オーバーロード~死の支配者の娘~   作:アークメイツ

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時系列的には「6:都市蝕む死と白銀の刃」の数日後となります。


外伝:白銀の英雄たち

リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ。

 

総人口900万人と言われる国の首都であるこの都市は古き都市と言えば聞こえは良く古めかしいだけのしょぼくれた都市と言えばその通りという変化のないつまらない都市だ。

 

古く無骨な家々が並ぶ通りを白銀の髪の少年が歩いていた。

 

先日のエ・ランテルの事件でアダマンタイト級へと昇格を果たした冒険者チーム「白銀」のアルドだ。

 

そんなアルドの周りには老若男女問わず人だかりが出来ていた。

 

「アルド!昨日は荷物持ってくれてありがとよ!」

「気にすんな」

「アルドちゃん。これ持って行きなさい」

「ありがとよ」

 

様々な人が裏のない好意を寄せる人物。

 

それがアルドだった。

 

本人は不器用ながらも優しく、裏通りで死にかけていた少女を救い犯罪組織「八本指」の娼館も潰したことからとても人気である。

 

そしてもう1人。

 

「ステラお姉ちゃん。はいこれ!」

「花冠だね。ありがとう!」

「お姉ちゃんきれー!」

「ありがとう。サーニャも綺麗だよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

 

同じく「白銀」であるステラもそうだった。

 

ステラは少々子供っぽい所があるものの裏表がなく正義感溢れる少女だ。

 

弱きを助け強きを挫くを地で行くような性格でありながら彼らを何とか更正させようとする甘さとも言える慈愛を持っている。

 

本人は秘密にしているつもりだが病人や怪我人を無料で治療をしているというのは周知の事実であり教会も彼女の人柄を知っているので黙認しているというほどに人気である。

 

 

 

「2人の都市での評判は以上です。リグレット様」

「・・・・」

 

リグレットはカシンコジの報告を聞いて息を吐いて思う。

 

反吐が出る。

 

人間が人間を助けるのは別に構わない。

 

同族や仲間を助けるのも理解できる。

 

だが思わず体が動いただとか必要であったのならの話だ。

 

仲間を助ける。

 

確かに仲間は助け合わなければならない。

 

同族を助ける。

 

確かに見捨てたら酒がまずくなる。

 

だがあの2人はなんだ?

 

自分たちは正義の味方だとでも言うのか?

 

自分たちは清廉潔白だとでも言うのか?

 

私たち異形種を排斥していたくせに。

 

ああ。殺したい。

 

リグレットはどす黒い殺意を覚えるがそれを酒と共に飲み込む。

 

お父さんの命令がない限り私は動くことはしない。

 

私はナザリック地下大墳墓の支配者の娘なのだから。

 

「それじゃあ。次は交友関係をお願い」

「はっ」

 

 

 

「あーと・・・どこだ?」

「こっちだこっち!」

「アルド。あそこだよ」

 

アルドとステラは王都で最高級の宿に来ていた。

 

かなり高額な滞在費を払えなければ止まることの出来ない宿でここに泊まっているのは上位の冒険者か大商人と呼ばれる裕福な者たちくらいだ。

 

周りの上位の冒険者からは羨望の目で見られている。

 

それもそのはず彼らは最高位であるアダマンタイト級なのだ。

 

そしてそれは2人を呼んだ者たちも同じだ。

 

「まあ座れや」

「やっぱりテーブル1つじゃ7人じゃ手狭だろ。もう1つテーブルを持ってきてもらえよ」

「同意」

「拒否。ステラと自然に触れ合えない」

「すいません!テーブルを1つ貰えますか!?」

 

手をわきわきする女性にステラが大慌てで従業員にお願いする。

 

それを見て女性は謝る。

 

「ごめんなさいねステラちゃん。後できつく、きつーくっ言い聞かせとくから」

「お願いします・・・」

 

持ってきてもらったテーブルを並べて2人はようやく席に着いた。

 

先に居たのは5人の女性たち。

 

アダマンタイト級冒険者チーム「青の薔薇」だ。

 

先ほどステラに謝ったのがリーダーであり神官剣士のラキュース。

 

手をわきわきしていた女性が忍者のティア。

 

それと瓜二つの容姿をしているのが同じく忍者のティナ。

 

最初の方で2人を呼んだ男のような女が戦士のガガーラン。

 

そして最後に一言も発していない小さいのが魔法詠唱者のイビルアイだ。

 

「えーと。まずは呼んでいただきありがとうございます」

「気にすんな。今日はお前らのアダマンタイト昇格のお祝いなんだからな。今日は俺らの奢りだ。好きに飲め!」

「じゃあまずは1番高い酒で」

 

丁寧にお礼を言うステラに豪快に笑うガガーランと遠慮なく一番高い酒を頼むアルド。

 

「ちょっアルド!」

「気にすんなステラ!好きに飲んで食えや」

「そうよステラちゃん。今日は貴方たちが主人公なんだからじゃんじゃん頼んじゃって!」

「そ、それじゃあ・・・遠慮なく」

 

ステラは恐縮しながら料理と飲み物を頼む。

 

青の薔薇の面々も注文してすぐに飲み物が来て全員に行き渡る。

 

「それじゃあ、チーム「白銀」のアダマンタイト級昇格を祝って・・・乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

 

ラキュースの音頭に全員が乗り一斉に飲んで来た料理を食べ始める。

 

途中で雑談や戯れ───主にティアによるセクハラ───などを交えながら祝宴は進み全員の腹が膨れた頃。

 

「それでエ・ランテルでのお前たちの見解はどうなんだ?」

 

イビルアイの言葉で一瞬で表情を切り替えた面々はアルドとステラの言葉に耳を傾ける。

 

「黒幕が居ると思っています」

「黒幕?」

「・・・・死の騎士って知っていますか?」

 

ステラの問いにイビルアイは頷いて答える。

 

「知っている。難度100を超える伝説のアンデッドだ」

「それが12体いました」

「なに?」

 

ステラの言葉にイビルアイは付けている仮面の下で眉をひそめる。

 

「おいおい。そりゃやばいじゃねぇか。それでどうしたんだよ」

「全部倒しました」

「流石ね。でもそれがどうしたの?死の螺旋を使ったというのなら伝説のアンデッドが生まれても不思議はないんじゃないかしら」

 

既に合同で依頼を受けてその実力を目の当たりにしたからこその冷静さ。

 

そしてプレイヤーだと打ち明けた時にイビルアイから語られたプレイヤーの実力を知らなかったら嘘だと思って何かと時間がかかっていただろう。

 

「居たのは骸骨や動死体や集合する死体の巨人とかの下位のアンデッドだ。それ以外では死の大魔法使いと死の騎士だけどよ。その間の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)は一切見当たらなかった」

「つまり?」

「死の大魔法使いと死の騎士は少なくとも自然に生まれたものじゃなくズーラーノーンに与えた奴がいる。しかも死の大魔法使い24体に死の騎士12体をだ」

「・・・・」

 

青の薔薇は驚愕の表情で固まる。

 

死の大魔法使いは迷宮の主と言われる───一般的に知られる中では───最高位のモンスターだ。

 

そして死の騎士は自分たちを超える英雄級の実力を持つ伝説のアンデッド。

 

迷宮の主を24体と伝説のアンデッドを12体与えた存在がいる。

 

一国を滅ぼすのならともかく都市1つ滅ぼそうとするためだけに与えるなど有り得ない。

 

「それでお前たちにはその相手の検討はついているのか?」

「幾つかは検討がついてます。その中でも最悪なのが2つ」

「それは誰?」

「そいつたちの情報を探る」

「それは・・・」

 

ティアとティナの言葉にステラは目を伏せる。

 

アルドはそれを気づきながら無視して告げる。

 

「やめとけ。死ぬだけだ」

「何故?」

「検討が付いてる連中は全員が最低でも難度300。魔法詠唱者なら全員が第10位階のさらに先にある超位魔法を使える連中だ」

「何を言って・・・」

「私でも知らない魔法があります。それに知っているものでも一撃で国を滅ぼせる魔法もあるんです」

「そんなことが・・・」

「あるんだよ」

 

アルドの言葉にラキュースは絶句する。

 

そんなものがあるのなら、そんなものを使える存在が非道の限りを尽くしたら世界はどうなってしまうのか。

 

その中でも最悪と呼ばれるものが2つ。

 

それを尋ねようとイビルアイが口を開いた時にステラは呟くように言った。

 

「・・・・「黄泉」の伊邪那美です」

「よみ・・・」

「いざなみ・・・」

 

アルドは仕方ないといった風に息を吐くとステラの言葉を補足する。

 

「その伊邪那美って言うのは女なんだけどな。マナーが何かと悪い奴らを統率して俺たちの世界を荒らしまわっていたんだ」

「なるほどな。魔法云々は信じられないが・・・いざなみとかいう奴は危ない奴だというのはわかった。それでもう1つはなんだ」

 

イビルアイがそう言うとアルドは眉を潜める。

 

「伊邪那美は危ない奴という意味で最悪だ。だけどなもう1つは敵に回したら最悪も最悪。確実に俺らも含めてこの世の全てを根絶やしにできる奴だ。伊邪那美の奴でさえ手を出さなかった位のな。そいつらの名は「アインズ・ウール・ゴウン」。リーダーの名はモモンガだ」

 

 

 

「へぇ。人間にしてはいい評価をするね」

「まさにその通りかと」

 

リグレットは聞こえのいい───私見が入ってはいるものの───報告を聞いて少し機嫌を直す。

 

「他にはいるのかな?」

「もちろんでございます」

 

 

 

「それでそれで?」

「あ、えーと。じゃあ次はダンジョンに潜った時にですね」

 

リ・エスティーゼ王国王城ロ・レンテ。

 

その城内にあるヴァランシア宮殿の1室。

 

ステラは金髪のとても美しい少女に詰め寄られていた。

 

この少女こそリ・エスティーゼ王国第3王女であるラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフだ。

 

奴隷廃止や冒険者組合の改革などの画期的なアイデアで「黄金」と呼ばれて王国民から絶大な人気がある。

 

今や「白銀」はそれ以上の人気が出てはいるのだが本人たちはそれを知らない。

 

「ごめんねステラちゃん。ラナー。ステラちゃんが困ってるから落ち着きなさい」

「むぅ・・・分かりました」

 

ラナーは膨れっ面になりながら椅子に戻った。

 

 

 

「あ。それはそこで十分だよ」

「はっ・・・」

「自慢話なんて興味ないからね。それで他には?」

「ガゼフという人間とも交流があったようですが既に死亡しているので除外いたしまして・・・多くの人間たちと交流があるようですが特に親しいのは「青の薔薇」と第3王女くらいのものかと」

「そう・・・じゃあ弱点になりそうなのは無かった?」

 

カシンコジは少し考えてから報告する。

 

「アルドの方はステラかと。月に1~3度ほどですが交尾もしているようです」

「へぇ・・・それは面白いことを聞いたね。それでステラの方は?」

「人間かと。人質を取られたら動けなくなったのを見かけましたので。性格から察するに子供の方が効果的かと思います。詳細はこちらに」

「ふむふむ。子供か」

 

リグレットは楽しそうな笑みを浮かべながら報告書を受け取る。

 

「因みに今現在の行動ですが・・・アルドは帝国へ。ステラはトブの大森林へ依頼で赴いています」

「分かった。ありがとう。それじゃあ監視に戻っていいよ。個人的なお願いを聞いてくれてありがとう」

「勿体無きお言葉」

 

カシンコジが去った後でリグレットは楽しそうに報告書を見る。

 

「・・・・はっ全く反吐が出る正義っぷりだね」

 

リグレットは不機嫌そうに呟くと報告書を持って父の元へと向かう。

 

今現在進行している完璧な計画をより完璧にするために。

 

娘は父の為に動くために。




かなり短めにまとめました。

書いていて精神がガリガリ削られるので。



2人は青の薔薇に会った初日に異常な強さを感じ取ったイビルアイに問い詰められてプレイヤーだと明かしました。

そしてイビルアイのプレイヤーの知識を補完しつつ、その知識は青の薔薇と共有されています。

何やかんや合って現地の実力者と仲良くなるのって異世界転移主人公っぽいですもんね。

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