死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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早めに更新出来てウレシイ……ウレシイ……。

前回の続きで今回も別視点となります。
前回は完全に響がSGRしていたとのご報告を頂きまして、一人でうわぁああああってやってました。愛が足りずに申し訳ありません。

では、どうぞ。


10話 違和感への答え

『えっ……』

 

 何処からか、誰かの困惑の声が聞こえた。それが誰かも分からないですし、分かる必要もなかったのです。

 何故ならこの場の皆がその言葉に固まっているのですから。

 

 ……というか皆、なんだかんだ聴いていたのですね。

 

 まぁ食事中ってやけに周りの音が耳に入りやすいというか、なんというか。ともかく、いくらその理由を言おうと食堂内の雰囲気が変わる筈もなく、依然として冷たい沈黙が食堂を埋めていました。

 

「ね、ねぇ電! これって!」

「しっ。静かにするのよ雷。少し黙って聞いてみましょう」

 

 雷ちゃんが興奮気味に発した言葉を、暁ちゃんが宥めて口を抑えました。私達もアイコンタクトで様子を見る、という意を確認し、静かに榛名さんたちのやり取りを見ることにしました。

 

「は、榛名さん? 今のって一体……」

 

 間宮さんが、少し震えた声でそう聞き返しました。多分私であっても同じ行動をとってしまう未来が浮かぶのです。

 

「え? 提督と二人でご飯を食べるだけですよ?」

 

 その言葉に、追い打ちを掛けるように榛名さんが先ほどと同じ言葉を返します。

 こ、これで聞き間違えって事は無くなりましたね……。

 それが喜ばしい事なのかどうかはさておき、ですが。

 

「少し、いいかしら?」

 

 二人の間に幾ばくかの沈黙が降りていた時、ふと横から凛とした声が響いた。

 みんなの視線がそちらに向き、その姿を見やる。

 

「お話中申し訳ないわ。一つ聞きたいことがあって」

 

 それは、大和型戦艦一番艦、大和さんの姿だったのです。

 まだ提督が前任だった頃、職務放棄をするあの人の代わりに長門さんが総合監督、加賀さんが空母監督、大和さんが戦艦監督、愛宕さんが巡洋艦監督、足柄さんが駆逐艦監督、伊168さんが潜水艦監督として、それぞれ職を振り分けて仕事を分担していたのです。

 

 もちろん今でもそれを続けていますが、正式な提督がきて仕事をしてくれている為仕事は大分減ったのでしょうか。監督者さんたちが疲れたり辛そうな姿を見ることがほとんど無くなりました。

 

「あ、お疲れ様です大和さん。所で話ってなんでしょうか?」

「えぇ。出歯亀かもしれないけど少し話を聞かせてもらったの。ごめんね? ―――単刀直入に言うけど、貴方何かされた訳じゃないのよね?」

 

 それは、あまりにあまりな一言だった。

 わー、さすが戦艦大和。破壊力が違うって誰がそんなうまいことを言えと言ったのです雷ちゃん。

 場の空気がいっそう死んだ。大和さんの主砲(口)から放たれた砲撃は確かに食堂の空気を大破させました。

 

 あ、やばい。若干雷ちゃんの思考が移っちゃってるのです。

 

 流石の言葉に榛名さんも若干引いてます。お、おぉ? みたいな顔で固まってますよアレ。

 

「えーっと、それは一体……」

「……あくまで私は貴方達の監督艦なの。今までの噂だとか話だとか印象で提督の像を結びつけるとそういう事もあるんじゃないかと危惧しちゃうのよ」

 

 そういう大和さんの顔におどけた様な色は無く、至って真面目なものでした。

 でも、それも当たり前かもしれません。私達からしても提督にいい印象なんてありません。そんな人の所に榛名さんのような人が急に行くことになるなんて、邪推しない方がおかしいのです。

 多分大和さんは、私達が聞き出せない事、言えない事を率先してしてくれているんだと今になって気付きました。

 

「……そう、なんだ。これが提督の気持ちなんだ……すごく、痛い」

 

 ふと、榛名さんが何かをつぶやいた気がしましたが上手く聞き取れませんでした。

 

「榛名さん?」

 

 大和さんの呼び掛けに榛名さんがハッと顔を上げました。

 

「な、何でも無いです! あの、ご心配頂いてすみません……それに勘違いされるようなことを言ってしまって」

「勘違い、ということはそういう事でいいのね?」

「はいっ! 榛名は大丈夫です!」

 

 ここにきて、ようやく食堂の雰囲気が緊迫したものから普段の緩やかなものに変わり出す。

 

「悪かったわね、榛名さん。衆目に晒すような真似をしちゃって」

「いえいえ。こちらこそ心配して頂いてありがとうございます。ふふ、本当に大和さんは優しいですよね? この前武蔵さんなんて―――」

「あの子また余計なことを言ったのね!?」

 

 そんなやり取りに、皆がふぅ、と安堵の息を漏らして食事に戻り出す。カチャカチャと今まで無音だった食堂内にスプーンとお皿がぶつかる音が響き出しました。

 

「あ、間宮さんも悪いわね。途中から話に入って邪魔をしちゃって。なにか榛名さんに聞こうとしてなかった?」

「……あ、え? あ、いやっ! 何でもないんです! 気にしないで下さい!」

「……そう?」

 

 私達もすでに食事を終えており、そろそろ自由時間が終わって戻らなきゃいけないなーなんて考え出した時に、榛名さんが「ちょっと皆さん良いですかー」と声を上げました。

 

 みんなの視線が再び榛名さんの方へと向きました。

 

「お食事中すみません。榛名です。えっと、ですね。今の話で気になっている方も多いと思うので、皆さんにお話しようかと思って。―――提督の事を」

 

 ガッシャーン。厨房の方から何かを落とす音が聞こえました。

 

「今日これから私は執務室で、提督さんとご飯を食べます。これは、提督に命令されたわけでもなく、脅されているわけでもなく。寧ろ榛名から勝手に始めたことなんです」

 

 何言っちゃってるのです榛名さんーーー!?

 先ほどとは打って変わって、ざわざわとした喧騒が食堂に満ちる。

 その喧騒の中、榛名さんは落ち着いた表情で言葉を続けます。

 

「別に、提督は悪い人じゃないんです。なんて言うつもりはありません。だって榛名も提督のことほとんど知らないんですから。でも、薄々皆さんも何か感じているんじゃないでしょうか?」

 

 その言葉は、まさに私達には図星でした。

 

「私も感じたんです。ずっと喉の奥に骨が残るような、違和感を。その違和感を取り除きたくて私は提督のそばに行きました。何も提督のことを心から信じ切れたわけではありません。だから、皆さんにもそれがあるんだったら少しでもいいんです、提督と話してみませんか? あの人はすごく臆病で、あちらからなんて一切関わっては来ません。絶対にです。何もしないままだとそのままで終わります。それで終わっちゃうんです。―――後悔はしませんか? 何故こうしなかったんだと、自分に疑問を抱きませんか? 榛名は、後悔したくないですし、後悔してほしくないです。なので、是非話してみて下さい。話せなくても、ちゃんと提督を見てあげてください。それだけです。急にすいませんでした!」

 

 最後に深く一礼し、それだけ言い残して、榛名さんはカレーを手に慌てて食堂を出て行った。

 

 食堂の空気は重いわけでもなく、ただ皆がそれぞれに考え込むようにしていました。

 ……それは勿論、私達もです。

 

『…………』

 

 どうするべきか、どうしないべきか。

 皆がうーん、うーんと唸っている中、雷ちゃんが大きく伸びをして、あ~もう休憩終わりかぁー。と呑気な声を漏らしました。

 

「……っていうかアンタらどうしたのよ。そんな考え込んで」

「おぅー……。流石の私でもちょっと考え込む所なのに……雷ってば切り替え早いわね。負けたわ」

「へ? 切り替える? 何を?」

 

 雷ちゃんは本当にわかっていないように首を傾げてそう言います。

 

「いや、今の話に決まってるでしょう」

「ほら、雷ちゃん。提督にどうするかって話」

 

 暁ちゃんと吹雪ちゃんが補足するように言い、その言葉に対してなぜか雷ちゃんは更に疑問符を頭に浮かべました。

 

「んぅ? なんで? 答えなんて決まってるのになんで悩むの?」

『えぇ?』

 

 みんなの声が一つになりました。

 

「調査するのよ、だから。初めからそう決まってるじゃない。それで私達は違和感を感じてるんだから。後は榛名さんの言うとおり話すなり見るなりするだけよ」

 

 あまりにシンプルかつ男らしい発言に、我が姉妹艦ながらドキッとしました。

 

「……そうだね。それもそうだよ!」

「ふふん! ま、私ほどのレディーなら簡単に分かっちゃうんだから!」

「……хорошо(ハラショー)。うん、その通りだね。響にも興味が出てきた」

「じゃーさじゃーさ! 私達の中で誰が一番最初にわかるか勝負しよ!」

 

 皆の意見も、雷ちゃんの一言によって纏まりを見せました。

 

「ふふ、流石は雷ちゃんなのです。それじゃあ早速今日から、提督調査本格始動なのです!」

 

 おー! 

 食堂の中で6人の手が、控えめに挙げられた。

 

 

 ◆

 

 

「なんでですか?」

 

 とある場所で、女性の声が響いた。

 その声は、固く冷たい。

 これは怒りだろうか。憎しみだろうか。

 声が震え、寒気が足元からぞわぞわと這い寄る。

 

 思いのまま、その女性は言葉を吐き出す。

 

「私ではダメだったんですか……?」

 

 ふと、自分がぽたりぽたりと何かを零していることに気がついた。

 鏡に視線を向ける。

 ―――泣いていた。鏡の中で、ソレは涙をこぼしていたのだ。

 

 そこで理解する。

 あぁ、これは悲しみなのだと。

 一体いつまで私は、偽らなければならないのか。心を殺し、吐きたくもない嘘を口から零せばいいのだろうか。

 

「教えてください……」

 

 答える声は無い。

 

「教えてくださいよ、提督……」

 

 応える声は、無い。




最後のレイプ目は一体どこのナニ宮さんなんだ……。

 一人だけみんなとは違って、やりたいこともできない環境で、誰よりも感謝の念が強いのにそれすら許されない。
 むしろその逆の行為をずっとしながら周りの変化を指を加えてみていなきゃいけないってのはどんな気持なんでしょうねぇ?(暗黒微笑


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