もし気分が悪くなった場合はあとがきを読んでくだされば問題なしです。
カッツェ平野。
アンデットが跋扈するその場所にはバハルス帝国が長年をかけて作り上げた要塞が存在した。
その要塞には今現在───戦争直前なので────帝国の専業軍人である騎士が約6万人いた。
帝国騎士団は全8軍で構成されており1軍1万。
それぞれの軍の最高責任者は将軍の地位に就いている。
つまり要塞には騎士団の殆どが集まっているということだ。
そして要塞の最高責任者である第2軍将軍───数字が若い軍の方が指揮権が上であるため───カーベインは他の将軍との会議を終えて要塞内を歩いていた。
その隣には帝国騎士最強と名高い帝国四騎士の1人である「重爆」レイナース・ロックブルズがいた。
「それでレイナース。そのヨモツ殿はいつ頃来るのだ?」
「すぐと言っていましたわ。カーべイン将軍」
レイナースは鉄仮面かのように表情が動かないことで有名であったが、今は楽しそうに笑みを浮かべている。
カーベインはそれを見て背中に氷水を掛けられたかのような悪寒を感じた。
ヨモツという存在はやばい。
そう直感してレイナースから渡された書状の内容を思い返す。
遠回りの文章で書かれていたそれを一言で表すならこうだ。
『ヨモツと敵対するな』
レイナースの表情の変化と皇帝の恐怖。
それを齎した存在がもうすぐ来る。
カーベインは周りにいる騎士たちに目配せして歓迎の用意を急がせる。
カーベイン自身も門───正門と裏門があるがとりあえず正門───へ出迎えに向かっている。
ヨモツを帝国の潜在的敵と見たカーベインはその姿を、その力を、少しでも弱点を見つけるために出迎えに向かった。
結果的にその行為自体は吉と出た。
惜しむべくは相手が想像も出来ない程の上位の存在だったということだ。
「これ、は」
突如としてカーベインの目の前に黒い半球の空間の歪が出現した。
「将軍!」
周りの騎士たちが間に入ろうとするがそれよりも前にそれはそこから現れた。
圧倒的圧力。
黒いローブに全身を───顔すらも───包んだ少女。
そしてもう1人。
闇を切り抜いたかのような黒いローブを身に纏った死者の大魔法使い。
いや違う。
それよりも上位の存在。
伝説のアンデッドすらもゴミ同然に倒せる名も聞かぬ存在。
剥き出しの白磁の頭蓋骨の眼窩には血のような赤黒い光が宿っている。
「私がヨモツだ」
その言葉を聞いてカーベインはすぐに皇帝に対して行う最敬礼をする。
「最敬礼!」
カーベインの言葉に騎士たちも慌てて最敬礼を行う。
「ようこそいらっしゃいました。ヨモツ様。この方が今回の軍の総指揮官のカーベイン将軍です」
レイナースの紹介にカーベインは最敬礼のまま立っていた。
「そうか。これは私の部下のヨモツヘグヒだ。私共々今回はよろしく頼む」
「皇帝陛下からお話は伺っております。なんでも開戦後に大魔法を放たれるとか」
「うむ。その後はヨモツヘグヒが暴れる予定だ。そちらも自由に動いてもらって構わない」
「分かりました。ではこれから戦争の手順を軽く説明させていただきます」
カーベインはこれから行う手順を簡単に説明する。
するとヨモツは頷き確認する。
「最終勧告を終えた後に開戦だな。分かった」
「はい。その通りです」
カーベインはヨモツが自分勝手に動く相手ではないと少なからず安心した。
ヨモツヘグヒも部下だというのだからヨモツの言うことも聞くだろう。
カーベインは安堵しながら手を伸ばす。
「歓迎の準備は出来ています。開戦までお休みになられていてください」
「申し訳ないがそれは止しておこう」
ヨモツはカーベインの言葉には答えずにその場にとどまる。
「アンデッドが歩き回っては士気に関わるだろうからな」
「そのような事はっ」
カーベインが否定しようとするがヨモツは首を横に振る。
「こちらもそちらもただの仕事仲間だ。気を使う必要はない」
そう言うと口を閉じた。
開戦までは動かないと確信に近い何かを感じたカーベインはもう1度最敬礼をすると騎士たちに指示を出しながら会議場へと戻っていった。
そして死の劇は始まる。
最終勧告が終わった後。
アインズはリグレットと共に軍から少し進み出た場所で王国軍を眺めていた。
「ふむ」
アインズは視界一杯に群れる人間たちを見て顎に手を当てる。
此処はカッツェ平野。
アンデッド反応を持つ霧で覆われたアンデッドが支配する平野。
そこに訓練された騎士たち───約6万人───を背に控えさせながら
それを待つ。
蒼白い立体魔方陣は様々な文字を浮かべては消えるを繰り返しており、この場でなければ美しい見世物として話題となっていただろう。
「やはり「白銀」以外はいないか」
アインズは自分を囮にしてでも確かめたかったことを確かめ終えて笑う。
「死は全てに等しく与えられる」
紡ぐ。
「死から逃れることなど出来ない」
告げる。
「故に死の支配者からは逃げられない」
語る。
「すなわち我から逃げることは出来ないのだ」
生きとし生ける者全ての結末を。
「超位魔法。
黒い風が吹き敵陣に吹き───
───7万もの命が奪われた。
そして黒いコールタールのようなものが敵陣に落ちる。
5体の異形の化け物が生まれると高らかに産声を上げる。
「さあ。思う存分暴れるがいい・・・可愛い可愛い私の子山羊たちよ」
「「「「「メエエエェェェェエエェェェェェ」」」」」
そして蹂躙が始まる。
それを見届けアインズは振り返り両手を広げて告げる。
「喝采せよ」
魔王を。
「喝采せよ」
死にゆく者を。
「ヨモツ様万歳!」
「「「万歳!」」」
大歓声が上がりその全てがアインズを賛美する。
その中に恐怖など微塵も宿ってはいない。
ただただ感嘆の声を上げるのみ。
「愚かなる者たちに死を。奴らの死を我に捧げよ」
後にカッツェの大虐殺と呼ばれるこの虐殺。
それがこれから起きる出来事の発端である。
そしてそれを引き起こした者の名をもう誰も忘れることはないだろう。
例え忘れ去ったとしても世界は忘れない。
「黄泉」のヨモツと名乗る存在を。
アインズ・ウール・ゴウンを。
今この時より───
「さあ。世界を我が手に」
───終焉は始まった。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃっ。
肉を何度も潰すような音が響き渡る。
怨嗟や断末魔や悲鳴が響き渡る。
濃厚な血の匂いが風に乗って鼻をくすぶる。
何度も何度も空間に亀裂が入って消えるを繰り返しているがアインズは気にしなかった。
何故なら回数が重なるごとに敵はダメージを受けていくのだから。
死んでいればそれでいい。
その程度の考えで切り捨ててアインズは
「素晴らしい。素晴らしいぞ。新記録だ」
黒い仔山羊が5体。
1体でも召喚できればいいという魔法で召喚されたのが5体。
ユグドラシルではあり得なかった愉悦。
恐らく自分しか成し得なかったであろう偉業。
そして死にゆく
「我が愛しい娘よ。子山羊には手を出してはいけないぞ?」
横に立つリグレットにそう言うと最後の
「誰1人として逃すな」
ドンッと爆発が起きてリグレットの姿が消え去る。
「では行こうか」
アインズは満面の笑みを浮かべながら歩き出す。
全てに死を与えるために。
「鏖殺だ」
「キャハハハハハハハハハ!」
目の前のを斬る。
死ぬ。
目の前のを蹴る。
死ぬ。
目の前のを殴る。
死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
死ぬ死───。
「アヒャ?」
───ぬ?。
震えた手で槍を突き出しているのは年端もいかない少年。
「・・・・・キャハッ」
握り潰す。
死ぬ。
踏み潰す。
死ぬ。
引き千切る。
死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
気づくと全身が血まみれ。
手についた血を見て笑う。
舌で血を舐めとり笑う。
「クヒッ」
アァ。
「クヒャハハハハハハハハハハハハアハハハハハハア!」
タノシイィイイイイイ!
「もっと!もっとぉ!」
コロシタイィイイイ!
「帝国は死そのものを味方にしたか」
リ・エスティーゼ王国の国王ランポッサ3世はそう呟く。
24万5千もの民たちの中で7万もの民が死んだ。
たった1つの魔法でだ。
そしてその魔法によって生まれ出た化物によって民たちは殺されていく。
「陛下!お逃げください!」
ランポッサの娘のラナーの側近であるクライムの声にも反応しない。
「死は平等だ」
そこへ冷たい声が響き渡る。
死が喋るのであればそれであるような冷たく無慈悲な死の声。
「民も、貴族も、王族も、弱者も、強者も、亜人も、異形種も。それら全てが死ねば皆平等だ」
おぞましい音や守るべき者たちの断末魔。
それが爆音となって戦場を包み込んでいるというのにそれの声はまるで戦場が静寂であるかのようによく響き渡る。
「アンデッド!」
クライムが剣を抜くとそれは歩みを止めた。
それは白磁の頭蓋骨のアンデッド。
死者の大魔法使いに似ているが別物だろう。
圧倒的な力を持つ存在。
「喜ぶがいい。死の支配者の手によって殺されることを。誇るがいい。世界最強すらも従えていたこの私に殺されることを」
骸骨の顔なのにそれは笑っていた。
「
そしてランポッサ3世とクライム。
生まれの違いはあれど同じ人はそれだけで死んだ。
カーベインは悔いていた。
何故自分は将軍になってしまったのか。
何故自分は優秀だったのか。
何故自分は長く生きていたのか。
何故自分は人間として生まれたのか。
「素晴らしい・・・」
何という力だ。
圧倒的な力。
カーベインはその力に魅了された。
もっと早くに会いたかった。
もっと若い時に出会いたかった。
いや、悔いている暇など無い。
もう1秒たりとも無駄な時間を過ごせない。
「全軍突撃!王国軍を皆殺しにしろ!」
少しでもあの御方の力になるのだ。
「あの御方に死を捧げろ!」
そして
次に始まるのは
黒い仔山羊5体+アインズ+リグレット+帝国軍6万VS王国軍17万5千。
生き残れるわけが無いので皆殺しになりました。
念の為に戦場の周りを高位の隠密系のシモベで囲んでいたので誰1人逃しません。
帝国軍に関しては、前もって帝国軍の飲み水に軽い洗脳効果のあるポーションを混ぜてあり、その効果によってアインズの所業が神の偉業のように見えた為に呆気なくその力に魅了されました。