死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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ぎ、ぎりぎり間に合った……!
Twitterを見てくれた方は知ってると思いますが元々の投稿時間から5時間遅れての投稿になります……壊れるなぁ(時間感覚)

では、どうぞ。


12話 変化

 吹雪の発した言葉のインパクトに、俺は陰鬱な気持ちも吹き飛ばされ、数秒の思考停止を挟んだ後に疑問の声を漏らした。

 

「は、はぁ?」

「結局、どういうことなんですか? 私は頭良くないので、提督が何を仰りたいのか、五分の一も理解できていない自信があります。というか、みんな分かった?」

 

 その吹雪の問いかけに、駆逐艦全員が視線を明後日の方向にスライドさせた。

 

 えぇ……。

 俺の言葉ってそんな難しかったか? 玉縄みたいにあれこれ横文字使ったわけでもないんだけどな……。うわ、何もわかってもらえないのに独りよがりで色々言いまくってたとしたらこれ相当恥ずかしい真似なんじゃ。

 

「あ、でも。提督がものすごく捻くれているという事はすごい分かりましたよ!」

 

 そんな元気に言うなよ。

 というか分かられちゃったらしい。

 こんな短いやり取りでとか最速かよ。

 よくよく考えてみれば大体皆にすぐに捻くれている事が露見している気がしたが、深く考えたら負けだろう。

 

 吹雪は俺の返事を待たずに続ける。

 

「提督は、どうしたいんですか? 分からないなら聞けばいいじゃないですか。知りたいなら教えを請えばいいじゃないですか。一人でどうしようもないなら、助けてもらえばいいじゃないですか」

 

 その言葉に、俺はようやく理解した。

 違うのだ。意味が、言葉がわかっていない訳じゃない。こいつらは全員、俺の思考がわからないだけなのだ。

 

 それほどまでに彼女たちは純粋だったのだ。

 そして、今までずっと俺が感じていた違和感の理由も氷解する。

 彼女たち―――いや、艦娘という存在は、とても純粋なのだと。

 嫌な目にあってもたとえ辛くても、それを人に押し付けたりしない。むしろそれを分けあって、みんなで助け合える。

 

 人とは違う。欺瞞と嘘と、嘲りと傲慢にあふれた人間なんかとは、根本的に違うのだ。こいつらは。

 

 ……そりゃそうだ。だとするならば、俺の案なんて上手く行くはずもない。俺は常に人の悪い部分を信じて行動する。どんなにいい人間にも、悪いところも存在すると。だからこうすればいいのだと。

 

 ただそれが通じるのもまた、人間だけなのだ。艦娘ではない、人間だけなのだ。

 他人の悪さしか信じられない俺に、他人の良さを信じられる艦娘の何に勝てようか。

 

 “それでも、俺は――――。”

 

 ある日吐いた幻想が、不意に脳裏を掠めた。

 結局未だに掴めていない、その願い。叶うことも、叶えようともできなかった、ちっぽけな願い。

 

 目の前にあるその純白さに、その尊いとさえ思える在り方に、俺はいつか夢見た物を幻視していた。

 

 ただ同時に、目の前にあるその綺麗さを素直に認められない俺がいる。

 嫉妬なのだろうか、そうあれればと願った俺は、こんな捻れきってしまった人間はどうしてもその言葉を素直に受け入れられないのだ。

 

「お前らは、怖くないのか? そんなにやすやすと心の中に踏み込まれて、共有して、知った気になって。それは傲慢じゃないのか? その押し付けは、意味があるのか?」

「……そんなに難しく考えないといけませんか? 私は提督みたいには考えられません。きっとそれは、すごい大変でとても疲れちゃうから。でも私は、楽しいですよ。間違っていないと思えていますよ。皆で一緒に食べるご飯はおいしくて、皆で一緒にする演習は大変でも頑張れて、皆でともに過ごせる日々はかけがえのないものです。それだけは、この想いだけは誰にも否定させません」

 

 随分、あっさりと言ってくれる。

 なら。それなら聞くが吹雪、

 

「―――そこに、本物はあるのか?」

 

 その言葉に、吹雪は悩む素振りさえ見せずに言葉を返した。

 

「はい。この想いも、思い出も、私達のこの今も、私は本物だと思ってます」

 

 迷いのない言葉。当たり前のことを、当たり前に返すような気負いない言葉に、俺の肩から不思議と力が抜けた。

 

 捻くれすぎた俺には、直視に堪えるほど眩しいそれは、俺に教えてくれていた。

 

 きっとこれは、ひとつの答えなのかもしれない。

 本物を共有しようだなんて、それは不可能に近い。いつかふとした瞬間に二人が抱く本物のどちらかが形を失い、原型を忘れ、また照らし合わせた頃には形の違う何かになってしまっているのかも知れない。

 でも、二人が抱いた本物を、自分の胸の内に留めておくことなら出来る。照らし合わせる事などしなくていい。形が変わろうとも、元の形を忘れようとも、自分の中で本物だと思っていられるのなら、それはきっと本物なのだから。

 

「そうか。……そうか」

 

 しかしそれでも尚、比企谷八幡は恐怖している。

 踏み込むことなど以ての外。裏を勘ぐり、そしてまた裏の裏を勘ぐる。

 人の言葉などどこまで行っても信用になど値しなく、全ての言葉を理性で捉えてしまう。

 

 どこまで行っても俺は俺。どこまでも臆病な自分に、いっそ笑いがこみ上げそうだ。

 

 でも。

 そんな俺でも願えるのだとしたら。

 まだそれを、求めていいのだとしたら。

 

「変わらないとな……」

「え?」

 

 ボソリと口から漏れた声に、吹雪が疑問符を浮かべた。その声に、ようやく自分が目の前の惨状を放置して好き勝手に思案に耽っていたことを自覚する。

 

「……………あ」

 

 なんか、改めてとんでもなく好き勝手言った気がする。

 罵詈雑言的なのも上げた気がするし、また黒歴史ワードをほぼ初対面の、それも俺より年下にしか見えない女の子にうわぁあああああ!!!

 

 八幡が八幡にダイレクトアタック!

 エターナル(永遠の)ブラック()メモリー(歴史)!。

 効果、俺が死ぬ。

 

 その場で崩れ落ちた俺に、駆逐艦隊が近付いてきた。

 

「て、提督!? どうしたんですか!?」

「も、もう放っといてくれ……バカだ。正真正銘の馬鹿だ俺……死にたい。もういっそ雪ノ下の毒舌でそのまま召されたいぐらいだ……」

「え、えぇ……」

 

 ともかく。

 言わなければならない事は言うべきだと、俺は精神ダメージを継続して食らいながらもなんとか立ち上がり、吹雪に向き直った。

 

「散々言って……悪かったな。何がしたかったのか、本当にわからなかったけど、少なくとも悪意で近づきてきたりしてないって事だけは、感じた、と思う」

 

 実際こんな純粋な奴らがそんな事するなんてもはや思うことも出来なかった。

 

「随分自信なさげなんですね……。でも私も、こうして提督とお話出来て嬉しかったです」

「え、なにそれは……。知らない内に採点的なことされてたの? 赤点とったら処刑とかないよな?」

「無いですよそんなの! お話出来てなんで良かったかは秘密です! でも悪いことではないので、それだけは安心してください」

「……まぁ、いいけどよ。でもお前らもわかってると思うけど、俺の立場が今とんでもなく悪いのは本当だ。そんなのそっちのほうが知ってるだろ? だから無闇と俺に関わるのはやめたほうがいいだろ。どう考えても。誰とは言わんが、俺の手伝いしてくれてる奴がいて、そいつはしっかり俺との事は黙って上手くやって居るんだろうな。あいつがなんかやらかした、とかそんな話は聞かないし……って、何だよ。お前らのその顔は」

 

 絵に書いたような、あちゃーという顔だった。深く言及はしない。勘が言っているのだ。追求すると痛い目を見ると。

 

「ま、まぁその、ソウデスネ」

「な、なのですね」

「そ、そうわね!」

「……レディーだから、黙っておくのよ」

「はぁ……」

「oh……」

 

 おい最後。お前いつからそんなキャラになったんだよ。

 しかし自分でもわかるほど、今の俺は彼女たちに対して敵愾心、警戒心、疑念と言うものを感じなかった。

いや、完全にないわけではない。が、それでもほぼ初対面とは思えない程穏やかな気持ちであることは確かだ。

 別に彼女たちに心を許したわけではない。比企谷八幡は、そんなに人をすぐ信じられるほど面倒くさくない人間ではないのだ。しかしそれでも……吹雪の言葉は、たしかに俺に届いていた。それがたとえ偽物の言葉であろうと構わない。そう思えるほどに。

 

 だからせめて、その礼くらいは尽くそうと思うのだ。

 

「その、だな。改めて本当に今日のことは悪かった。忘れてくれってのは、虫のいい話だとは思うがその借りはちゃんと返すから忘れてほしい。というか本当にお願いします忘れてください。あと、その、なんだ―――わざわざありがとな」

 

 あーくそ。恥ずかしい。こんなふうに礼を言うキャラじゃねーだろ俺は。

 

「―――はいっ!」

「っ! そ、それじゃあそろそろ俺は行くわ」

 

 しかし、目の前で俺が礼を言ったというのに、こんな満面の笑顔を浮かべた吹雪たちの姿に、俺の顔は赤くなるばかり。

 

 それを悟られないように顔を背け、慌てて彼女たちの間をすり抜け、早足で廊下を歩く。

 

 が。

 

「きゃっ!」

 

 そこで問題は起きた。顔を背けながら歩いたせいか、俺が廊下の角を曲がろうとした瞬間に何かとぶつかってしまった。

 

 倒れ込む俺の身体。来たるべき衝撃に備え、反射的に俺は地面に手を着こうと腕を伸ばした。

 

 

 あれ、なんかおかしいぞ?

 俺はそこで疑問を感じた。

 

 なんか、転んだというのに、板張りの廊下に倒れたはずなのに、すっげー柔らかいんだけど、何このクッション的な廊下。

 理解不能というより、理解したくないという本能が勝ったのか、その時の俺の思考はどこかぶっ飛んでいた。

 

『うわっ……あれが世で言うジャパニーズラッキーSUKEBE……!?』

 

 もはや後ろから聞こえるそんな言葉を聞いてる余裕などなく。俺は伸ばした掌がつかむ、それこそクッションのような丸みを帯びたそれを握った。

 

 もにゅうぅ。

 

「んんん……っ」

 

 ……あっれーおっかしいなー。

 よくよく思い返してみれば、たしか転ぶ直前に、何かにぶつかって、しかもそれ声上げてませんでした?

 

 冷静になれば冷静になるほど血の気が引いていくのはなんでだろうか。

 いや、悩んでいる暇などない。

 俺はゆっくりと瞑っていた目を開き、下を見た。

 

 そこにあるのは当然板張りの床―――なんてことはなく、

 

「あ、あのあのあの、てっ、ててて、て、提督? は、はるはるはる榛名は、だっだだだ、大丈夫ですよ……?」

 

 床に押し倒された形で、瞳を潤ませながら顔を赤く染め上げ、上半身のある一部を掴まれた榛名の姿と、傍から見ればそれを押し倒した形で女性の象徴的な部分を鷲掴んだ己の姿。

 

 腐った目の男が、うら若き乙女を真っ昼間の廊下で覆いかぶさっている現状。

 そしてそれを、潤んだ瞳で見上げる美女。

 

『あなたならいつかやると思ってたわ。半径3キロは近寄らないでくれるかしら。性犯罪者谷君』

『ヒッキー……さいてー……』

 

 脳内で再生されたのは妙にリアリティーのあるあいつらの声。調教されすぎだろ俺。

 

 一体何がどう大丈夫なのか、小一時間ほど問い詰めたかったが、そうも行かない。その光景にワーワー騒ぎ始める駆逐艦隊と、それにつられてやってくる昼休み中のギャラリー。

 

 その中心で事故っている俺ら。

 

 ……逆に、ここまで来ると何か清々しい物を感じる。

 言い訳はしない。こんな時にする言い訳など価値もなく、意味もないことを俺は誰よりも知っている。だからこそ俺はこの言葉を声を大にして言わせてほしい。

 

「―――やはり俺の提督生活は間違ってげふぅ!?」

「わぁあああああ榛名は私が守るんデスよぉおおおお!!!!」

「お姉様!? 落ち着いてください落ち着いてください! 提督が死んじゃいますから! 死んじゃいますからぁ!?」

 

 この日の鎮守府は、これまでにないほど騒がしかったと近隣から言われるほど声があたりに響いていたという。

 

……そしてこの件をきっかけに、金剛と一悶着起きたのは、また別の話である。




ちょっと駆け足感がありますが、これにて導入部分を終えたいと思います。導入だけで一ヶ月ですってよ(絶望)

さて。

本題に入ります。
言い訳になりますが、この小説の説明文にも書いた通りこの作品は作者が息抜きに書きはじめたもので、元々プロットもクソもないチラ裏系のssでした。
が、俺ガイルと艦これのブランド力のおかげというべきか、沢山の方々に拙作をご評価頂き、一ヶ月という短い期間で10万UAという嬉しい結果が残せました。一重に読者様方のおかげで御座います。
総合評価もちょっと直視出来ないくらいの伸びを見せており、身に余るなぁと常々感じております。
ですが、それと同時に困る事もございまして。
ご感想をいろいろな読者様に頂けて本当にいつも嬉しく思っているんですが、一つお願いごとがございます。

それは、作品を根本から否定するようなご感想を控えていただきたいな、という事です。
理由についてはとても簡単で、それを言われてもなぁ。となってしまうからなんです。
ここにSSを投稿する作者の方々は自分を含めてプロではありません。中には凄い人も居るんですが……少なくとも自分はそうではありません。
ご批評頂けることは願ってもない事です。いつもご批評の内容に四苦八苦しながら、それでも自分なりに真摯に受け止めて改善を心がけようと思っております。
ただ、批評と作品自体の否定が同じものではない事を、読者の皆様には分かっていただきたいのです。
感想というのは読んで字のごとく『感じた想い』ではありますが、だからといって何でも言って良い訳ではないと、私は思います。
再三言いますが、優しくしろと言っているわけではありません。どんな厳しいご意見だろうと、それが的はずれでなく、自分に取って足りてないものだと思えるご指摘であれば私はしっかり向き合って改善させて頂きたいと思っております。何様かと思う読者様もいらっしゃるかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします。

という、作者のお願いでした。

では!

※敬称略で申し訳ありません。

アクアブック ポン酢@ cbdool 逃げ道 
しゃもじ55 てのりタイガー 弓弦 Mr.鯖 
オーダー・カオス pandorainzabokkus 
ゎかさぃも みぎ→ 加名盛さん sacre.de.lumiere 日々はじめ Yadori refu0 Re.ライとも 千葉の鬼ぃちゃん 
タイルマン キド団長 かっつ S.N 
黒猫@ただのオタク タイコ カサヒロ たかたかた
安田 白金屋 イージスブルー 
Readle 久遠秋人 intet1234 mfj1 MONEY ette ジンマ 
ユキムラ提督 さんぼる 絵空事 ぷるアージュ 
一つ上の豆乳 むぎたろー オニオンジャック 
モジー ミラネ 岬サナ ドイツSS 
ふわとろオムライス 独者 ぐらんぶるー 
りんくる☆ 緋勇 大神炎黒 かなゆき27 
ヒイラギ ソラ いあいあ shero 斉天大聖 
強制執行 ふぉふぉん たかゆ 桜猫 
流離う赫毛の剣士 夢現 ゼオン 慧兎 106951 Pak36 dolly タクマロ Eine. makken 
トラブる@闇ちゃん 優楽 秋山コズモ Sprite 
希龍00000009 福流 二元論 両儀白 ぼっちの神 クラウディオ watasan 壽13 塩梅少年 
竹生大点 Akiさん yc0902 
unknownenemy イエス るなてぃっくゆう 
SeRα  unajuu 山ポン るさるかP 
ぴあにっしも こもりあ vaisyaaaa 
タチネコマントヒヒ 
ハルミオ こんそめ げれげれ Ngle 
バレッタ jdg7 hauhauo 振り向けば案山子 
iolite6 NE0 また 
グナイゼナウ rairairai テンパランス 
マサヨシ 缶詰粗品 メイドが冥土in 

の読者様方が拙作をご評価してくださいました。誠にありがとうございます。

そして、
アーマゲドン様 読書家になりたい様 不死蓬莱様 緒方様 CREA様 darkend様 
いつも拙作の誤字報告誠にありがとうございます。これからは誤字が無いよう、気を付けて投稿します……いつもご迷惑かけて本当に申し訳ありません。

長々と後書きを書いてしまい、誠に申し訳ありません。
ですが本当にいつも読者の方々に私は助けられ、本当に感謝しております。

これからも拙作を何卒よろしくお願いいたします!

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