【とある魔術の禁書目録】Uncharted_Bible   作:白滝

10 / 10
この章にて完結となります。
3章以降ならどのタイミングで読まれてもネタバレにはなりません。

あとがきはネタバレになるかもです。


第n章(n>3) 結末は想像よりも鮮烈に…… This_is_Our_Happy_End.

 

 とある山中の森林にて。

 『赤竜の心臓(サタンズコア)』を転生させる禁術『千年勧告(ミレニアムコール)』に使用された魔法陣が、再び青い光を放ち始めていた。

 ボコリ、と地面が割れる。

 現れたのは、敬礼寺茄篠と敬礼寺奈美であった。

「っつあーー!!無事生き返ったーー!!」

「危なかったですね……。やっぱり、あなたの左腕までは元に戻らなかったか……」

 二人の登場によって魔法陣が完全に消滅する。

 誰もいない森林に、二人の陽気な声が木霊した。

「いやー、でも何だかんだ言って計画通りいったじゃん。本当によかった、よかった。これであの心臓は槙斗に移った訳だ」

「そうですね。これでやっとあなたは悲劇の運命から解放された。二人でゆっくり過ごせますね」

「今頃は槙斗の野郎、死んだと思った俺らの事でも考えながら俺らの分まで生き延びようとか志してんじゃねえの?」

 

 

 

 

 

 

 

「笑っちゃいますね、私達に騙されているとも知らずに」

 

 

 そう。

 二人は決して「親心から」槙斗を助けようとした訳ではなかったのだ。

 二人の計画の人柱に過ぎなかったのだ。

 ただ『赤竜の心臓(サタンズコア)』を移植するだけでは、背信者として追われる人生に変わりはない。

 だからこそロシア成教を巻き込み、ロシア成教の目の前で移植儀式を見せつけ、ロシア成教に「二人が死んだ」と誤った記録を残させることがこの計画の一連の流れだった。

 槙斗は「なぜ今回の件で住所がバレて、しかも家族構成まで知られたんだ?」と疑問を浮かべていたが、何の事はない。

 あれは槙斗が帰省してくるタイミングを狙って、あえて茄篠と奈美が情報をロシア成教にリークしたのだ。

 自らロシア成教に襲撃されるよう仕向けるために。

 ホテルにて『殲滅白書(Annihilatus)』に強襲された時、バスルームに隠れた槙斗が女魔術師スクーグズヌフラに攻撃されそうになった場面があった。

 あの時に茄篠が決めた覚悟は「槙斗を助けるためには自分の命を天秤にかけるしかない」という覚悟だった。

 そう。

 せっかくこの計画のために育て上げた生贄(むすこ)をあんな場面で殺される訳にはいかなかったからだ。

 あの時に奈美が感じた後悔は「無残に殺されるぐらいなら槙斗を帰らせればよかった」という後悔だった。

 そう。

 せっかくこの計画に都合がよい「周囲に流されてしまう」ような性格に教育してきたのに、そんな十数年間の努力があんな場面で水の泡になってしまうのは御免だったからだ。

 

 そう、全てが計画だった。

 茄篠と奈美が開発した秘術『千年勧告(ミレニアムコール)』は、『赤竜の心臓(サタンズコア)』を強引に引き剥がし別の媒体に寄生させる魔術である。

 しかし、魔力不足で行った奈美の投身行為も、槙斗の肉体に『赤竜の心臓(サタンズコア)』が寄生した段階で役目を終えている。

 その再生能力を以てして、肉体を復元してしまうからだ。そもそもがその再生能力を見込んで作られた霊装である。

 スクーグズヌフラに魔法名を名乗ったのも、命懸けの決死の投身行為も、全てはロシア成教に「二人が死んだ」と印象付けるための演技に過ぎなかった。

 よって、生命力が低下したとはいえ、茄篠と奈美は無事に肉体を人の形に留めたまま生き残る事が出来たのであった。

 今は死後硬直にも似た身体のぎこちなさを感じるが、二、三日も安静にしていれば落ち着くであろう。

 そして残る疑問といえば、なぜ槙斗が生贄に選ばれたのかという事だった。

 単純にロシア成教の前で儀式を見せつけるだけなら、見知らぬ他人でも巻き込めばよかったのだ。

 しかし結論は単純。

 術式の都合上、寄生先の媒体が「既寄生者の二等親以内の血の繋がった者」である必要があったからである。

 悪魔と結んだ血の契約を誤魔化す術式の都合上、茄篠と同じDNAを持つ誰かが必要だったのだ。

 当然、奴隷であった茄篠に身元はいない。確かめようもない。

 妻の奈美といえど血が繋がっている訳ではない。

 だから子どもを作った。

 敬礼寺槙斗の出生理由はそのただ一点だけだった。

 この計画のために生まれ、この計画のための性格に教育され、この計画のために人柱となる。

「とはいえ、綱渡りだったよなぁホント」

「確かに、第三勢力まで干渉してきた時はさすがに不安でしたわ」

 唯一の想定外であった。

 魔術結社『明け色の陽射し』、学園都市の暗部『トリック』。

 二つの外部勢力の参入により計画(シナリオ)が複雑に絡み合い、茄篠や奈美にも状況をコントロールしきれていなかった。

 一時的に撤退したものの、運良く町外れの森にロシア成教だけを誘導できたのは単なる偶然に過ぎなかった。

 しかし結果論でいえば成功。

 こうして息をして、こうして誰にも襲われる事なき現状が全ての証。

「さあ、バカンスでも楽しもうか、奈美」

「ええ、魔術とは無縁の平和な世界で暮らせますね」

 と、そこで茄篠は顔を赤らめて呟いた。

「そ、それでよぉ……前から話してたじゃんか、本当の子どもの名前は何にするかって。あれ、決めたんだよ」

「本当ですか!?私、もう『槙ちゃん』とか呼ぶのが苦痛で苦痛で仕方なかったんですよ。聞きたいです!」

「ごほん……えーとだな、男の子で女の子でも『真夢(まなむ)』ってしたいんだ。本当の俺達の夢、その象徴ってよ」

「いいですね、それ!『仮初めの住居』って意味で名付けた『テント』よりよっぽど素晴らしいわ」

 二人の会話は弾んでいった。

 思い描くのは幸せな未来予想図。

 残された少年の気持ちも知らず、ただただ幸福そうに……

 

 

 

 

 

 




終章を読んでいない方のために、ネタバレ回避になるようあとがきをこの下に表示します。










































以下、裏話。

この章は5章を書いてる途中で思いつきました。
ハッピーエンドで終わるのもアリだったんですが、何となくこっちの方が面白い気がしたので採用となりました。

槙斗について。
書き始めた当初から「絶対に報われない主人公にしよう」と思っていました。
やたら死にまくるチート(笑)な主人公です。
フィアンマとの対比として、2人ともチートな能力持ちなのに、結局は何も偉業を為せないキャラとしました。
自らの意志を貫き、例え信念は歪んでも世界の救済のために行動できるフィアンマと違い、槙斗は結局のところ何もできないまま物語が終わります。
それを『ヒーロー』になれなかった所以としました。

「赤竜の心臓」について。
「アックアさんのアスカロンかっけー」って思いから発想を得ました。
半身であるザ・ビーストは「海より出づる~~」なんて神話にはあるので、海が近くにないと召喚できない、なんていう裏設定もあります。
エヴァンゲリオン破でマリが「モード反転。裏コード、ザ・ビースト」なんて台詞を言ってましたが、その元ネタもこの神話だと思います。
因みに、槙斗が生み出した鉄の杖はアレイスターの「衝撃の杖」のレプリカだったりします。
あと、何回か「硫黄」とか「腐乱臭」って単語が出てきてるんですが、それは赤い竜が硫黄の池になんちゃらかんちゃらっていう弱点っぽいエピソードがあったからです。

スクーグズヌフラ、テルノア、フレイス、ラクーシャについて。
ぶっちゃけ、ラジオドラマやオーディオドラマや番外編SSの時とキャラが違ってます。
これは私の表現力不足なので申し訳ない限りです。
彼女達がトリックに参加した理由は、上条さんとの邂逅の後に、アレイスターに人質などで弱みを握られた事だったりします。
その辺のエピソードも書こうとも思ったんですが、いいタイミングが思い浮かばず流れちゃいました。

ヴィニーについて。
エドワード・ウェイトっていう、アルカナのなんちゃらかんちゃらって偉人がいたのでその名前を流用させて頂きました。
「これ以上オリキャラ出したら流石に批判あるな……」って顔面蒼白だったんですが、配役上どうしても必要なポジションでした。
なので、少しでも既視感が出るよう(もとい解説パートを減らすよう)儀式魔術関連でアルカナ魔術を使ってもらいました。
もうちょっとフィアンマとの関係を掘り下げるべきでした。でも疲れたので割愛。

バードウェイについて。
バードウェイは俺の嫁!!
そんな訳で、槙斗に対してメタ視点でツッコミしてもらいました。
フィアンマに殺されて海中で覚醒するシーンの次にやりたかったシーンだったりします。

フィアンマについて。
チートに対抗するにはチートを呼ぼう。そんな感じで登場。
幻想殺しに注目する前のフィアンマさん。
この二次創作では「赤竜の心臓」はミカエルが封じた悪魔と解釈させてもらったので、こんな設定になりました。
第三次世界大戦で「人々が抱く潜在的な悪意」をやたらと信じ切っていて上条さんに咎められたフィアンマさんですが、それは「良心を欠片も見い出せなかった」槙斗にトラウマ植えつけられたって説が私の妄想内での公式設定となっております。

魔術・世界観について。
けっこー独自解釈があるので、不快に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
原作の設定に準拠するよう極力心掛けたつもりではあるんですが……
矛盾などありましたら、ご指摘など気軽にコメントして下さい。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
また機会がありましたら別の作品を書くかもしません。

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