ナザリック地下大墳墓・宝物殿。
そこへ至る道は存在せず辿り着く方法はただ1つ。
ギルドメンバーの証であるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる転移のみだ。
そしてそこへ死の支配者と1人の少女が転移してきた。
「相変わらず毒々しい色をしてるね」
「ブラッド・オブ・ヨルムンガンドを使っているからな。毒無効が無い者は3歩と歩かずに死ぬ」
至高の御方であるアインズとその娘リグレットだ。
アインズと共にリグレットが宝物殿に来たが理由はとあるNPCに会うためだ。
そのNPCはアインズが最も危惧する相手───ルベドとタイマンを張れるリグレットがいるのでルベドは問題ない───であり最もダメージを───精神ダメージを───与える存在だ。
山のように重なった金貨の山や壁に置かれる様々な宝物に目も暮れずに黒いものが張り付いた扉の前に立つ。
「えーと・・・「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ」」
湖面に何かが浮かぶように漆黒の扉の上に文字が浮かぶ。
「確か───かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう───だったか」
その言葉と共に今まで蓋となっていた闇がある一点に吸い込まれて空中にこぶし大の黒い球体が残る。
そして闇が消えたことによってその奥───管理が行き届いた博物館の展示室のような部屋───が現れ長くずっと奥まで続いている。
アインズは顎をしゃくってリグレットを先に行かせる。
リグレットはその部屋に飾られた様々な武器───ほとんどが魔法武器───を一度たりとも目を向けずに前のみを見続ける。
100メートル程の距離を歩き終着点である長方形の部屋に出る。
待合室なのかがらんとした部屋にソファとテーブルのみが置かれている。
そしてふらりと姿を現すある者。
その者は人の体に歪んだ蛸にも似た生き物に酷似した頭部に皮膚は水死体の如き白に紫色がわずかに混じり粘液に覆われているようないような光沢を持っている。
リグレットが若干腰を落として戦闘態勢を整える。
かつての仲間であるタブラ・スマラグディナの姿をしたそれに対してアインズは命令をする。
たそれに対してアインズは命令をする。
「パンドラズ・アクター。元に戻れ」
姿がぐにゃりと歪み別の姿───元の姿───になった異形の者が現れる。
顔は鼻などの隆起を完全にすりおろしたのっぺりとし目と口に該当するところにぽっかりとした穴が開いている軍服と軍帽をまとった存在。
名をパンドラズ・アクター。種族は
そのコピー能力を使えば相手に対して最適な戦い───今現在はアインズを含めたギルドメンバー41人をコピーしているのでその中から───が出来る。
戦法が42もある相手というのは守護者たちを相手にするよりも厄介な相手だ。
警戒しているとパンドラはカツンと踵を合わせて鳴らすとオーバーなアクションで右手を帽子に添えて敬礼する。
「ようこそおいで下さいました、私の創造主たるモモォンガ様っ!そして我が妹にしてナザリックの姫君・・・リグレット!」
どうやら異変は感じられないな。
現実逃避気味にアインズはそう思いながらリグレットに警戒を解くように言う。
「パンドラズ・アクター。お前は私の命令で・・・そうだな、他のギルメン。お前たちが至高の41人と呼ぶ存在と敵対できるか?」
「もちろんでございます!モモンガ様のご命令であれば例え至高の41人の方々だろうと殺すことも厭いません!」
「そうか」
どうやら創造主に対しては他のギルメンよりも高い忠誠心を持っているようだ。
アインズが一番知っているNPCでもあるので転移した際に起きる変化がないのであればリグレットと同様に信頼の置けるNPCだろう。
「ではパンドラズ・アクター。お前に伝えるべきことを伝える。まずは私は名を変えた。今度はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと呼べ」
「おお!承りました。私の創造主、アインズ様!」
敬礼するパンドラズ・アクターに今置かれている状況───異世界に転移したと事と世界を手に入れる事を、そして転移したことで生じた可能性がある変化の確認と忠誠を見ている事を伝える。
「なるほど・・・私はいかがしましょうか。ナザリック最大の危機だと予想される現在。階層守護者を筆頭とした至高の41人の方々が生み出し配置されたシモベたち全ての忠誠を確認していては数年から数十年はかかってしまうのではと愚考します。主要なシモベ───守護者統括殿や階層守護者殿たち───は既に忠誠を確認なされて居るのでしょうか。私が身代わりとなって確認いたしましょうか?」
「それには及ばない。既に守護者統括アルベドを始めとした第4、第8階層守護者を除く全ての守護者の忠誠は確認した。もちろん演技をしている可能性はあるがとりあえずは信頼する。本当の意味で信頼できるのはこの場に居る者たち───リグレットとパンドラズ・アクターのみだ」
「おお!私を信頼してくださるとは・・・ですがアインズ様。私は御身の手で創造されたが故だと分かるのですがリグレットは何故なのでしょう?他の至高の41人の手によって創造されたというのは信頼できるかというと些か疑問に感じます」
パンドラズ・アクターは表面上は取り繕っているがリグレットに向けて敵意を示す。
「まぁその通りだよね。私も知らないから分からないけど・・・なんでなの?お父さん」
リグレットも疑問に感じていたのかアインズに問いかける。
アインズはそれを眺めてから息をつく。
「設定・・・お前たちが至高の41人にそうあれと決めたとされるものを私たちはそう呼んでいる。その設定はお前たちを構成する全てだ。それを私はこの世界に転移する前にリグレットのもののみだが全て見たのだ。その上で私は娘として足りぬものを感じてそれを書き加えた。ペロロンチーノが生み出したシャルティアもよく知っているが設定を全て閲覧したわけではない。つまりパンドラよ。お前を除けば設定を全て理解しているのはリグレットのみなのだ。転移による変異も見受けられないから裏切りはない信頼に足る者だと私は判断している」
「なるほど・・・了解しました。私の疑問にお答えいただきありがとうございます!そして妹よ!疑って済まなかった!」
「別に気にしてないよ。私も同じ立場だったら同じことを言っただろうしね」
息子ともいうべき存在と娘とされた存在の話を聞きながらアインズはこれからのことを考える。
ナザリックの掌握をし終わった後はこの世界の強さを調べるべきだろう。
その後は世界に向けて侵攻を始める。
この世界にもし仲間たちが来ているのならば示すのだ。
永久に消えないアインズ・ウール・ゴウンを。
「パンドラズ・アクター」
「はっ」
「お前はアルベド、デミウルゴスと共に情報収集などの政務を任せるつもりだ。無論、最終決定は私が行うが・・・何をすべきかはわかっているな?」
「もちろんでございます。アインズ様。アルベド殿、デミウルゴス殿を間近で監視。可能であれば他の守護者の方々も監視を行う事。そして裏切りの節が見えた場合はすぐに捕縛いたします」
パンドラズ・アクターの返事にアインズは満足げに頷く。
「任せたぞ」
「お任せを!」
「次にリグレット」
「うんなに?お父さん」
「お前には私の護衛を頼みたい。常に私の傍にいて私の身を守れ」
「分かった!お父さんは私が守るね!」
満面の笑みでそう答えるリグレットの頭を撫でる。
「えへへ・・・」
嬉しそうにするリグレットを見てふと思う。
設定とは言え娘がいるのだ、息子のような存在であるパンドラも息子として扱うべきか。
そう考えアインズはパンドラズ・アクターに目を向ける。
「パンドラズ・アクター」
「はっ!何でございましょうか、んアインズ様!」
「・・・・お前が嫌ではなければ、信頼の証として息子と呼ぼうかと思っているが「ぜひ!」む、そうか。では我が息子よ。お前ならば全てを失態なく行ってくれると期待しているぞ」
「ありがたきお言葉!父上の期待に応えてみせます!」
オーバーなアクションで言うパンドラズ・アクターも撫でてやる。
「そうだ。これを渡しておこう」
「おお!これはっ・・・ありがとうございます!」
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをパンドラズ・アクターに手渡す。
パンドラズ・アクターは宝物のように両手で受け取り天高く掲げふるふると小刻みに震えて感動をしている。
「有事の際はここに集合するとしよう。いいな」
「承りました。父上!」
「分かったお父さん!」
そして指輪で転移してアルベドとデミウルゴスに会わせて「情報収集を含んだ政務等を行うように」と命じた。
これで内部掌握に専念できるだろう。
見ている限りでは忠誠心MAXだがそれを確かめずに何もかもを任せるというのは考えられない。
守護者たちに対しての信頼も・・・少しはあるが設定を確認した上で変化を見なければならない。
「しかし妙だな」
「何が?」
呟いた言葉にリグレットが反応するがアインズはそれに手で返事をしてから考える。
今まではいっぱいいっぱいで考えもしなかったがこんなにも自分は冷静だったのだろうかと。
正直に言おう。断じて否だ。
であるのならば考えられる可能性としては転移による変化。
もしくは体が変化したことによる精神の変化。
可能性が高いのは後者だ。
アンデッドの精神攻撃無効の範囲が拡大して自分の精神を大幅に抑制しているのではないだろうか。
もしそうなら常に感情を持たずに冷静に行動できるだろうが、そうではなかった場合のことを考えると過信するのはダメだろう。
「・・・・」
何か精神を大きく揺さぶることはないだろうか。
かつての仲間のこと・・・そう、ユグドラシルの時のことを考えよう。
アインズはかつての仲間たちとの冒険の思い出に浸る。
そうそう、ウルベルトさんとたっちさんはいつもいがみ合っていたな。
るし☆ふぁーさんは正直好きではなかったしあのゴーレムにバグもわざとだったはずだ。本人はバグだと否定していたが。
今思い出したら全てがいい思い出だ。
徐々に楽しくなっていき笑い声が口から漏れ出しそうになった時に感情が一気に抑え込まれた。
「なるほど」
一定ラインを超えた感情は強制的に沈静化される。
そして未だに自分は感情を持てるということは完全にアンデッドになってはいないということ。
リグレットやパンドラと共にいた時と玉座の間にいる時の安心感の違いも感じる。
ならば全ての感情ではなく特定の感情のみが大幅に抑制されているということなのだろうか。
例えば冷静の大敵である───
「───焦り」
焦りが通常よりも大幅に抑制されているのなら冷静でい続けられるというのも納得がいく。
焦りがなく常に冷静でいられるのであればどれほどのメリットがあるのかは想像に難くない。
もしかしたら怒りや悲しみや憎しみも大幅に抑制される対象なのかもしれない。
同じように仲間たちが去っていくのを思い出すが、ほとんど感じない。
わずかに悲しみを感じるがただそれだけだ。
いや悲しみを感じると同時に感情を沈静化された時の感覚がする。
沈静化するラインが他の感情よりも低いというだけか。
焦りのラインは悲しみよりも低い───というより感じそうになるのと同時に沈静化されている───可能性が高い。
「これはいいな」
自分の感情に対する推察を終えてアインズは玉座から立ち上がる。
「リグレットよ。第8階層へ向かう。完全武装をしろ」
「分かった」
※作者からの謝罪
前もって原作とは違う設定に対しての私の説明不足のせいで、この小説を読まれてご不快になられた方がいたようです(メッセージで頂きました)。
その件に関しては申し訳ありません。
あらすじか何かに書いておけば良かったのでしょうが「この小説は書きたいから書く」という勢いのみで書いている部分があったためにそこまで頭が回りませんでした。
その部分に関しての加筆はしておきますので、もしよろしければこれからこの小説を読んでいただけると幸いです。
以上。
アインズに冷静さが無いとのご意見でしたが、これはわざとその様に書いています。
その理由については、小説内で軽い感じで発表しますのでそれまでお楽しみに。