「ごふっ!?」
毒々しい紫色の線がモモンガに向かって伸びたと思ったら重い一撃が襲ってきた。
何が起きたのかモモンガが理解する前に起こした張本人から声が上がった。
「お父さんがどこかに行っちゃうなんて嫌だ!」
毒々しい紫の髪を持った少女───リグレットが抱きついていた。
ルベドとタイマンを張れる程の近接職の突進を魔法職のモモンガが知覚できるはずがない。
先ほど見た線はリグレットのものかと理解して安堵のため息をついた。
横を見るとアルベドがワタワタと慌てている。
「モ、モモンガ様。リグレット様。あ、えっと。どうすれば・・・引き剥がす?いえそれはモモンガ様の娘であるリグレット様にたいしての不敬・・・」
口が動いている。
リグレットに関しては仲間たちが作ったことからこの様なAIを組んでいたことも考えられた。
だが口が動くなどデータ容量的にユグドラシルではありえないことだ。
いやそもそもだ。
リグレットから抱きついてきたとしても18禁行為としてアカBANされるはずなのだ。
なのに運営からの通知がない。
時間も確認すると既に終了の時間を10秒ほど過ぎている。
ここはユグドラシルではない?
モモンガの体に抱きつくリグレットの体温を感じながら様々な憶測を立てる。
その中で1番可能性が高い「ゲームではない」という憶測を確認するために行動を起こす。
「・・・・リグレット。私は何処にも行かないから離れなさい」
「やだ」
「・・・・」
これも場合によってはAIと言える。
規定の言葉以外にはこうして返すと設定すれば可能だ。
ならば違う相手に対して曖昧な言葉を告げる。
「アルベドよ。私はこのままで構わない。それでだが・・・セバス」
「はっ」
リグレットを後回しにして執事であるセバスに命令を下す。
「ナザリック地下大墳墓の外を捜索せよ。範囲は1キロメートル。1時間ほどで戻って来い。知的生命体がいた場合はナザリックに連れて来い。その際に相手の要望は可能な限り叶えても構わん」
「畏まりました」
「だが戦闘になった場合は撤退を前提に行動せよ。撤退できない可能性を考慮してプレアデスを1人───ソリュシャンでいいだろう───を連れて行け」
「畏まりました」
セバスとメイドのソリュシャンは立ち上がると一礼してから玉座の間を出ていった。
割と曖昧な部分があったはずだが真意を理解して行動した。
つまりは人に近い思考をしているということ。
これを再現するには現代の科学力では不可能だ。
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のみにユグドラシルのリソースを当てれば可能にはなるだろうが、それを行う意味がない。
「残りのプレアデスは各階層守護者。第4と第8階層を除く守護者を玉座の間に来るように伝えて守護者たちが戻ってくるまで守護者代行としてその階層で待機せよ。守護者たちには武器の類は一切持ってくるなと伝えるのは忘れるな。行け」
「はっ!」
プレアデスたちが玉座の間を出て行くのを見送ってから横にいるアルベドに目を向ける。
「アルベドよ」
「はいっ何でしょうか!」
アルベドの目が輝くセバスと同じように命令を貰えると思って期待している目だ。
「土くれでも武器となり得る物を持って来た者がいた場合はただちに捕縛せよ」
「申し訳ございませんモモンガ様。モモンガ様が命令されたのであればそれに従わないシモベはこのナザリックには存在しないかと愚考いたします」
「私もそう思う。だが何らかの異変が今起きている。幸いとして玉座の間に集っていた者たちには異変は起きていないが他の者にも起きていないと思い行動するは愚か者のすることだ」
「なるほど。愚かな私の意見にお応えくださりありがとうございます。捕縛の件、このアルベドにお任せ下さいませ」
「頼んだぞ」
そして最後に抱きついているリグレットに目を向ける。
「リグレットよ。いい加減離れたらどうだ」
「・・・・どこにも行かない?」
「少なくともナザリックを捨てては行かん」
「本当?」
俯いていた顔を挙げて尋ねるリグレット。
その顔は少女と女性の間でありながらアルベドと遜色ない絶世の美女。
瞳と髪は同じ毒々しい紫色。
その肌は病的なまでに白い。
「無論だ。ナザリックは私の全てだ」
モモンガの言葉でリグレットは納得したのかようやく離れた。
「リグレット。我が娘よ。父の願いを聞いてくれないか」
「うんいいよ。お父さんのお願いならなんでも聞いちゃうよ?」
忠誠心というより親子愛だろうか、モモンガこと鈴木悟は幼くして両親を失っている為にリグレットの感情を理解できない。
だが敵対することは微塵も考えていないようだ。
「アルベドが守護者を捕縛した際は私を守ってほしいのだ。何らかの異変が起きている今、守護者たちにも何らかの変化が起きていると推測できるのでな」
「分かった!」
防御特化戦士職のアルベドを捕縛に回してリグレットを守護に回した。
普通ならば逆にするだろうが理由はある。
正直アルベドも信用できないのだ。
設定を見たといっても流し読み程度なのだ。
流し読みして飛ばした中に「実はギルメンを嫌っているがそれを完全に隠せる程の演技力がある」とあって殺そうとしてきたらマズイ。
守護者も敵対していてリグレットの足止めに徹したらその間にモモンガは間違いなく死ぬ。
その点はリグレットは違う。
リグレットの設定は隅から隅まで読んでいたのでそのような記述がないのは確認済みだ。
その内容はモモンガがいるからギルメンもついでに尊敬しているという節の設定なのだ。
簡単に言えばモモンガ命だ。
それにリグレットなら守護者と守護者統括であるアルベドたちを一気に相手をしてもモモンガの撤退時間を稼げるだろうし、指輪を使うことでのみ行ける宝物殿に撤退しろとでも言っておけば撤退くらい可能だろう。
さて次に確認するべきはスキルと魔法。
ここがゲーム内ではないということは確実だ。
ナザリックについてはゲームと同じようだがシステムまでもが同じとは限らない。
「
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに付いている神器級アーティファクトの力を使用して
「モモンガ様これは・・・」
アルベドの言葉を無視して月光の狼の1匹に指を向ける。
「
巨大な火球がモモンガの指先に出現して月光の狼を中心に爆散した。
月光の狼が焼かれて灰となって消え去る。
玉座の間が少し焦げてしまったが
そしてアルベドを捕縛しやすいように階段から下ろしてしばらくして。
玉座の間の扉が開かれて数人の者たちが入ってきた。
まずは漆黒のボールガウンで全身を包み込み、その他にもボレロガーディガンとフィンガーレスグローブを付けてほとんどの肌を隠している銀髪に真紅の瞳の14歳かそれ以下の少女が跪く。
「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
次に2.5メートルはある巨体の二足歩行の昆虫を思わせる悪魔が歪め切った蟷螂と蟻の融合体のような姿で、身長の倍はあるたくましい尾や全身からは氷柱のようなスパイクが無数に飛び出している者が跪く。
「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」
次は上下共に皮鎧に赤黒い竜王鱗を貼り付けた軽装鎧とその上に白いベストに白色の長ズボンを着た、金髪に薄黒い肌に耳が長く尖り青と緑という左右違う瞳の10歳程度の少年の姿をした少女が跪く。
「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」
次もアウラと似た風貌でありながら着ているのは藍色の胴鎧に深い緑色のマントに白いスカートに白いストッキングをはいた10歳程度の少女の姿をした少年が跪く。
「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」
最後に1.8メートル程の日に焼けた肌に顔立ちは東洋系でオールバックに固められた漆黒の髪、丸メガネをかけた赤い三つ揃えのスーツに身を包み後ろからは銀のプレートで包んだ尻尾が伸びている男が跪く。
「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
「モモンガ様。第4、第8階層守護者を除く全ての階層守護者が集まりました」
「うむ」
モモンガは玉座から立ち上がり跪く守護者たちを睥睨する。
アルベドもリグレットも反応しないことから武器を持ってきた者はいないようだ。
「よく集まってくれた。階層守護者たちよ」
「至高の御方の命であれば即座に参るのは当たり前でございます」
デミウルゴスの言葉に他の守護者たちも同意する。
「お前たちの忠誠に感謝しよう」
「勿体無きお言葉です」
取り敢えず見た所では反抗の意思を見せる者はいない。
「では呼び出した理由を言おう。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれている。私の推測ではゲー・・・別の世界にナザリックが転移してしまったのではないかと思っている」
ゲームではないと言いかけてすぐに最もらしいことに変換する。
というかこれが一番当たってるのかもしれないな。
「なんと・・・そのような事が!即座にそのような行いをした者を捜し出しましょう!」
「待つのだデミウルゴス。お前の忠誠は嬉しいがその前にやるべきことがある。それに犯人がいるかどうかも怪しいものだ」
「はっ!ではやるべきことというのは・・・」
「まずは情報だ。別の世界に転移してしまっているのならばこの世界の情報を集める。どうやら我々が使っていた魔法はこの世界でも使用できるので自衛は出来る様だが・・・この世界の住人の強さはどれほどなのか。問題は始まりのレベルだ。我々はレベル100だがこの世界の住人のレベルの始まりがレベル100なのかもしれん。この場合は我々もさらに強くなれる可能性があるが、その10倍であるレベル1000だった場合は我々は成す術なく滅び去る」
モモンガの言葉で全員が信じられないといった顔をする。
だが事実だ。
レベルが10違うだけで勝つのは困難になるのだ。
900も違ったら鎧袖一触も甚だしい。
鼻息一つで吹き飛ぶこともありえる。
「だが逆に弱い可能性もある。だからこそ情報を集める必要があるのだ」
「ではまずはナザリック地表付近の捜索を」
「それはセバスに既に任せてある。時間通りならばそろそろだが・・・」
モモンガの言葉が合図だったかのように玉座の間の扉が開きセバスが入ってくる。
「お待たせ致しましたモモンガ様」
跪きチラリと守護者たちを見る。
「今は非常事態が故に守護者たちにも集まってもらった。セバスよ。お前が見てきたことを全て話せ」
「畏まりました」
セバスは跪拝してから報告をはじめる。
「まずナザリック地表部の周囲1キロですが───草原です」
「草原だと?沼地ではなくてか」
「はい。人工建築物は一切確認できませんでした。生息している小動物も何匹かは見ましたが、モンスターも含めて人型生物や大型の生物は発見できませんでした。そして小動物は戦闘能力はほぼ皆無と思われます」
「なるほど。では草原というのは草が鋭く凍っており歩くたびに突き刺さるなどもないな?」
「はい。単なる草原です。特別な何かがあるということはありません」
「では空はどうだ。天空城などの姿はあったか?」
「ございません。空にも地上にも人工的な明かりのようなものは一切なく、第6階層のような星空と草原があるのみでした」
「星空だと?それは・・・美しかったか?」
「はっ・・・・・・」
セバスはモモンガの問いに答えずに口ごもる。
「よい。お前が正直に思ったことを言え」
「はっ・・・では恐れながら。不敬だと重々承知の上で申し上げます。ご不快であった場合はすぐに私を処刑してくださいませ」
重いなーと思いながらも顎をしゃくって先を促す。
「第6階層の夜空・・・至高の御方であらせられるブルー・プラネット様がお作りになられたものよりも美しいと思っております」
瞬間、玉座の間に殺気が満ちる。
「皆の者。怒りを収めろ」
「「はっ!」」
モモンガの制止で殺気を収める守護者たち。
それを見て忠誠心は本物だと感じて満足して頷く。
「私が無理に言わせたのだ。お前たちの私を含めたメンバーたちへの忠誠を確かに受け取った」
全員が恍惚の表情でモモンガを見る。
「しかし、高い忠誠を持つセバスでさえそう思ってしまう夜空か。見てみたいな」
第6階層の夜空はとても素晴らしかった。
だがそれ以上のものが外にあるという。
見てみたいと思うのはおかしいだろうか。
いやおかしくない。自然な反応だろう。
「そうだな・・・デミウルゴスよ」
「はっ!」
「リグレット」
「なに?お父さん」
「外の星空を見に行こう」
「モモンガ様!なりません!御身にもしもの事があったら!」
アルベドが叫ぶかのように言うがモモンガは手でそれを止める。
「お前にはこの地を・・・ナザリックで指揮をとってもらいたい。お前を信用してだ」
「私を信用して・・・ですが、デミウルゴスよりも私のほうが護衛として適役かと!」
「そうだな。だがアルベドよ」
「何でしょうか!」
興奮するアルベドの頬を撫でてモモンガは過去の仲間に聞いた言葉を告げる。
「お前の設定を書き換えたが故の思いだということはわかっている。だがな。男というものは女に家を守っていてもらい、そこへ帰りたいと思うものなのだ。家を守るのが愛するものならばなおさらだ」
「あ、愛する・・・愛する・・・!」
徐々に顔が赤くなるアルベドにモモンガは畳み掛ける。
「
「か、畏まりました!モモンガ様!」
「私もいるから安心してね。アルベド!」
「微力ながら私もいますしね」
「えぇ。頼りにしてるわ。
「他の階層守護者はアルベドの指示に従ってナザリックを守れ」
「「はっ!」」
階層守護者たちの返事を聞いてからデミウルゴスを連れて指輪で地表部へと転移した。
「わぁ・・・きれーい」
「これは驚きましたね。モモンガ様」
地表部に転移して空を見上げて驚愕から固まる。
「
いつの間にか口から漏れたその魔法で重力の縛りを断ち切り浮上する。
「あっ待って!」
メキメキっと何かが突き破る音がしたが気にせずに上空へと躍り出る。
数百メートルほど上りその光景を目に焼き付ける。
透き通った夜空。
月や星から降り注ぐ大小強弱様々な星々の光。
なんと美しいことか。
「素晴らしい・・・いや、素晴らしいなどという陳腐な言葉には決して収まらない」
第6階層の夜空を作った自然を愛した彼がこの夜空を見たらどう表すのだろうか。
彼が言った「自然の美しさは人々を魅了するだけじゃなく感動して涙を流すんですよ」という言葉。
その時は理解できなかったが今は理解できる。
涙を流せないこの身が妬ましく思うほどに。
モモンガの耳にばさりと羽音が飛び込みそちらに目を向ける。
そこには形態変化───背中からは濡れたような皮膜の大きな黒翼を生やして顔つきも蛙染みたものになったデミウルゴスがいた。
複数の形態を持った異形種がおり、人間形態や半形態時にペナルティを受けるがその分完全異形形態時にはボーナスを得られるように設定できる。
そしてもう1人。
腐敗したボロボロの翼を生やし両手両足が毒々しい紫色の骨となったリグレットが笑顔でいる。
2人から天空に輝く星に目を向けたモモンガは感嘆のため息をついた。
「なんと美しいことか・・・セバスが第6階層よりも美しいと言ったことも頷ける」
ブルー・プラネットさんが第6階層の夜空を作り出した時に言っていた「本当の夜空はこれと比べ物にならないくらい美しいんですよ。それが出来なくて悔しいな」と呟いていたな。
あの時はそんなことないとギルメンたちで慰めたがなるほどな。
「相手が悪いですよ、ブルー・プラネットさん」
これを相手にするくらいならワールドエネミーを1人で相手にする方がまだ勝算があるだろう。
「キラキラと輝いて・・・まるで宝石箱みたいだ」
「そうなのかもしれません。この世界が美しいのはモモンガ様の身を飾るための宝石を宿しているからに違いないかと」
デミウルゴスのお世辞に一瞬だけ苛立ちを覚えたが美しい世界を見ているとすぐに霧散する。
「本当に美しい。こんな星々が私の身を飾るためか」
確かにそうなったら素晴らしいのかもしれない。
モモンガは顔のすぐ前に手を翳すと握り締める。
天空に輝く星のほとんどがその手の中に収まるが、所詮は手で隠されただけに過ぎない。
「私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやも知れないか。・・・いや私1人で独占すべきものではない」
モモンガは最も大きな光を放つ月を見上げて告げる。
「ナザリック地下大墳墓を───我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれないな」
少し考えてあることを決める。
「名を変えよう」
「え?」
リグレットが声を漏らすがモモンガは気にせずに告げる。
「我が名はこれよりアインズ・ウール・ゴウン。今より私はこの月の如き存在となろう」
モモンガにとってはちょっとした思いつき。
だが、2人にとっては別の意味を持った。
「!」
「・・・・」
その2人の反応に気付かずモモンガは心ゆくまま星空を堪能した。
玉座の間に戻りアルベドを始めとした守護者と高位のシモベたちを集める。
「我が忠実なるシモベたちよ。まずはよく集まってくれた。礼を言おう」
「礼など仰せになられずとも我らシモベは上位も下位も関係なくモモンガ様の忠実なるシモベ。すぐに集いましょう」
アルベドの言葉に守護者も含めて全てのシモベがより深く頭を下げる。
「そうか。では本題だが・・・至急、この場の者、そしてナザリック地下大墳墓の者たちに伝えるべきことがある。今回はこれからの指標を。最も大事なことを伝える。だがその前にだ」
モモンガの言葉を聞いて全てのシモベたちが心を引き締める。
絶対支配者であるモモンガの言葉を一言一句聞き漏らす不敬を演じることをしないために。
「
魔法によって天井から垂れていた大きな旗が1つ床に落ちる。
その旗のサインはモモンガ。
「私は名を変えた」
骨でできた指を玉座の上に掲げられる旗に向ける。
「今これより我が名はアインズ・ウール・ゴウン」
かつてこの地を支配した41人を指し示す名が、今は1人を指す名となる。
「アインズと呼ぶがいい。異論がある者はそれを立って示せ」
アインズの言葉に何かを言う者はいない。
他の40人がこの地を去っても尚、残り続けてくれた慈悲深き御方。
最後まで残っていたヘロヘロ様が去った時よりその名を示すのはこの御方のみ。
アルベドが満面の笑みで声を上げる。
「ご尊名伺いました。アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!いと尊きお方、アインズ・ウール・ゴウン様、ナザリック地下大墳墓全ての者よりの絶対の忠誠を!」
遅れて守護者たちが声を上げる。
「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!至高の御方々のまとめ役であられるアインズ・ウール・ゴウン様に私どもの全てを奉ります!」
「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!恐るべき力の王、アインズ・ウール・ゴウン様、全ての者が御身の偉大さを知るでしょう!」
NPCたちが、シモベたちが唱和し万歳の連呼が玉座の間に広がる。
友たちよ。この地を去りし我が友たちよ。
今だけはこの名を私1人の者とすることを許してくれ。
その代わりにこの名に懸けて誓おう。
全てを手にして、全てをお前たちに捧げると。
「これよりお前たちの指標となる方針を厳命する」
シモベたち全てがその言葉を聞いて口を閉ざして顔を引き締める。
「我が手に。アインズ・ウール・ゴウンの手に世界を捧げよ」
右手に持ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを床に突き立てる。
その瞬間、呼応するかのようにスタッフにはめ込まれたクリスタルから各種の色が漏れ出して周囲に揺らめいきをもたらす。
「英雄が数多くいるのなら全てを塗りつぶせ。アインズ・ウール・ゴウンこそが大英雄だと。生きとし生きる者全てに知らしめよ。より強き者がいたのならば力以外で。数多くの部下を持つ者がいるのならば別の手段で。今はまだその準備段階に過ぎないが、将来の来るべき時のために動け。このアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なる者であるということを知らしめるために!」
かつての仲間たちの内の何人が言っていただろうか。
彼らが言っておきながら実現しなかった夢。
それを叶えよう。
未だにこの世界がどんな物なのかはわかっていない。
だがやろう。
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光を」
未だに成し遂げた者が居ない偉業を。
アインズが玉座の間を去った後。
玉座の間は未だに熱気が渦巻いていた。
「皆、面を上げなさい」
アルベドの静かな声に惹かれるように頭を下げたままだった全ての者が顔を上げる。
「これから重大な話をします」
アルベドの視線は偉大なる御方の名を示す旗に注がれ続ける。
それは全てのNPCたち、シモベも同じだ。
「リグレット様、アインズ様が仰られた事をお聞かせください」
「うん分かった」
アルベドの隣で跪いていたリグレットは跪いたまま答える。
「お父さんは夜空を眺めていた時にこう言ったんだ。「私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやも知れない」って。その後はこう言ってたね。「私1人で独占すべきものではない。ナザリック地下大墳墓を───我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれない」。それで名前を変えるって言った時には「私は今より月の如き存在になろう」。どう言う意味かは私には分からないけど・・・」
「それについては同じく聞いていたデミウルゴスが気づいたらしいですわ。そうよねデミウルゴス?」
「えぇ」
デミウルゴスは微笑む。
悪魔の如き笑みで。
「宝石箱とは世界のこと。これについてはアインズ様が仰られていましたが、行動方針はその最後。月の如き存在という部分にそれがあります」
まるで狂信者のように跪拝すら出来ずに神に祈るがごときの姿勢になる。
「月とは夜の象徴!夜とは裏や闇。そして終わり───死の象徴!すなわちアインズ様は世界を裏側から支配し表すら裏にする事!不夜の世界ならぬ明ける事のない
「明けぬ世界。夜の世界。死の世界・・・その世界の王こそがあの御方。死の支配者であらせらるアインズ様に相応しい世界」
アルベドが呟きゆっくりと立ち上がると全ての者の顔を見回す。
「アインズ様の真意を受け止め、準備を行うことこそ忠義の証であり、優秀な臣下の印。各員、ナザリック地下大墳墓の最終的な目的はアインズ様に永久に色あせない宝石箱を───夜の世界をお渡しすることだとしれ」
アルベドは満面の笑みを浮かべて振り返る。
言葉などという下等なものでは表せられないほどの存在を示す旗に微笑を向ける。
「アインズ様。必ずや貴方様の世界を御身の元に」
声が続くように響き渡る。
「正当なる支配者たるアインズ様の元に、正当なる世界とその全てを」
アインズ様の「月の如き存在」 危ない夜の世界で見守るいい存在。
シモベたちの「月の如き存在」 理すら変えた死の世界の支配者。
アインズ様にとっての仲間たち この世界に居たらいいなとあまり捜索に積極的ではない。でも、貶めたり名を騙ったりするとブチギレる。
ブルー・プラネットさんを貶めるつもりはなかったんです。
ただ第6階層の夜空も見たことのあるアインズが転移後の世界の夜空を見て感動してたから第6階層の夜空よりも凄かったのかな?と思っただけなんです。