです。こういうのをご都合主義と言うのです。まだまだ修正部分はありますがとりあえず触りの部分からこんな形で徐々に修正したりなかったりを繰り返すつもりです。
 その為に、すこーし投稿頻度が遅れたりする可能性がありますので、大変申し訳ありませんがご了承ください。
……本当に蛇足でしたね。だらだらと書いて申し訳ありませんでした。次回もよろしくお願いいたします!

※5/10 改正

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