死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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遅れて申し訳ございません!
もともとの予定から3時間も遅れて投稿!

そしてまた急展開。
ふえぇぇ……ぶらっくちんじゅふはにちじょうせいかいもままならないよぅ……(白目)

見切り発車の設定がギリギリと首を絞める今日この頃です。

では、どうぞ。


6話 空腹感に襲われて

 生物という名の通り、俺ら人間は生きている。

 生きているということは、生きなければならないという事だ。

 今日を生きるのは明日の為。

 明日を生きるのは明後日の為。

 だからこそ生命は等しく活動を続ける為に何かを代償にしている。

 それは例えば時間であったり、有限資材であったり、だ。

 しかし生きていく上で特に必要なものといえばなんだろう。そう思った時に挙げられるものは、おおきく分けて3つだと俺は考える。

 それは、睡眠、飲食、欲望だ。

 前者2つに至っては語るまでもない。当然の摂理だ。食わなきゃ死ぬし飲まなくても死ぬ。んで睡眠不足でも死ぬ時は死ぬってんだから生き物というのも面倒くさいものである。

 しかし人間というのは面白いもので、生きるために必要な行為というのには嫌でも快楽が付き纏う。これはきっと人類が存続するために与えられた一つの修正パッチのようなものなんだろう。

 では残りの一つの欲望、これが一体何なのか。これも案外簡単な話だが、人は生きている、という事実があるから生きている訳ではなく、生きたいと願うからこそ生きているものだと俺は思う。あの夢を叶えたいから今を頑張る。あの人と明日会えるから明日も学校頑張る。単純明快な理論だ。

 つまり人間とは欲望に付随するその行動によって生きている。

 例えばここになんの欲望もない人間がいたとしよう。別に何がしたいわけでも明日に何があるわけでもない。なんの欲もない人間だ。何を食べたいとか、何をしたいとかもなく。ただそこにいるだけ―――いや、有るだけ。

 果たしてこれを生きていると言っていいのか? 俺はそうは思わない。だからこそ生物という概念にはこの3つが最低でも必要なのだ。

 

 ……さて、長々とダラダラとこんなことを語っている訳だが、もちろんそれには理由がある。

 

 つまり、何が言いたいか率直に言おう。

 お腹が減ったから鎮守府の中にある食堂に来たら、何故か俺が集団リンチ一歩手前みたいな事態に遭遇しました。

 

 八幡、大ピーンチ☆

 

 遭遇というと発見した俺が第三者的な意味を持つように思えるがこの場合俺が集団リンチに合いそうなのでどちらかと言うと発生した、という方が正しいのだろう。

 ただ俺の主観で言わせてもらうと何も悪くない筈なのにこうなったので遭遇した、という感じではある。

 嘘言ってないです。八幡を信じて。この社会から見放されそうな腐った目を見てよ!

 

 言ってて悲しくなってきたから止めよう。それにしてもどうしよう。実はさっきの視線はぼっち特有の自意識過剰妄想系のアレで誰も俺のことなんて見てないんじゃ……。

 一縷の望みをかけて視線をそっと上へとスライドしていく。

 

『…………』

 

 安心と安全のガン見だった。

 気分としては動物園の動物。いや戦争中に敵国のど真ん中で独りぼっち、みたいな。

 

「ヒェッ」

 

 ともかく俺の許容範囲を軽く数倍は超える視線の圧に襲われ、失禁しかけた。

 あかん。あかんですってこれ。人生でこれまで無いくらいの視線を一身に浴びてる。やだよー八幡泣いちゃいそうだよー。たすけて。助けて小町ぃ!

 

 もーなんでこんな目に合わなきゃならねーんだよぉ……。俺は内心半泣きで慟哭を上げた。

 

 ……時は夕暮れ。事務も終わった俺がまず始めに感じたのは空腹感だった。そりゃそうだ。朝から緊張で何も食ってないのだから夕方頃にはどう足掻いても腹が減る。

 となると自然にやることは決まってくる。食料の確保だ。

 さてそれじゃあ飯をどうするか。そういえば鎮守府の割とすぐそばにはコンビニが……と思ったが、そういえばまだ鎮守府入館証が発行出来てないとかなんとかで今日一日は外出不可能だった事を思い出す。

 ということはこの鎮守府内でなんとか飯を確保しなきゃいけないということであり、俺は億劫さにため息を吐きながら財布と地図片手に提督室を飛び出した。

 執務室がある鎮守府本館からそう離れていない所に食堂と大きく書かれた建物が存在した。

 食堂というからには他の奴らも居るんだろうな、という事実にまた気を重くしながらも背に腹は替えられぬと門をくぐった。

 

 思えばその瞬間に気づくべきだったのだ。ドアを開いた瞬間からこちらを射抜く、大量の視線に。

 

 

 ◆

 

 

 はじめに食堂内に足を踏み入れて感じたのは、純粋な違和感だった。

 正直ぼっちの俺は食堂という存在にはあまり縁がない。そんなところで飯を食うぐらいならそこらの飯屋でも入るし、それくらいには足を運んだことがない……が。

 いくらそれにしたって。そんな俺からしてもこの食堂はどこかおかしかった。

 

 いやに殺風景なのだ。いや食堂が由比ヶ浜のケータイバリにデコデコしかったらそれはそれでおかしいけど。

 なんというか、食べ物を扱ってる風には思えない。どころか感覚としては学校の多目的ホールばりに何もない。

 それどころか、自販機とか、そういう飲み物に関するものも見当たらない。

 

 ……間違えたか? でも外には大きく食堂って書いてあった筈だし、一応奥には厨房が存在するが……使用感が全く見られない。なんだここ?

 

「どうか、なさいましたか」

 

 そんな時だ。前から人影がひとつ現れた。

 長く伸ばした亜麻色の髪。

 昔ながらのエプロンを少し改造したような制服がよく似合う、母性的な女性だった。

 ……間宮、だったっけな。

 ここに来る前に陽乃さんに叩きこまれた各艦娘のデータをなんとか引っ張りだし思い出す。

 そういえばこういう食堂とかで業務をこなす給糧艦と呼ばれるジャンルの艦娘だった気がする。

 

「えーと……あなたがここの管理を?」

「えぇ。はい、まぁ、一応」

 

 なんとも歯切れの悪い返事だ。

 一体どういうことなのか分からず俺は質問を重ねた。

 

「えっとここが食堂って書いてあるんすけど……」

「……間違いないですね」

「そ、そうっすか」

 

 嘘だろ? 調理器具とか見えるけど使った形跡ないぞ。

 でも管理してる人がそう言うならそうなのだろう。いい加減空腹も限界だ。さっさと用件済ませて立ち去るのが吉だ―――と、今にして思えば俺は特大の地雷を踏抜きにかかった。

 

「え、ええと、注文とかって……」

「……はい?」

 

 アイエエエ!? ナンデ!? なんで声が数段低くなった!? 俺なんか間違ったこと言ったのかよ! 分かんねぇなリア充の空気は。俺みたいなぼっちが発言した瞬間これじゃねーか!

 

「……提督はまさか、知らないんですか?」

「……知らないから今こうなってるんでしょうよ」

 

 むしろ今日赴任したばかりの人間に何を知っていろと?

 あまりに理不尽な物言いに事なかれ主義のぼっちでもイラっとくるぞ。

 もちろん、そんな事は口には出さない。だって怖いから。

 

 つーかなんなんだよ。目の前のこいつも周りの視線も。今までにないくらいの敵愾心だぞこれ。正直雪ノ下姉妹に出会ってなかった頃の俺だったら即失神してるレベルだ。

 

 相手は相手で俺の無知っぷりが嫌なのか何なのか、そりゃもう嫌そうに顔をしかめながら手を握りしめ、堪えるように声をしぼりだす。

 

「そうですか……。ならお伝えいたしますが、当食堂には提督様がお召し上がりになられるようなものは一切扱ってません」

「……は? 一体そりゃどういう―――」

「ですから! 食べ物なんてここには無いんです!」

「それは―――あ……っ!」

 

 ここにきて、ようやく話の全容を朧気ながら理解した。

 それと同時に、深い後悔が胸を突く。

 食堂ではあるが、食堂ではない。

 それもその筈。

 

 ここは“艦娘用”の食堂であって“人間用”の食堂では無いのだから。

 

 話には聞いていた。艦娘というのは人間の様に食事を必要としていないとは。必須なのは補給と呼ばれる弾薬やボーキサイト、燃料などの資材をエネルギーとして取り込む物であり、実質的に食べるという行為は求められていない。

 しかしここで問題なのは、必要ではない“だけ”という事なのだ。

 必ず無ければならない訳ではないが―――彼女達も人間と同じ様に笑い、泣き、話し、寝るという、人間に備わっているのと同じ機能がある。

 ならば食欲がないとなぜ言える?

 

 そう。艦娘にも食欲自体は存在するのだ。それに従って大本営の定めた規定としても非常時以外にはなるべく艦娘にも食料を与えることが義務付けられている。確かにそれが理由で士気が下がるなど大本営からしてみれば溜まったものでは無いだろうしな。

 

「……義務付けられてる行為だろうが」

 

 しかし俺はすでに知っていたはずだ。前任のやつがその義務さえ放棄するような屑だった事など。

 これに関しては俺の落ち度という他ない。この問題はきっと……もっと時間をかけてゆっくり解決すべきものだった。そんな強大な敵に、俺はまんまと初期装備で挑みに来たってわけか。

 はっ、笑えてくる。

 自嘲気味に俺は、悪態を心の中で零した。

 

「……その要項、よく見ればわかるんですが義務とは名目上ありますが、非常時又は資源の不足時、これを免除とする。という一文によって守らない者も……それこそ前任のように、います。しかしまぁ、解ります。だって無駄じゃないですか。食べなくてもいいなら、食べる理由にはならない。そうですよね?」

 

 そう言う間宮の顔は俯いていて伺うことはできない。ただそれでも震えた声と握りしめた拳は、隠し切ることは出来ていなかった。

 

「……あぁ、それもそうだな。そうに違いない。それが効率的だ」

 

 確かに、それ以上の正論は存在しない。吐き気がする程効率がよく、くそったれにロジカルだ。

 

 間宮。お前の認識は正しいよ。正しくて効率的で実に理に適っている。

 だがな、一つだけ間違いが存在するぞ。たった一つ、当たり前の事だ。

 

 それはな。

 

 そんな食料問題がどうとかそれで問題があるかどうだとか下らない事を考えるのは、決めるのは、お前の役目じゃないってことだ。

 

俺は、大きく息を吸い込み、吐き出し。周りの視線の圧なんて一度思考から取っぱらい、周りに聞こえるような声で言う。

 

「―――まぁ、知らんけど。そんな下らない事」

「……はい?」

 

 俺は目の前の間宮の言葉をバッサリ切り捨てた。




今回も読んで頂いてありがとうございます!

日が立つごとに評価が伸びてて本当に信じられない気持ちです。慢心しないようにだけ気をつけてがんばります。

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※5/10 改正

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