とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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それと、誤字報告ありがとうございます。





五話

天気は快晴、学校が終わりこの後の用事を心待ちにする、頭お花畑な少女がいた。彼女の名前は初春飾利。学園都市における治安維持組織の一つ、風紀委員(ジャッジメント)に所属している。

彼女は、今日の放課後。友人であり同じ風紀委員の同僚である白井黒子に、学園都市の頂点であるlevel5の御坂美琴を紹介してもらう約束をしてもらっていたのだ。

そして放課後、待ち合わせ場所に向かう途中。友達の佐天涙子も一緒に行くことになった。

 

待ち合わせ場所で無事に合流することが出来た初春と佐天の二人は、目の前にいるlevel5の少女、御坂美琴に双方の友人である黒子を通して、自己紹介をしていた。

 

「それでは紹介しますわ、こちら柵川中学一年、初春飾利さんですの。そして……」

「どうもー、初春のクラスメイトの佐天涙子でーす。何だが知りませんがついてきちゃいましたー。因みに能力値levelは0でーす」

 

今回、来る予定の無かった佐天の紹介に言葉を詰まらせた黒子の代わり、佐天は自ら自己紹介をした。

だが、その自己紹介には多分に嫌味が含まれていた。

 

level0である佐天は、高位能力者に対してコンプレックスを抱いており、level5の美琴に牽制紛いの自己紹介をしたのだ。

でも、そんな自己紹介をされたにも関わらず、美琴はフレンドリーに挨拶を返した。

 

「私は御坂美琴、よろしく」

 

その返しに少々面を食らった佐天だが、特に何事も無く遊びに行くことになった。

ゲームセンターで一頻り遊んだ一行は、次に街角で受け取ったチラシに載っていたクレープ屋に向かう。それには、オマケに着いてくるゲコ太なるマスコットキャラクターが目当ての美琴の意向が有ったためだ。本人は強く否定している。

 

そして、チラシに載っていたクレープ屋についた四人は、黒子と初春がベンチの確保を美琴と佐天の二人が買いに並ぶ事になった。

最初の事もあり気まずい佐天は、後ろに並ぶ美琴を見ると苛立しげに順番を待つ美琴と目があう。

 

「え、何……?」

「い、いえ。……あの、順番変わりましょうか?」

「良いの!?あ、い、いや別にいいわよ、私はクレープを買えればそれで良いんだし……」

 

一瞬嬉しそうにしながらも佐天の折角の誘いを断り、あくまでゲコ太のオマケではなくクレープが目当てだと美琴は主張する。だが、その視線はゲコ太のオマケを貰って喜んでいる子供に釘付けで、信憑性の欠片も感じられない。

クレープ屋に並ぶ行列が順調に減っていき、美琴まで佐天を入れてあと二人になったときに、小さな悲劇が起きた。

 

「お待たせ致しました、チョコバナナとイチゴクリームになります。そして此方がオマケのゲコ太になります。お連れの方のも加えてお二つどうぞ、これで最後でしたのでラッキーでしたね」

「…………」

「えぇぇぇー!」

 

あと少しでゲコ太を手に入れられるところで、まさかの品切れである。それを聞いた美琴は、あまりのショックに地面に手をついて落ち込んでしまった。ついでにすすり泣く声まで聞こえる。

流石にここまで落ち込むと思っていなかった佐天は、不憫に思いゲコ太を二つ受け取った人に、一つ譲って貰えないか聞いてみた。

 

「あの~すみません。よろしければでいいんですけど、そのゲコ太を一つ譲って貰えないかなー?なんて……」

「…………」

 

フードを目深く被ったその人物は、高い身長でガタイが良いので恐らく男性と思われる。彼は、佐天の頼みを聞いても無言で佇んで動かない。

 

「あのー、もしもーし。聞こえてますか?」

「…………」

「クレープを買うだけで何時までかかってるかと思えば……。Absolutely(まったく)、ナンパなんて良いご身分ね」

 

なかなか返事を返してくれない彼に話しかけ続けていると、白衣を着た女の子が間に割って入ってきた。彼女の声が聞こえた瞬間、男の方の肩がビクッと揺れ、分かりにくいが動揺しているように見える。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

「あ、あの!」

 

男性の服を引っ張り連れていこうとする彼女を佐天は、思わず呼び止めてしまう。

 

「………何か?」

 

振り返った彼女、そのジト目には明らかな嫌悪感と敵意を宿していた。

 

(うっ…!)

 

その目で睨まれ言い知れぬ寒気を感じた佐天は、何か気に触る事をしただろうかと考えるも、恐らく彼氏である男性にちょっかいをかけたとでも思われていると思い至った。

なら、用件を早く済ませようと、白衣の女の子に佐天は、もう一度ゲコ太を貰えないか言ってみた。

 

「そのですね、知り合いがゲコ太をすごーく欲しがってまして。一つ譲って貰えないかなと思いまして」

「そう………」

 

佐天の話を聞いた白衣の女の子は、佐天の後ろで地面に手をつけながら涙目で此方を見る美琴に気づいた。

それを無感動な瞳で一瞥した彼女は、目線を佐天に戻す。

 

「答えはNOよ、さよなら」

「そうですか……」

 

すげなく断れた佐天は、男性をグイグイと引っ張って行く彼女を気まずそうに見送った。

 

ドサッ…!

 

直後、背後から奇妙な音が聞こえた。まさかと思い振り向けば、地面に倒れこんだ美琴がいた。

 

「え……えぇぇぇーー!?」

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

「まぁまぁお姉さま、そんなにお気を落とさずに。ほら、ここのクレープ中々ですわよぉ」

 

その後、ゲコ太こそ手に入れられなかったが、無事に全員分のクレープを買うことが出来た佐天と美琴は、ベンチで待つ黒子と初春のもとに行った。

だが、折角の楽しい食事中にも関わらず、ゲコ太を手に入れられなかった事がショック過ぎる美琴は、クレープも食べずに項垂れている。

 

「あははは……」

 

それには思わず苦笑いを浮かべる初春。美琴のイメージが当初思っていた物とギャップがありすぎるためだ。

そして、それは佐天にも言えた。

 

「………何か、思ってたのと違うな」

「違うって何がなんですの、佐天さん?」

 

佐天が思わず溢した言葉が聞こえた黒子は疑問に思い聞き返した。それに佐天は、少し言ってもいいか悩んだが、大丈夫だろうと思いその心中を吐露する。

 

「ほら、私ってlevel0じゃないですか。 だから、levelを笠に着たいけすかない奴ばっかり見てて、それで御坂さんもてっきり嫌な人なんじゃ無いかって思って。でも、こうして一緒に遊んでみるとそんな事一切無いから、決め付けはよくないなぁー、て」

「佐天さん……」

 

話された内容は、黒子や美琴にとっては耳に痛い話だった。確かに、高位の能力者が低能力者に暴行を加えたり、虐めの対象になることは多い。風紀委員に所属する初春と黒子は、特にその内情を理解していた。

 

「だから、最初にあんな嫌味を言っちゃったりして……。御坂さん、ごめん……」

「別にいいですよ謝んなくて、気にしてないし」

「おや、漸く復活なされたのですかお姉さま」

「もともと、落ち込んでなんかないし。私はクレープが食べたかっただけでゲコ太なんか……なんか……」

 

黒子はしまった、と思いがけず地雷を踏みぬいた事を後悔した。

そのせいでまたしても暗い雰囲気になりそうになったので、元来明るい性格の佐天が話題を変えようと、大きな声で違う話をする。

 

「そ、そういえば!level5って七人いるんですよね?全員、御坂さんみたいに優しい人なんですか!?」

「あ~…それはどうかなぁ」

 

話題を変えたことでゲコ太の件で落ち込む事は無かったが、美琴の脳裏にlevel5唯一の知り合いである金髪の女の姿がよぎる。そのせいで、また違った意味で気分が沈んだ。

 

「あ!そういえばですね、最近書庫(バンク)に新しい情報が記載されたんですよ。まだ正確に確認した訳ではないので、はっきりとしたことは言えないんですけど……」

 

書庫とは、学園都市に在学する学生達の能力詳細やパーソナルデータが記載されたデータベースの事である。

だが、書庫の閲覧は許可が必要で、風紀委員や警備員などの立場の者のみに使用が許可されるのだ。

 

初春は、そこで目にした情報が確かであることは認識しているが、あくまで記載予定の情報なため少し小声で話をした。

 

「実は、最近新たなlevel5が発見されたらしいんです……!」

「え!?」

「なんと!?」

「へぇ……」

 

話された情報は、なんと事実上学園都市の頂点であるlevel5が発見されたとう言うものだった。それを聞いた佐天と黒子は、驚き。美琴は、目を細めて面白そうに笑った。

 

「初春、それ本当ですの?」

「恐らく本当ですよ、書庫に載る前の情報がチラッと見えて」

「その人の名前と能力は分かってるの?」

「名前は分かりますけど、能力のほうは……。まだ研究段階の能力らしくて詳細な情報は一切載っていませんでした。けど、能力名だけなら分かります。名称は━━」

 

ドガァァン!!!

 

初春が肝心の情報を話そうとした瞬間、活気に満ちていた広場に爆音が木霊した。その発生源は、美琴達が座るベンチの後ろにあった銀行からだった。爆発した銀行からは、黒煙が吹き上がっている。そこから飛び出してくる三人の男達、腕には大きな鞄が抱えられていた。

突然の事件発生に狼狽える一般の人達と違った黒子は、いち早く状況を把握し鞄から風紀委員の証である腕章を取りだし腕に付けた。

 

「初春!警備員に通報を。あと、お姉さま、お願いですから大人しくしててくださいね」

「え~」

 

不服そうな美琴を余所に、黒子はlevel4の能力、『空間移動(テレポート)』を発動させ、逃走する男達の前に転移した。

 

そこからは、怒濤の勢いで状況が進んだ。

強盗犯との戦闘に入った黒子が、犯人の一人を投げ飛ばして気絶させた。

その様子を見ていた残り二人の内の一人が、黒子をただ者ではないと見抜き『発火能力(パイロキネシス)』の能力を発動させて応戦する。

掌に発生させた炎を黒子に投げつけるが、それは転移することであっさりと避けられる。そして転移した黒子は、犯人の上空に出現し後頭部にドロップキックを叩きこんだ。そして、道路に倒れこんだ犯人をすかさず拘束する。服を針のような物を転移させて縫い付けて、これ以上抵抗すれば体内に針を出現させると脅しもいれておいた。

 

最後の一人である犯人の男は、黒子が発火能力者の男を拘束している隙に逃げ出し車に乗り込んだ。だが、そのまま逃走せずに、やられっぱなしではいられないと、車を黒子達の方に向けるが、その目の前には怒り心頭の美琴が仁王立ちしていた。

 

「黒子ォ!こっからは私の個人的な喧嘩だから、悪いけど手ださせてもらうわよ」

 

運の悪いことに逃げ出した男は、逃げる途中で美琴とぶつかりその手からクレープを落としてしまったのだ。

美琴の宣言を聞いた黒子は、頭を痛そうに抱えた。ああなってはもうどうにも止まらないことを黒子は知っているからだ。

 

美琴がゲームセンターのコインを上に弾く、それと同時に犯人が乗る車も美琴を轢き殺そうとエンジン全開で発進した。

 

美琴の真っ直ぐに伸ばした右腕が帯電する。それは、コインが落ちてくるほどに強くなりバチバチと電撃が走った。

今から放つのがlevel5の第三位、御坂美琴の代名詞、超電磁砲(レールガン)である。

 

落ちてきたコインは、指で弾かれ電気によって高速で射出される。発射されたコインは、車に直撃しその車体を空中に舞い上がらせる。地面と激突し煙を上げる車内で犯人は目を回して気絶していた。

 

「お姉さま、やりすぎですわ……」

「ふんっ!」

「す、凄い……!」

 

美琴の攻撃で融解した道路、スクラップ同然の車と酷い惨状に黒子は、一体何枚の始末書を書かせらるのかと嘆息をつき、佐天は美琴の戦闘に感嘆の声を上げた。

 

「これで、一件落着ですか?」

「そうですわね。犯人は全員捕まえて……あら?」

 

初春の疑問に答えた黒子は、拘束した犯人に目を向けるとそこにあったのは、針で縫い付けられた上着だけだった。

美琴に視線が集中している間に、いつの間にか抜け出していたのである。

 

「動くんじゃねぇ!」

 

逃げ出された事に気づいた黒子が周囲を見渡すと、犯人が少女を捕まえて人質にとっていた。その少女は、先刻佐天のお願いを断った白衣の少女だった。

 

「お前ら全員動くなよ、動いたらこの女の顔を焼くぞ!」

「卑劣な……ッ!」

 

人質を捕られたことで、手出しできない黒子達は歯噛みした。もっと注意していれば、犯人が拘束から抜け出した事などすぐに気が付けたはずなのに……。それは、美琴という絶対の存在が前に出てきたことによって出来てしまった、無意識の油断が招いた結果である。

 

ジリジリと後退し逃げ出そうとする犯人。右手に灯した炎を顔の近くまで押し付けられているというのに、表情一つ変えない少女は、淡々と犯人に話しかけた。

 

「……これは忠告。今すぐ私を離したほうが身のためよ」

「何言ってやがる?お前、自分の状況分かってんのか!?」

「ええ、もちろん。貴方が私に危害を加えてしまった事を、ね……」

「な、何を……?」

 

犯人の男は不気味に思った。この緊迫した状況下でここまで落ち着いていることと、その意味深な言い回しが、言い知れぬ恐怖を駆り立てる。

 

「残念、時間切れね。Thank you(それでは)さようなら」

「なっ……!?」

 

捕らわれていた少女は、突如としてその姿を消した。

驚く犯人と黒子達。そして次の瞬間、初春の隣に消えた少女と、彼女の連れである青年が立っていた。

 

「………布束さん」

「心配いらないわ。Than that(それより)私があんなことをされたのに何もしないの?」

「…………」

 

男は布束と呼ばれた少女の安否を確認した後、犯人に向かって歩き始めた。

 

「お、お待ちなさい!一般人は下がっていてください、これは風紀委員の仕事ですの!」

「貴方達こそ下がっていなさい」

 

制止の声をかける黒子だが、布束から逆に下がっていろと言われた。

 

「怪我するわよ。貴方達と彼とじゃあ……次元(・・・)が違うから」

 

無言で近づいてくる青年に犯人の男は先程、布束から感じた恐怖とは比べ物にならないほどの悪寒を感じていた。その恐怖に抗うように、大きく声を張り上げる。

 

「ち、近づいてくんじゃねぇ!それ以上近づいたら……」

「…………」

「く、クソがぁ!舐めんじゃねぇ!」

 

叫んでもピクリとも反応しない青年に痺れを切らした犯人は、己の最大火力を投げつけた。だが、その火球が彼に直撃することは無かった。何故ならその攻撃は、彼の体をまるで何も無いかのようにすり抜けたからである。

 

「な、なに!?」

「すり抜けた!?」

「なに者よ、アイツ……」

 

それを見て一様に驚く一同。驚いていないのは、布束と呼ばれた少女だけだった。

そして一人、言葉を失う程驚きを露にした初春は、口許に手を当て目を見開いた。

 

「まさか……!?」

 

初春は思い出す。事件が発生する前にしていた会話の内容を。それは、新たに発見されたlevel5についてであった。

その者の能力は、今だ未知の部分が多く、解明されていない現象が数多く存在する。それでも、判明していることがあった。それは、ありとあらゆる攻撃を受け付けず、すり抜けてしまうということ。そして━━━━空間から正体不明の攻撃を行うことが出来る、と。

 

犯人は、青年を近づけさせまいと、がむしゃらに火球を放ち続ける。それらは全て、彼の体を通過して背後の建物に当たり霧散した。

尚も無意味に攻撃を続ける犯人に向かって青年は立ち止まると、手を掲げた。するとその空間から捻れた剣のような物が出現する。

 

現れた剣は、空気を裂くように飛んで行き、犯人の足元に着弾した。着弾した箇所から爆発が起きて犯人は吹き飛び、その爆風に煽られた青年のフードが捲られる。それによって、息を呑むような美形が姿を晒した。

 

 

 

 

level5 第八位 『次元移動(ディメンジョネイター)上乃(かみの)慧厳(けいがん)

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品での布束さんは、原作のギョロ目ではなくアニメのジト目です。

今回初めて出した能力名の読みですが、ラチェット&クランクに出てくる異次元移動装置、ディメンジョネイターが元ネタです。
最後に主人公の名前ですが、適当にそれっぽい物を考えたので意味はありますが、そんなに深い物はありませんので悪しからず。

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