死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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2話目です。
基本的に1話3000文字前後で行こうと思ってます。

今回は色々こじつけっぽい話の大筋をば。




2話 経緯

『ねぇ比企谷君。提督やってみない?』

 

 そんな一本の電話が、事の発端だった。

 

 俺が大学に入ったのと大体同じ頃、それは起こった。

 深海棲艦と呼ばれる、異形の者達の侵攻は。

 

 幸い、人的被害はなかった。

 幸いというか、この場合奇跡的にという他ない。それは、艦娘と呼ばれる人工の存在達を、提督と呼ばれるその艦娘たちのトップが引き連れて助けてくれたからだ。

 

『おや? 君は才能があるようだね』

 

 その言葉が、今でも忘れられない。

 今はその言葉があったからこそとも思えるが、あの時の俺は少なからずその発言をした奴に対し恨みを覚えたし怒りもした。

 どうやら提督の業務につくには、ある種の資格が必要らしい。妖精と呼ばれる存在を見ることができるか否か、だとか。

 

 ちょうど俺らの住む地域を深海棲艦達が襲いはじめた頃から、一気にその化物達は活動を始め、世界的な大問題へと発展したのだ。

 もはや他国との摩擦がどうとか言ってる場合じゃなくなる程、といえばわかりやすいだろうか。

 

 それから3ヶ月も経つ頃には国と国で貿易するにも命懸け。嫌な時代になったもんである。

 そんな中、政府がある法案を打ち出した。それが“提督適性者雇用法”。

 

 読んで字のごとく、提督の適性を持つものを国で雇用して面倒見ますよ、だ。

 

 正確に言い直そう。

 

 提督の適性を持つ人間は即時首に鎖を繋いでその命が尽きるまで国で飼い殺しますよ、だ。

 

 勿論命の保証がない分かなり給料はいいし、そういう面だけ見ればかなりエリートになるんだが……提督の仕事だけはやりたくないと思った俺は、適性があるということをバレないようにしていた。

 

 だってやる事は艦娘を指揮して時としては自分の采配ミスで死ぬ場合があるんだぞ? 俺にそんな器はない。そういうのは葉山とか雪ノ下とか雪ノ下姉のやる様なものであり、まかり間違っても俺の様な人間ができる仕事ではない。

 

 だからこそ適性があるとバレてもなんとかかんとか躱しに躱し、上手いこと逃げてきたが……それもついに終止符が打たれる。

 

 それが、その原因こそがこの大魔王。

 雪ノ下陽乃なのである。

 

『ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど……』

 

 待て、落ち着け比企谷八幡。冷静さこそが俺の取り柄だろうが。クールに行こう。クールに。

 

『え? そのままの意味だよ? 提督になろうって誘ってるの、私が』

『俺の夢は専業主夫なので残念ですがお断りさせていただきます。それでは失礼しま』

『ふーん、じゃあ雪乃ちゃんが見ず知らずの脂ぎったおっさんに嫁いじゃってもいいわけー?』

 

 通話終了を押すはずの親指が、動きを止めた。

 

『どういう、事ですか?』

『お、いいねぇ。そこで食い付くとは今のは陽乃さん的にポイント高いよ?』

『そういうのはいいですから、聞かせてください』

『もー。そんなにがっつくと嫌われちゃう……って分かったわかった。携帯ミシミシ言ってるから落ち着きなさい比企谷君。えーっと、今この地域を守ってくれてる鎮守府の提督の事、知ってる?』

『……まぁ、ある程度は』

 

 苦々しい返事をする他ない。それ程その提督は有名なのだ……悪い意味で。

 

 悪行三昧という言葉が正しい。俺はあまり外に出歩かないから知らないが、外では相当なことをやってるらしい。

 

『でもそれが一体どういう……』

『この前、雪ノ下グループの方で会食が合ってね。雪乃ちゃんが出席してたんだけど、そこにその提督も呼ばれていたんだって』

 

 そこまで聞いて、だいたい話が読めた。

 

『それでねー。その提督が雪乃ちゃんに―――』

『いや、もういいっす。それで俺はどうすればいいんですか?』

『……まだ話は終わってないけど?』

『俺は終わったと思ってます。それで、俺に何をしてほしいのか、早く答えてください』

『……私が今から嘘をついたりすれば君はまんまとハマることになるわけだけど、それでもかな』

『馬鹿にしないでください。貴方がそんなことするわけ無いでしょう。雪ノ下陽乃は策を弄しても、嘘はつかない』

『はぁ……こんなに思ってもらえて雪乃ちゃんが正直羨ましいよ。というかホント今ドキッと来ちゃった。責任とってくれるかな?』

『はいはい今度荷物持ちでも何でもしますよ。それで?』

『むー……まぁそれは今度報復するとして、本題に入るよ』

 

あの、可愛らしく報復とかいっても全然可愛くないですからね?

 

 

 

 ◆

 

 

 そうして雪ノ下陽乃の計画が頓挫するわけもなく、それは当たり前のようにとんとん拍子に進み、あの運命の電話の日から半年が立った頃には俺はここに立っていた。

 

 まぁ勿論そんな簡単な話ではなかったけどな。提督というのは、言うまでもなく国防の一端―――どころか今では国という垣根を超えて世界で最も注目を浴びる職業だ。おいそれとなれるものではない。したがって俺に求められたのは最低限の提督としての知識と、軍人としての力だった。

 

 嫌だね……元々ぼっちでインドアな俺がどうしてことしてるのか、本当に分からなくなるくらいの苦行だった。座学は暗記物が多かったからまだしも、ホント実技に関してはトラウマしかない。

 

 そんな苦々しい記憶を思い出しながら、俺が今いるのは提督室。小奇麗に整えてある空間は、自分の部屋よりも広い。

 俺はこれから一生この檻の中で死ぬまで飼い殺されるのか。

 

 そう実感した瞬間、足から力が抜けた。ソファーに力なく倒れ込む。

 

「俺はなんでこんなアホなことしちゃったんだよぉおおおおおお」

 

 もう手に入らないのだ! 専業主夫という夢は星の彼方へと消えていった。

 まぁ、元々なるつもりも無かったけどな。正確にはなれると思っても無いけど、だ。今の時代専業主夫なんてものをやってられるのはそれこそ相手が提督を務めるくらいじゃないと厳しいだろう。今はまだ出来たとしても、多分十年後にはさらに厳しくなっていると思うし。

 もう、なってしまったものはもう仕方ない。諦めるのだ。むしろ俺は今国家公務員のそれもエリートである提督になっているわけなのだからむしろ超勝組なんだ。そうだ。こんだけステータスが揃ったら俺もモテるんじゃ……なんて妄想は止めておこう。未来の俺の為に。

 

 柔らかく沈み込むソファーでびったんびったんひとしきり跳ね周ってからムクリと起き上がり悪態を漏らす。 

 

「本当に人の夢ってやつは儚いもんだな……」

 

 俺はソファーに座り込みながら持ち込みのかばんをがさごそと漁りMAXコーヒーを取り出して一口。

 

「人生も現状も夢も苦いんだからコーヒー位甘くないとなぁ……」

 

しかし、このご時世良くMAXコーヒーがまだ売っているもんだと思える。現状貿易が困難な状態が続き、日本の有名メーカーなどでも嗜好品の販売終了などがちょくちょく起こっている……のに対し何故か相変わらず料金も一緒でマッ缶は売っている。流石は千葉、と言うべきか。世界規模の問題が起ころうとMAXコーヒーの前では霞む存在らしい。まぁいつマッ缶がなくなってもおかしくない現状、俺は沢山買いだめしてあるけどな。

 

 コンコン。

 

 控え目なノックの音が広い提督室に木霊した。

 

「ひゃ、ひゃい! ど、どうひょ!」  

 

 ……もう何なんですかね、このドモり癖。死にたい。

 自分の情けなさにどんよりしていると、いよいよドアノブが回されその奥から人影が入ってきた。

 

「失礼する」

 

 そう言って入ってきたのは艶やかな長髪の黒髪の和風美人だった。

 

「長門……さんですか」

「うむ。敬称はなくていいぞ、提督」

「……」

 

 急にハードな要求やめてくださいよ長門さん……。俺みたいなボッチが急に女の人を呼び捨てにできると思ってんの?

 

 ていうかこの人平塚先生に雰囲気にてるんだよな。この、できる女オーラとか……若干漂う残念感とか。

 

「そ、それでなんの件でひょ、しょうか」

「……あぁ。聞きたいことが1つな。提督、あの発言は一体どういう事だ?」

 

 あの発言、という言葉がどの発言を指しているのか分からず少し悩む。

 

「相互不干渉、と言うやつだ」

「あ、あぁ。なんかまずかったすかね」

「まずいとかそういう話ではない。そもそもがおかしいだろう」

「え、なんで?」

 

 一体何がおかしいのか皆目検討もつかない。あれこそがベストなアンサーだという自信があるし、むしろデメリットを提示してほしいまであるんだが。

 

「なんで本気で不思議そうな顔ができるんだ……。そんな事をしてしまったら提督に支障が出るではないか」

「……なんでですか? 事務の方では流石にやり取りが必要だとも言ってあるし、流石に仕事なんだから皆もそれくらいは我慢してくれるんじゃないすかね」

「いや、そうではなくてだな……」

 

 ダメだ、話が噛み合わない。

 

「えーと、長門……さんは結局何を問題だと思ってるんすか?」

 

 そこをまず明確にしてもらわないとまず意見さえ言えない。

 

「だからそれはだな……」

「長門さんが言いたいのは、それだと提督の印象が周りから悪すぎる、という話でしょう?」

「か、加賀!?」

 

 そう言ってまたドアを引いて現れたのは……無表情にも見える冷たい視線が特徴的な女性だった。

 

 ……なに、今日は人と関わりまくらなきゃいけない日なの?




陽乃さんのいた理由が解明。
ただし扱いに困る。

ヒッキーは原作から変えないようにそのままに書くのが目標ですので。違和感なんかがあったら教えてほしいと思います。

読んでいただいてありがとうございます!
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※4/13 改正
※5/10 改正

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