「パンドラズ・アクター。少しいいかしら」
「なんでしょうか」
書類仕事を一旦止めたアルベドはパンドラズ・アクターに対して疑問を問う。
「アインズ様は私たちを信頼しておられないの?」
「何故そのようなことを仰られるのでしょうか」
アルベドはため息をつきながら悲しそうに言う。
「アインズ様がおられる玉座の間に入ることを許されているのはリグレット様と貴方だけ。守護者ならまだしも守護者統括である私も含めるというのは変でしょう?何かしらの発表があるときは入ることは許されるけど階段を上った先にいることを許されているのは同じくリグレット様と貴方のみ。信頼されていないというのはシャルティアでも分かる事よ」
「そのようなことはありませんよ。アインズ様はナザリックに属する者の全てを信頼なされておいでです。ですが、転移による変化がどのように変化しているのかを調べる為にあなた方と距離を置いておられるのです」
「それは信頼していないのと同義ではないかしら」
アルベドの言葉にパンドラは頷く。
「変化がないと確信なされた時こそアインズ様はあなた方に信頼を寄せられるでしょう!あなた方が出来るのはそれまで忠義を尽くすことのみ!」
「・・・・・」
アルベドは眉を顰めてパンドラの言葉の違和感を露わにする。
「なにか?」
「・・・・本当にそうなるのかしら」
「聞いてきたのはそちら。信じる信じないもそちらの勝手で・・・あぁ。なるほど」
パンドラはあることに気づき頷いた。
「あなたは私と妹が何故信頼されているのかを聞きたかったのですね?」
「そうね。そう、その通りよ。何故、私を信頼できる存在の中に入れて下さらないの?どうして?あなたは理解できる。アインズ様が御手で創造なされた存在なのだもの。でもリグレット様はどうしてなの?彼女と私の違いは?強さだというのなら仕方がないけど、
「・・・・」
パンドラは少し考えてアルベドの疑問に対しての答えを告げる。
「アインズ様に話しても良いかとお尋ねします。それで許可が出なかったのならその時は諦めて下さい」
「えぇわかったわ。リグレット様と私で決定的な違いがある。それが分かっただけでも十分収穫よ」
「ですが、1つだけ言わせていただけるのでしたら・・・アインズ様は守護者統括殿を嫌っているわけでも、リグレットを生涯のパートナーにするつもりもないようです。私としては守護者統括殿と結ばれてくだされば幸いと思っております」
パンドラの言葉を聞いてアルベドは目を見開く。
自分の気持ちに気づかれていたことに驚いて。
だがすぐに納得する。
誰が彼を作ったのかを思い出して。
「ありがとうパンドラズ・アクター」
「いえいえ。お気になさらずに・・・
「?」
ドイツ語が分からないアルベドは首をかしげる。
「さて私はこの書類をアインズ様にお届けしてまいります。その際にお聞きしましょうか?」
「そうね・・・お願いできるかしら」
「承りました」
パンドラは書類を手にして玉座の間へと向かった。
「失礼いたします」
パンドラは玉座の間に入りそのまま進み跪く。
「父上。守護者統括殿より書類を預かり持って参りました」
「そうか。持って来い」
「承りました」
パンドラはそのまま階段を上り、アインズに書類を手渡す。
「ご苦労」
アインズはその書類に目を通しハンコを押す。
「これを進めるように」
「はっ」
パンドラは書類を受け取りアインズに尋ねる。
「父上」
「なんだ?」
「守護者統括殿がお気づきになっているようです。いえ、守護者統括殿のみではなく全てのシモベが気づいていながら考えないようにしているようです」
「だろうな。お前とリグレット以外の玉座の間の入室を禁じたのだから当たり前だろう」
「その際に私は生涯のパートナーは守護者統括殿をと推しました」
「は?」
アインズは驚くがすぐに沈静化されたがそのままパンドラを見つめる。
「お兄ちゃんそれって」
「リグレット。私は思うのです。アルベド様は理由は分からないですが父上を愛しておられる。それはもう私たちですら引くほどに」
「あー・・・」
リグレットは思い当たる節があるかのように遠い目をする。
アインズは少し考えてアルベドの設定を変更したことを思い出して冷や汗が流れるような幻覚を味わう。
「それについては私が原因だ」
「え?」
「はっ?」
パンドラとリグレットがアインズを見るがアインズは罪悪感から目を合わせられずにそのまま話し出す。
「アルベドの設定を変えたのだ。私を───モモンガを愛していると」
「それって」
「それはっ」
2人は驚きの声を上げるがアインズはそのまま詳細を説明する。
「アルベドの設定を閲覧はしたのだが長くてな。それで流し読みで見た最後の文が酷すぎてな。それを変更したのだ」
「ではアルベド様は」
「お父さんが愛するように命じた公認の人?」
「待て。公認ではない」
「でもお父さんがそう設定を変えたんでしょ?」
「そうだ。だが私にアルベドへの愛情は仲間の娘というのみでそれ以上のものではない」
2人は納得していないがとりあえず納得する。
「それでだ。パンドラよ。アルベドが気づいたからなんだというのだ?」
「はい。それで信頼されている私たち───正確にはリグレットとアルベド様───との違いはなんなのかと尋ねられました。明言はしておりませんが決定的な何かがあるというのは察せられました」
「ふむ。それで?」
「その違いを話す許可を父上に頂けるかどうかを尋ねると約束いたしましたので、同じく父上のシモベとしての義理だけは果たそうかと」
「なるほど」
アインズは少し考えてから頷いた。
「アルベドの私への愛は本物だと思うか?」
「私は本物だと思うよ。お父さんの部屋のベッドで全裸になった上でいつ作ったのか知らないけど等身大の抱き枕を抱きながら自分を慰めてたから」
「そうですね。アルベド様にお与えになられた部屋の衣装部屋には父上が様々なポーズをしている抱き枕が所狭しと押し込まれていると聞きましたし、私も本物かと」
「・・・・・そうか」
驚きやら焦りやらを感じたがすぐに沈静化する。
「パンドラズ・アクター」
「はっ」
「アルベドを呼べ。もちろん忙しいのであればあとでも構わん」
「畏まりました」
パンドラは胸に手を当てて一礼すると玉座の間を出て行った。
「話すの?」
「その前にいくつか質問をする。その上で判断する。話したとしてもしばらくは警戒は怠るな」
「うん任せて。お父さん」
10分も経たずに玉座の間の扉が開かれる。
パンドラがその後ろにアルベドが入ってきて階段下で跪く。
「守護者統括殿をお連れいたしました」
「守護者統括アルベド。御身の前に」
頭を垂れるアルベドを見てすぐに本題に入る。
「アルベドよ。私がお前たちシモベを信頼していないのではないかと思っているらしいな」
「はっ・・・不敬ながら申し上げます。アインズ様はパンドラズ・アクターとリグレット様のみを信頼しているご様子。単なるシモベならまだしも階層守護者。そして私をもその末席に加えて下さらない・・・。私たちシモベにはそれが何よりも苦痛なのでございます。何か理由があるのでしたらお教えくださらないでしょうか」
「・・・・」
アインズはアルベドの懇願は聞かずにギルド武器である杖を振るう。
マスターコンソールを開きそれを閲覧する。
「お前は私を愛していると聞いた。それは私が変えてしまった物だ。お前が望むのであれば元のお前に戻すことも可能だがどうする?」
「私のこの想いもアインズ様からの贈り物。それを拒むことはシモベとして失格。なにより私は女としてこの想いを手放したくはございません」
「ふむ・・・ではしばし待て」
「はっ」
アルベドの名前は変わらず白。
反抗は示してはいないと出ているが生存と状態異常を示すのみで意思を示すものではないので信頼するに足りない。
「・・・・アルベドよ。お前に問おう」
「何なりと」
「お前は私のために死ねるのか?」
「もちろんでございます。アインズ様が死ねと仰られるのでしたら即座に死にます。アインズ様が戦えと仰られるのでしたら相手が例え我が創造主タブラ・スマラグディナ様だろうと戦ってみせましょう」
「なるほど。では私がお前に私を愛すなと言ってもその通りにするのか?」
「そ、それは・・・」
アルベドの顔が真っ青になり目を伏せる。
「それだけは・・・どうかそれだけはお許し下さい!目障りだと仰られるのでしたら私はアインズ様の視界に入らないようにします!不要だと仰られるのでしたらすぐに自害いたします!死すら恐れません!ですがそれだけは!貴方様を愛する事だけはお許しくださいませ!」
「私への愛情。それさえあれば他はいらぬと言うのか?」
「無論でございます!私の全てはモモンガ様の為だけにございます故」
「ふむ・・・」
嘘を言っているようには見えない。
パンドラとリグレットを見るが2人とも頷いている。
2人も嘘を言っていないように見えるのか。
これで騙されていたらその時はアルベドを褒め称えて潔く死ぬか。
そう覚悟を決めてアルベドに告げる。
「アルベドよ。お前に厳命する」
「・・・・はっ」
「我が妃となりリグレットと共に我が身を守れ」
「はっ・・・は?」
「聞こえなかったか?我が妃となり我が身を守れ。よいな」
「そ、それはっつまり・・・私を妻に?」
「それ以外の意味があるのだったら教えてくれ」
まるで信じられないかのようにアルベドは呆然としている。
だが徐々に顔が緩み崩れていく。
「く、くふー!で、では!私はアインズ様のご寵愛をっ」
「気が向いたらだがな」
「それでも!それでも満足でございます!」
「では、アルベドよ。私がリグレットとパンドラズ・アクターのみをこの玉座の間に入ることを許していた理由を教えよう」
「はっ!」
すぐに元の守護者統括に相応しい顔になり姿勢を正す。
「お前たちがそうあれと思っている物。我々はそれを設定と呼んでいる」
「設定・・・」
「そしてお前たちはそれに従い人格───性格といったほうがいいか?───を形成し、趣味嗜好や戦法に思考と知能に至るまで全てが構成されている。つまりはお前たちの全てを文章化したものなのだ。勿論それだけでは足りないのでその部分は創造した者の一部で補われているようだがな」
特にセバスにそれを強く感じる。
属性が全く同じだからだろうか。
「創造した者は私の仲間たちだ。彼らの性格は把握している。そこでお前の疑問に思っていた信頼の話に戻る。信頼するべきだとは思っているが信頼しきれないのはその設定と転移によって起きたかもしれない変化が故だ」
アインズがそう言うとアルベドは理解したのかその先の言葉を代弁する。
「設定を隅から隅まで知っている者は自らが創造した者。しかしその者すら転移によって変化が起きているかもしれないと。設定の中に実は至高の方々を殺してナザリックの支配者になろうとしているとでも書かれていたら危険。それを傍に置くことなど有り得ないという事ですね」
「その通りだ。パンドラズ・アクターは分かると思うがリグレットは何故なのかがまだ疑問に思っているのだろう?それについても教えよう」
リグレットに目を向けてその理由を告げる。
リグレットは笑顔で見つめ返してきているがまだアルベドに襲いかかれる態勢を維持している。
「答えは簡単だ。この世界に転移する直前に設定を全て確認したからだ。その中に敵対を示す記載はなかった。そして転移の変化が見られなかった。転移後の最初の行動はお前も見ていた通りだ」
「なるほど・・・。アインズ様が我々を玉座の間に入室することを禁じた理由と信頼なされていない理由は理解しました。そこで1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「私は・・・アルベドは貴方様の信頼に足る存在でしたでしょうか」
「信頼に足る存在か。そうだな信頼に足る者だ。お前の愛は本物だと確信したが故にお前の愛に応えお前を信頼する。アルベドよ、お前の玉座の間への入室をしよう。以降は自由に出入りせよ。他の者を連れて来たい場合は私の許可を事前に得よ」
「アインズ様・・・ありがとうございます!このアルベドの全てを御身に捧げます!そして御身の敵の攻撃から御身を必ず守り抜いてみせます!」
「頼んだぞ、アルベド」
「はい!」
るんるん気分で玉座の間を出ていくアルベドを見送り、アインズは跪くパンドラに告げる。
「アルベドの監視の目を強めろ。アルベドの口から今回の情報が語られた場合、忠誠を捧げているシモベは信頼を得るために躍起となるだろう。反乱を企てる者の中でも首謀者となる者もそう演じるだろうがその仲間となるものは少なからずぎこちなさが浮き出る。その傾向がある者はすぐに捕らえて連れて来い」
「承りました父上」
「リグレットは私がいいと言うまでアルベドに警戒しろ。私も警戒はするが前衛の事は前衛の方が分かるだろう」
「任せてお父さん」
2人に命令し終えて息を吐く。
アルベドの忠誠が本物ならパンドラを外の世界に出して信頼できるこの世界の情報を得ることが出来る。
そうしたらデミウルゴスを始めとした守護者たちの報告と照らし合わせる事で懸念事項が大幅に減る可能性も十分にある。
アルベドに后になるように命じたのは愛が本物であった場合は縛る枷になるだろうという打算からだ。
我ながら酷いとは思ってはいるがしておくべきだろう。
「行け我が息子よ」
「はい!父上!」
創造主に息子と呼ばれるということはどれほど甘美な響きだろうか。
パンドラはそう思いながらも感動に震えるがある事を思い出して懐からあるものを取り出す。
「父上これを」
「これは?」
「はい。これは───」
パンドラが玉座の間から出たのを確認してから呼ぶ。
「ルベド」
玉座の後ろから髪も肌も服も異形の証である翼も全てが純白のアルベドの面影がある女性が現れる。
ルベド。
ナザリック最強の個と呼ばれるアルベドの妹。
種族は
自動人形と天使の種族レベルを持つことでなる事ができる隠し種族。
この種族でも結構強いのにそこに世界級アイテムが加わるのだからもはやチート級だ。
起動してわかったが創造したタブラ・スマラグディナが何かをしていたようだ。
アインズに凄く懐いていた。
何故か分からないが凄く懐いていた。
頬ずりまでされた。
何度か沈静化されたがすぐに停止させようとしたら雨に濡れた犬を思わせるような目で見てきたので負けて起動したままでいる。
もちろんリグレットには警戒するように言ってはある。
「お前が私の傍にいるということは私が許可を与えるまで完全に秘匿とする。いいな、私の命令がない時は絶対に動くな。例え私が死んでもだ」
「・・・・」
ルベドは金色の瞳を細めると頷いて姿を消した。
「リグレット、パンドラ、ルベド、アルベド、そしてオーレオール。まだたったの5人か」
味方に付いただろう者たちを挙げてため息をつく。
だが戦力としては十分だ。
ナザリック二大戦力とギルメン全員の8割の力を使用出来るパンドラズ・アクターにナザリック最硬のアルベドにナザリック唯一の人間。
負ける可能性があるとすればアウラかマーレが敵に回った時。
特にアウラが敵に回ったときはマズイ。
アウラの本領は群なのだからアウラのシモベ全てが襲いかかってきたら死ぬ可能性が一番高いのはアインズ自身。
「やはりオーレオールを味方につけたのは大きかったな」
ナザリックの階層間を行き来する転移門の管理者。
1つの階層を隔離することも可能にするそれは、指輪を持っていなければ階層から永遠に出ることが出来なくする事が出来る。
「第2階層から第9階層を塞ぐ事も可能だからもしもの時も安心か」
最終手段ではあるがそれも検討しながらアインズは目を細める。
2人には警戒するように言ってはあるがアルベドの愛は本物だ。
アルベドの設定変更に対しての罪悪感がないわけではないが創造したタブラ・スマラグディナはナザリックを去った。
そしてこの世界に転移した。
彼もこの世界に転移しているのだとしたら戻ってくるまでは好きにしても許してくれるだろう。
もし許してくれなかった場合は素直に身を引こう。
だがそれまでは好きなようにしよう。
「次はデミウルゴスだな」
ナザリック最高の知恵者。
反乱の首謀者または参謀になるであろうシモベ。
時間をかけてデミウルゴスさえ味方につければ・・・。
「いや、時間を掛けるだけ不利になるか」
相手は自由に動き回れるが自分は自由に動けない。
動いたとしても誰にも知られずにというのは不可能だ。
呼ぶべきか?
アインズの脳裏にそれが浮かぶがすぐに実行せずに十分に考える。
決めるとすぐに行動した。
「デミウルゴスを呼ぶ。警戒せよ」
「第7階層守護者デミウルゴス。御身の前に」
階段下で跪くデミウルゴスはナザリックの絶対支配者にして唯一残られた至高の御方に対して忠誠の証として跪き頭を垂れる。
「面をあげよ」
顔を上げ数日振りに見る至高の御方の姿にデミウルゴスは身を震わせる。
「それでお前を呼んだのは他でもない。アルベドから聞いたがお前たちを私が信頼していないと感じていると」
「申し訳ございません。恐らく至高の御方であるアインズ様は我々には想像も付かない程の深謀遠慮の計画があるが故に行動しているというのに───」
「その通りだ」
「───我々が・・・え?」
「私はお前たちを信頼していない」
デミウルゴスは目を見開き眼光に埋まる宝石を露わにする。
「で、では・・・我々は、不要・・・」
デミウルゴスは思わず声を震わす。
それこそシモベである者たちが裏切り者として死を与えられる事よりも恐れる事。
不要だとして去るもしくは処分される事。
つまり捨てられる事だ。
「それは違うぞデミウルゴス」
「では・・・」
「私は恐ろしいのだ」
「恐ろ、しい」
何を恐れているのだろうかと疑問に感じるデミウルゴスにアインズは告げる。
「お前たちが私に刃を向けることがだ」
「その様な者がこのナザリックにいるはずがございません!」
アインズは興奮するデミウルゴスに手で落ち着くように言いさらに続ける。
「仲間が残したお前たちが私に刃を向ける事。それは仲間たちが私に刃を向ける事だと思うのだ。私はそれがたまらなく怖い。故に少しずつその恐怖を取り除こうとしているのだ」
「・・・・まさか。至高の御方々がそうあれとお決めになられた事!その中に反乱を起こすように決められたものがいるかもしれないとお思いなのですか?もしくは転移による変化でそれが起きてしまっている者がいると」
アインズはデミウルゴスの言葉に驚きと感心を覚えた。
そこまで推察できるとは流石はナザリック最高の知恵者だ。
「その通りだ。では次にパンドラとリグレットを信頼する理由を言おう」
一瞬疑問を浮かべたデミウルゴスの考えを予測してそれに対しての答えを出す。
「アルベドにも言ってはあるが・・・お前たちがそうあれと決められた事というものを我々は設定と呼んでいる」
「設定・・・つまりは文章で我々の全てをお決めになられておいでなのですね」
「そうだ」
顔を伏せたデミウルゴスに対して目でリグレットに警戒するように指示する。
自分の形成するものがただの文章だと知れば激怒して当たり前だろうと思ったからだ。
だがデミウルゴスはアインズの予想の斜め上を行った。
「流石は至高の御方々!」
「なに?」
「我々など至高の御方々の前ではどうにでもなる塵芥の如き存在だとは!まさに至高!言葉では表せられない御方達です!」
「それでだ、デミウルゴス」
「はっ!失礼しましたアインズ様」
我に返ったデミウルゴスはすぐに跪く。
「気にするな。パンドラは私が創造した為に信頼できるというのは理解しているな」
「はい」
「リグレットに関してはこの世界に転移する直前に設定を全て確認したのだ」
「なんと・・・では変化の方も」
「パンドラも含めて変化はないと判断した」
「なるほど。では我々階層守護者がその中に入っていないのは今は設定が閲覧できないまたは変化を確認していないが為なのですね」
「そうだ。お前たちには悲しい思いをさせているだろうが我慢してもらえないだろうか」
「もちろんです!我々シモベは至高の御方の為だけに存在すべき!反乱を企てる愚か者がいる可能性があるのであれば全てのシモベを遠ざけて少しずつ確かめるのが一番安全です!」
「ナザリック最高の知恵者であるお前のお墨付きを貰えたのであれば私も安心だ」
「ナザリック最高の知恵者とはアインズ様の事でございます。私などアインズ様の足元にも及びません」
デミウルゴスの言葉にアインズは肩を揺らして笑うとデミウルゴスに告げる。
「だが全てのシモベを私だけで調べるのには時間がかかりすぎる。よって階層守護者たちの忠義を確かめた後に各々の高位のシモベたちに対して調べることを命じようと思っている。そして高位のシモベはその配下。その配下はまたその下の配下と徐々に数を増やしてナザリックに反乱を企てる者がいないと判断を───」
そこで1人───いや1匹か?───だけ反乱を企てる者がいたのを思いだした。
「───エクレア以外の全ての者を調べさせて判断をしようと思っている」
「畏まりました。では私はどうしたら設定に反乱を企てる事がないということ。そして変化もないことを証明できるのでしょうか」
「そうだな・・・あまり使いたくはないがこれを使おう」
アインズは1つのアイテムを取り出す。
「それは?」
「完全なる狂宴・・・これを使用するとアンデッド、悪魔、インセクト、闇妖精を対象に思ったことをすぐに口にしてしまうようになるというものだ」
パンドラズ・アクターが作ったアイテムだ。
なんでも完全なる狂騒を元に作り上げたとか。
「効果は1時間だが、それだけあれば本音を引き出せるだろう。デミウルゴスよ。全階層守護者とアルベドを玉座の間に集まるように言え」
「はっ!」
デミウルゴスは優雅に一礼すると玉座の間を出ようとする。
「待て」
「はっ・・・いかがなさいましたでしょうかアインズ様」
「
「ああそうでした。私としたことが・・・失礼いたしました」
自分が信頼されていないことを思い出して苦笑しながら伝言を使用して守護者たちを呼ぶ。
「皆、すぐに集まるそうです」
「そうか」
アインズは完全なる狂宴を手の中で転がしながらリグレットに言う。
「リグレット。反乱の意を告げた者は全て殺せ。よいな」
「殺していいの?」
「ああ。復活の金額を考えると頭が痛くなるがいつ爆発するか分からない爆弾を抱えておくよりかはいいだろう」
リグレットの顔に笑顔が浮かび頷く。
「分かった!」
死の女神なのだから死を与えるのが好きなのだろう。
そう思いながら守護者たちを待つ。
しばらくして玉座の間の扉が開き守護者たちが入ってくる。
「第1、第2、第3階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
「第5階層守護者コキュートス。御身ノ前ニ」
「第6階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」
「お、同じく第6階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に・・・」
「守護者統括アルベド。御身の前に」
全員が跪き頭を垂れる。
「面をあげよ」
アインズの言葉で全員が顔を上げる。
「まずはアルベド。何度も呼び出して済まないな」
「勿体無きお言葉ですアインズ様。我々シモベはアインズ様がお呼びであるのならば即座に参りましょう」
アルベドの言葉にアインズは頷き手に持ったアイテムを見せる。
「私は思う。お前たちは信頼に足るシモベなのかどうか」
アインズの言葉に階層守護者たちは戸惑いの表情を浮かべる。
デミウルゴスとアルベドの表情は変わらないが。
「故に私はお前たちの本音を引きずり出す事にした」
「その御手にあるアイテムを使ってでしょうかえ?」
「その通りだシャルティア」
クラッカーの形をしたそれの紐を引っ張る。
破裂音と共にヒラヒラと紙吹雪が舞う。
「これは使用者以外のアンデッド、悪魔、インセクト、闇妖精・・・そして天使と自動人形の思ったことを口に出させるアイテムだ」
作中のドイツ語は翻訳アプリを使って書きましたので文法としてあってるかどうかは分からないので、もし間違っていたら教えて下されば幸いです。
~前話のあとがきの冷静な理由の発表について~
あの時は謝罪に力を入れていたので気づかなかったのですが、「冷静な理由」ってもうここで発表してない?と思いました。
あとで発表しようとしていた内容とだいぶ被っているので、冷静な理由は3話目の内容という事にします。
楽しみにしていた方は申し訳ありませんでした。