とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

6 / 24
日間ランキングに載った事で増えるお気に入りと、誤字報告。ありがたいのと同時に申し訳なく思います。あんなにミスってるとわ……。

お詫びも兼ねて、今回は長めです。
それと、まだヤンデレではありません。少しだけあるかなぁ位です。




六話

 

 

俺が学園都市にやって来てから、三ヶ月の月日が過ぎた。その間にやっていたことはと言うと、ずっと研究所に閉じ込められていました。

 

なんかさぁ、外に出してくんなかったんだよ。ずっと訳のわからんコードみたいなのに繋がれて、データ録られるし、木原さんに実験と称した拷問紛いの行為までさせられそうになったし……。すり抜けて完全拒否したから、難を逃れたけど。

 

でも悪いことばかりでもなかったのが何とも言えないんだよね。どういう理由かわからないけど、何故か俺の能力が、バグだと思ったすり抜ける物になってるみたいだった。俺の深読みだったのかなぁ?と思いもしたけど、俺の実験結果を見て確信したね。

やっぱこれ、バクだわ……。

 

身体検査(システムスキャン)の結果を見ると俺の能力強度は、なんと!学園都市の頂点とまで言われるlevel5級だったのだ。暫定的に第八位となったまでは良かったが、ただその続きだよ問題なのが。

俺の超能力を試験した結果俺は、『とある』以外のアニメの世界に行けることが発覚した。

木原さんが嬉しそうに、事細かに説明してくれたよ俺の超能力で出現した世界の事を。

 

進撃、BLEACH、GOD EATER、モンハン、NARUTOに最後はバイオハザード?

何でそんな危険な世界観のアニメやゲームしかないんだよ!?FateのUBWしかり、人が死にまくる世界観じゃん!BLEACHに至っては登場人物の殆どが全員死人じゃん!むしろ死んでから本番みたいな世界じゃねーか!もっとこうあたしンちとか、のんのんびよりみたいなほのぼのとした日常系の世界は無かったのかよ……。

 

そんな世界に戦々恐々としていると、早速その世界に飛べと木原さんに脅された。嫌ですって言っても聞いてくれないし、そもそもやり方なんか知らないですよ、こっちはあの物騒なヘルメット付けられて眠ってたんだから。

 

それを聞いた木原さんは、お前の能力は分類上、空間移動能力とされるとか、三次元から十一次元を計算するとか訳のわからん事を解説してくれた。いや、三次元って。あんたら元は二次元の存在でしょうに。

 

木原さんの長ったらし解説が終わると、じゃあやれと言われた。説明の半分も理解できなかったのですが?

この頭なら理解出来るだろうが、いかんせん専門用語が多過ぎて把握できない。一から覚えるのも面倒だし、何となくそれっぽい物を想像してみよう。

そしたら普通に出来ちゃいました、違うアニメへの移動が……。

出てきたのは、鬱蒼とした森の中で木々の間から木漏れ日が差し込み、まるでもののけ姫のような世界だった。

 

うーん、もののけ姫の世界に出てしまったのだろうか?俺としてはもっと安全な世界に行きたかったのだが、この世界も結構物騒だからな……。

 

そんな風に思っていると、一緒に転移してきた木原さんが、あの時見た世界か!?って言ってるですが。ねぇ、それって冒頭で教えてくれた世界の何れかってことでしょうか?

 

…………不味いぞ、ひじょーに不味い…!何れであろうと、もし遭遇なんてしたら……。

 

━━━グルルゥゥゥ……!

 

………もう、手遅れですか。

密林の奥から、紅い眼光が軌跡を描きながら近付いてくる。体毛は黒く、しなやかな肉体。豹を連想させるような俊敏な動きで姿を表したその獣の名は━━━。

 

迅竜 『ナルガクルガ』

 

モンハンの世界かよー!?

ヤバイって、モンハンとか化物のサファリパークじゃん!最近じゃあ、ジェット機みたいなモンスターもいるし、危なすぎる。

俺はハンターみたいな肉体は持っていても、数秒寝ただけで怪我が全快するような特殊体質じゃないので襲いかかられるのは、かなり怖い!

 

「何だぁこの生きもんはぁ!?あのドラゴンみてぇな奴以外にも、こんなおもしろ可笑しい生物がいんのかよ!」

 

木原さん、スッゴい興奮してらっしゃるのですが。アンタ余裕そうだなぁ、此方は怖くて動けないんですけど!?

 

そして、臨戦態勢の状態で此方の様子を伺っていたナルガクルガは、木原さんのハイテンションが引き金となったのか、襲いかかってきた。

やられる!と思った俺は、いつも通りすり抜けようとすると、何故かナルガクルガは、俺を素通りした。素通りしたナルガクルガは、その飛びかかった勢いのまま俺の後ろにいた木原さんに襲いかかる。

 

「何ぃぃー!?」

 

お、避けた。ナルガの攻撃ってモンハンの世界でも結構早い部類で、初見殺しとかまで言われるのに凄いなぁ~。

そんな事を呑気に考えている間も、白衣を泥だらけにしながら転げ回って避けている木原さんと、初っぱなから怒りモードなナルガクルガ。

 

………そろそろ止めてあげた方がいいんじゃ……。

 

「止まれ」、と久々に思った通りの言葉が口から発せられた。その事に少し感銘を受けていると、なんと!木原さんを殺そうとしていたナルガがその場で静止している。

 

………………。

 

「…………殺れ」

 

━━━グルルゥゥゥアァ!!

 

「クソガァァ!」

 

成る程、どうやら俺の超能力で転移した世界の生き物は、俺の命令を聞くのかもしれない。

その後、検証を兼ねて色々な命令をナルガに出しながら木原さんを襲ってもらった。

尻尾の針を飛ばして退路を塞げと言えば、その通りに木原さんの進行上に針を飛ばし、動きを止めろと言えば、咆哮で動きを怯ませた。

 

検証の結果、他の生物や世界の生き物に効果があるかわからないが、少なくともこのナルガは俺の言うことを従順に従うようだ。

 

「止めさせろ、クソガキィー!!」

 

あ、忘れてた。

 

 

 

 

 

以上のような実験ばかりの三ヶ月。やたらと生体サンプルだとかで他のアニメの物品を持ち帰ろうとする木原さんを止めるのはとても骨が折れた。だってさ、エクスカリバーとか、tウィルスなんて物を持ち帰られて、複製なんてされてみろよ。想像するだけで寒気がするわ……!

 

でもまぁ、木原さんのお陰で、このバグ超能力を上手く扱うことが出来るようになった。今まではすり抜ける事ぐらいしか出来なかったのに転移したり、別の世界に行ったり、その世界から物体を出し入れ出来るようにもなった。

流石は、学園都市一の能力開発者である。初対面で襲われた事も、これで帳消しにしてもいいほどにお世話になってしまったからな。

 

一通りの実験が終わると、今までに取れたデータの解析をするとかで、やっと研究所から解放された俺は、木原さんに用意してもらったマンションへと向かった。

 

どうやら、ひたすら人体実験され続けただけの俺にも給料が出ていたらしく、いつの間にか作られていた通帳を見たときは、0が二つ程多いんじゃないかと、血の気が引いた。でもこれで、バイトもする必要もなくなり、漸くハイスクールライフを送れるのだ。

 

と、言うわけでやって来ました、長点上機学園。

まさか、ここに通うのがここまで遅くなるとは、思っていなかったなぁ……。

待ちに待った楽しい二度目の高校生活を夢見、真新しい制服に袖を通して、校門を潜り、校舎へと入いっていった。

 

校内を歩いているのに、学生の話し声一つ聞こえない。授業中とも思ったが教員の声すら聞こえないとは、ここまで静かだと不気味にすら想えてくる。

 

「貴方、そんなところで何をしているの?」

 

職員室を探しながら校内を散策していると、誰かから話しかけられた。キョロキョロとしてたから怪しかったのかな?話しかけられた方向に向くと、話しかけてきたのは、学校の制服の上に白衣を着た女の子だった。

 

「………………」

 

な、何だろ、すっごく凝視されているのですが……。何時もなら、ここら辺で、キャーカッコいい!やばーい!とか喧しく騒がれるのだが……も、もしかして、この顔が効かないのか!?

 

「…………貴方、何年生?今は授業中のはずだけど」

 

えっと、一年生ですけど。今こうしてるのはですね、職員室を探してたからでして。

そう言う貴方こそ誰ですか?

 

「私は布束砥信。職員室を探しているなら私が案内してあげるわ」

 

あ、ありがとうございます。

俺の顔に何の反応も示さないまま、ゆっくりとした歩調で案内をしてくれる布束さん。

間違いない、彼女にはこの輝く貌が効いていない。顔を見られた状態で異性にここまで素っ気なくされたことは、転生してから一度も無かったことだ。

 

この人ともっと話がしたい。その一心で布束さんの横に並んで話しかけると、いきなり顔面に裏拳が飛んできた。

危っぶな!いきなり過ぎて、避けることも出来ずにそのまま拳が顔をすり抜けたぞ!いきなり何すんの!?

 

「急に近づいてこないで。Absolutely(まったく)貴方は一年生、私は三年生。もっと、それ相応の態度があるんじゃないの?」

 

この人、白衣なんて着てインテリ系かと思ったら、随分と体育会系の思考をしてらっしゃる。しかも問答無用で拳が飛んでくるなんて、見た目によらず不良なのか?学園都市の科学者は木原さんといい、アクティブな人が多いなぁ。

 

「でも……そう、貴方が噂の新しいlevel5ね」

 

噂?

 

「ええ、そうよ。我が長点上機学園にlevel5が入学したと、教員が話しているのを聞いたのよ」

 

じゃあ、その噂には俺のバグの事まで知られてるってことか。よく考えたら俺って230万人の頂点の一人なんだもんな、そりゃあ噂の一つや二つ出てくるか。

 

「明日は、私が学園都市を案内してあげるわ」

 

え、どうしたんですか?急にそんな優しくなって。

案内をしてくれていた布束さんは、立ち止まると俺の目を覗き込むようにして、学園都市を案内してくれると提案してくれた。

でも、いきなりそんな事言われても……。

 

「いいわね?」

 

は、はい……!

 

顔を覗き込んできた布束さんは、俺の返事が遅いとみると、なんと言うか。ドスの聞いた声で催促してきた。

 

凄く怖かった……。

 

 

 

 

 

「時間通りね」

「…………」

 

昨日、布束砥信は、運命の会合を果たした。

 

学園の校舎を歩いていた時である、塵一つ付いていない新品の制服に身を包んだ男子生徒が廊下を歩いていた。長点上機学園の校舎は広い。地図がないと、入学したての生徒が迷ってしまうぐらいに。新学期が始まって既に三ヶ月も経過していたが、入学が遅れたのだろうと思い、その男子生徒に話しかけた。

 

「貴方、そんなところで何をしているの?」

 

迷っている事は既に分かっているが、念のため何をしているのか聞いてみる。話しかけられた男子生徒は振り返る。

 

その瞬間、布束の時間が止まった。

 

黒い髪に少し垂れた瞳、そして右目の泣き黒子。絶世の美男子、上乃慧厳だった。

布束の心中に、今まで感じたことの無い感情が光の速度で駆け抜ける。心臓が高鳴り、正常な判断を下すのが難しい程に頭に血が上った。

それからどれ程の時間、そうしていただろう。一分だろうか10分だうか。上乃の顔を布束は、見つめ続けた。

 

「………ッ!あ、貴方、何年生?今は授業中のはずだけど」

 

(what()?どうしたと言うの、何でこんなに体が熱いのかしら……)

 

「……一年、職員室を探している。お前は誰だ?」

 

持ち前のポーカーフェイスで今までに感じたことの無い体調の不良を隠しながら。布束は、少し慌てて言った。返ってきた返答に布束は、取り繕うようにしてそっぽを向きながら答える。

 

「私は布束砥信。職員室を探しているなら私が案内してあげるわ」

 

(……想像通りの涼やかな声……いや、そうじゃない!この後は、いつも通りに妨害工作に行かないと……)

 

でも、と布束はチラリと男子生徒を盗み見る。

そこには、案内してくれないのかと、小首を傾げた上乃が不思議そうに見ていた。

 

………後でもいい、か……。

 

 

 

のっそりとした足取りで、少しでも彼との時間を長くしようと、わざと遠回りしながら職員室に向かう。

 

(……一体どうしたと言うの?彼の顔を見た瞬間から胸のざわめきが止まらない)

 

歩きながら、そっと右手を胸に添える。表情こそ変わらないが、布束の心臓は、発作でも起こしているかの如く脈動していた。困惑し続ける布束を他所に、距離を詰めていた上乃が彼女に近づく。

 

「ッ!」

 

反射的に裏拳を放つ。しまった、と思ったのも束の間、拳は正確に上乃の顔面を捉えていた。しかしそれは、上乃の能力ですり抜けた事により当たることは無かった。そしてその現象を目の当たりにした事によって、布束の頭が急激に冷やされた。

 

「急に近づいてこないで。Absolutely(まったく)貴方は一年生、私は三年生。もっと、それ相応の態度があるんじゃないの?」

 

クールダウンした脳で漸く正常な思考能力が戻った布束は、先程の現象で目の前の青年の正体を看破した。それは、入学したにも関わらず一度も登校してこない、新たなlevel5がいると。それが気になったため、バレないように書類をコピーして、対象の情報を入手していたのだ。

 

(まさか、こんな風に出会うことになるとはね。…………!?)

 

上乃がlevel5であることを見抜いた布束は、その頭に一筋の閃光が走る。

新たなるlevel5が発見(・・・)されたと言うことは、彼はこの学園都市に元々いた学生ではなく、外部で発見されたのではないか?

彼がこんな時期になって、今さら登校して来たのは、今までずっと研究所に拘束されていたからではないか?

つまり彼は、学園都市の地理について詳しく無いのではないか?

 

「明日は、私が学園都市を案内してあげるわ」

 

布束は、気づいたときにはそう口走っていた。

 

 

 

 

━━ねぇねぇ、あの人凄くカッコいい!

 

━━隣の女の人、彼女かな?釣り合ってないよねぇ~www

 

━━私、アタックしてこようかな

 

昨日の約束通り、学園都市を案内している布束とされている上乃は、街中を散歩している。

要所要所で布束が解説をいれるだけで、特に会話することもなく無言で歩く二人だが、その回りは芸能人がロケでもしているかの如く賑わいを見せていた。集まった殆どが女性で、その全てが上乃の美貌に釘付けになり、思い思いの言葉を口にする。

 

ギリッ!

 

Fucking(クソが)……!」

 

本人の知ってか知らずか愚痴を溢す布束は、普段のジト目とは似ても似つかない、ギョロりとした目で周囲を睨み付けた。

 

『こ、怖っ!』

 

そのあまりの形相に周囲が引いている間に、上乃の手を引いた布束は、集団から抜け出し近くの服屋に入った。

 

「………何を?」

「このままじゃあ、散歩することすら儘ならないから……これを着て」

 

服屋に入った、布束は速攻で目的の物を持ってくる。その際、彼に気づいて近づこうとした女性店員を牽制しているのは、流石と言えよう。

 

「さっ、気を取り直して行きましょうか。but(でも)その前に少しお腹が減ったわね。何か食べましょうか?」

「…………」コクコク

 

上乃は、布束からプレゼントされた大きめのフードが付いた服を着て顔を完全に隠している。そのお蔭で外に出ても、女性が彼に釘付けになることはなかった。その事に布束は、フッと鼻で笑い、そのまま食事に向かった。

 

選んだ食事先は、街角でクレープの移動販売をしているところだった。

 

「私は場所を取っておくから、買ってきてくれるかしら」

「………分かった」

「それじゃあ、よろしくね」

 

買い物を任せた布束は、座ったベンチで一息つく。疲れているのだろう、だが一見無表情に見えるその顔はほんの僅かにだが口角が緩んでいた。

 

「こんなにゆっくりした時間は、本当に久々ね」

 

衝動的に彼を案内すると言ってしまったが、一緒に街中を歩く時間は、会話など無くともとても楽しい物だった。最初こそ不愉快な目にあったが、それも己の機転によって難なく乗り切る事もできたし。

このデートもt……

 

「………デート…なのかしら?」

 

ふと思った疑問。思えば色恋沙汰などとは、無縁な人生を送ってきた。幼少の頃から生物学的精神医学で成功し、実験、研究の毎日。同世代の人達が楽しい青春を送っている間も、冷たい研究室でずっと一人。

これは、いわゆる『春』と言うやつが来たのだろうか?季節は夏だが……

 

「………彼、遅いわね」

 

そんな事を思っていると、無性に上乃の顔を見たくなった布束は、クレープ屋の行列に目を向ける。

 

「…………チッ!」

 

彼を見つけるとその目に写ったのは、クレープを両手に持ち、女子中学生と話をする姿だった。

顔を隠しただけでは足らなかったのかと、カッとなった勢いのまま駆け足で上乃と少女の間に割って入る。

 

「クレープを買うだけで何時までかかっているのかと思えば……。Absolutely(まったく)、ナンパなんて良いご身分ね」

 

ホントは違う事を分かっている。短い間だが、彼が自分から他人に話しかけるような社交的な人ではないことを。それでも、彼と自分以外の誰かが、特に女が話しているところを見るのは、我慢ならなかった。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

「あ、あの!」

 

上乃の腕を引き、直ぐに立ち去ろうとする布束に勇敢にも話しかける少女。

 

「………何か?」

 

それに対して布束は、今日既に一度見せたアノ顔になりそうになるが、グッと堪えて対応する。

 

「そのですね、知り合いがゲコ太をすごーく欲しがってまして。一つ譲って貰えないかなと思いまして」

「そう………」

 

それを聞いた布束は、少女の後を覗いた。そこにいたのは、己と因縁浅からぬ少女。超電磁砲(レールガン)の御坂美琴だった。

 

(オリジナル!?)

 

一目で気づいた布束は、動揺を悟られないよう平静を装いながら返答する

 

「答えはNOよ、さよなら」

「そうですか……」

 

早足で去る、布束。その際にちゃっかり上乃の腕を組んで引っ張って行った。

 

ドサッ…!

 

え……ええぇぇぇぇー!!

 

後方から何かが倒れる音と悲鳴が聞こえるが気にしない。そのまま確保してあったベンチに座り、上乃が買ってきたクレープを受け取り食べ始めた。

 

「貴方、ちゃんと断る事ぐらいしたら?」

「…………」

「まぁ、いいわ。Than that(それより)オマケで貰ったゲコ太?だったかしら。それ貸しなさい」

 

言われた通りに、ゲコ太を差し出す上乃。それを受けとった布束は、一つを自分の携帯に付け、もう一つを彼のパーカーのチャックの部分に取り付けた。

 

good(いいわね)

「…………?」

 

一仕事終えたかのように、額を拭った布束。お揃いと言うことだろうか?

 

そんな一連の動きの後、クレープを食べ始める二人。やはりと言うか、二人の間に会話はなく、黙々とクレープを食べ進める。ベンチに座る二人の距離は、端と端に座っており距離が不自然に開いていた。

その距離をジリジリと詰める布束と両手でクレープを食べ進める上乃。

二人が食べ終わる頃には、二人の距離は肩が触れ合いそうな距離まで狭まっていた。

 

「上乃君。貴方には名前で呼び会う友達はいるのかしら?」

「…………」フルフル

「そう。timing(丁度いいわ)私と友達になりましょう」

 

突然の告白。それを聞いた上乃は、布束をジッと見つめる。フードで隠れているが、戸惑っているのだと、布束は解釈した。

 

「嫌なの?」

「…………」フルフル!

「じゃあ、決定ね。……私の事、砥信って呼んでくれるかしら?」

 

何処か釈然としないが、友達となった二人。布束の提案で名前で呼び会うことになったが、上乃は、それを中々言おうとしない。

数分間が空いたが、漸く名前を口にした、それも飛びっきりのイケボで。

 

━━━砥信……?

 

「………まぁまぁね。……やっぱり名前で呼び会うのは少し早かったかしら、ちょっと御手洗いに行ってくるわ」

 

上乃の名前呼びを聞いた布束は、ハンカチで顔を押さえた後、早口でトイレに行ってくると言い競歩で公共便所に駆け込んだ。少し上を向きながら。

 

「……あれは駄目ね」

 

何が駄目なのだろうか?洗面所で顔を洗った、布束は先程の出来事を思い出す。

 

「ッ!」

 

そうしたら、またしてもハンカチを顔に当て上を向いた。押し当てたハンカチには、僅かに血が滲んでいた。

 

ドガァァン!!!

 

「何?」

 

布束がトイレで溢れ出す物を押さえていると突如、外から爆音が木霊して、人々の悲鳴が聞こえてくる。外で異常が起きたのだと把握すると、急いでトイレから飛び出した。

外に出ると、通りにあった銀行からモクモクと黒煙が上がり、空を自動車が舞っている瞬間だった。

 

「何がどうなってるの?」

「お前!こっちに来い!」

 

トイレを飛び出し、外で繰り広げられていた光景に驚いていると、見知らぬ男が息を切らしながら叫んできて、布束を拘束した。

 

「お前ら全員動くなよ、動いたらこの女の顔を焼くぞ!」

「卑劣な……ッ!」

 

男の手に灯した炎が顔に近づく。僅かに顔を顰めた布束は、周囲を見渡した。

 

気絶した男が二人、風紀委員の腕章を付けたツインテールの女と花飾りを付けた少女。そして、オリジナル。

 

(なるほど、この男が犯人か……)

 

一瞬で自身の置かれた状況を理解した布束は、その持ち前の頭脳を生かして、この状態から抜け出すことを画策した。

 

「……これは忠告。今すぐ私を離したほうが身のためよ」

「何言ってやがる?お前、自分の状況分かってんのか!?」

「ええ、もちろん。貴方が私に危害を加えてしまった事を、ね……」

「な、何を……?」

 

不気味な印象を与えつつ、相手に恐怖心を植え付ける。相手は既に追いつめられている、人質を取っているのがその証拠だ。なら、虚言だとしてもそれは、充分に効果がある。だが、話した内容に虚言の類いは一切含まれていない。

彼ならば、必ず……!その為に己も自分の出来ることをしようと行動する。

 

布束の言葉に動揺した犯人は、そのせいで拘束が少し緩んでしまう。そして奇妙な浮遊感が布束を襲った。

 

「残念、時間切れね。Thank you(それでは)さようなら」

「なっ……!?」

 

突如としてその姿を消した、布束。

そして次の瞬間、初春の隣に消えた布束と、彼女に寄り添う様にして上乃が出現した。

 

「………布束さん」

「心配いらないわ。Than that(それより)私があんなことをされたのに何もしないの?」

「…………」

 

上乃は、その言葉を聞くとサッと立ち上がり、犯人に向かって歩き始めた。

 

(つれないのね)

 

「お、お待ちなさい!一般人は下がっていてください、これは風紀委員の仕事ですの!」

「貴方達こそ下がっていなさい」

 

風紀委員の静止を遮り、布束は誇らしげに言い放つ。

 

「怪我するわよ。貴方達と彼とじゃあ……次元(・・・)が違うから」

 

 

 

 

 

「ありがとう、助かったわ」

「…………」

「助けて貰っておいて、こんな事言いづらいのだけど……」

 

見事犯人を撃退した上乃。そしていち早く彼に駆け寄った布束は、あるお願いをする。

 

「私、この後用事があるの。namely(つまり)風紀委員の事情聴取をしている暇は無いの、だから貴方の能力で何処か遠くに飛ばしてもらえないかしら?」

「…………」コク

「ありがとう。この御礼は、必ずするわ」

 

お願いを快く引き受けた上乃。布束の肩に手を置き、能力を行使する。そうして、また一瞬の浮遊感の後、布束は事件現場から遠く離れた場所に転移していた。

 

「…………またね」

 

そう一言呟いた後、布束は路地裏に消えていった。

 

 

 

 

 

 




布束さんは、怒るとジト目からギョロ目に変化する。(後付け設定)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。