オーバーロード~死の支配者の娘~   作:アークメイツ

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7:掌握

カツリと硬質なものがテーブルを叩く。

 

音の主はアインズその人だ。

 

「急な呼び出しに集まってくれたことにまずは感謝しよう」

「アインズ様からの呼び出しであれば我らシモベは全てを投げ出してでも優先いたします」

「そうでありんすえ。だから感謝などしてくれなんまし」

「は、はい。アインズ様が及びでしたらすぐに集まるのが当然のことですから」

「そうか。だがそれでも私はお前たちの忠義に感謝をしている。こういったものは口にしないと後の不和に繋がるのだ」

 

その言葉

を聞き守護者たちは感動に打ち震え慈悲深き至高の御方に対する忠誠心をさらに一次元上に高める。

 

「お父さん。今日はなんのお話なの?」

 

リグレットが尋ねるとアインズは頷いて告げる。

 

「エ・ランテルの事だ」

 

 

 

カジットは顔を真っ青にしながらそれを聞いて震えだす。

 

ヤルダバオトが告げたのはある意味夢を叶えられずに死ぬ事よりも恐ろしいこと。

 

「我が主はあの者に対して大変お怒りになっております。ですが貴方の有能さにも同じく喜んでもいらっしゃいます。ですので貴方の願いを叶えた後に貴方の母親の皮を剥いでスクロールの材料になるかどうかの実験を行うことをお決めになられました」

 

それは生き地獄。

 

もしスクロールの材料として有用と判断されれば母親を含めた人間は皮を取る家畜となり果てる。

 

「ああ。そんなに震えないでください。回避する方法はあるのです」

「!そ、それはっ」

「エ・ランテルを再び死の都に変えるべくズーラーノーンのトップにお成りなさい」

「そ、そんなこと出来るはず」

 

いや出来る。

 

偉大なる御方のお力を借りることができれば容易だ。

 

「ええ。もちろん貴方ごときが1人で出来るわけがないと分かっていますとも。ですので私の配下の1人をお貸ししましょう。邪魔をする者は全て殺すのです。ただ忠誠を誓う者は殺さずに従えるのです。いいですね?この世の全ての存在は御方の物なのですから」

 

貴方も御方の物なのですよ?

 

ヤルダバオトはそう言い配下として現れたライオンの顔をした───ハオートと名乗る───悪魔を残していった。

 

対峙しているだけであの圧倒的な差を感じ取れる絶対強者とも言うべき存在。

 

これさえ従える者を従える偉大なる御方。

 

まさに偉大。まさに生まれながらの支配者。

 

「ハオート様とお呼びすればよろしいでしょうか」

「ハオートで構わん。敬語もいらんが、これらはあの御方に仕える者がいない前ではという条件付きだ」

「わかった。ではハオート。ズーラーノーンについての説明は?」

「聞いてはいるが教えてくれ。失敗は出来んからな」

 

強者故の驕りを感じない態度。

 

失敗をすればこれほどの存在でさえ命が危ないということか。

 

カジットは息を呑みながら組織について説明をする。

 

その3日後。

 

ズーラーノーンの盟主と呼ばれるトップはアインズのコレクションとして。

 

十二高弟と呼ばれる幹部たちは愚かにもハオートに挑みその半分が殺されて名実ともにカジットを新たな盟主として動き出した。

 

偉大なる御方であらせられる死の支配者のシモベとして。

 

 

 

「あらぁん?もう大人しくなっちゃったのかしらん」

「ゃめて。助けて。許して。助けて。もう嫌ぁ」

 

ナザリック地下大墳墓第5階層・氷結牢獄。

 

真実の部屋にクレマンティーヌはいた。

 

同僚ともなるズーラーノーンの幹部であるカジットへ会いに行ったのが運の尽き。

 

謎の男に気づけば組み伏せられており暴れたり罵詈雑言を言いはなったりして抵抗したがそれがいけなかったようだ。

 

ある言葉を言った途端に男の雰囲気がガラリと代わり意識を奪われた。

 

そして気づけば全裸で全身を拘束されて此処にいた。

 

目の前には6本の触手を持つタコのような頭部を持った膨れ上がった白い体を申し訳程度に革帯で覆った異形がいたのだ。

 

そしてその後ろに1人の毒々しい髪をした少女が立っていた。

 

少女が質問をしたが私が答えないのを見た異形は魔法を使った。

 

魔法をかけられた途端に体を支配されて口が勝手に動く。

 

現状のような状況で質問に3度答えると死ぬ魔法をかけられています。

 

そう答えると少女は眉を顰めると異形に尋ねた。

 

拷問で喋らせられる?と。

 

異形は嬉しそうに頷くと少女は笑顔を浮かべて去っていった。

 

それからどれほどの時間がたったのだろうか。

 

およそ口にも出したくないほどの地獄を味わい私の心はもうズタズタだった。

 

「ニューロニスト」

「!ア、アインズ様」

 

そこへそれは現れた。

 

死の支配者と名乗ったそれと同じ声、同じローブ。

 

違うのは仮面とガントレットをつけていない点。

 

隠されていた白磁の骨が剥き出しとなりさらけ出されている。

 

その姿を見て思わずかの神を思い出しその名を口にした。

 

「スル、シャー、ナ、様」

「スルシャーナか。その名は聞いたことがあるな。確か六大神という600年前に現れた者たちの1人だと聞いてたが」

「全てお話します。だからもう拷問は止めてください。お願いします」

 

もう限界だった。

 

自分が知っている拷問なんて幼稚なお遊びとも言えないほどの凄惨な拷問を休まずに受ける日々はもう送りたくなかった。

 

「いいだろう。ただしお前の持つ情報が私にとって有益なものだった場合のみだ」

 

それを聞いて大いに焦り少しでも情報を伝えようと最重要機密から下らない悩みまで全て曝け出す。

 

荒くなった息を整えながら死の支配者を見る。

 

死の支配者は顎に手をやって考え込んでいたかと思うとおもむろに顔を上げた。

 

「中々に有益な情報だった。感謝しよう」

「じ、じゃあ!」

「まだ喋れる元気があるのならまだ拷問は続けなければならんな」

 

時間が止まった気がした。

 

「やはり漆黒聖典に所属している者は他の者よりも面倒だな。心がまだまだ元気だ」

「も、申し訳ありませんわん。アインズ様。すぐに粉々に砕いて情報を全て吐かせてみせますわん」

「いやそこまではせずとも良い。心が死ぬ寸前までで・・・いや壊れても構わないか。どうせ記憶を見れば質問をする必要もないな」

 

そう言うと死の支配者は私の頭に手を置くと何かの魔法を使用した。

 

しばらくして死の支配者は疲れたかのように息を吐くと踵を返した。

 

「後は好きにせよ」

 

死の支配者が静かに立ち去っていった。

 

異形はそれを頭を下げて見送るとこちらを向いた。

 

その目には明らかに怒りを灯して。

 

「アインズ様ががっかりなさっていたのが分かったかしらん」

 

舌を噛み切って死のうとした時に罰としてやられた磨り降ろし機を手に取る異形。

 

「私の拷問官として力がないと判断されて捨てられたら・・・どうしてくれるのかしらん」

 

あの時は腕をやられた。

 

あの時は怒ってなかった。

 

「とっとと壊れちゃってくれるかしらん」

 

最も敏感な場所に当てられて体が震えだす。

 

「や、やめて。お願い、します」

「殺さずに壊すわん。本当はもっと後でやるつもりだったけどねん」

「ひっ───」

 

水っぽい音と共に女性の苦痛の悲鳴が

響き渡った。

 

それを聞いて助けるものなど皆無。

 

此処は死の支配者が支配する地。

 

死こそが最大の慈悲であるこの地では生きているだけまだマシな方なのだから。

 

 

 

「まだ足りないでありんすね」

「では他の傭兵団を捜して参ります」

 

シャルティアは手を振り自分と同じ真祖(トゥルーヴァンパイア)のシモベを雑に扱う。

 

真祖たちもそれを当たり前のように受け入れて立ち去る。

 

例え同じ種族といえど至高の御方によって創られたNPCとモンスターとは天と地ほどの差がある。

 

しかもシャルティアはNPCの中でも最上位である階層守護者。

 

不満などあるはずもない。

 

「ご、ご主人様。もしよろしければ俺が傭兵どもを」

「黙るなんし。わらわは数を集める為に傭兵たちを吸血鬼に変えているんでありんす。お前が行ったら死体か下位吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)しか出来ないでありんす」

 

シャルティアの椅子になっている青髪の男はその言葉に有無を言わさず従う。

 

シャルティアの周りには吸血鬼の花嫁。

 

その隣にはシャルティア配下の高位のシモベ。

 

そしてそれらを見上げる形で整列している男たちは元傭兵団「死を撒く剣団」であった吸血鬼たち。

 

70弱という数だけでもこの世界では十分な脅威ではあるがシャルティアは満足していない。

 

「少なくともこの10倍は欲しいでありんすねぇ」

 

シャルティアはそう呟きながら爪をヤスリで削る。

 

「あ、あの。シャルティア様」

「なんでありんすか?」

「シャルティア様は。その・・・何をなさるおつもりなんでしょうか」

 

シャルティアは「何でテメェにそれを教えてやらねぇといけねぇんだよ」という言葉を飲み込みその見た目に相応しい少女の顔で答えた。

 

「幸運なことにあの御方に名前を付けられた都市がありんす。その名前に相応しい街に為でありんすよ。だってあの御方が言ったこと全てが───」

 

酷薄な笑みを浮かべて笑う。

 

「───真実なのだから」

 

それを聞いて椅子になっている吸血鬼───ブレイン・アングラウスは息を飲んだ。

 

自分の主が美しすぎて。

 

自分の主よりも上位の存在がおりその存在が名前をつけたというだけで街を1つ変えてしまうということに恐れを抱いて。

 

そしてなにより自分が変えてしまう側にいるという安心故に。

 

 

 

「うーん。やっぱり弱いのしかいないなー」

 

アウラは森の中でフェンに乗りながら周りを見回す。

 

その後ろには大勢のトロールやゴブリン。

 

先頭にはトロールたちよりも体格のいいトロールと胸から上は人間の老人の枯れ細った体でその下は蛇というモンスターのナーガが付いて来ている。

 

「今度はもっと奥に行ってみようかな」

 

アウラはそう決めて中央の方へと向かう。

 

そこでアウラは世界を滅ぼすと言われる存在と対峙する事になる。

 

それによってアインズから褒美として頭ナデナデと創造主ぶくぶく茶釜の声が入った時計を貰うこととなるのは本人もまだ知らない。

 

 

 

「トードマンダト?」

「はい。湖の北に生息する者たちです」

「フム・・・」

 

コキュートスはアウラが見つけた蜥蜴人に興味を抱きいくつもの部族に分かれていたのを全て統合した。

 

強者こそ全てという価値観が功を奏し死者はいない。

 

「強イノカ?」

「トードマン自体はそれほど強くはないのですがモンスターなどを飼育しているので厄介なのです」

「ソウカ。デハソチラニモ行コウ」

 

コキュートスは数人の部下と案内役の蜥蜴人を連れてトードマンがいる北へと向かう。

 

そして数日とかからずにトードマンたちも従えて戻ってくることになる。

 

 

 

「各守護者からの報告は以上となります」

 

アルベドから報告を聞いたアインズは頷いて次の指示を出す。

 

「カシンコジを10体ほど王都に向かわせて情報を集めさせろ。特に白銀の聖剣士の仲間の情報をだ」

「畏まりました。次にナザリックから投入する戦力ですが骸骨2000体、動死体2000体の計4000体ほどでよろしいでしょうか」

「そうだな。そのくらいが丁度よかろう。皆の準備はいつ頃に終わりそうだ?」

「アウラは既に完了しています。シャルティアは数を揃えるだけでさほど時間はかからないでしょう。デミウルゴスとコキュートスはほぼ完了していますが変化による動揺を収めるのを考えますと1ヶ月ほどかかるかと」

「1ヶ月か。思ったよりも長いな」

「お望みでしたら今すぐにでも計画を実行に移します」

 

アルベドの言葉にアインズは首を横に振る。

 

「構わん。急いだ故に失敗しては目も当てられんからな。それに情報も時間をかけたほうがより多く手に入るだろう」

「はっ・・・」

 

アルベドは頭を下げてからさらにいくつかの報告をすると部屋を出て行った。

 

「しかし少し調べただけで名が出てきたな。場所が違うだけだったか」

 

1年前に流星の如く現れた冒険者チーム「白銀」。

 

そのメンバーは人間が2人。

 

白銀の髪を持った少年と同じく白銀の髪を持った少女。

 

冒険者登録をしたのはアーグランド評議国。

 

評議国は複数の亜人が暮らしており人間はほとんどいないらしい。

 

その為に冒険者もほとんどが亜人であり当初は人間などと馬鹿にしていた亜人が多かったが今はその声もほとんど聞かないようだ。

 

まずは白銀が銅になったその日に喧嘩を売ってきた格上───白金級───の冒険者を殴り飛ばして倒した事。

 

そこからは地道に依頼をこなしていっていたようだ。

 

荷運びの依頼で行った評議国の海に面した都市で襲撃してきた巨大烏賊(クラーケン)の群れを殲滅をして飛び級でミスリル級に昇格。

 

この時点で何かしらの問題───恐らくプライドが高い亜人からの文句───が起きたのだろう。

 

拠点をリ・エスティーゼ王国の王都に移して不明瞭だがギガントバジリスクを2人で討伐や未踏地のダンジョンを踏破したなどの偉業───この世界視点では──を成しながらを過ごしていたようだ。

 

そして先日のエ・ランテルの事件でアダマンタイトへと昇格した。

 

アインズは舌打ちをして不快感をあらわにする。

 

白銀の情報はそれなりに集まったがあくまでそれは白銀についてだ。

 

ギルド「シルバースター」の情報は全くない。

 

評議国に影の悪魔を向かわせて捜索させてはいるがナザリックのようにギルド拠点と共に転移してきた可能性を考えていたがそれらは未だに見つかっていない。

 

拠点なしでプレイヤーのみで転移してきたのか?

 

それを考えると白銀の仲間も出会っていないだけでこの世界に転移してきている可能性もある。

 

そしてそれは此方にも言えることだ。

 

たっち・みー。

 

ウルベルト・アレイン・オードル。

 

ぶくぶく茶釜。

 

ペロロンチーノ。

 

ぷにっと萌え。

 

「ん?」

 

ぷにっと萌えとアルド。

 

これで何かあった気がする。

 

確か・・・。

 

アインズは記憶をさかのぼり少し考えて思い出した。

 

「そういえばそうだったか」

 

その時のことを思い出してアルドへの別の借りを思い出す。

 

「私たちが見つけた隠し鉱山を奪ってくれたんだったな」

 

あの時のギルメンの怒りは凄まじかった。

 

ぷにっと萌えさんは「既にあらかた掘り尽くしたからまぁいいんじゃないかな」とは言っていたが悔しそうにしていたのは丸分かりだった。

 

あの後で七色鉱で作ろうと思っていたものを別の素材で代用したこともあった。

 

とある事故によって七色鉱が足りなくなったのに手に入れることもできなくなった。

 

吹き出すようにどんどんと記憶が蘇っていく。

 

それらを思い出してアインズはほくそ笑む。

 

これで借りが2つになったな。

 

「アイテムの恨みはしつこいぞ」

 

お前も奪ったのだからこちらも奪ってもいいよな?

 

「その時が楽しみだ」

 

アインズは楽しそうにそう呟きその時を夢想する。

 

ああ楽しみだ。とても楽しみだ。




ステラ「独り占めはよくないよ!」
アルド「じゃあ永劫の蛇の腕輪を使って鉱山を奪い取って採掘して売るか。運営おねがーい」
運営「はーい」
ステラ「え!?」
アルド「アイツ等十分に持ってるだろうし売る時はアイツ等に売らないように言わないとな」
ステラ「ちょっと待って!?」


アインズ・ウール・ゴウンの面々
「「「シルバースター許すまじ!」」」




鉱山を奪い取ったギルドが彼らというのは完全に捏造です。

アインズと彼らとの確執は本当はこっちにしたかったんです。

でも、リア充死すべしの方が面白いかな?と思いこちらを追加で加えました。

こっちがメインにした方が良かったと後悔しています。

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