死んだ目つきの提督が着任しました。 作:バファリン
そしてこんな作品でもお楽しみにしていただいてる方々には、こんな不定期になって本当に申し訳なく思っておりまして、一応そのことに対するご報告が御座いますので、宜しければあとがきをご覧くださいませ。
では、どうぞ。
最近、鎮守府内の空気が妙だ。
言うまでもないかも知れないが、ぼっちという存在は場の空気という曖昧かつ不可視の存在を認識することにかけては右に出るものはいない。中にはそれが読めなくてぼっちになる奴もいるだろうが、俺の場合前者である。
そんなプロぼっちの俺がそんな風に思い始めたのもつい3日ほど前。
できるだけ部屋に引きこもりたい俺でも外に出なければならない機会は存在し、その度に俺は出来る限り存在感を消して歩くのだが、最近になって何故か艦娘と鉢合わせする回数がやけに増えた。
そして今も、そうだった。
「お、お疲れ様なのです。提督」
「お、あ、おぅ」
目の前にいるのは、えーと。駆逐艦の暁型の四人と島風と吹雪か。
俺の3分の2程しかない身長のが5人と小町くらいのが一人も俺の前に立ちはだかっていた。
いや、どういう状況だよこれ。
とりあえず俺はスッと間を抜けるようにしてその幼女軍団の横を通り抜けようとすると、ササッと俺の前まで移動してきた。
……スッ、ササッ。
……ススッ、サササッ。
……スススッ、ササササッ。
なんでぇ?(困惑)
「……なんだよ。ここを通りたくば云々とでも言うつもりか?」
「あ、それいいわね! 提督、ここを通りたくば私と競走しなさい!」
「うるせぇロリビッチ」
「おぅ!?」
きわどすぎる格好をした幼女、島風を極力視界に入れないようにして言う。視界に入ってくんじゃねーよビッチ。見たら赤面しちゃうだろーが。
「ともかく、そこを退け」
「いやよ! だって退いたら逃げるじゃない!」
「……ニゲネーヨ」
「ほら! 死んだ目が左右に揺れてるわよ!」
「死んだ目っていう固有名詞を入れる必要がないだろ!」
全く失礼な奴だ。影で言うのはいいけど俺の聞こえそうなところで悪口とか言うなよ? 実は悪口聞こえてますから、みたいなのが一番ダメージ強いから。いや、慣れてるけどね?
「というか、本気で何なんだ」
「ふふん、よく聞いてくれたわね! この暁達が提督のことをちょうもごごご」
「そ、それをドストレートに伝えるのはまずいんじゃないかなぁ!?」
何かを言おうとした暁の口を慌てて塞ぐ吹雪。ちょう? ちょうってなんだよ。懲罰喰らわせに来たとか言うつもりじゃないよな?
「な、何でもないのです提督! よ、用はないんですけどお話したいなって!?」
「―――は? お話? 俺と?」
思わず素っ頓狂な声が喉から漏れた。その声に、なのですなのです! と口を揃えて駆逐艦たちが言った。おい口癖移ってんぞ。
「……その、なんだ? 結構この鎮守府っていじめとかあんのか?」
「どうしてそうなったのよ!?」
「え? これ罰ゲームなんじゃないの? 負けた奴は提督と話してこい、みたいな」
雷の憤慨に対して真面目に答えると、一同みんな引いたような、はたまた憐れむような目で俺を見つめた。
「流石にそれは……」
「自虐がすぎるね」
「どんだけ自分の立場にネガティブなのよ……」
しかしどうも、この反応を見る限り罰ゲームではないらしい。
という事はこいつらが自分たちの意志でここまで来た可能性が高い。
「違うのかよ……
こんだけ小さい奴らだ。ここまで言ったら人の好意を無下にするなんてサイテー! みたいなこと言って帰ってくだろ。
―――そんな認識でいた俺が、馬鹿だったと言わざるを得ない。
俺のお得意皮肉に満ちた笑みを発動しながら言い切った言葉に対して、この駆逐艦達は何故か全員が全員、意外なものを見た顔でこっちを凝視していた。
女の子視線ってそれだけでもダメージあるから本当にやめてほしい。
「な、なんだよ」
「電達のこと心配してくれたのです?」
代表してなのか、電がそんな声を上げた。
「心配? 何をどうしたらそうなんだよ……。あのなぁ、俺はただお前らとこうやって話すのも面倒臭くて―――」
「でも今こうやって話してくれてるのです。無視すればいいのに。私達と話してくれてるのですよ?」
「―――ぐ」
確かに一理あると、思わず俺は唸り声を上げて沈黙してしまう。
ここに来てからというもの、俺は常に艦娘たちに振り回されてる。
突然話は変わるが、ぼっちというのは、弱さでありながら強さを持つ。相反する性質を内包する一番矛盾的な存在だ。
弱さといえば、まず間違いなくそれは社会的地位の話である。
なんたって友達はいない。
話す奴すらいない。
飯を一緒に食う奴でさえいない。
そんな奴は最早、クラスの中に存在するピラミッドさえ拝むことも許されない。カーストという括りにさえまともに入れてもらうことの出来ない爪弾き者なのだ。
しかしその代わり、そんなぼっちは権力に対し特に脆弱でありながら、時として一番の力を持つ瞬間もある。
―――失うものなど存在しないからだ。これ以上落ちることのない最下層も最下層の人間が、それ以上にカースト上位のものに唾を吐こうが何も変わらない。それは持たざるがゆえの優位。
俺はその力を知っているし、使う事も厭わない。実際にそうしてきたことも、少なくない。
我ながらボッチとしての資質なら誰にも負けない自信がある。もうぼっちとかダサい呼び名じゃなくて【孤高】とか呼ばれてもいいくらいまである。
……そんな俺が、ここにきてからと言うもの何かおかしい。
何がおかしいのか、俺? 俺が変わったのか?
いやまさかそんな。
こんなんで性格が変わるような精神性をしていたのなら俺の人生はもっと健やかで明るいものだったはずだ。
では何が違う?
目の前で、緊張しているのだろう。きょどきょどと視線を彷徨わせる電の姿を見ながら、俺は思案に耽っていた。
思い浮かぶのは、間宮。榛名。長門。
愚直とも思える、あいつらの姿勢と、目の前で俺に問いかけるこいつらの姿がダブつく。なんなんだこれは。一体これは。
同時に湧き上がるのは、酷く不快感を感じるどす黒い何か。どんなに醜いものであろうと、人は完成されたものを壊されるのはとても怖い―――まさに防衛本能のようなものだった。
まるで自分という存在を根本から否定されているような、そんな気持ちなのだ。
あぁ、腹が立つ。イライラする。
こんな事にしか腹を立てられない俺に、心の底から腹が立つ。
しかし言葉は口から溢れる。泥のように汚い感情が、鈍いナイフとなって溢れるのだ。
「……何がしたいのかも、もう聞かない。どうでもいい。だけど言っておく。お前らが憐れみだとかそんなこと出来る自分がすごいだとか、そんな自己満足的な感情で俺に近づいてきたならすぐにやめろ。不愉快だ。相互不干渉でいいって言っただろ? そんなに俺はお前らにとって可哀想な存在か? 構ってやらないといけない奴に見えるのか?」
きっと、今の自分はそれは醜い顔をしているのだろう。人を傷つけることしか知らない。人を傷つけることでしか距離を測れない。
―――結局俺は、どこまで行っても俺なのだと。
さぁ、幻滅してくれ。早く罵倒して見限って関わることの無いようにしろ。
数秒の沈黙が降り、やがて一人の少女が前に進み出た。
肩上で揃えられたショートの黒髪を揺らす彼女は、吹雪。
その瞳にある色を、臆病な俺は見ることもできない。
彼女は口を開く。
「提督。私はあなたが何を言いたいのか、よくわかりません」
そんな、予想外の言葉を口にした。
お読みいただいて誠にありがとうございました。
ご感想、誤字脱字やご質問などお待ちしております。
それで、前書きで申し上げたことなのですが、完全不定期で更新するのもなぁ……かといって名前を変えてるので活動報告は使えないし。
そんな訳で。
Twitterでちょろちょろ進捗を呟く事にしました。
ツイッターというかSNS自体馴染みがなくて全然やった事ないんですが、こういう使い方ならありかな、と。こんなところに上げるのもどうかと思いますが、もしできるだけ進捗を確認したい! 又は好奇心がてらにフォローしてやるか! という方がいらっしゃいましたら是非お願いいたします。
https://twitter.com/bufferin_novel?s=06
↑アカウントはこちらでございます。(前書き、後書きにURL載せるのがアウトってのは無かったので利用規約的には問題ないと思いますが、マナー違反だったりした場合は教えていただけると助かります。)
私も積極的にTwitterにのめり込むつもりはないので、あくまで進捗の報告がメインとなりそうです。のめり込んだときはごめんなさい(小声)
と、大半の方にはつまらないお話をダラダラとしてしまって申し訳ありませんでした。
実は次回の話で一応プロローグ的な部分を完了としております。こちらもほぼ書き終わってますので(短いですが)明日には投稿させていただこうと思ってます。
ちょっと今日は寝てないので、本当は今回やろうと思っていた事を次回の更新に色々回させていただきます。申し訳ありません。
感想もこれから返すつもりです……更新してない間にもたくさんのご感想誠にありがとうございます!
全部読んでるんですよ? 本当に。
長々と失礼しました。それでは皆さん。おはようございます(白目)