死んだ目つきの提督が着任しました。   作:バファリン

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皆様はじめまして。
ノリと勢いで構成されたナニカです
というか続くかもわからないので気休め程度に見て頂いてなにかご不満な点やこちらのミスが御座いましたら教えていただけたらな、と思います。


1話 着任式

「えー……あー……っす。…………す。………す」

 

 何なんだろう、この茶番は。

 私、加賀は目の前の光景をいつもより数度低い視線を浴びせながらそう評した。

 

 今日は、“ある意味”で待ちに待ったといえる提督着任式。

 

 目の前にいるのは。どうにも覇気の欠けるまだ年若い男だった。

 提督としての制服は、だらしなくシワが寄っているし、(というか新品でしょうあれ)頭には寝癖が付いている。(シワの理由が判明)そしてやる気なさ気に丸められた猫背に―――何よりこの世界を無機質に見通すその腐った両目。

 

 ―――アウト。ギリギリでも何でもなくこの提督はアウトね。

 

 頭の中で答えが決した。周りを見てみると集まった他の艦娘達も大体似たような眼差しでその新提督を見ていた。

 

 話をしましょう。そう―――この鎮守府が、二ヶ月前まで俗に言われるブラック鎮守府だったという、ありきたりな話を。

 

 ここに前任の提督が来たのは、大体一年ほど前の事だった。その一つ前の提督は、ある日を境にパッタリと姿を消した。書置にあった理由では、持病の悪化ということだったが……果たしてそれもどうか。

 

 閑話休題。

 

 その前任は、来るやいなやで私達にある一言を言った。

 

『私がここに来たからには、お前達はすべて俺の管理下に置かれる。従って私の命令は遵守すべし。守れない奴はすぐに解体する。いいな?』

 

 と。どれだけろくでもない人間なんだと思ったがこれが実は序の口で、日を追うごとにソレの横暴っぷりもエスカレートしていったのは流石に笑えなかった。

 

 贈収賄は序の口。近くの街には提督として地域を守っていることを楯に遊び歩いて、街で女の人を何人も孕ませたとか。……笑いながらそんな下卑たことをほざいていた時は流石に艤装に手がでかけたわね……。いくら艦娘が見目麗しいとはいえ自分より力の強く、リスクのある事は出来なかったみたいで幸い私達にあの男の魔の手が伸びることはなかった。アレが一年も野放しにされていたのはそういうリスクの計算がうまかったからなのでしょう。

 

 私達には無理な遠征、出撃を繰り返させその間自分は贅沢三昧。周りも賄賂やらなにやらで似たような提督で固め、この付近ではだいぶ力のある提督として名を馳せていた。

 

 そんな生活も一年続くとなれてしまうのが恐ろしいもので、私達も心を殺し、ただの機械として無感情に敵を殺し。壊し。潰し。

 

 多分また一年先も十年先も。私達はこうして生きている(死んでいる)のだろう。

 

 そう思っていたが、その生活は呆気無くなくなった。ある日突然だ。突然、前任の姿が消えた。

 

 まるで夢だったかのように。

 嘘だったかのように。

 

 あまりに唐突すぎるその出来事に、実感も感動も湧く間もなかった。

 提督が居なくなったことにより、当然原因解明の為に大本営から人が遣わされ――その結果この鎮守府、ひいてはそのグループとかしていた周りの鎮守府の悪事が公に晒されることとなる。

 それからは早いもので、大本営はこのグループに所属していた提督たちを処罰―――と言っても半ば大きなグループと化していたこの付近鎮守府の面々が一気にいなくなるのは流石に痛手なのかあまり加担していなかったものだったり、事情があったり、上からの圧力によって所属させられていた者達は辞めさせられることなく、ある程度の処罰で済んだそうだ。

 私達はただそれをスクリーン越しに見るかのような冷静さで受け入れ、誰に命じられるわけでもなく、日々を送ってきた。

 そして今日ついに、後任―――つまり今。目の前のこの男がこの鎮守府に就こうとしている。

 

 見た目やら印象ならまだ前のほうが取り繕っていた。ぴっしり提督の制服を着こなし、人前では上手く仮面をかぶっていた。

 

 しかし目の前の男はどうだ。その片鱗も見えない。

 

 私達の前で話しながらも、その瞳はどこでもない、斜め上を向いて話している。声も小さすぎて何を言っているのか分からない。

 

 馬鹿にしているのか。そんなに私達を見たくないのか。声を聞かせる理由もないのか。

 

 瞬時に頭が沸騰した。真っ赤に染まる視界を、手を握り締めることでなんとか踏みとどまらせる。

 

 そしてそれと同時に私の心はどこか驚愕もしていた。

 

 ―――残っていたのか、こんな心が。

 

 怒る、だとか。そんな気持ちが。ただの兵器である私に。

 

「あー……えーっと……」

 

 目の前では、まだ新提督がダラダラとなにか言おうとしている。―――しかしそこに、後ろに控えていた別の誰かがその男に寄っていく。

 

 シルエットからして女性だ。あいにく帽子を深く被っているせいで顔が見えないが、肩上で切り揃えられたショートの髪がふわりと舞った。

 

 その人は、新提督に耳打ちをする。

 

「えっ……嘘っすよね? やめてくださいよ……ほんと……はぁ。分かりましたって」

 

 何がわかったのだろうか。新提督は、今まで逸らしていた視線を不意にこちらに向けた。

 何故だかその目は最初より淀んでいるようにも思える。何を言われたのだろうか。

 

「……聞いてると思います……思うが、俺が今日から新しくこの鎮守府で働かせてもらいま……貰う、比企谷です……だ」

 

 ですだって何なのよ。

 無理に敬語を使うんじゃなくて、無理にタメ口を聞こうとしてるのが逆にシュールね。

 それを見て、先ほどの女性が肩を震わせていた。随分楽しそうね。

 

 そこまで言って、新提督はため息を吐いた。それが何に向けてなのかは、分からない。

 しかし今までダルそうに緩められていた死んだ目を、若干きつく釣り上げて彼は語りだした。

 

「……ここの話は、とりあえず聞いてる。だからきっと、俺への印象なんて最悪だろうしまともに触れ合いたくもないだろう」

 

『……』

 

 あまりに突然の発言に、みんな一様に驚いてそちらを見るが、すぐにハッとして俯いた。

 

「……だから俺は別に、ここで今度は仲良く行こうね! だとか、俺はそいつと違うからそんな事はしないよ! だとかありきたりで性根が腐ってなんの確実性もないアホなことを抜かすつもりは毛頭ない。つーかそんなんで信じてもらおうと思うほど俺は真人間じゃねーし何ならそんな人間だったらぼっちじゃないまである」

 

 ぼっちなのね……それはともかく。

 

「つーわけで、予め言っておこうと思う。俺の話なんて大して聞かなくていいが、これだけは心して聞いてほしい。それはだな、俺は自発的にお前達に関わろうとしないし、そっちも関わらなくていい――っていう相互不干渉案だ。もちろん事務的な話になると別だが、それ以外では完全に他人。何なら見ず知らずの人まである」

 

 どうだ? とその案をどこか誇らしげにさえ言う新提督を見て、私は思わず見直した。

 

 ――――アウト。ぶっちぎりのレッドゾーンを大きく上回った地雷よコイツ。

 

 もちろん、下方修正だが。

 もう一度女性を見やる。

 

「ぶふっ……! さ、最っ高……!

 比企谷君、相変わらず最っ高……!」

 

 もはや隠す気もないのかケラケラ笑っていた。

 

「そんな訳で、もういいっすか……? 俺疲れたんで部屋に引き篭もって買ったばっかのラノベ読みたいんですけど」

「えー、何いってんのよ引き篭もり谷君。あ、皆もお疲れ様。各自いつも通りの動きで宜しくね。戻っていいよー」

 

 女性がそう言って、軽い敬礼をする。これが艦娘だったらそのふざけた敬礼の仕方を小一時間問い詰めてから徹底的に強制するものだが、なぜかこの女性の敬礼はこれこそが一番彼女にあっていて、正しくも感じるという不思議な感覚に襲われる。

 

「は、はい。それでは戻りましょうか」

 

 私の横にいた赤城さんがそう言うと、皆もぞろぞろと通常業務に戻ろうとするが、その足取りはどこか拙い。

 

 ……不安、なんでしょうね。

 

 むしろあれを不安がらないほうが無理な話なのだけれど。

 

 新提督は、先ほどの女性と会話している。……すごい迷惑そうな顔で。

 それに対し女性はとても嬉しそうだ。というより新提督……いや、比企谷提督の顔が苦々しく歪むたびに笑顔になっていってるようにも思える。

 

「ほんと勘弁して下さいよ。絶対無理じゃないすか」

「あははー。いいじゃないいいじゃない比企谷君。こういうのは慣れっこじゃない。もう私はここを見た瞬間確信したね。君しかいないって」

「それ君しかいないの前に、ここで仕事をしてみんなに虐められて嫌われて最終的に海の藻屑になるのはって付きますよね?」

「相変わらず自虐的だねぇ。ま、そんなところもおねーさん大好きだけど」

 

 そんなやり取りを尻目に業務に戻る。

 だって結局、何を考えてもどうしても。

 

 私達機械には、兵器には、出来ることとやることなんて決まっていて関係なんてないのだから。

 

 だから提督がどうなろうとあれ以上であろうと以下であろうと、私達には関係ない。

 

 ―――そう、思っていた。




艦これは一昨日はじめました。楽しいですね。でもふざけて建造しまくってもう開発資材が無いです。デイリーで1日一個だけなんとか獲得してますがもっといい方法ないもんですかねこれ……というか初戦艦が大好きな榛名ちゃんだったんですがなんでこれ三越のあれなんですかね……これがデフォなんでしょうか?

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