オーバーロード~死の支配者の娘~   作:アークメイツ

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1:娘登場

DMMO-RPG「ユグドラシル」。

 

北欧神話を題材にしたファンタジーの仮想現実世界でモンスターを討伐したり冒険をしたりと、幅広い自由度を誇り一世を風靡した大人気オンライゲームだった。

 

ユグドラシルは12年という驚きの稼働年数を叩き出したが、始まりがあれば終わりもある。

 

ユグドラシルは後1時間もしないうちに終わってしまう。

 

廃れていく中でも未だにその名が轟き続けるギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の本拠地。

 

ギルドメンバー以外は知らない地下奥深くの一室。

 

巨大な黒い円卓とそれを囲む41の豪華な椅子が並ぶその部屋には今はそのほとんどが埋まっていなかった。

 

席を埋めているのは、白骨死体に眼窩に真っ赤な光を灯したモンスターでありアンデッドの最高位種である死の支配者オーバーロード。そして常に形を変え続け一度たりとも同じ形をしていない黒いコールタールのようなモンスターであり粘体スライムの中で最高位種である古き漆黒の粘体エルダーブラック・ウーズの2体だ。

 

どちらも最高難度のダンジョンに時折姿を見せる嫌われているモンスターだが、この2体はシステムで動くモンスターではなくプレイヤーだ。

 

異形種。モンスターと同じ外見をした種族を選んだプレイヤーの証である。

 

人間種や亜人種という種族もあるにはあるが、異形種の方がステータスにおいては優れている。その分、種族によってのデメリットもあるが。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長であり唯一毎日ログインし続けたモモンガ。

 

彼がかつての仲間たちにメールをだした。

 

それは「ユグドラシル最終日なので集まりませんか?」というものだった。

 

41人の内それに応えたのはわずかに3人。

 

そして最後の1人であるヘロヘロがログアウトした。

 

モモンガはヘロヘロに向けて言えなかった言葉を飲み込み天井を仰ぐ。

 

「かつて1500人の大侵攻を跳ね返したこの場所も・・・仲間たちの思い出も今やただの錆びついて朽ち果てた剣。いや魔力切れの魔法詠唱者(マジックキャスター)か?はははっ」

 

下らない冗談を呟きながら円卓の間と呼ばれる部屋に飾られた黄金の杖を手に取る。

 

ギルド1つにつき1つのみしか持てない最強の武器。ギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」。

 

これを作るために仲間たちがどれだけ無茶をしたことか。

 

「・・・行こうか、我がギルドの証よ」

 

それすらももうすぐ消える。

 

思い出も、作り上げたものも、何もかも全て。

 

「ん?」

 

そこで円卓の間の隅に立つNPCに気づいた。

 

「お前は確か・・・」

 

記憶を遡ってそのNPCが誰かを思い出す。

 

「お前も悲しんでくれているのか?リグレット」

 

後悔と名付けられたNPC。

 

かつてのギルド黄金期にモモンガを除くギルドメンバーによって創造されたNPCで設定が特殊なのだ。

 

いやモモンガにとって特殊というべきか。

 

リグレットの設定は単純明快でモモンガの娘という設定なのだ。

 

ギルド拠点であるこの「ナザリック地下大墳墓」の全ての場所に立ち入ることが許可されていて、NPCで唯一ギルドメンバーしか持つことが許されない「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を所持することが許されている。

 

種族は戦士職で性別が女であることが条件の上に課金でなれるアンデッド戦士職最上位種である「死の女神」だ。

 

ぶっちゃけすごく強い。

 

個で最強のルベドと対等にやり合える位に。

 

初めて見たときの事を思い出して懐かしさから設定を見る。

 

「ふむふむ」

 

少し長い程度だったが見る時間はある。

 

軽く流し読み程度で見てから1つだけ娘として足りない点があることに気づいた。

 

「いつもナザリック中を歩いていて見つからなかったからな。全くお転婆な娘だ」

 

足りない点をギルド長特権で書き込んでから満足げにうなずく。

 

「付き従え」

 

リグレットを従えて最深部の玉座の間に向かう。

 

途中で控えていた執事とメイドたちもついでに引き連れていく。

 

ギルド一の問題児が作った悪魔と女神の彫刻が彫られた巨大な両開きの扉を開き、贅の髄を尽くした見事な内装の玉座の間に入る。

 

かつての仲間たちと自分を現す41のサインが描かれた旗。

 

その最奥にある巨大な水晶から切り出したような見事な玉座の上に掲げるようにあるギルドサインの施された巨大な旗。

 

玉座の前の階段まで歩いていきNPCたちに待機を命じる。

 

玉座に座りすぐ隣にいる純白の悪魔とも言うべき女性を眺める。

 

その女性の手には45センチ程の黒い短杖が握られている。

 

200しかない世界級(ワールド)アイテムの1つである「真なる無(ギンヌンガガプ)」だ。

 

もうすぐ消えるそれを持たせたであろう人物を脳裏に浮かべてため息をついた。

 

持たせた真意などわからないが持っていないといけない設定にでもしたのだろうか。

 

そう思うと興味がわいたのでリグレットと同じように設定を閲覧してその量の多さに驚く。

 

これを全て見ている時間はないので流し読み程度であったらいいな的な気分で読み進めて最後の行を見て唖然とする。

 

「ちなみにビッチであるって・・・うわぁ」

 

ガチで引いた。

 

確かにこの女悪魔───アルベドの種族は淫魔(サキュバス)だがこれはひどすぎるだろう。

 

「変えてやるか」

 

リグレットはギルドメンバー全員のNPCだということで変えることに抵抗はなかったが、アルベドは違う。

 

とはいえビッチは酷い。

 

ギルド長特権で最後の一文を消去してから代わりに「モモンガを愛している」と書き込んで閉じる。

 

「最後だから問題ない」

 

どうせ消えるのだから。

 

玉座の間を眺めてギルドメンバーの旗に指を向けてそのサインを持つ者の名を告げる。

 

「俺」

 

ユグドラシル最強の一角である戦士職最強。そしてモモンガが憧れた人。

 

「たっち・みー」

 

ギルド最年長にして現実で大学教授。

 

「死獣天朱雀」

 

3人しかいない女性メンバーの1人。

 

「餡ころもっちもち」

 

淀みなくモモンガは次々とサインの持ち主のギルドメンバーの名を上げる。

 

「ヘロヘロ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、タブラ・スマラグディナ、武人武御雷、ばりあぶる・たりすまん、源次郎───」

 

全員の名を挙げて呟いた。

 

「そうだ、楽しかったんだ・・・・・」

 

そう呟くとモモンガは疲れたように玉座に頭を預ける。

 

時間はもう数秒しか残っていない。

 

「さらばだ・・・ユグドラシルよ」

「嫌だ!」

「え?」

 

そして全ては動き出す。


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