オーバーロード~死の支配者の娘~   作:アークメイツ

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少し残虐描写がありますので、苦手な方はご注意を。


8:ビーストマンと竜王国の女王

竜王国。

 

スレイン法国の東にある人間の国である。

 

かつて七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が作った国であり、現在の王は女王ドラウディロン・オーリウクルス。

 

七彩の竜王が人間との間に子供を作った結果の曾孫にあたりドラウディロンは黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)と呼ばれたり真にして偽りの竜王とも法国では呼ばれている。

 

竜王の血が流れてはいるが戦闘能力は一般人と同じであるが為に戦いには参加していなかった。

 

そして竜王国には国を揺るがすほどの問題があった。

 

それは隣国であるビーストマンの国から侵略だ。

 

ビーストマンは人間を喰う。

 

ビーストマンにとっては人間の国である竜王国は食料が群れている絶好の狩場と言うべき場所なために侵略が行われているのだ。

 

しかも、ビーストマンの最低戦闘力は人間のおよそ10倍であり竜王国のみで対応すると被害は甚大。

 

その為、竜王国は密かに法国から陽光聖典と呼ばれる秘密部隊を派遣してもらい侵略を防いでいるのだ。

 

 

 

「というわけでビーストマンを従えに来たよ」

 

夜。

 

リグレットは寝巻き姿のドラウディロンにそう告げた。

 

「・・・・は?」

 

ドラウディロンは間抜けな顔と声を晒すがリグレットは無視して続ける。

 

「キミはビーストマンが邪魔。私はビーストマンが欲しい。WinWinって奴だね」

 

リグレットは指を2本立てるとピコピコと動かす。

 

「は?」

 

ドラウディロンは全く理解できずに口を開いたまま間抜けな声を出す。

 

「でもこっちはビーストマンじゃなくてもいいんだからビーストマンを貰うっていうだけじゃ割に合わないんだよね。だからお金とか色々貰ってもいいかな」

「お前は何を・・・」

「質問は無し。返答だけ聞くよ」

 

ドラウディロンは今の現状を思い出す。

 

陽光聖典を派遣してもらった事でアダマンタイト級冒険者チーム「クリスタル・ティア」を別の場所へ動かせるようになったために例年通りの対応となっている。

 

だが今年の侵略は例年とは違い様々な部族が別々の場所から侵攻してきているために人手が足りておらず多くの民が犠牲となっている。

 

「色々の中身次第だ」

 

ドラウディロンはリグレットにそう言うとリグレットは目を細めて要求を告げた。

 

「竜王国の全財産の90%と食料80%。後は竜王であるキミかな。お金と食料は無理そうだったら要相談だね」

 

それを聞いてドラウディロンは相手の狙いが自分だと知って笑う。

 

「ハハハハハ!私が狙いか!そうかそうか!」

 

ドラウディロンは大笑いすると大きく息を吐いた。

 

「ビーストマンを何とかしてくれたら私の命だろうとなんだろうとくれてやる」

「契約成立、だね」

 

リグレットは笑いそしてとある物を取り出した。

 

 

 

竜王国・東

 

「えーと。確か魂食い(ソウルイーター)3体で10万人が死んだんだってね」

「そのようです」

 

リグレットは補佐として連れてきた影の悪魔(シャドウ・デーモン)に聞いて肩をすくめた。

 

「あんな雑魚に10万って弱すぎるね。これならどうなっちゃうのかな?」

 

リグレットは後ろに控える面々を見てほくそ笑む。

 

レベル50程度の骨の剣王(ボーン・ソードマスター)50体。

 

それを乗せる同数のレベル40程度の魂食い。

 

「リグレット様。今回は殺戮ではなく征服なのでそのような事は・・・」

「分かってるよ。ちょっと気になっちゃって・・・早く終わらせて帰ろっか」

 

リグレットは魂食いに飛び乗ると骨の剣王を御者代わりにして進みだした。

 

「話し合いをしに行こうか」

 

 

 

ビーストマンの軍勢は今大混乱に陥っていた。

 

例年とは違い部族ごとに別々に行動して人間の村や街を襲って食事をしていた。

 

いつも通り人間を食べていると1つの部隊がこちらへ向かってきていると警戒している部隊から連絡が来た。

 

数は50。

 

少数精鋭できたのかと勘繰り部族全員に臨戦態勢で迎え撃つ様に指示があった。

 

そして万全の状態で迎え撃ったところ。

 

部族全員の体が凍りついた。

 

魂食い。

 

それが50体。

 

その上にスケルトンのようなアンデッドもいるし先頭には黒いローブを来た何かも乗っていた。

 

震えガチガチと歯が鳴り今にも逃げ出さんとばかりの状態。

 

少し離れた場所でその部隊は止まり黒いローブの何かの声を張り上げて告げる。

 

「ちょっとお話があるんだけどー!1番偉い人を出してくれないかなー!」

「お、お前の目的は何だ!」

 

部族の指揮官の1人が怯えを隠さずに叫ぶ。

 

魂食いと言えばかつてビーストマンの大都市に3体だけ出現した。

 

その結果が死亡者10万という大惨事。

 

その都市は今は放棄されて沈黙都市と呼ばれて誰も立ち入っていない。

 

魂食いはビーストマンの恐怖の対象なのだ。

 

それが───少し離れてはいるが───目の前に50体もいるのだ。

 

怖いはずがない。

 

「だからお話するだけだってー!」

 

何かはそう言うと魂食いから降り立つ。

 

「そっちの偉い人とお話したいだけだってー!」

「わ、分かった!少し待て!」

 

指揮官が慌てて踵を返す。

 

その背中に理不尽な言葉が降りかかると全力で走り出した。

 

「分かったー!じゃあ10秒だけねー!じゅーう!」

 

歴戦の猛者ですら震え上がるが逃げない。

 

「きゅーう!」

 

恐ろしすぎて逃げることすら忘れてただただ震える。

 

「はーち!」

 

地獄があれば今まさに目の前にあるのだろう。

 

「・・・・飽きた!ぜろ!全員とっつげ───」

「待ってくれ!」

「───ん?」

「ぶ、部族長・・・」

 

部族長が現れて何かは首を傾げる。

 

「俺は部族長のガイラス!この場にいるビーストマンたちで1番偉い者だ!」

 

何かはじっと部族長を見ると納得したかのように頷いた。

 

「じゃあキミでいいや。はいはい。早くこっちに来て」

 

手招きする何かに部族長は従って歩き出した。

 

そして何かの目の前に行くと何かを話し始めた。

 

 

 

「私たちは死の支配者様の遣いだよ」

「死の支配者・・・なるほど」

 

ガイラスはリグレットの後ろにいる化物たちを見て納得する。

 

「あれが幻覚ではないという証拠はあるのか?」

「触ってみなよ」

 

ガイラスはリグレットの言葉に顔をしかめるがリグレットは気にせずに手招きをして魂食いを呼ぶ。

 

「き、危険はないのか?」

「ハハハ。完全に支配下に置いているから安心だよー」

 

魂食いが目の前に来たガイラスは震えながら意を決して魂食いに触れる。

 

魂食いは不快そうに首を横に振ったのでガイラスはそれ以上触らずに手をおろした。

 

「何が目的だ」

「ビーストマンは死の支配者様の絶対服従すること。竜王国にはもう攻め込まないこと。じゃないと死の支配者様の軍勢がビーストマンの国を攻めることになるよ」

 

ガイラスはリグレットの後ろのアンデッドたちを見てから鼻で笑った。

 

「それが脅しになると思っているのか?我々にはゴーレムがいる。ゴーレムを使えば魂食いどころかその上に乗っているスケルトンも一撃で倒せるんだ。我々を殺してもそちらが負けるという結果は変わらんぞ」

 

ガイラスは一世一代の賭けに出た。

 

魂食い50体など大戦力も甚だしい。

 

恐らくは持てる最大戦力を投じて自分を大きく見せようとする目論見なのだと。

 

ビーストマンが持つゴーレムを使えば魂食いもそれに乗るスケルトンのようなアンデッドも一撃で木っ端微塵となるだろう。

 

だから最大戦力を滅ぼされたくなければ帰れ、と。

 

そう言ったつもりだったがリグレットは呆れたように息を吐いた。

 

「やっぱりこんな雑魚じゃ駄目じゃん」

 

そう言うと刀身も柄も全てが真っ黒な剣を取り出すと自分の影を突き刺した。

 

「ギャアアァァァァ・・・ァ・・・ァ・・・」

 

影から鋭い爪を持った細い腕が2本出現し断末魔の叫びが上がるがすぐに霧となり消え去る。

 

「難度150」

「え?」

 

ガイラスが呆けているとリグレットが呟いた。

 

「魂食いは難度120。それに乗っているのは難度150。伝説と言われているアンデッドはそれくらいなんだよ」

 

難度とは人間が使う強さの指標のようなものだ。

 

人間の大人の男が3でビーストマンの大人の男が30。

 

難度が30違えば絶対に勝てないと言われていると聞く。

 

それを聞いて魂食いは普通のビーストマンでは勝てない理由がわかった。

 

だが魂食いに乗るスケルトンは魂食いでは絶対に勝てない存在だという事実も露見した。

 

「ば、馬鹿な。ありえん。そんな事が・・・」

「そしてあんなのは死の支配者様にとってゴミでしかない。時間と死体があれば幾らでも作れる程度のね」

 

ガイラスは信じたくもないが信じるしかなかった。

 

目の前の光景がそれを事実と語っているのだ。

 

魂食いが50体などという馬鹿げた戦力を誰にも知られずどうやって集めたのか。

 

そしてそれを支配下に置く事。

 

人間が使う召喚という魔法で召喚したモンスターは召喚者に従順らしい。

 

ならば生み出したのであれば従順なのは言うまでもない。

 

何かのマジックアイテムなのかもしれないがそれでも最低でも目の前の光景を再現することが可能だ。

 

「それで。あれがもっと強いのね」

 

リグレットが上空を指差す。

 

ガイラスはその指差す先を見て絶句する。

 

蒼い馬に乗った禍々しい半透明の騎士が空に浮かんでいた。

 

何故今まで気づかなかったのかが分からないほどに圧倒的な存在感と実力を感じる。

 

幻術などというものではありえない。

 

例え幻術だとしてもこれほど現実に近いものを作り出せる存在が相手側には居るということ。

 

勝てるわけがない。

 

「お、俺では決められない。だが国に戻って上層部に議題として提出する。必ず説き伏せてみせる。だから我々の命を取らないこととあの騎士の情報を教えてくれ」

「ふーん・・・まぁいいや。いいよ。教えてあげる」

 

リグレットの口から語られたのはガイラスが絶望するのは早すぎたという事実たち。

 

魂食いは最高位ではなく中位のアンデッド。

 

魂食いに乗るのは中位のアンデッドである骨の剣王。

 

そしてあの騎士は上位のアンデッド。

 

「それじゃあ証明のために魂食いを1体連れて行っていいよ」

「えっ」

 

ガイラスは信じられないかのようにリグレットを見るがリグレットは魂食いに乗っている骨の剣王に降りるように指示して魂食いを残して踵を返す。

 

「死の支配者様は待つのが嫌い。1ヶ月後に返事を聞きに来るよ。その間は竜王国を攻めないこと。約束を破ったり返答次第では・・・ね?」

 

リグレットはそう言い残して走り去っていった。

 

残されたガイラスと魂食いはそのまま動かずに数分間立ち尽くしていた。

 

 

 

そして一ヶ月後。

 

ビーストマンは竜王国から消え去り、女王ドラウディロンも霞のように消え去った。

 

その後の竜王国の指導者には宰相であった男がなることになるのだがそれにはまだまだ時間がかかることになる。

 

 

 

ビーストマンの国の王とドラウディロンは豪華な一室で並んで跪きながら震えていた。

 

黒いローブの少女に連れてこられたこの部屋に来るまでに見た神々が住まう宮殿のような見たこともない素晴らしく美しい廊下だった。

 

そこを行き交うメイドたちも絶世といってもいいほどに美しく所作も素晴らしいものだった。

 

そして案内された一室。

 

見たことも聞いたことのない1体で種族全てを滅ぼせるのではないかと思うほどの屈強なインセクト2体が守る豪華な扉。

 

そこに居る存在を見て2人は震えだした。

 

元は侵略する側とされる側。

 

ドラウディロンはビーストマンの国王───バルトを許さないしバルトも部下を殺されていて許すつもりはない。

 

だが2人はそれすら忘れて震えていた。

 

2人は同じ側に立つ者であり、この地を支配する者はその対岸にいる者なのだ。

 

「面を上げよ」

 

それが口を開いた。

 

だが恐怖で体は動かない。

 

「面を上げよ」

 

2度目。

 

イラついたような声に2人は弾かれた様に顔を上げてその存在を見つめる。

 

闇をそのまま切り取ったような黒いローブ。

 

純白の人間の骨格。

 

何もない眼窩には血の様に真っ赤な光を宿す。

 

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)

 

いやそんな下等な存在ではない。

 

「我は死の支配者。名はアインズ・ウール・ゴウン」

 

重苦しく威厳のある声。

 

人間のような知性ある者の声だがそれ故に恐ろしい。

 

まず間違いなく伝説や有名なアンデッドなど数万いようが滅ぼし尽くせる。

 

いやそれらすら一目見て従うことを願う死そのもの。

 

まさに死の支配者。

 

「私はな。世界が欲しいのだよ」

「世界、ですか」

 

ドラウディロンは声を絞り出す。

 

そうしなければ死を与えられる。

 

そう思ったが故に。

 

死の支配者は頷き頬杖をつく。

 

「お前たちは夜空を見たか?」

「夜空・・・」

「美しいだろう」

 

確かに美しい。

 

だがそれがなんだというのだろうか。

 

バルトとドラウディロンは困惑しているとそれを察したのか死の支配者は語った。

 

「私が生まれた場所では空も海も何もかも全てが見えない。外を出歩くのも専用のアイテムがなければ肺が腐る死の世界だったのだ。だがひょんなことでこの場所に来て驚いた」

 

空も海も見たことがなかったのだ。

 

死の支配者はそう呟くと2人を見る。

 

「我が居城は素晴らしかったか?」

「は、はい!まるで神々の宮殿かのように見事なものでした!」

「我がビーストマンに伝わる伝説の宝物庫をも上回る美しい場所です!」

 

死の支配者は満足そうに頷くと続ける。

 

「お前たちが当たり前と思っている夜空はお前たちが我が居城を美しいと思ったように。私は素晴らしく美しいと思ったのだ。だからこそ欲しい。この世界が。その為に我が名をこの世の全てに刻み込み忘れさせん。この世の所有者は私なのだと思い知らせるのだ」

「だからこそ力が居るんだよ。様々な国や竜王とか知らない事が沢山あるからね。キミたちは情報源であり戦力でもあるんだよ」

 

連れてきた黒いローブの少女はそう言うと近くにあったテーブルに座りローブを脱ぐ。

 

毒々しい紫色の髪の絶世の美少女。

 

そして対面に座るのは全てが白の絶世の美女。

 

「だからこそ。お前たちは実に有用な存在なのだ。人間の国の王と亜人の国の王。人間の世界と亜人の世界の情報が手に入るのだからな」

 

笑った気がした。

 

人間の頭蓋骨で皮も肉もない顔で表情などわからないはずなのに。

 

ドラウディロンは竜の血が入っている為なのか、そう感じた。

 

事実、死の支配者は笑っていたしこれから彼女は特別待遇でシモベとなる。

 

そして今後も彼の役に立つだろう。

 

重要な情報源となり貴重な戦力。

 

始原の魔法(ワイルド・マジック)の使い手として・・・。

 

 

 

ドラウディロンとバルトを下がらせた後、アインズは尋ねる。

 

「どうだった?私の演技は」

「素晴らしかったですわ!アインズ様!」

 

執務室の奥からアルベドが飛び出てきてアインズに抱きつく。

 

「あ!アルベドずるい!私も!」

「・・・!」

 

リグレットとルベドも抱きつきアインズは軽く息を吐く。

 

「8分の1とは言え竜王の血を引く人間とゴミにしか感じないビーストマン共。人間と比べたら圧倒的に強いからビーストマン共は良しとしよう」

 

所詮は捨て駒としか考えていない者たちのことなどこれ以上考えても無駄だ。

 

「コキュートスとデミウルゴスの準備は終わったか」

「既に」

 

アルベドは一瞬で顔を引き締めてアインズから離れると頭を下げて報告する。

 

「そうか。では始めるとしよう」

 

紅い光が強くなり告げる。

 

「私の土地を返しにもらいに行こう」

 

死の支配者には最早慈悲などない。

 

敵は動けずただただ歯を食いしばり、拳を握って眺めているだけしか出来ない。

 

死の支配者を止められる者はいない。

 

全てはアインズの思うがままとなる。




ビーストマンに関しては全て捏造となっております。

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