死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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五話目投稿です。
感想欄でたくさんの優しいお言葉をかけて頂いて作者感激のあまり涙しそうです。理想郷はここだったんだぁ……(錯乱)。

では、どうぞ。


5話 想い

「ふぇ……?」

 

 ふぇ? じゃねーよかわいいなおい。未だに理解しきれてない彼女の姿に思わず頭が痛くなってくる。

 

 なにいってんだこの女。どういうことなの……自分を殺せって言ってるのと同義だよね? あーもう無理。そういう価値観が合わないからこの仕事嫌だったんだよ。

 

「で、でも私は提督に向かってこんな口を聞いて」

「生意気なこと言って即処刑とか俺どんなアドルフさんだよ。嫌だよそんな殺伐とした日常。つーかお前ぼっちに何求めてんの? いいか? ぼっちってのはなぁ、常に人の視線とか態度とか存在におびえて生きてんだよ。そんなぼっちがお前みたいな清楚系美人を処刑でもしてみろ。次の日から俺居場所なくて首つるわ」

 

 こんな周り四方八方艦娘で固められた空間だと尚更だ。闇討ちとかされんじゃねーの。

 

「……提督は、変なんですね」

「俺からしてみればお前らのほうがよっぽど異常だ。お前ら人間の癖して道具みたいに自分の事見下してるとかそれどんな精神状態だよ」

 

 自分が大好きで可愛い俺としては全く持って理解できない感覚だ。でも社畜になったりすると少なからずそういう感覚になるもんなのかね。

 はぁ、働きたくねぇわ。働いてるけど。

 

 しかし俺の発言が気にいらなかったのか相手はスカートの部分をぎゅっと握りしめ、しぼりだす様な声で言葉を紡いだ。

 

「人間じゃないです。私達は……兵器ですから」

 

 人間ではなく、兵器。それを自分の口で言ってしまうのは、一体どんな気持ちなのだろうか。

 

「……まぁ、狭義の意味で言えばお前らは人間じゃないのかもしないけどな。でもこれで兵器ってのは無理あるだろ。喋って飯食って寝て泣いて怒り散らすんだぜ? 俺そんな兵器は流石に無理だわ。正直気持ちわるい」

「……っ!」

 

 気持ち悪いという言葉に、過剰に反応する。

 

「だから俺はお前を……というかこの艦娘? って奴を普通に人間だと思ってるけどな。そう大差ないだろ。人間の俺が言うのもおかしいのかもしれないけど……少なくとも俺は艦娘だから云々とか人間だからこうとかは無いからそういう面倒くさいのは、いい」

「め、面倒くさいといいますか……」

「あぁ、面倒くさい。本当に面倒くさい。ぼっちからしてみりゃ姿形人間で女で喋ってるってだけで大体俺の天敵認定で事が済むしな」

「ひ、捻くれてるんですね」

「世の中の仕組みを冷静かつ理論的に理解していると言え」

 

 こうして話していると、大分元の話から遠ざかっていることにようやく気がついた。

 ゴホン、と態とらしく一度咳払いしてから言葉を探り探りで紡ぎだす。

 

「えーと、だな。怖がるくらいならその、秘書艦? って奴はしなくていい。求めてないし、こっちの業務も一人で出来る。これはお前の周りのやつにも教えておいてくれ」

 

 これは本心だ。というか怯えてなくてもいらないまである。つーかなんで艦娘なの? 艦雄とかいてもいいだろ。まだそっちのほうが数倍マシだ。

 

「……分かりました。みんなにお伝えしておきます」

 

 相手はそれを、何故か決意の篭ったような目で頷き俺の言葉に納得していた。いやそんな真面目に受け取らんでもいいのに。

 

「でも、お仕事はさせて頂きます」

「はぁ?」

 

 じゃあさっきまでの話し合いは何だったんだよ!

 そういう意味を込めてじろり、と見てやると相手はなぜかぎこちないが、それでも顔に精一杯の笑顔を浮かべて、

 

「もう、怖くありませんから」

 

 と。

 ……いや、嘘つくなよ。声震えてるし書類を掴んだその手さえ少し震えている。

 

 それでも俺は何も言うことができなかった。

 何も言い返すこともないまま、俺はゆっくり席について業務へと戻る。

さっきまでの喧騒が一変、また最初と同じ静けさが帰ってきた。

いや、違う。

先ほどの静けさとは違う。

冷たい空気の中に感じる、どこか温かみを孕んだ様な空気に、いつの間にか変わっているのだ。

 

「提督、さん」

「……ん」

 

 その中で彼女は言う。つらつらと作業を続ける風を装って、精一杯の勇気を振り絞っているのだろう。

 

「明日も私、ここにきていいでしょうか」

「……なんのつもりだよ。そんな事をしてなにが変わる?」

「分かりません。……ただ、榛名がそうしたいと思っただけです」

「……好きにすればいいんじゃねーの。しらんけど」

「そうですか。分かりました」

 

 それから無言で二人の作業は一時間ほど続いた。

最初よりも空気が軽いおかげが順調に作業は進み、いつの間にか三センチはあった書類の束が無くなっていた。 

 

……初日からこんな疲れるもんかよ。これだから働きたくなかったんだよなぁ。

久々の書類業務に俺は早くもノックダウン。それに対して榛名は慣れているのか大した疲れも見せずに席から立ち上がり、ドアの前でこちらに向かって一礼した。

 

「提督、それでは失礼します」

「あ、あぁ。えーと、これ、いるか?」

 

 そう言って俺は、鞄から蜂とお揃いの警戒色の我がソウルドリンク―――その名もMAXコーヒーを取り出す。

 

「そんな私、貰うような……」

「……仕事手伝ってもらったんだ。報酬ってやつだよ報酬。気にすんな、別に高いもんでもねーし。いらねーなら俺飲むけど」

「……それじゃあ、ありがとうございます。でも、これって一体……」

 

おいおい警戒色してるからってそんなヒくなよ。俺の人生の相棒だぞ?

 

「千葉のソウルドリンクMAXコーヒーだ。まぁ試しに一口飲んでみろ」

 

 プルタブを開けてから手渡してやると、チビリと口をつけて思いっきり顔を顰めた。

 

「……すっごく甘いですね」  

「だろ? 人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていいってな」

「……ふふ。なんですかそれ」

「制作俺のMAXコーヒーのキャッチコピー。我ながら百点を上げたい」

「変ですね……でも、嫌いじゃないかもしれないです」

 

 ちょ、ちょっと急にそんなこと言われたら照れちゃうだろうが。いや、マッ缶のことだって分かってるけどね? 勘違いとかしないから。

 

「そ、そうかマッカン愛飲者が増えることはいい事だからな。……んじゃ、おつかれ」

「はい、お疲れ様です。……えっと、明日もよろしくお願いします!」

「ん」

 

 そういってはにかむ榛名の姿は、悔しいが……その、なんだ。

 惚れてしまいそうなくらいには可愛らしかったかもしれない。

 

 

 ◆

 

 

「榛名ーーー! 大丈夫なんデスか!?」

 

 後ろから聞こえた声と、一泊遅れてくる衝撃。

 

「お姉様……」

 

 金剛型一番艦―――つまり私達金剛型の長女となる金剛お姉様が今私に抱きついてきていた。

 

 いつもは明るく振る舞う、まさに天真爛漫という言葉が似合う姿には、その影はない。

 焦燥と、怯えの見える姿に、驚くのと同時に納得した。

 

 そうですよね……お姉様も怖かったに決まってますよね……私はいつもお姉様の元気さに励まされていたというのに。

 

 なにも。何も私はできていない。

 

「何もなかったんデスか!? 新しいテートクに何かされませんでしたカ!?」

 

 本当に心配そうに聞いてくるお姉様の姿に思わず嬉しくなってしまう。大事にされているんだと、思える。

 

 とりあえず今日の出来事を話そうと思ったら、初手から事故を起こしてしまった。

 

「えぇと、喧嘩しちゃいました」

「け、喧嘩デスかぁ!?」

 

 その言葉はほとんど悲鳴に近いものだった。

 あ、これまずい。と思った時にはすでに遅し。

 その言葉の後にお姉さまが崩れ落ち、口から魂でも吐き出しそうな位のどんよりとしたオーラを纏う。

 

「……あわ、あわわ。もう終わりデース……。榛名が、榛名がぁ……」

「ち、違います違いますお姉さま! されないですから! 解体されないです!」

「……ほわっつ?」

「えっと、私もそうなるかと思ったんてすけど……その、新しい提督さんはそういう事をしないっていってて。なんだか変な人だったんです……」

「そ、そうなんデスか……な、ならノープロブレムデスね……ううう良かったデスよ榛名ぁーーーー!」

「わっ! お姉さま!」

 

 お姉様が、またぎゅうっときつく抱きしめてくる。その柔らかさにまた頬が緩んでしまうのを感じ、私もそっとお姉様の背中に手を伸ばした。

 

「……ありがとうございます、お姉様。こんなに心配してもらって、榛名は幸せ者です! ―――そんな妹の話を、聞いて下さいますか?」

 

 そんな私の問いかけに、まだ涙で目元を潤わせたお姉様が、大きく胸を張った。

 

「……ふふ。何を言ってるんデスか! この金剛型一番艦金剛! 世界一キュートでラブリーな妹達のお話を聞かない訳ないじゃないデスか!」

「えへへ。ありがとうございます。えっとですね―――」

 

 お姉様に聞いて欲しいんです。

 今日はどんな業務をしていたかとか。

 今日は珍しく一人での業務じゃなかった事とか。

 初めて人に向かって声を荒げてしまった事とか。

 初めて飲んだコーヒーがびっくりするくらい甘かった事とか。

 

 新しくきた提督さんがとっても変な人だった事―――とか。

 

 榛名が隠す様にして持っていた飲みかけの缶コーヒーが、歩くリズムと共にチャプリと音を奏でる。

 

 その足取りは、いつもよりどこか軽やかなものにも見えた。




艦これのキャラを知らなさすぎてキャラがブレブレなんだよなぁ……(震え声
予習としてアニメを3話まで見たら想像以上の楽しさにアニメの方のファンになりかけてます。

そして今回も評価者の皆様を此方の場をお借りして感謝申し上げたいと思うのですが……正直急激な伸び方に作者が呆然としてます。皆様こんないいんですか? 寝て起きて見たら( ゚д゚)ってなりましたからね? 過大な評価だと思いますがたくさんの方々に応援いただいて本当に感謝しております。これからも何卒拙作をよろしくお願い致します。

【新規で評価を頂いた皆様】
アスタルト様 サバト様 ツバメ3号様 es.519様 
一神龍様 Makito...様 Llycoris様 
トマト霊夢様 プテラ様 どこかの少佐様 Ygd様 
ジュン・タイター様 辺野平次様 こばこば様 
ふもっふ様 しぃすけ様 K5221様 ボッチー様 
黒田ロタ様 かに味噌炒飯様
ニート予備軍様 積怨正寶様 12代目相棒様
余命100年様 豚丸様 鯆(いるか)様 geso様 
るなてぃっくゆう様 漆黒の覇王黒龍様
一二三之七氏様 ただ茄子様 このよ様

改めまして切削にご評価いただき誠にありがとうございます。中には耳が痛くなる評価もございますがそれを含め糧とさせていただきより向上を目指しますのでこれからも何卒よろしくお願い致します。

お気に入り件数も300件を突破しもう何がなんだかわかりませんが感謝しております!本当です!

そして最後になりますがこんな拙作の誤字報告をして下さった
晴れた羊様、よしりん様、低音狂様。
大変遅れてしまいましたが手間でしょうにこんな拙作の誤字報告をしてくださり誠にありがとうございます!
まともに推敲もせず乗っけるくらいズボラな作者は大変助けられております……。本当に感謝っ……!圧倒的感謝っ……!

そして何よりも、こんな拙作を読んでくださるすべての読者様に感謝申し上げます。これからも暇潰しにでも読んでいただければ作者は満足です!
これからもよろしくお願い致します!

※4/11 改正
※5/10 改正

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