森の中に転移門が開かれそこから黒いローブを纏った死の支配者が現れる。
そして毒々しい紫色の髪の少女と純白の女性。
金髪の闇妖精と漆黒の巨大な狼と数十の高位のシモベたちが続いて現れる。
「中々にいい場所だな」
「そうでしょうか?」
アインズがそう呟くとアウラが疑問の声を上げる。
見ると少しいじけてる様だ。
「もちろん第6階層の方が素晴らしいが、この世界も捨てたものではないぞ?ナザリックとは比べるまでもないがな」
「ですよね!」
ぱぁっと明るくなるアウラの頭を軽くなでてから歩き出す。
「さてアウラよ。森の賢王というのは何処にいる?」
「こっちです!フェンに乗ったほうが早いですがどうしますか?」
連れてきた高位のシモベたちを見てから遅いものはいないと判断して頷いた。
「ではフェンに乗らせてもらおう。リグレットとルベドも乗れ。他の者は離れずについて来い」
「分かりました!」
アウラが合図をしてフェンに伏せをする。
アウラが乗りアインズ、リグレット、ルベドが乗る。
リグレットとルベドがアインズの後ろを争ってジャンケンをしたが勝者はリグレットだった。
「フェン。アインズ様に失礼がないようにするんだよ」
フェンは頷き走り出す。
特殊能力の土地渡りによって途中の木の枝などはすり抜けたかのように折れもせずにそのままだ。
しばらく行くと洞窟にたどり着いた。
「この中です」
「ふむ・・・アウラ、お前のスキルでどれくらいのレベルなんだ?」
「レベル30~35です」
「ふむ。レベル30・・・なに?」
「レベル30~35です。特出したステータスはありません」
「そうか」
レベル30が伝説の魔獣か。
となるとやはり人類の最高はレベル40が有力か。
この心配も杞憂の可能性があるがアダマンタイト級を調べてから判断しても遅くはないだろう。
「殺してしまうんですか?」
「いや殺さずにシモベにしようと思っている」
「そうなんですか。出来れば毛皮を剥ぎたいなって思っていたんですけど仕方ないですよね」
「そうだな。すまないが我慢してくれ」
「はい」
アウラにそう言ってからルベドを見る。
「ルベド。中にいるのをここに連れて来い。殺してはダメだぞ」
「・・・・」
ルベドは無言で洞窟の中へと入っていった。
そしてすぐに出てきた。
巨大なハムスターの首根っこを掴んで。
「は?」
「どうかしましたかアインズ様?」
「いやなんでもない」
ルベドが乱暴にハムスターを投げる。
「なんでござるか!拙者が気持ちよく寝ていたというのに!」
「お前が森の賢王か。我が名はアインズ・ウール・ゴウンという」
「むむっそなたは・・・
高位のシモベに気づいていないのかアインズだけを見る森の賢王。
「ふむ・・・お前にはさほど期待してなどいなかったが構わん。我がシモベになれ。そうすれば生きていることを許可しよう。断れば死を与えてくれよう」
アインズの言葉にリグレットの顔に残虐な笑みが浮かぶ。
「むう・・・拙者よりも強者の気がするでござる」
「どうする?私はどちらでも構わんが」
「では、手合わせを」
「
第10位階魔法で森の賢王のすぐ横の木を縦に真っ二つにする。
「ひぃぃっ!降参でござる!」
それを見て森の賢王はひっくり返って降参をした。
「我がシモベになるか?」
「なるでござる!だから命だけは!」
「ということだ。我がシモベたちよ。今からこの者は我がシモベだ。帰還したらナザリックの者に徹底周知せよ」
「畏まりました。アインズ様」
「分かったお父さん」
「・・・・」
3人を筆頭にシモベたちが跪く。
「さて心機一転としてお前に名を与えよう。そうだな・・・ハムスケ。お前はこれからハムスケだ。いいなハムスケ」
「分かったでござる殿!」
「分かった?分かりましたでしょうが!生意気な口をきいてるんじゃないよ!」
「ひぃい!」
アウラが激怒するがアインズは手でそれを制する。
「構わん。少しずつ矯正していけばよかろう。今は帰還することが最優先だ」
「アインズ様がそういうのでしたら・・・」
「では帰還するぞ。転移門」
転移門を開きアインズはその中へとはいる。
そして続々と入っていき最後にハムスケが恐る恐る中に入っていった。
それから数日後。
ハムスケをアウラに任せてありアインズは自室である計画を進めていた。
デミウルゴスの報告書では青の薔薇が王都に戻っており今は休暇のように休んでいるらしい。
そしてデミウルゴスに調査させていた冒険者についても分かった。
よく言えばモンスター専門の傭兵。
悪く言えば何でも屋だ。
夢のない仕事だ。
「死の螺旋とは面白い発想をするな」
アンデットが集まればさらに強いアンデッドが生まれる。
そしてそれを連鎖させて街を死都へと変える魔法儀式「死の螺旋」。
アルベドが放っていたシモベが捕らえた者から得た情報だ。
「面白い・・・実に面白い」
しかも一番近い街であるエ・ランテルでそれを行おうとしている者がいるというじゃないか。
「いいタイミングだ」
アインズは笑みを浮かべて命令を下した。
城塞都市エ・ランテル墓地・地下神殿。
「なんだ貴様ら」
カジット・デイル・バダンテールは闖入者たちを見て警戒の色を見せる。
死を隣人とする邪悪な秘密結社「ズーラーノーン」の幹部である十二高弟の1人だ。
カジットの他にカジットの弟子である者たちが配置につく。
此処はズーラーノーンの活動拠点の1つでありカジットがいる重要拠点でもある。
「貴様らねぇ・・・」
カジットの弟子たちの全身を包む染めが粗く質の悪い濃淡が浮かぶ黒色のローブではなく闇のように真っ黒なローブで顔すら隠す女性と少女は黒い空間の裂け目から出てきてからずっと立ち尽くしている。
ローブの上からでもわかる胸と細い腰から女たちだと判断してカジットは目配せをする。
地下神殿を支える柱の影に隠れているもう1人の高弟に合図を送る。
「人間風情が我々を貴様ら呼ばわりですか。実に面白いですね」
「っ!?」
女たちとは全く別の方向。
そこに南方のスーツと呼ばれる服に顔を覆う仮面をつけた男がいた。
だがこちらは横を向いておりそのおかげか銀のプレートに包まれた尻尾が生えているのが見えた。
「ほんとほんと」
「なっ!?」
また別の方向には全身が黒く塗りつぶされたかのように真っ黒な10歳程度の影が瓦礫に腰掛けていた。
「カ、カジット様」
カジットの弟子たちが狼狽える。
カジットはそれを感じながら奥の手を出すべきかどうか迷う。
「がっ!」
聞き覚えのある声の悲鳴にその出処───もう1人の高弟がいる方───を見て愕然とする。
「馬鹿な!」
法国最強と言われる漆黒聖典の1人であるクレマンティーヌが地に倒れ伏していた。
そのすぐ近くには黒いマントで身を包んだ男が立っていた。
「そやつは英雄の領域に踏み込んでいる者!そんな簡単に負けるわけが───」
「全員静かに」
少女の静かな声が地下神殿に響き渡る。
「偉大なる御方がお出でだよ」
少女と女性が横に移動して跪く。
それと同時にスーツの男と影とマントの男も跪く。
黒い空間の裂け目からそれは現れた。
カジットはそれが纏う───いや発する濃密な死を感じ取り目を見開く。
闇を切り抜いたかのような漆黒のローブを身に纏い怒っているのか泣いているのかわからない仮面に無骨なガントレットを付けた存在。
それが完全に出ると同時に空間の裂け目は完全に消え去る。
そして何もないところから見事な真っ黒な玉座が現れてそこへ座った。
「我は死の支配者。喜ぶがいい塵芥。お前たちは我が目に留まった」
「な、なんと・・・」
カジットは持っていた杖を取り落とし跪く。
「わ、我々の名を。名を名乗る許可を頂いても宜しいでしょうか!偉大なる死の支配者様!」
「よかろう。名乗るがいい塵よ」
塵などと言われても全く腹が立たない。
いや当たり前だ。この御方の前では全てが塵に等しい。
「私の名はカジット・デイル・バダンテール!死を隣人とするとのたまう愚かなる邪法の秘密結社「ズーラーノーン」の幹部である十二高弟が1人です!」
「死を隣人とするとは・・・全く偉大なる御方は死そのもの。つまりは偉大なる御方を隣人呼ばわりにするとは人間というのは愚かすぎて愛すら生まれてきそうだよ」
「本当だね。偉大なる御方を勝手に隣人だなんていつからそんなに偉くなったのかな」
「そうだよね。このまま生き地獄を味あわせたらいいんじゃないのかな?」
偉大なる御方のシモベらしき5人が静かに殺気を放つ。
偉大なる御方が現れる前にこれを言っていたらどうなっていたのかは想像に難くない。
「皮を剥いで回復魔法で再生させてからまた剥いであげようか」
「氷結牢獄で拷問フルコースっていうのはどうかな」
「───騒々しい。静かにせよ」
偉大なる御方の言葉で全員が黙る。
「カジットだったな」
「ははっ!」
我が矮小なる身の名を覚えてくださるとはなんと慈悲深い方なのだろうか。
カジットはそう思いながら偉大なる御方の言葉を聞き漏らさないように耳を澄ませる。
「死の螺旋を行おうとしていると聞いたがその計画の内容を教えよ」
「はっ!まずは骸骨や
「ふむ・・・ではそれを行って何を成すのだ?」
「この身をアンデッドに変えるのです。そして永遠の命を得るというわけなのです」
「なるほど」
偉大なる御方は息を吐いた。
つまらなそうに、期待外れかのように、大きく息を吐いた。
「下らんな・・・いや待て。お前では数百という数は御しきれぬと思うのだがそれはどうするのだ?」
「この至宝である「死の宝珠」を使用して行います」
片手に持っていた死の宝珠を恭しく捧げる。
近くに歩み寄ってきたローブの男がそれを受け取り偉大なる御方の元で跪いて両手で捧げる。
「上位道具鑑定・・・ほう?インテリジェンス・アイテムでレベル40のアイテムか。それでお前は何ができるのだ?」
偉大なる御方は死の宝珠に語りかけてまた大きく息を吐いた。
「
そう言うと偉大なる御方は死の宝珠をカジットに返すように男に言い死の宝珠はカジットの手に戻る。
「せめてこれ位のものを支配出来てから言って欲しいものだ。中位アンデッド創造」
黒い靄が現れたと思ったらそれは姿を現した。
身長は2.3メートルほどで左手には4分の3は覆えそうな巨大なタワーシールドを持ち、右手には1.3メートル近いフランベルジェを片手で持ち黒色の金属に血管のような真紅の紋様があちこちに走っている全身鎧を身に纏った死の騎士と言うべき存在。
「お前たちが述べたアンデッドは全て下位アンデッドだ」
「なっ」
カジットの弟子から驚きの声が上がる。
骨の竜は魔法に対する絶対耐性を持つ強力なアンデッド。
上位のアンデッドと言われていた存在が下位などと夢にも思わなかった。
「我が命令に従うのであれば我が叡智を与えよう。叡智ではなく何か願いがあれば・・・可能ならば叶えてやらんでもない」
「で、では。1つ。1つだけお聞かせください!」
再び殺気が溢れるがそれでも強く偉大なる御方を見る。
「・・・・言ってみろ」
偉大なる御方は顎をしゃくりそれを許可してくださった。
「死者の復活。通常の蘇生魔法では脆弱な者は耐え切れずに灰になってしまいます。灰にならない蘇生魔法をご存知でしょうか」
カジットは数十年もの間霞もしない願いを叶えられるのかどうか尋ねた。
偉大なる死の支配者である御方が知らないとなればもう絶望的となる。
「ふむ・・・脆弱な者は灰になるか。蘇生によるレベルダウンによっての肉体の消滅ということか。良いことを聞いた」
偉大なる御方は頷くとカジットを指さす。
「私は恩には恩を、仇には仇を持って返す。お前は今私にとって有益な情報を齎してくれた。そしてこれはお前の質問に対する答えだ。知っているしシモベにはそれを行使できる者がいる」
「で、では」
「私の命令を聞くのであれば使ってやっても構わん」
「おお!」
カジットは偉大なる御方───いや神に感謝した。
神を捨てた身ではあるが今一度神を信仰しよう。
死の神であるこの御方を。
「私の全てを尽くして必ずや!」
「わ、私もです!」
「私も!」
カジットの弟子たちも声を上げて誓う。
神はそれに対して手で鎮める。
「まずは私の質問に答えよ。私はまだ目覚めたばかりでこの世界の常識というものがないのだ」
「はっ!」
カジットは問われた事に全て自分が知っている限りの情報を話した。
そして最後に───。
「クハハハハハハ!」
アインズは人目もはばからずに笑う。
此処はナザリック地下大墳墓の自室。
アインズはそこで椅子に座りながら笑う。
「ハハハ・・・抑制されたか。まぁ嬉しいという感情が抑制されるのが遅いと言うことがこれでわかったと思えばいいか」
デミウルゴスが作成したカジットから聞いた内容の報告書を見て笑みを浮かべる。
「アダマンタイト級がレベル30程度とは・・・やはり心配は杞憂だったな」
「少しでも可能性があったらそれを心配するべきだよ。お父さんが傷ついちゃったら私泣いちゃうよ?」
アインズの言葉にリグレットが反応してそう言うとアインズは頷く。
「そうだな。可能性があるのにそれに対して何ら対策をしないというのも馬鹿な話だ。だがそれもこれから起きることを見ていれば判断がつく」
椅子に背を預けて息を吐く。
死都エ・ランテル。
「中々いい響きじゃないか」
成功しても失敗しても得るものはあれど失うものは全くない。
「楽しみだ」
「以上となりますが何かご不明な点はありますか?」
「何もありません」
ヤルダバオトと名乗ったスーツを着た悪魔は満足そうに頷く。
「偉大なる御方は貴方にご期待なされています。その為にあれらも貴方のような者に下賜なされたのですから」
ヤルダバオトの目線の先には
「偉大なる御方の期待に必ずや応えてみせます!」
カジットはそう誓いを立てる。
「その意気はいいですがくれぐれもしくじらないで下さいね」
「もちろんです!」
かなり上位のモンスターであり迷宮の主である死者の大魔法使いがこれだけ居るのはありえない事だろう。
そしてそれ以上の死の騎士が1体いるだけでも歴史に刻みこまれるほどの惨劇が引き起こされるだろう。
「あの御方はこの街を死都エ・ランテルと名付けました。よってこの街は既に死都エ・ランテルなのです」
街の名など結果ではなくあの御方が決める事。
ヤルダバオトは告げる。
間違いは正さなければならないと。
「くれぐれも我々のことを口に出さないように。さもなければ死というあの御方の慈悲は永遠に与えられないと知りなさい」
「もちろんでございます!」
黒い空間の歪が出現するとヤルダバオトはその中へと入っていく。
「あの御方は常に貴方がたを見ておいでです。無様な姿を晒してあの御方をご不快にすることは・・・我々が絶対に許さないと心得なさい」
「ははぁっ!」
歪が消えて後には頭を地面にこすりつけたカジットだけとなる。
「カジット様」
「うむ」
弟子たちが集まり告げる。
準備が整ったと。
「今夜行う。より多くの死をあの御方に捧げよ!」
時間は過ぎ夜。
「今日も静かな夜だなぁ」
墓地を囲む壁の上にいる衛兵の1人が横で見張っている同僚に欠伸混じりに声をかける。
「そうだな。この前出た骸骨が5体くらいで今までよりも一気に減ったよな」
「ああ。死者の魂も四大神の御許に召されたんじゃ───」
墓地から一筋の光が走り衛兵の1人を貫いた。
衛兵は断末魔の叫びも上げることを許されずに墓地側へと落ちていく。
「なっ」
近くの衛兵が声を漏らし光の出処へと目を向ける。
「恐れ慄け」
小気味いい音を響かせながらそれらは闇の中から現れる。
「今宵よりこの地は我らの物となる」
死者の大魔法使いと数えるのも億劫なほどの骸骨や動死体。
その中にちらほら
そして空には
「今これよりアンデッドの時代とならん」
「鐘を鳴らせ!衛兵駐屯所に救援を求めろ!お前たち3人はほかのもんにも至急緊急事態を告げろ!お前たち5人は空を飛ぶアンデッドを追い払え!後の者は死者の大魔法使いの魔法に気をつけながらアンデッドを上から突け!」
隊長が我に返り指揮して全員がその指示に従う。
「愚かな」
死者の大魔法使いは最も愚かな策をした衛兵たちを嘲り笑い指で最も衛兵が集まっている場所を指す。
「
火球が指先に現れたと思ったら放たれ衛兵の1人に直撃すると同時に爆発して近くにいた衛兵たちも火だるまになる。
「集合する死体の巨人よ。門を開けよ」
集合する死体の巨人が体の底に響くような呻き声を上げながら門へと突撃する。
集合する死体の巨人が門に激突すると門は呆気なく倒れる。
「進め!この都市を死の都とするのだ!」
骸骨や動死体が次々と門を超えて市街地へと出ていく。
衛兵はそれを防ごうと槍で突くが焼け石に水。
それどころか衛兵へと向かってきて程なくして衛兵はいなくなる。
「クハハハハハハハ!行け!蹂躙せよ!」
死者の大魔法使いの指示の下に数百にも及ぶアンデッドたちはエ・ランテルに存在する生者へと向かっていった。
ナザリック地下大墳墓第9階層。
大広間と呼ばれる寛ぎの場にアインズを始めとしたナザリックの首脳陣が座り複数の
「素晴らしいでありんす。人間が逃げ惑って死んでいく様は実に滑稽でありんすねぇ」
「まさに蟻ね。ふふっ下等生物にお似合いの姿だわ」
低位のアンデッドに対して成す術なく逃げ惑う人間を見て楽しそうに笑い合う妃と妃候補。
「やっぱり人間はゴミだね。あんなのも倒せないなんて」
「う、うん。い、いくらなんでも酷すぎるよね」
エ・ランテルの住人たちを酷評をする双子。
「流石はアインズ様!人間共の欲望を刺激して都市を襲わせてその間に資材等を奪い去る!その上でこの世界の強者を呼び寄せる布石でもあり強者を各都市に釘付けにする布石でもあるとは。一手に複数の意味を持たせる手腕には恐れ入ります」
「ナルホド。ダテニ至高ノ御方々ノマトメ役デアッタダケデハナイトイウコトダナ。サスガハアインズ様デス」
感動する悪魔と納得する蟲王。
「アハハハハ!死んでいくのを見るのは楽しいね!ルベド!」
「・・・・」
愉快に笑う姫君と無言で頷く天使。
そして惨状を眺めて無言でいる死の支配者と役者。
その周りには一般メイドだけでなく戦闘メイドたちの姿もある。
セバスの姿はないがこれはアインズが見るのは酷だろうと配慮した結果なので誰もセバスに対して異を唱える者はいない。
「資材の回収には何を向かわせた?」
「同じくアンデッドであり思考能力があるシャルティア配下の
報告しながらススっと寄りアインズの肩に頭を置くアルベド。
それを見てシャルティアが吠える。
「何色目使ってやがんだこの大口ゴリラがぁ!」
「あら?外野が何か言ってるわね。言っておくけど私は既に妃の椅子に座っているのよ?」
「はぁ?何言ってやがんだこのアバズレは。アインズ様。迷惑でしたら遠慮なく仰ってくれなんまし。私がすぐにこのオバサンを引っペがして差し上げるでありんす」
可愛く微笑むシャルティアにアインズは目を向けてから水晶の画面へと目を戻す。
「好きにするがいい。だが騒がしくするならばこの部屋から出て好きなだけ騒げ」
「「も、申し訳ございません!」」
シャルティアとアルベドは一瞬で顔を真っ青にして謝罪する。
アインズはそれを大雑把に手を振って答えると指を鳴らす。
一般メイドと戦闘メイドが一礼してアインズたちが座るテーブルにグラスや摘めるお菓子などを置いていく。
「私は飲食ができないがお前たちはできる。
「ですがアインズ様を差し置いて・・・」
「わー!じゃあ私はワイン貰うね!」
アルベドが守護者たちの言葉を代表して言うがリグレットは気にせずワインをあけさせてグラスに注いでもらう。
「ルベドも飲む?」
「ん」
注がれていくワインを見ながらパンドラはアインズに尋ねる。
「よろしいのでしょうか。至高の御方を差し置いて我々だけで楽しむなど」
「構わん。むしろお前たちが楽しそうにしている様子を見るのも楽しみにしていたことだ。存分に楽しめ」
「おお!流石は我が創造主アインズ様!その慈悲深き御心に感服いたしました!お嬢さん!私にもワインを!」
「で、では。失礼するでありんす。わらわにもワインを」
「畏まりました」
パンドラとシャルティアもワインをグラスに注いでもらう。
アルベドたちも各々の飲み物をグラスに注いでもらう。
アインズは水を注いでもらいグラスを掲げる。
「死都エ・ランテルに」
「「「死都エ・ランテルに」」」
アインズを除く者たちがグラスを傾けた。
「うわぁあああああ!」
「助けっ」
「ぎゃぁあああああああ!」
死屍累々。
アンデッドが生者を襲い死体が出来て負のエネルギーが充満していく。
それをその身で感じとり死者の大魔法使いたちは腐りかけの顔で笑う。
自分たちの創造主である偉大にして至高なる死の王が望む都市へと着々と進んでいる。
死の騎士も半分の6体が愚かにも抵抗する人間たちを一刀の元に伏して
そして従者の動死体が近くにいた人間を殺しその人間が動死体となる。
死の螺旋の逆が起きているが数を増やすのには最適な方法だ。
そしてもう半分の死の騎士は墓地の地下神殿で偉大にして至高なる死の王が目をお掛けになられている人間たちを守っている。
「クククククッ逃げ惑え。そして死ね。そうすれば我らが悲願は成就する」
どこで誰が聴いているのかもわからない為に回りくどい物言いとなるが偉大にして至高なる死の王のご命令なのだから仕方がない。
「む?」
「どうしたのじゃ?」
「分からん。何か外の門で問題があったようだ。伝言が途中で途切れた」
「むぅ。それはマズイよのう」
3体の死者の大魔法使いは前もって偉大にして至高なる死の王から聞いていた情報と現状を照らし合わせて顔を歪める。
この騒ぎをどうにか出来そうな相手はアダマンタイト級冒険者チームという2組の人間共だけ。
その2組は集団転移魔法が使えないのでまだ騒ぎを起こしてからさほど時間が経っていない現在では離れた場所にいる2組がこの街へ来ることはできない。
ならば情報にない強敵。
失敗したとしても最低でも資材の強奪が終わったという合図である骨の竜が現れるまではこの騒ぎを起こし続けなければならない。
「死の騎士と連携して事に当たるしかあるまい」
「そうじゃのう」
「それしかないよのう」
「では行くぞ」
他の門を担当する死者の大魔法使いに伝言を送り作戦を伝え死の騎士と合流する。
「愚かな者よ。来るがいい」
その時こそ我らが存在理由が満たされるときだ。
時は遡り1時間前。
リ・エスティーゼ王国王都冒険者組合・組合長室。
その部屋には女性と白銀の髪の少年と少女がいた。
「ミスリル級冒険者チーム「白銀」の君たちを呼んだのは他でもない。緊急の依頼だ」
「緊急?」
40ぐらいの年齢の女性───組合長が頷く。
「城塞都市エ・ランテルの共同墓地からアンデッドの大群が湧き出したらしい」
「なっ」
少女が驚きの声を上げる。
それに対し少年は目を細める。
「それで俺らってことですか」
「その通り。君たちは一度行った事のある場所なら5人まで転移できるというマジックアイテムを持っている。だから先行して騒動の鎮圧を頼みたい」
「ですがエ・ランテルにもミスリル級冒険者チームはありますよね。私たちが行ってももう必要ありませんってなりませんか?」
少女が尋ねると組合長は目を伏せて大きく息を吐いた。
「まだ確証はないけど死者の大魔法使いが複数───最低でも6体───いるという連絡があった」
「つまり普通のことじゃないってことですか」
「恐らくはズーラーノーンがかつて行ったという邪法「死の螺旋」だと私は思っている」
「死の螺旋って確か都市をアンデッドが蔓延る死都にして蔓延した負のエネルギーを取り込んで自分をアンデッドにする儀式ですよね」
「そうだ。だからこそ君たちに頼みたい。アダマンタイト級と同等かそれ以上であると思われる君たちに」
組合長の目は真剣そのものだ。
少女は少年を見る。
少年は呆れたように息を吐いて頷いた。
「代わりと言っちゃなんだけど最低でもオリハルコンは約束してくれ。一々実力を証明していくのは面倒だからな」
「わかった。約束しよう」
組合長が頷くと少年は踵を返す。
「そうと決まったらとっとと解決しに行くぞ。ステラ」
「そうだね。アルド」
少年と少女は笑みを浮かべながら準備をするために宿へと戻っていった。
少し前。
「ぬ?」
「あ」
「む?」
「お」
「ん?」
マジックアイテムでエ・ランテルに転移した2人はエ・ランテルの城壁の上に出た。
まずは上から見て状況を把握しようとしたからだ。
そして目の前には死者の大魔法使いが3体。
「「・・・・・」」
「「「・・・・・」」」
互いに見つめ合いそして。
「「雷撃!」」
死者の大魔法使い2体が雷撃を放つ。
2人はそれを避けてすれ違いざまに剣を抜いて一刀両断した。
「馬鹿、な」
塵となっていく死者の大魔法使いたちに目もくれずにステラは街の惨状を見て顔を歪める。
「酷い・・・」
「思った以上にヤバイみたいだな。数百じゃきかないぞ」
アルドは街を見回してその姿を見つけた。
「おいおい。嘘だろ。ステラ!死の騎士だ!」
「嘘!?」
アルドが指差す先には見覚えのある黒い甲冑の巨人。
「あそこにもいるな。あそこにも。何体いやがんだよ」
「ボヤくのは後!早く助ける!」
「はいはい。お前は左半分で俺は右半分だ。雑魚はできるだけ無視して死者の大魔法使い以上を優先。2時間後に共同墓地の霊廟に集合だ」
「わかった!」
ステラが飛び出しアルドはそれを見て呟いた。
「白か」
その直後に白い光が上空を走ったが誰も気づかなかった。
現在。
「オオオオオォォォォ・・・!」
「なんだ・・・これは」
カジットはただ呆然と生まれでたソレを見上げる。
かつてビーストマンの大都市を蹂躙し10万人の犠牲をたった3体で出したという伝説のアンデッド
死の支配者である偉大なる御方に出会っていなければただ恐怖し殺されていたであろう者。
「ワレハセカイヲホロボスモノナリ・・・」
この様子では支配など到底できそうにもない。
「くっ・・・あの御方に連絡を!」
「は、はい!」
弟子がスクロールを開き伝言を発動させる。
「ニンゲンヨ。ワレニシヲアタエラレルコトニカンシャスルガイイ」
「・・・・お前ごときに殺されることに感謝するなどありえんな。わしらは貴様よりも死の支配者に相応しい御方を知っておるわ」
「ホォ?ソレハキョウミブカイ」
ソレは三本指のカギ爪が着いた触手を動かしながら歩き出す。
「ソノオカタトヤラガクルマデウエノニンゲンドモヲコロシテイヨウ」
「そのまま帰ってこないでね」
黒い空間の歪が出現してそこから黒いローブの少女が現れる。
「ナンダキサマハ」
「確か
「シニタイノカ?」
「アハハ。これでもまだそれを言うのかな」
少女がしていた指輪の1つを取った。
カジットと弟子たち。そして地獄の帝王は震えた。
濃密な死の気配。
カジットは死の支配者と同等に感じるがその圧倒的さ故に漠然とした感覚でしか想像がつかなかった。
すぐに指輪が戻されて死の気配は消える。
「それじゃあ外の人間を皆殺しにしてくれる?事が終わったらあの御方の機嫌次第でシモベにしてくれるかもね」
「カ、カシコマリマシタ」
地獄の帝王は跪き頭をたれてそう答えた。
自分との圧倒的差を感じ取ったが故に。
少女はそれに満足したのか歪の中へと消えていく。
「そうだ。キミはこっちね」
「え」
カジットの首根っこを少女がつかみそのまま歪へと消えていった。
「ふぅ・・・」
ステラは3体目の死の騎士を倒して息を吐く。
完全に塵になったのを確認してからステラは近くにいた骸骨と動死体を倒して周りにアンデッドがいないことを確認して集合場所の霊廟へと向かう。
ステラはズーラーノーンの仕業と聞いていたが今はそれに対して疑問を感じていた。
死の騎士は伝説のアンデッドとも言われるほどの存在だ。
それが自分が見ただけでも5体はいる。
そして今までで遭遇した中でかなり上位のアンデッドでもある死者の大魔法使いが6体。
これらのアンデッドが生まれたのだとしてもその間である骨の竜や
人が出来る範疇を超えていると思う。
「召喚したとしても数がありえないんだよね」
骸骨や動死体などの下位のアンデッドはズーラーノーンが用意したとしてそれより上位の死の騎士や死者の大魔法使いが他の誰かが用意したものであれば辻褄が合う。
先日の王都に忍び込んだ影の悪魔の件もそうだ。
倒してすぐにこの事件が起きた。
だとしたら2つとも裏で繋がっている?
これほどの力を持っている存在なんて1つしかない。
「なるほどね」
ステラはギリっと歯を鳴らして怒りを表した。
「元は人間なのになんでこんな酷いことを・・・!」
吐き捨てるようにそう呟いた。
「何怒ってるんだよ」
隣から声がしてそちらに目を向けるとアルドがいた。
「この事件には黒幕がいるのかも」
「下位の中でも下の方のアンデッドからいきなり中位に飛んでるんだからそうだろうな」
「多分だけど私たちと同じ存在だと思う」
「ユグドラシルプレイヤーか」
アルドの呟きにステラは頷き見えてきた共同墓地を見て目を細める。
「人間種じゃなくて異形種。しかもアンデッドのだと思う。じゃないとこんな酷い事はできないよ」
「となると俺と相性はいいな」
「そうだけど、大丈夫?今はアンデッドでも元は人間だよ?」
「悪いことをしたら倒す。ちゃんと割り切ってるから大丈夫だよ」
「・・・・きつかったらちゃんと言ってよね」
「ああ・・・っと、またか」
「死の騎士って一撃で死なないから厄介だよね」
軽くボヤきながらステラとアルドは共同墓地から出てきた死の騎士たちに目を向けて魔法を放った。
カシャンっとグラスが砕ける音と共に水が床に溢れる。
ワイワイと話していた者たちは押し黙る。
静かに楽しんでいた者たちはグラスを置く。
「やはり来ていたか・・・!」
アインズは眼窩に宿る光を強くして水晶の画面を睨みつける。
「い、偉大なる御方よ。あの者たちは一体・・・?」
リグレットに連れてこられたカジットはアインズに勧められて座っていた椅子の上から恐る恐る尋ねる。
「少女の方は取るに足らん者だが少年の方は我が天敵とも言うべき存在だ」
アインズの言葉に守護者並びにリグレットとルベドが画面の向こうの白銀の髪の少年に殺気を向ける。
「アインズ様。ご命令があればこのシャルティアがあの小僧を殺して見せましょう」
「ならん。シャルティアとリグレットがあの少年と戦うことは絶対に許さん」
シャルティアの申し出をすぐに却下したアインズは手を握り締める。
「奴は対アンデッド最高の魔法職であるホーリー・バニッシャー。白銀の聖剣士アルドだ」
すなわちアンデッドの最大の天敵。
アンデッドであるシャルティアとリグレットでは負ける可能性が高い。
「ではセバスまたはコキュートス。もしくは複数人で事に当たれば問題はないのではないでしょうか」
デミウルゴスの言葉にアインズは首を横に振る。
「奴のギルド「シルバースター」はアンデッドと属性が悪に偏っている者に対しての特攻を持つ者ばかりが集まった我らの天敵だ。この世界に複数人いるということは他にもいる可能性がある。あの2人だけならばルベドを当てれば問題はないだろうがその確証がない今ではより多くの情報を得るために動かなければなるまい」
「じゃあもっと上位のアンデッドを向かわせたほうがいい?」
「いや今回はこのまま見ているだけでいい。吸血鬼の花嫁と影の悪魔たちを回収しろ。証拠は残すな」
「畏まりました」
アルベドが頭を下げるとシャルティアに目配せをしシャルティアはそれに対して頷いて返事をする。
アインズはそれに目もくれずに水晶の画面を見つめながら数年前の出来事を思い出して睨みつける。
アルドめ。あの時の借りは必ず返してやる。
「うわぁ・・・」
「マジか」
共同墓地を突き進んでいった先の霊廟。
本来であれば2人の集合場所としていた場所にたどり着いた2人は顔を顰めた。
そこには3本指のカギ爪が着いた触手を何本も生やした無数の人骨で体が出来た巨大なアンデッド。
地獄の帝王がいた。
レベル58でありながら帝王の名を冠するそのアンデッドの特殊能力は複数ある。
その内の1つには触手を1本生贄にして同等の個体を生み出すという特殊能力がある。
本来であれば本体というべき個体のみが持つ特殊能力であるが目の前の光景はそれを裏切っていた。
数十にも及ぶ地獄の帝王がひしめき合っていた。
しかも今も絶賛増殖中だ。
「コロセ!」
「シネェ!」
「ちょっ一斉に来ないで!あんな大量のなんて無理!こっちは魔法中心の剣士なんだから!」
「お前も特攻あるだろ」
「属性が悪に偏ったのにしか特攻がないの!」
一斉に襲い掛かってきた地獄の帝王たちの攻撃を避けてステラは第8位会魔法を放ってダメージを与える。
そしてアルドはアンデッドに特攻がある魔法を使用する。
この後の黒幕との戦いを考えて全力を出さない2人。
だが地獄の帝王たちは着々とその数を減らしていった。
地獄の帝王が全て敗れたのを見てからシャルティアは立ち上がった。
「では失礼いたしんす」
一礼してから部屋を出ていく。
「ではアインズ様。私共も情報収集の案をまとめるために失礼させていただきます」
「頼んだぞ」
「おぉ任せを!」
「はっ」
アルベドたちも立ち上がるとそう言い残して去っていった。
「失礼イタシマス」
「アインズ様失礼します」
「し、失礼します」
コキュートスとアウラとマーレも立ち去る。
そして残ったのはリグレットとルベドとアインズとメイドたち。
「・・・・・」
静寂の中でアインズは天井を見上げると呟いた。
「クソが」
男女が一緒に転移だと?
しかも同じ境遇の上で一緒にゲームをしていた仲だぞ?
「リア充が。絶対に許さんぞ」
あの時。あの日。あの時間。
アイテムボックスからある物を取り出して顔にそれをつける。
「我が同胞たちの恨み、憎しみ。その全てをその身に受けるがいい・・・!」
ある年の聖夜(地獄)。
アルド「今日はステラとデートだからクエスト無理だわ」
ステラ「ちょっ全世界に誤爆してる!」
「「「アルドコロス」」」