死んだ目つきの提督が着任しました。 作:バファリン
一日一回更新がとりあえずの目標です。
では、どうぞ。
カリカリカリカリ。
案外こういう新しい職場に来たら挨拶回りでもさせられるもんかと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。執務室で長門と加賀との話を聞いた俺はそのまま部屋でラノベを読んでいると書類を抱えた艦娘が入って来てそのまま早速の実務に取り掛かることとなった。
それから早一時間。
俺の一挙一動に嫌な感じの反応を返される艦娘の姿にチクチクダメージを受けながら提督の業務についてあらかたの事を聞き終わり、本格的に作業を開始する。
書類仕事に関してはここに来る前に半年かけてみっちり扱かれたおかげでどうにかこうにか食いついてる。現場と練習じゃそりゃ違うよな。そんな当たり前のことに頭を抱えながら、それでも何とか仕事はこなせていた。
しかし、これは如何なものだろうか。
手を止めて、ちらりと提督用の執務机の横に繋がるようにして設置された―――艦娘専用の机。
そしてそこで顔になんの感情もない無を貼り付けながら作業を淡々とこなす艦娘の姿。
どういうことだと思って聞いてみれば、秘書艦と呼ばれる提督の事務の補佐を担当する役割が存在するらしい。
聞いてない。聞いてないってばよ雪ノ下さん。
聞けばこの鎮守府のローカルなルールというわけでもなく、すべての鎮守府がとっている物らしいし、あの人がそんな初歩的なことを教え忘れるとは思えない。
脳内で実に愉快そうにその美しい顔を微笑みにかえてこちらを見つめる大魔王の姿を幻視した。
そしてその作業を今やっているのが、金剛型の3番艦―――榛名だ。
見た目自体はすごく可愛らしい女子。ちょっと雪ノ下の雰囲気を柔らかくして……ある部分が異変レベルで急成長したら瓜ふたつかもしれない。どことは言わないが。
本人にはこんなこと絶対に言えないな、と思いながらもそんな考えに耽る。
しかし現状、いくらぼっちで彼女いない歴イコール年齢の俺でも、可愛い娘と同じ空間にふたりっきり! 心臓の音が相手に聞こえてないかな! ドキドキ☆ とかやってるような余裕がなかった。
「…………」
もうね。ずっとこれなんだよ。かれこれ一時間くらい無表情。本当に機械かと疑うレベルで顔が微動だにしない。ここまで来ると狂気を感じてくる。
正直やりにくいったらありゃしない。書類自体もまだまだ多いし人手は多いほうが助かるのは事実だが、それよりも俺の精神衛生上的には遥かに一人のほうがやりやすいのだ。
さすがにその様子を見かねて、俺はため息を吐く。
「……ッ!」
するとそこで、相手はようやく反応らしい反応を見せた。
まるで今までの無表情が嘘かのような、自分より巨大で強力な肉食動物にあった小動物の様な。
そんな目に見えた怯え。
そこでようやく理解する。
―――こいつは俺を嫌っているのではなく、恐怖を抱いているのだと。
この無表情はただの防衛措置の一つでしかなく、その薄っぺらな壁の向こうには怯えが渦巻いていたのだ。
急激に親近感が湧いてきた。
マッカン飲む? とか聞いちゃいそう。わかるわー、わかるわそれ。
知らない人ととか身近にいたらほんとそんな感じになるよね。もう急に背伸びされた時とかびくってなるよね。わかるわー。
……ただこの場合怯えられてる対象が俺だという事実に若干落ち込んでしまう。
「……あ、あの、もう後の業務はこっちでやるんで……帰ってもらって結構すよ」
しかしそこまでなっているのに一緒に仕事やるのは2人の心情的にも良くない。何なら一人のほうがよっぽど楽まである。ソースは俺。ずっとそんなふうに考えてましたので。
「……いえ、業務ですから」
強がりなのか何なのか、相手はそれを即座に否定した。
あっ、もしかして気を使われたとでも勘違いしているのか? 違うから。余裕で俺の為だから。
心底面倒くさいがこの空気が続くよかマシだ。俺は席を立ち上がり、相手に聞こえるような声で告げる。
「いや、ほんと大丈夫ですって。もう仕事の内容は理解してるんで……というか、そんな怯えられながら仕事する方がアレなんでもう大丈夫っすよ……アレしてもらって」
あー、もうこうなるからさっきので帰って欲しかったんだけどなぁ。なおこの時点で目をそらしている俺はヘタレチキンと罵られても甘んじて受け容れる。
しかしそこで、相手が何こいつムカつく。マジキモインデスケドー。とか言いながら出てってもらえるのが理想だったんだが、何故か相手はそこで席を立ち上がりこちらを睨みつけた。
ホント美人の睨みつけって威力高いからやめて欲しいんだが!
「お、怯えてなんかないです! 私は、榛名は大丈夫です! 貴方になんか怯えません!」
貴方になんかって言っちゃったよこの娘。しかしそれにしてもちょっとカッチーンときましたよ。
え、いいの?
ハチマン論破しちゃうよ?
今もう頭の中に論破できる材料たくさんあるからね? やるよ? やっちゃうよ?
「はいはい嘘乙嘘乙。そんな声震わせといて怯えてないは無いだろそれ。いいからそういう強がり。な? お互いの為なんだから。あとからなんか言ったりしないからもう行っていいぞ」
この時、あくまでこっちが折れてやったというスタンスを取るのがポイントだ。こうする事で相手にイライラさせることが出来る。
「なっ……なっ……! 違います! そんなこと無いです! そもそも私がなんで人間のあなたなんかに怯える必要があるんですか! 力だって私のほうが強いんですから、怯えてるのはそっちでしょう!」
「は? 俺がいつ怯えてねーなんて言ったよ話聞いてましたかあれれー? お前みたいなリア充してますぅみたいな典型的美人の側に居たら俺みたいな高尚ぼっちさんが怯えないわけ無いだろ。良かったな俺の気持ちが分かって。分かったなら今すぐそのリア充オーラみたいなのを潜めてぼっちにも優しい静かなオーラで毎日を過ごせ」
「は、はぁ!? 何言ってるんですか貴方!」
「それにお前何さり気なく俺のこと恐喝してんだよ。ビビるからやめろ。法に則ったジャスティス攻撃で精神ダメージ食らわすぞこら。ねぇ言い返せるの?
俺に反論できるの? どんな気持ち? 今どんな気持ち!」
「う、ううううう」
「う?」
「うええぇぇぇぇ……」
「えっ」
ハイ論破ァ! と思った瞬間に相手が泣き崩れました。
どうしよう……どうしようこれ……。
女の子なーかせたコールが脳内で鳴り響く。やめろ! 俺が隣の席の佐藤さんの消しゴムが地面に落ちてたから拾ってあげただけだろうが! なんでお前泣いてんだよ! あああトラウマがぁ!
俺もが床に崩れ落ちそうな精神ダメージをなんとか堪え、おろおろとしつつもなんとか慰める。くっ……こんな慰め方小町にだってしたことねぇぞ!
「いや、その、悪かった。言い過ぎたよな? ほんとそんなつもりじゃなくて、あの、ええと」
「うううううなんでそういうこと言うんですか、私だってほんとはこんなことしたくなかったのにうええぇぇ!」
「わぁ悪化した。いやそうじゃなくてお互い嫌なら片方がやったほうが絶対いいだろ? んでそっちが辛そうだったからそれを見てる俺も辛い。そこまではわかるな?」
「はいぃぃ……」
返事しながら泣くなよ面倒くさいな。
「そうなると自然に俺が一人でやったほうが絶対精神的にもいい。な?」
「私一人にやらせればいいじゃないですかばかぁぁぁ」
「バカって言うな仮にも上司だろうが! っていうかそれはおかしいだろ? 俺提督だろ? ならこの仕事は俺のだろ? なら俺がやるのが正しいよな?」
「……ぐずっ。前のは全部私達にやらせてましたから……。自分は遊び呆けて」
「……あー」
原因解明。だーからずっと今日はあんな怯えてたのか。普段いない奴が一人いただけで一気に空気って重くなるよな。そうそう……あの、仲良しグループしかいない時に教室に戻っちゃった時とかもうね……。
今日はやけにトラウマを掘り返す日だな。
「まぁ確かにお前から見たら前のも俺も変わりないのかもしれないが、少なくとも俺は最低限求められた仕事くらいはこなすつもりだ。今後からはそういう認識で頼む」
「……今後?」
ん? なんでそこで疑問形になんの?
相手は泣き止んではいるがまだ真っ赤に充血した目のまま先程の勢いはどうしたというしゅんとした態度のまま聞いてくる。
「解体、するんじゃ無いんですか?」
「は? しねーよ」
大変アホらしい答えを、俺は即座に切り捨てた。
終わり方が雑で申し訳ないです。
それと早くも約130名もの方々にお気に入り登録して頂きました。皆様有り難うございます。
俺ガイルと艦これのブランド力半端ねー……と恐れ慄きながら執筆させていただいております。
それと早速ですが、
御影 玲夜様 だいそんそん様 プテラ様 OMIT様
Name Less様 きたのん。様 その他匿名一名様
の以上七名様に拙作を評価していただいたこと、この場をお借りして御礼申し上げます。
勝手にお名前をお借りして申し訳ございません。何か不都合がございましたらお申し付け下さい。迅速に対応させて頂きます。
長々と失礼致しました!
兎にも角にも読んでいただいてありがとうございます!
感想誤字脱字や疑問点や問題点ございましたら教えていただければ、と思います。
※5/10 改正